8 / 290
第8話 邪神ちゃん、村を回る
しおりを挟む
村長たちのところから無理やり脱出したフェリスとメルは、村の中を歩き回っている。これから住む村をしっかり知っておくためだ。
メルの案内でフェリスがやって来たのは畑の方だった。こういう畑での生産はほとんどが村での消費になるが、一部保存の効くものは行商などを通じて村の外へと出荷されるそうである。
「へえ、思ったよりいろんなものが栽培されているわね」
フェリスは畑を眺めながら感想を漏らしている。
「はい。一応小麦とトマトとポテトが育てられています。向こうの方は樹木が育てられてまして、木材となるほか、オレンジやリンゴといった果物が育てられています」
幼いながらに、メルはしっかりと説明をしている。その勉強具合には頭が下がる思いだ。
「メルはまだ小さいのによく知ってるわね」
「お父さんのところに来る人たちからたくさん聞きましたから」
フェリスに褒められると、メルはそう言いながら照れ照れとしている。よっぽど嬉しいのだろう。
さて、そう言いながら畑に近付いていく。まだ収穫には遠いようで、青々とした草が伸びているだけである。
「ここは小麦畑ですね。収穫までは100日ほどといったところでしょうか」
「ふむ。まだまだ生育途中なのは間違いないね」
メルが説明すると、フェリスも納得しているようだった。
「でも、フェリス様が祝福して下さったら、きっとあっという間に育ってしまうと思います」
「……牛の話を踏まえての話なら、あれはただの偶然だぞ。あたしにはそんな力は無いはずなんだけどね」
メルが笑いながら冗談交じりに言うので、フェリスは本気で言ってるのと言わんばかりに呆れて返している。しかし、自分の力がどのように作用するのか分からなくなっているフェリスなので、試しに小麦畑に近付いてみた。
本当にまだ草が伸びただけの状態の小麦は、風にさわさわと揺れている。これから花を咲かせて、いずれは黄金たわわな小麦へと変わっていくはず。
「今年もしっかり実るのよ」
フェリスが声を掛けながら畑を回っていく。すると、フェリスが声を掛けた部分の小麦が淡く光ったような気がした。畑の外から見ていたメルが見間違いかと目を擦ると、次の瞬間には普通の小麦畑に戻っていた。一体何だったのだろうか。
それにしても、邪神だと言いつつも、小麦畑を見て回っているフェリスは無邪気な少女そのもので、天使の方がしっくりくるような様子である。ひと通り見てからメルの元に戻ってきたフェリス。
「思ったより広かったわね。これだけの規模の村を支えているのなら、これくらいは普通なのかしら」
「どうなんでしょうね。私もよく分からないですね」
フェリスが口にすれば、メルも首を傾げながら答えていた。さすがにメルもそこまでは詳しくないようである。
この後もフェリスは、メルの案内で村の中を見て回った。畑を見て果樹園を見て、最後はメルの家である牧場に立ち寄っていた。
「お父さん、一度戻ってきたよ」
「おお、メルお帰り。ずいぶんと立派な服を着ているな」
「うん、フェリス様に頂いたの」
「そうなのか。天使様、本当にありがとうございます」
父親と会話をするメルだったが、最後は父親がフェリスに頭を下げてきた。服の話になるとどうしてもそうなってしまうのだ。なにせ、村の人間が着るような服じゃないのだから仕方がないのである。
「そういえば、牛の調子はどうですかね」
フェリスに意識が向いたところで、フェリスは確認の質問をしてみる。なにせ、自分が撫でた後の牛は毛艶がよくなって、いい牛乳が出るという話だったのだから、どうしても気になるというものである。
「はい、天使様の恩恵はまだ続いております。本当にとても元気ですし、見た目以外はこれといった変化はありません」
メルの父親はにっこにこだった。どうしても気になるフェリスは、実際にその牛たちを見せてもらう事にした。
フェリスが牛小屋に足を踏み入れると、牛たちがそれはもう嬉しそうに鳴いている。これほどのまでの反応は、メルの父親は見た事ないそうだ。それにしても、フェリスの周りにぞろぞろと牛が集まってくる。
「あっ、こらくすぐったい」
牛にもみくちゃにされるフェリス。しかし、牛も弁えているようで一斉に押しかけないようにしている。加減が分かっているのだ。あと、フェリスは邪神とはいえど獣人の姿であるので、牛たちにとって親しみがあるのだろう。
「いやはや、本当にあんなに嬉しそうな牛たちは見た事がないよ」
