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第8話 邪神ちゃん、村を回る
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村長たちのところから無理やり脱出したフェリスとメルは、村の中を歩き回っている。これから住む村をしっかり知っておくためだ。
メルの案内でフェリスがやって来たのは畑の方だった。こういう畑での生産はほとんどが村での消費になるが、一部保存の効くものは行商などを通じて村の外へと出荷されるそうである。
「へえ、思ったよりいろんなものが栽培されているわね」
フェリスは畑を眺めながら感想を漏らしている。
「はい。一応小麦とトマトとポテトが育てられています。向こうの方は樹木が育てられてまして、木材となるほか、オレンジやリンゴといった果物が育てられています」
幼いながらに、メルはしっかりと説明をしている。その勉強具合には頭が下がる思いだ。
「メルはまだ小さいのによく知ってるわね」
「お父さんのところに来る人たちからたくさん聞きましたから」
フェリスに褒められると、メルはそう言いながら照れ照れとしている。よっぽど嬉しいのだろう。
さて、そう言いながら畑に近付いていく。まだ収穫には遠いようで、青々とした草が伸びているだけである。
「ここは小麦畑ですね。収穫までは100日ほどといったところでしょうか」
「ふむ。まだまだ生育途中なのは間違いないね」
メルが説明すると、フェリスも納得しているようだった。
「でも、フェリス様が祝福して下さったら、きっとあっという間に育ってしまうと思います」
「……牛の話を踏まえての話なら、あれはただの偶然だぞ。あたしにはそんな力は無いはずなんだけどね」
メルが笑いながら冗談交じりに言うので、フェリスは本気で言ってるのと言わんばかりに呆れて返している。しかし、自分の力がどのように作用するのか分からなくなっているフェリスなので、試しに小麦畑に近付いてみた。
本当にまだ草が伸びただけの状態の小麦は、風にさわさわと揺れている。これから花を咲かせて、いずれは黄金たわわな小麦へと変わっていくはず。
「今年もしっかり実るのよ」
フェリスが声を掛けながら畑を回っていく。すると、フェリスが声を掛けた部分の小麦が淡く光ったような気がした。畑の外から見ていたメルが見間違いかと目を擦ると、次の瞬間には普通の小麦畑に戻っていた。一体何だったのだろうか。
それにしても、邪神だと言いつつも、小麦畑を見て回っているフェリスは無邪気な少女そのもので、天使の方がしっくりくるような様子である。ひと通り見てからメルの元に戻ってきたフェリス。
「思ったより広かったわね。これだけの規模の村を支えているのなら、これくらいは普通なのかしら」
「どうなんでしょうね。私もよく分からないですね」
フェリスが口にすれば、メルも首を傾げながら答えていた。さすがにメルもそこまでは詳しくないようである。
この後もフェリスは、メルの案内で村の中を見て回った。畑を見て果樹園を見て、最後はメルの家である牧場に立ち寄っていた。
「お父さん、一度戻ってきたよ」
「おお、メルお帰り。ずいぶんと立派な服を着ているな」
「うん、フェリス様に頂いたの」
「そうなのか。天使様、本当にありがとうございます」
父親と会話をするメルだったが、最後は父親がフェリスに頭を下げてきた。服の話になるとどうしてもそうなってしまうのだ。なにせ、村の人間が着るような服じゃないのだから仕方がないのである。
「そういえば、牛の調子はどうですかね」
フェリスに意識が向いたところで、フェリスは確認の質問をしてみる。なにせ、自分が撫でた後の牛は毛艶がよくなって、いい牛乳が出るという話だったのだから、どうしても気になるというものである。
「はい、天使様の恩恵はまだ続いております。本当にとても元気ですし、見た目以外はこれといった変化はありません」
メルの父親はにっこにこだった。どうしても気になるフェリスは、実際にその牛たちを見せてもらう事にした。
フェリスが牛小屋に足を踏み入れると、牛たちがそれはもう嬉しそうに鳴いている。これほどのまでの反応は、メルの父親は見た事ないそうだ。それにしても、フェリスの周りにぞろぞろと牛が集まってくる。
「あっ、こらくすぐったい」
牛にもみくちゃにされるフェリス。しかし、牛も弁えているようで一斉に押しかけないようにしている。加減が分かっているのだ。あと、フェリスは邪神とはいえど獣人の姿であるので、牛たちにとって親しみがあるのだろう。
「いやはや、本当にあんなに嬉しそうな牛たちは見た事がないよ」
「さすがです、フェリス様」
メルたち親子は牛にもみくちゃにされるフェリスをしばらく眺めていた。
こうして、一日村を歩き回ったフェリスとメルは、ようやく家に戻ってくつろぐ事ができた。
「いやあ、さすがに木像には驚かされたけど、なかなかいい村ね」
「はい、皆さん優しいですし、私もすごく好きなんです」
「はあ、思い切って祠から出てきてよかったわ。これなら退屈しそうにないもの」
