邪神ちゃんはもふもふ天使

未羊

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第7話 邪神ちゃんで村おこし?!

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「なんじゃこりゃ~っ!!」
 フェリスが叫ぶのも無理はなかった。
 なにせ幕が取られて中から現れたのは、猫耳に猫尻尾、背中には羽、全身もふもふの毛並みがしっかりと再現された自分の木像だったのだから。
「うわあ、フェリス様が木像になってます」
 その木像のフェリスの再現度に、メルは感動して口を手で押さえていた。近くに居た子どもたちも、フェリスの木像に感動してちょろちょろと駆け寄っていく。ペタペタと土台を触りながら、「天使様だー!」と騒いでいる。
「何なんですか、これはっ!」
 あまりに予想外の出来事に、フェリスが村長に突っ掛かっていく。
「何って、見ての通り、天使様の彫像ですよ。本当は劣化しにくい石像か金属製の像にしたかったのですが、あいにく手持ちがございませんでしてね。……もしかして、お気に召されませんでしたか?」
 村長はまじめに説明して、最後に付け足したかのように確認を取ってきた。
「いや、邪神としては、彫像はとてもありがたいのだけれども、ものの見事に再現してて腕前も素晴らしいのですけれど、なんで村の真ん中にこんなに目立つように建てるんですか!」
「いやはや、天使様を讃えるのであれば、やはり一番目立つ場所でありませんと……」
 すごい剣幕で迫るフェリスに、たじたじになる村長。必死に言い訳をしている。
 しかしながら、自分の姿がこれだけ忠実に再現された全身の像を、こんな目立つ場所に置かれては恥ずかしいというものである。フェリスは邪神ではあるが、これでも女性なのだ。少しは気遣ってもらいたいものなのだ。
 抗議をするだけし終えたフェリスは、建てられてしまったものは仕方ないと半ば諦め加減にため息を吐いていた。
「それで、これを建ててどうしようというのかしら?」
 気持ちを切り替えたフェリスは、村長にその後の展望について尋ねてみる。
「はい、この村には天使様が滞在しておられるという事で、それを元に宣伝を行って人を呼び込む予定にしております。この像はその象徴なのでございます」
 村長の熱の入った説明を受けて、フェリスは自分の像を見てから「そうなのね」と呆れ顔で呟いている。フェリスには自分が邪神だという誇りがまだあるので、呼び込みのネタにされるのは正直抵抗があるのだ。陰でこそこそ崇められてこそ邪神なのである。
「あと、天使様が撫でられた牛は毛艶がよくなり、良質の牛乳が取れております。これならばその加工品であるチーズも良質になると思われますので、村の目玉の産物になる事は間違いないでしょう」
 まあなんとも壮大で無計画な計画である。フェリスが居る事と良質な牛乳以外は、まったくもって未知数すぎる話だった。これで大丈夫なのかとフェリスは思ったのだが、横に居るメルが目を輝かせてフェリスを見ているので、なんとなく恐怖を覚えるフェリスである。それにしても邪神に怖がられる人間とは一体……。
 フェリスは邪神と自称しながらも、すっかり昔のような尖りはなくすっかり毒気は抜けきっていた。これでは天使と言われても仕方のない話である。こうやって丸くなったフェリスを前面に出して、村を豊かにしようと村長は企んでいるようである。
 だが、これに反対したのは意外にもメルだった。
「確かにフェリス様はお優しいですが、フェリス様の意思を無視して利用するのはどうかと思います。それだったら私の家の牧場の牛のように自然な恩恵を頂いて、それを売った方がいいかと思います」
 必死に訴えるメルの意見に、なるほど一理あるという反応を示す村長。質の良くなった村の産物を売り出して外部の人間を呼び込み、そこで初めてフェリスを紹介するのも悪くない作戦である。村長は深く考え始めた。
(どうでもいいけど、早く解放してくれないかしら。住む事決めた村を見て回りたいのに……)
 村人たちとは対照的に、フェリスはもはや目の前のやり取りに興味を失っていた。目を逸らして困った顔をしているくらいには。
「ああ、フェリス様、どうなされたのですか」
 その何とも言えないフェリスの態度に気が付いたメルが、心配してフェリスに声を掛ける。
「いや、村を案内してくれる約束でしょ? 早く見て回りたいんだけど、あたし」
「あああ、申し訳ございません。私ったら側仕えになりましたのになんという事をしてしまったのでしょうか!」
 少々ふて腐れたように答えるフェリスに、メルがショックのあまり、とても慌てふためいている。
「村長さん、あたしも村の一員になったのであまり強くは言いませんでけれど、嬉しさのあまり調子に乗るのだけはやめて下さいね?」
「はっ、はい。それはもちろんですとも」
 フェリスの強い念押しもあってか、村長は焦って了承の返事をしていた。さすがに天使様に迷惑をかけてしまう事は本意ではないからだ。その返事を聞いたフェリスは、
「では、メル。案内を頼むわね」
「はい、フェリス様」
 メルと手をつないで一緒に村の広場を後にした。フェリスに手を取ってもらえた事に、メルはとても照れくさそうにしていたのだった。
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