「さすがです、フェリス様」
メルたち親子は牛にもみくちゃにされるフェリスをしばらく眺めていた。
こうして、一日村を歩き回ったフェリスとメルは、ようやく家に戻ってくつろぐ事ができた。
「いやあ、さすがに木像には驚かされたけど、なかなかいい村ね」
「はい、皆さん優しいですし、私もすごく好きなんです」
「はあ、思い切って祠から出てきてよかったわ。これなら退屈しそうにないもの」
フェリスとメルは向かい合って笑っていた。
しかし、この翌日にまさか、とんでもない事件が待ち構えていようとは、この時二人は思ってもみなかったのである。
メルの案内でフェリスがやって来たのは畑の方だった。こういう畑での生産はほとんどが村での消費になるが、一部保存の効くものは行商などを通じて村の外へと出荷されるそうである。
「へえ、思ったよりいろんなものが栽培されているわね」
フェリスは畑を眺めながら感想を漏らしている。
「はい。一応小麦とトマトとポテトが育てられています。向こうの方は樹木が育てられてまして、木材となるほか、オレンジやリンゴといった果物が育てられています」
幼いながらに、メルはしっかりと説明をしている。その勉強具合には頭が下がる思いだ。
「メルはまだ小さいのによく知ってるわね」
「お父さんのところに来る人たちからたくさん聞きましたから」
フェリスに褒められると、メルはそう言いながら照れ照れとしている。よっぽど嬉しいのだろう。
さて、そう言いながら畑に近付いていく。まだ収穫には遠いようで、青々とした草が伸びているだけである。
「ここは小麦畑ですね。収穫までは100日ほどといったところでしょうか」
「ふむ。まだまだ生育途中なのは間違いないね」
メルが説明すると、フェリスも納得しているようだった。
「でも、フェリス様が祝福して下さったら、きっとあっという間に育ってしまうと思います」
「……牛の話を踏まえての話なら、あれはただの偶然だぞ。あたしにはそんな力は無いはずなんだけどね」
メルが笑いながら冗談交じりに言うので、フェリスは本気で言ってるのと言わんばかりに呆れて返している。しかし、自分の力がどのように作用するのか分からなくなっているフェリスなので、試しに小麦畑に近付いてみた。
本当にまだ草が伸びただけの状態の小麦は、風にさわさわと揺れている。これから花を咲かせて、いずれは黄金たわわな小麦へと変わっていくはず。
「今年もしっかり実るのよ」
フェリスが声を掛けながら畑を回っていく。すると、フェリスが声を掛けた部分の小麦が淡く光ったような気がした。畑の外から見ていたメルが見間違いかと目を擦ると、次の瞬間には普通の小麦畑に戻っていた。一体何だったのだろうか。
それにしても、邪神だと言いつつも、小麦畑を見て回っているフェリスは無邪気な少女そのもので、天使の方がしっくりくるような様子である。ひと通り見てからメルの元に戻ってきたフェリス。
「思ったより広かったわね。これだけの規模の村を支えているのなら、これくらいは普通なのかしら」
「どうなんでしょうね。私もよく分からないですね」
フェリスが口にすれば、メルも首を傾げながら答えていた。さすがにメルもそこまでは詳しくないようである。
この後もフェリスは、メルの案内で村の中を見て回った。畑を見て果樹園を見て、最後はメルの家である牧場に立ち寄っていた。
「お父さん、一度戻ってきたよ」
「おお、メルお帰り。ずいぶんと立派な服を着ているな」
「うん、フェリス様に頂いたの」
「そうなのか。天使様、本当にありがとうございます」
父親と会話をするメルだったが、最後は父親がフェリスに頭を下げてきた。服の話になるとどうしてもそうなってしまうのだ。なにせ、村の人間が着るような服じゃないのだから仕方がないのである。
「そういえば、牛の調子はどうですかね」
フェリスに意識が向いたところで、フェリスは確認の質問をしてみる。なにせ、自分が撫でた後の牛は毛艶がよくなって、いい牛乳が出るという話だったのだから、どうしても気になるというものである。
「はい、天使様の恩恵はまだ続いております。本当にとても元気ですし、見た目以外はこれといった変化はありません」
メルの父親はにっこにこだった。どうしても気になるフェリスは、実際にその牛たちを見せてもらう事にした。