フェリスとメルは向かい合って笑っていた。
しかし、この翌日にまさか、とんでもない事件が待ち構えていようとは、この時二人は思ってもみなかったのである。
メルの案内でフェリスがやって来たのは畑の方だった。こういう畑での生産はほとんどが村での消費になるが、一部保存の効くものは行商などを通じて村の外へと出荷されるそうである。
「へえ、思ったよりいろんなものが栽培されているわね」
フェリスは畑を眺めながら感想を漏らしている。
「はい。一応小麦とトマトとポテトが育てられています。向こうの方は樹木が育てられてまして、木材となるほか、オレンジやリンゴといった果物が育てられています」
幼いながらに、メルはしっかりと説明をしている。その勉強具合には頭が下がる思いだ。
「メルはまだ小さいのによく知ってるわね」
「お父さんのところに来る人たちからたくさん聞きましたから」
フェリスに褒められると、メルはそう言いながら照れ照れとしている。よっぽど嬉しいのだろう。
さて、そう言いながら畑に近付いていく。まだ収穫には遠いようで、青々とした草が伸びているだけである。
「ここは小麦畑ですね。収穫までは100日ほどといったところでしょうか」
「ふむ。まだまだ生育途中なのは間違いないね」
メルが説明すると、フェリスも納得しているようだった。
「でも、フェリス様が祝福して下さったら、きっとあっという間に育ってしまうと思います」
「……牛の話を踏まえての話なら、あれはただの偶然だぞ。あたしにはそんな力は無いはずなんだけどね」
メルが笑いながら冗談交じりに言うので、フェリスは本気で言ってるのと言わんばかりに呆れて返している。しかし、自分の力がどのように作用するのか分からなくなっているフェリスなので、試しに小麦畑に近付いてみた。
本当にまだ草が伸びただけの状態の小麦は、風にさわさわと揺れている。これから花を咲かせて、いずれは黄金たわわな小麦へと変わっていくはず。
「今年もしっかり実るのよ」
フェリスが声を掛けながら畑を回っていく。すると、フェリスが声を掛けた部分の小麦が淡く光ったような気がした。畑の外から見ていたメルが見間違いかと目を擦ると、次の瞬間には普通の小麦畑に戻っていた。一体何だったのだろうか。
それにしても、邪神だと言いつつも、小麦畑を見て回っているフェリスは無邪気な少女そのもので、天使の方がしっくりくるような様子である。ひと通り見てからメルの元に戻ってきたフェリス。
「思ったより広かったわね。これだけの規模の村を支えているのなら、これくらいは普通なのかしら」
「どうなんでしょうね。私もよく分からないですね」
フェリスが口にすれば、メルも首を傾げながら答えていた。さすがにメルもそこまでは詳しくないようである。
この後もフェリスは、メルの案内で村の中を見て回った。畑を見て果樹園を見て、最後はメルの家である牧場に立ち寄っていた。
「お父さん、一度戻ってきたよ」
「おお、メルお帰り。ずいぶんと立派な服を着ているな」
「うん、フェリス様に頂いたの」
「そうなのか。天使様、本当にありがとうございます」
父親と会話をするメルだったが、最後は父親がフェリスに頭を下げてきた。服の話になるとどうしてもそうなってしまうのだ。なにせ、村の人間が着るような服じゃないのだから仕方がないのである。
「そういえば、牛の調子はどうですかね」
フェリスに意識が向いたところで、フェリスは確認の質問をしてみる。なにせ、自分が撫でた後の牛は毛艶がよくなって、いい牛乳が出るという話だったのだから、どうしても気になるというものである。
「はい、天使様の恩恵はまだ続いております。本当にとても元気ですし、見た目以外はこれといった変化はありません」
メルの父親はにっこにこだった。どうしても気になるフェリスは、実際にその牛たちを見せてもらう事にした。
フェリスが牛小屋に足を踏み入れると、牛たちがそれはもう嬉しそうに鳴いている。これほどのまでの反応は、メルの父親は見た事ないそうだ。それにしても、フェリスの周りにぞろぞろと牛が集まってくる。
「あっ、こらくすぐったい」
牛にもみくちゃにされるフェリス。しかし、牛も弁えているようで一斉に押しかけないようにしている。加減が分かっているのだ。あと、フェリスは邪神とはいえど獣人の姿であるので、牛たちにとって親しみがあるのだろう。
「いやはや、本当にあんなに嬉しそうな牛たちは見た事がないよ」
「さすがです、フェリス様」
メルたち親子は牛にもみくちゃにされるフェリスをしばらく眺めていた。
こうして、一日村を歩き回ったフェリスとメルは、ようやく家に戻ってくつろぐ事ができた。
「いやあ、さすがに木像には驚かされたけど、なかなかいい村ね」
「はい、皆さん優しいですし、私もすごく好きなんです」
「はあ、思い切って祠から出てきてよかったわ。これなら退屈しそうにないもの」
フェリスとメルは向かい合って笑っていた。
しかし、この翌日にまさか、とんでもない事件が待ち構えていようとは、この時二人は思ってもみなかったのである。
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