フェリスが牛小屋に足を踏み入れると、牛たちがそれはもう嬉しそうに鳴いている。これほどのまでの反応は、メルの父親は見た事ないそうだ。それにしても、フェリスの周りにぞろぞろと牛が集まってくる。
「あっ、こらくすぐったい」
牛にもみくちゃにされるフェリス。しかし、牛も弁えているようで一斉に押しかけないようにしている。加減が分かっているのだ。あと、フェリスは邪神とはいえど獣人の姿であるので、牛たちにとって親しみがあるのだろう。
「いやはや、本当にあんなに嬉しそうな牛たちは見た事がないよ」
「さすがです、フェリス様」
メルたち親子は牛にもみくちゃにされるフェリスをしばらく眺めていた。
こうして、一日村を歩き回ったフェリスとメルは、ようやく家に戻ってくつろぐ事ができた。
「いやあ、さすがに木像には驚かされたけど、なかなかいい村ね」
「はい、皆さん優しいですし、私もすごく好きなんです」
「はあ、思い切って祠から出てきてよかったわ。これなら退屈しそうにないもの」
フェリスとメルは向かい合って笑っていた。
しかし、この翌日にまさか、とんでもない事件が待ち構えていようとは、この時二人は思ってもみなかったのである。
0
お気に入りに追加
47
あなたにおすすめの小説

ぽっちゃり女子の異世界人生
猫目 しの
ファンタジー
大抵のトリップ&転生小説は……。
最強主人公はイケメンでハーレム。
脇役&巻き込まれ主人公はフツメンフツメン言いながらも実はイケメンでモテる。
落ちこぼれ主人公は可愛い系が多い。
=主人公は男でも女でも顔が良い。
そして、ハンパなく強い。
そんな常識いりませんっ。
私はぽっちゃりだけど普通に生きていたい。
【エブリスタや小説家になろうにも掲載してます】
『異世界庭付き一戸建て』を相続した仲良し兄妹は今までの不幸にサヨナラしてスローライフを満喫できる、はず?
釈 余白(しやく)
ファンタジー
HOT 1位!ファンタジー 3位! ありがとうございます!
父親が不慮の事故で死亡したことで最後の肉親を失い残された高校生の小村雷人(こむら らいと)と小学生の真琴(まこと)の兄妹が聞かされたのは、父が家を担保に金を借りていたという絶望の事実だった。慣れ親しんだ自宅から早々の退去が必要となった二人は家の中で金目の物を探す。
その結果見つかったのは、僅かな現金に空の預金通帳といくつかの宝飾品、そして家の権利書と見知らぬ文字で書かれた書類くらいだった。謎の書類には祖父のサインが記されていたが内容は読めず、頼みの綱は挟まれていた弁護士の名刺だけだ。
最後の希望とも言える名刺の電話番号へ連絡した二人は、やってきた弁護士から契約書の内容を聞かされ唖然とする。それは祖父が遺産として残した『異世界トラス』にある土地と建物を孫へ渡すというものだった。もちろん現地へ行かなければ遺産は受け取れないが。兄妹には他に頼れるものがなく、思い切って異世界へと赴き新生活をスタートさせるのだった。
その他、多数投稿しています!
https://www.alphapolis.co.jp/author/detail/398438394

【長編・完結】私、12歳で死んだ。赤ちゃん還り?水魔法で救済じゃなくて、給水しますよー。
BBやっこ
ファンタジー
死因の毒殺は、意外とは言い切れない。だって貴族の後継者扱いだったから。けど、私はこの家の子ではないかもしれない。そこをつけいられて、親族と名乗る人達に好き勝手されていた。
辺境の地で魔物からの脅威に領地を守りながら、過ごした12年間。その生が終わった筈だったけど…雨。その日に辺境伯が連れて来た赤ん坊。「セリュートとでも名付けておけ」暫定後継者になった瞬間にいた、私は赤ちゃん??
私が、もう一度自分の人生を歩み始める物語。給水係と呼ばれる水魔法でお悩み解決?

家庭菜園物語
コンビニ
ファンタジー
お人好しで動物好きな最上 悠(さいじょう ゆう)は肉親であった祖父が亡くなり、最後の家族であり姉のような存在でもある黒猫の杏(あんず)も静かに息を引き取ろうとする中で、助けたいなら異世界に来てくれないかと、少し残念な神様に提案される。
その転移先で秋田犬の大福を助けたことで、能力を失いそのままスローライフをおくることとなってしまう。
異世界で新しい家族や友人を作り、本人としてはほのぼのと家庭菜園を営んでいるが、小さな畑が世界には大きな影響を与えることになっていく。
若奥様は緑の手 ~ お世話した花壇が聖域化してました。嫁入り先でめいっぱい役立てます!
古森真朝
恋愛
意地悪な遠縁のおばの邸で暮らすユーフェミアは、ある日いきなり『明後日に輿入れが決まったから荷物をまとめろ』と言い渡される。いろいろ思うところはありつつ、これは邸から出て自立するチャンス!と大急ぎで支度して出立することに。嫁入り道具兼手土産として、唯一の財産でもある裏庭の花壇(四畳サイズ)を『持参』したのだが――実はこのプチ庭園、長年手塩にかけた彼女の魔力によって、神域霊域レベルのレア植物生息地となっていた。
そうとは知らないまま、輿入れ初日にボロボロになって帰ってきた結婚相手・クライヴを救ったのを皮切りに、彼の実家エヴァンス邸、勤め先である王城、さらにお世話になっている賢者様が司る大神殿と、次々に起こる事件を『あ、それならありますよ!』とプチ庭園でしれっと解決していくユーフェミア。果たして嫁ぎ先で平穏を手に入れられるのか。そして根っから世話好きで、何くれとなく構ってくれるクライヴVS自立したい甘えベタの若奥様の勝負の行方は?
*カクヨム様で先行掲載しております

万分の一の確率でパートナーが見つかるって、そんな事あるのか?
Gai
ファンタジー
鉄柱が頭にぶつかって死んでしまった少年は神様からもう異世界へ転生させて貰う。
貴族の四男として生まれ変わった少年、ライルは属性魔法の適性が全くなかった。
貴族として生まれた子にとっては珍しいケースであり、ラガスは周りから憐みの目で見られる事が多かった。
ただ、ライルには属性魔法なんて比べものにならない魔法を持っていた。
「はぁーー・・・・・・属性魔法を持っている、それってそんなに凄い事なのか?」
基本気だるげなライルは基本目立ちたくはないが、売られた値段は良い値で買う男。
さてさて、プライドをへし折られる犠牲者はどれだけ出るのか・・・・・・
タイトルに書いてあるパートナーは序盤にはあまり出てきません。

惣菜パン無双 〜固いパンしかない異世界で美味しいパンを作りたい〜
甲殻類パエリア
ファンタジー
どこにでもいる普通のサラリーマンだった深海玲司は仕事帰りに雷に打たれて命を落とし、異世界に転生してしまう。
秀でた能力もなく前世と同じ平凡な男、「レイ」としてのんびり生きるつもりが、彼には一つだけ我慢ならないことがあった。
——パンである。
異世界のパンは固くて味気のない、スープに浸さなければ食べられないものばかりで、それを主食として食べなければならない生活にうんざりしていた。
というのも、レイの前世は平凡ながら無類のパン好きだったのである。パン好きと言っても高級なパンを買って食べるわけではなく、さまざまな「菓子パン」や「惣菜パン」を自ら作り上げ、一人ひっそりとそれを食べることが至上の喜びだったのである。
そんな前世を持つレイが固くて味気ないパンしかない世界に耐えられるはずもなく、美味しいパンを求めて生まれ育った村から旅立つことに——。

屑スキルが覚醒したら追放されたので、手伝い屋を営みながら、のんびりしてたのに~なんか色々たいへんです
わたなべ ゆたか
ファンタジー
タムール大陸の南よりにあるインムナーマ王国。王都タイミョンの軍事訓練場で、ランド・コールは軍に入るための最終試験に挑む。対戦相手は、《ダブルスキル》の異名を持つゴガルン。
対するランドの持つ《スキル》は、左手から棘が一本出るだけのもの。
剣技だけならゴガルン以上を自負するランドだったが、ゴガルンの《スキル》である〈筋力増強〉と〈遠当て〉に翻弄されてしまう。敗北する寸前にランドの《スキル》が真の力を発揮し、ゴガルンに勝つことができた。だが、それが原因で、ランドは王都を追い出されてしまった。移住した村で、〝手伝い屋〟として、のんびりとした生活を送っていた。だが、村に来た領地の騎士団に所属する騎馬が、ランドの生活が一変する切っ掛けとなる――。チート系スキル持ちの主人公のファンタジーです。楽しんで頂けたら、幸いです。
よろしくお願いします!
(7/15追記
一晩でお気に入りが一気に増えておりました。24Hポイントが2683! ありがとうございます!
(9/9追記
三部の一章-6、ルビ修正しました。スイマセン
(11/13追記 一章-7 神様の名前修正しました。
追記 異能(イレギュラー)タグを追加しました。これで検索しやすくなるかな……。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる