2 / 290
第2話 もふもふ天使、爆誕
しおりを挟む
呆気なくボアの群れを倒してしまったフェリス。その土埃が立ち込める風景を背後にドヤ顔を決める姿は、どういうわけかとても神々しかった。邪神なのだが、光輝いて見えたのである。
「おお、この村に天からの使いが降り立って下さった……」
村人の一人がわけの分からない事を言い始めた。
「いや、あたしは邪神なんだけど?」
フェリスがツッコミを入れるが、どうにも村人たちの様子がおかしい。
「おおおっ! この地にもふもふ大天使様が降臨なされたぞっ!!」
「いや、もふもふって、なんでそんな言葉を知っている!」
狂ったように叫ぶ村人に、フェリスが冷静にツッコミを入れ続けるが、もはや村人はそんな事を聞いてくれる状態になかった。あれよあれよと担がれて、村の中央広場へと運ばれてしまった。
(ああ、もう面倒くさい……)
フェリスはもうされるがままだった。
フェリスがそうやって運ばれている間に、村人は動ける人員をほとんど投入して大量のボアを解体していった。
雑に積まれた木箱の上に、なんとか埃を払ってきれいにした布をかぶせて即席のお立ち台を作る。そして、これまた誰が作り出したか花の冠を用意してフェリスにかぶせてきた。何だろう、この無駄な村の一体感は。フェレスは布をかぶせた木箱の上に座らされて、やんややんやと村人から崇められている。
(うーん、訳が分からないわね)
どうにも行動が飲み込めなかった。
だが、フェリスは別に崇められる事に慣れていないわけではない。そもそも昔は邪神として、一定の崇拝は受けていたのだ。それを思えばこの程度の崇拝など可愛いものである。
それにしても、フェリスはいきなり宴を始めた村人たちにドン引きしていた。自分をお立ち台に座らせて崇めていたかと思うと、どこからともなく酒や料理を持ってきていきなり騒ぎ出したのだ。どうしてそうなった。邪神をもドン引きさせる村人の狂気である。あまりの光景に、フェリスは途中で思考を放棄した。
(うん、勝手にやらせておこう。あたしは知らん)
もうツッコミを入れるのも疲れたのだ。ツッコミを入れたところで聞いてくれなかったわけだし、無駄な努力と悟ったのだ。
座っているだけのフェリスの元には、村人から料理やお酒が差し入れられる。見た目こそ少女なフェリスだが、邪神としてはもうどのくらい生きているのか覚えていない。お酒も平気なのである。
だが、お酒を差し入れられたと思ったら、差し入れた村人が殴られてお酒は没収されてしまった。完全に見た目のせいである。没収していった村人は謝罪しながら、代わりの飲み物を持ってきてくれた。フェリスは何とも言えない顔をしながらも、差し入れられた飲み物を飲みながら村人が騒ぐ様子を見守っていた。
陽が暮れてどんどんと暗くなっていっても、村人たちの宴は一向に収まる気配はない。それどころか逆に盛り上がっていっている気もする。
その一方で子どもたちは遅くなってくると、どんどんと家へと帰らされていた。村人たちのそばの方が安全かも知れないが、子どもたちが眠ってしまうと、自制できなくなった大人たちが踏みつける可能性がある。そういった意味で避難させているというわけだ。人間は貧弱なのだから仕方がない。
それにしても、やって来た初日からこんな扱いを受けてしまって、フェリスの困惑は正直計り知れなかった。
だが、出された料理はおいしかったので、その点についてはフェリスは満足したようだった。
(まあ、悪い気はしないし、こんなに崇められたのは本当に何年ぶりだろうかね。料理の味も悪くはない。今夜くらいはあたしの力で守ってあげようじゃないか)
すっかり気をよくしたフェリスは、右手を上げてくるりと魔法を使った。すると、村の柵に沿って、誰にも見えない透明な結界が張り巡らされた。
当然ながら村人たちには影響はないが、外からやって来る者に対しては強力な防壁となる。邪神としての毒気はすっかりないが、力はまったくもって健在なのだ。
しかも、毒気を抜かれた事で魔物をおびき寄せる力ではなく、純粋な結界として成り立ってしまっている。これでは天使とか言われるのも頷けてしまうというものだ。それをフェリスが知る由もない。
こうして、フェリス降臨の宴はかなり遅い時間まで繰り広げられたのであった。
(やれやれ、人間というのは本当に愚かだし、無防備なものだな)
宴で酔いつぶれた人間たちを見下ろしながら、フェリスは簡易お立ち台の上で酒を煽っていた。もう皆寝静まってしまっているので、誰も見ている者は居ないからである。
見た感じ牧歌的な村なのだが、長らく一人で暮らしていたフェリスにとってはなかなか心地よい空気に包まれているようである。
(もう争いごとも起きないというのなら、こうやってわいわいと過ごしてみるのもいいかも知れんな)
フェリスは周りを見ながらそんな事を考えていた。
「ふあぁ~、さすがにあたしも眠らんとな。久しぶりに力を使い過ぎた」
大きなあくびをすると、フェリスはお立ち台の上でそのまま眠りこけるのだった。
「おお、この村に天からの使いが降り立って下さった……」
村人の一人がわけの分からない事を言い始めた。
「いや、あたしは邪神なんだけど?」
フェリスがツッコミを入れるが、どうにも村人たちの様子がおかしい。
「おおおっ! この地にもふもふ大天使様が降臨なされたぞっ!!」
「いや、もふもふって、なんでそんな言葉を知っている!」
狂ったように叫ぶ村人に、フェリスが冷静にツッコミを入れ続けるが、もはや村人はそんな事を聞いてくれる状態になかった。あれよあれよと担がれて、村の中央広場へと運ばれてしまった。
(ああ、もう面倒くさい……)
フェリスはもうされるがままだった。
フェリスがそうやって運ばれている間に、村人は動ける人員をほとんど投入して大量のボアを解体していった。
雑に積まれた木箱の上に、なんとか埃を払ってきれいにした布をかぶせて即席のお立ち台を作る。そして、これまた誰が作り出したか花の冠を用意してフェリスにかぶせてきた。何だろう、この無駄な村の一体感は。フェレスは布をかぶせた木箱の上に座らされて、やんややんやと村人から崇められている。
(うーん、訳が分からないわね)
どうにも行動が飲み込めなかった。
だが、フェリスは別に崇められる事に慣れていないわけではない。そもそも昔は邪神として、一定の崇拝は受けていたのだ。それを思えばこの程度の崇拝など可愛いものである。
それにしても、フェリスはいきなり宴を始めた村人たちにドン引きしていた。自分をお立ち台に座らせて崇めていたかと思うと、どこからともなく酒や料理を持ってきていきなり騒ぎ出したのだ。どうしてそうなった。邪神をもドン引きさせる村人の狂気である。あまりの光景に、フェリスは途中で思考を放棄した。
(うん、勝手にやらせておこう。あたしは知らん)
もうツッコミを入れるのも疲れたのだ。ツッコミを入れたところで聞いてくれなかったわけだし、無駄な努力と悟ったのだ。
座っているだけのフェリスの元には、村人から料理やお酒が差し入れられる。見た目こそ少女なフェリスだが、邪神としてはもうどのくらい生きているのか覚えていない。お酒も平気なのである。
だが、お酒を差し入れられたと思ったら、差し入れた村人が殴られてお酒は没収されてしまった。完全に見た目のせいである。没収していった村人は謝罪しながら、代わりの飲み物を持ってきてくれた。フェリスは何とも言えない顔をしながらも、差し入れられた飲み物を飲みながら村人が騒ぐ様子を見守っていた。
陽が暮れてどんどんと暗くなっていっても、村人たちの宴は一向に収まる気配はない。それどころか逆に盛り上がっていっている気もする。
その一方で子どもたちは遅くなってくると、どんどんと家へと帰らされていた。村人たちのそばの方が安全かも知れないが、子どもたちが眠ってしまうと、自制できなくなった大人たちが踏みつける可能性がある。そういった意味で避難させているというわけだ。人間は貧弱なのだから仕方がない。
それにしても、やって来た初日からこんな扱いを受けてしまって、フェリスの困惑は正直計り知れなかった。
だが、出された料理はおいしかったので、その点についてはフェリスは満足したようだった。
(まあ、悪い気はしないし、こんなに崇められたのは本当に何年ぶりだろうかね。料理の味も悪くはない。今夜くらいはあたしの力で守ってあげようじゃないか)
すっかり気をよくしたフェリスは、右手を上げてくるりと魔法を使った。すると、村の柵に沿って、誰にも見えない透明な結界が張り巡らされた。
当然ながら村人たちには影響はないが、外からやって来る者に対しては強力な防壁となる。邪神としての毒気はすっかりないが、力はまったくもって健在なのだ。
しかも、毒気を抜かれた事で魔物をおびき寄せる力ではなく、純粋な結界として成り立ってしまっている。これでは天使とか言われるのも頷けてしまうというものだ。それをフェリスが知る由もない。
こうして、フェリス降臨の宴はかなり遅い時間まで繰り広げられたのであった。
(やれやれ、人間というのは本当に愚かだし、無防備なものだな)
宴で酔いつぶれた人間たちを見下ろしながら、フェリスは簡易お立ち台の上で酒を煽っていた。もう皆寝静まってしまっているので、誰も見ている者は居ないからである。
見た感じ牧歌的な村なのだが、長らく一人で暮らしていたフェリスにとってはなかなか心地よい空気に包まれているようである。
(もう争いごとも起きないというのなら、こうやってわいわいと過ごしてみるのもいいかも知れんな)
フェリスは周りを見ながらそんな事を考えていた。
「ふあぁ~、さすがにあたしも眠らんとな。久しぶりに力を使い過ぎた」
大きなあくびをすると、フェリスはお立ち台の上でそのまま眠りこけるのだった。
0
お気に入りに追加
47
あなたにおすすめの小説
特殊部隊の俺が転生すると、目の前で絶世の美人母娘が犯されそうで助けたら、とんでもないヤンデレ貴族だった
なるとし
ファンタジー
鷹取晴翔(たかとりはると)は陸上自衛隊のとある特殊部隊に所属している。だが、ある日、訓練の途中、不慮の事故に遭い、異世界に転生することとなる。
特殊部隊で使っていた武器や防具などを召喚できる特殊能力を謎の存在から授かり、目を開けたら、絶世の美女とも呼ばれる母娘が男たちによって犯されそうになっていた。
武装状態の鷹取晴翔は、持ち前の優秀な身体能力と武器を使い、その母娘と敷地にいる使用人たちを救う。
だけど、その母と娘二人は、
とおおおおんでもないヤンデレだった……
第3回次世代ファンタジーカップに出すために一部を修正して投稿したものです。
貧民街の元娼婦に育てられた孤児は前世の記憶が蘇り底辺から成り上がり世界の救世主になる。
黒ハット
ファンタジー
【完結しました】捨て子だった主人公は、元貴族の側室で騙せれて娼婦だった女性に拾われて最下層階級の貧民街で育てられるが、13歳の時に崖から川に突き落とされて意識が無くなり。気が付くと前世の日本で物理学の研究生だった記憶が蘇り、周りの人たちの善意で底辺から抜け出し成り上がって世界の救世主と呼ばれる様になる。
この作品は小説書き始めた初期の作品で内容と書き方をリメイクして再投稿を始めました。感想、応援よろしくお願いいたします。
ユーヤのお気楽異世界転移
暇野無学
ファンタジー
死因は神様の当て逃げです! 地震による事故で死亡したのだが、原因は神社の扁額が当たっての即死。問題の神様は気まずさから俺を輪廻の輪から外し、異世界の神に俺をゆだねた。異世界への移住を渋る俺に、神様特典付きで異世界へ招待されたが・・・ この神様が超適当な健忘症タイプときた。
セクスカリバーをヌキました!
桂
ファンタジー
とある世界の森の奥地に真の勇者だけに抜けると言い伝えられている聖剣「セクスカリバー」が岩に刺さって存在していた。
国一番の剣士の少女ステラはセクスカリバーを抜くことに成功するが、セクスカリバーはステラの膣を鞘代わりにして収まってしまう。
ステラはセクスカリバーを抜けないまま武闘会に出場して……
どうやら夫に疎まれているようなので、私はいなくなることにします
文野多咲
恋愛
秘めやかな空気が、寝台を囲う帳の内側に立ち込めていた。
夫であるゲルハルトがエレーヌを見下ろしている。
エレーヌの髪は乱れ、目はうるみ、体の奥は甘い熱で満ちている。エレーヌもまた、想いを込めて夫を見つめた。
「ゲルハルトさま、愛しています」
ゲルハルトはエレーヌをさも大切そうに撫でる。その手つきとは裏腹に、ぞっとするようなことを囁いてきた。
「エレーヌ、俺はあなたが憎い」
エレーヌは凍り付いた。
【書籍化確定、完結】私だけが知らない
綾雅(要らない悪役令嬢1/7発売)
ファンタジー
書籍化確定です。詳細はしばらくお待ちください(o´-ω-)o)ペコッ
目が覚めたら何も覚えていなかった。父と兄を名乗る二人は泣きながら謝る。痩せ細った体、痣が残る肌、誰もが過保護に私を気遣う。けれど、誰もが何が起きたのかを語らなかった。
優しい家族、ぬるま湯のような生活、穏やかに過ぎていく日常……その陰で、人々は己の犯した罪を隠しつつ微笑む。私を守るため、そう言いながら真実から遠ざけた。
やがて、すべてを知った私は――ひとつの決断をする。
記憶喪失から始まる物語。冤罪で殺されかけた私は蘇り、陥れようとした者は断罪される。優しい嘘に隠された真実が徐々に明らかになっていく。
【同時掲載】 小説家になろう、アルファポリス、カクヨム、エブリスタ
2024/12/26……書籍化確定、公表
2023/12/20……小説家になろう 日間、ファンタジー 27位
2023/12/19……番外編完結
2023/12/11……本編完結(番外編、12/12)
2023/08/27……エブリスタ ファンタジートレンド 1位
2023/08/26……カテゴリー変更「恋愛」⇒「ファンタジー」
2023/08/25……アルファポリス HOT女性向け 13位
2023/08/22……小説家になろう 異世界恋愛、日間 22位
2023/08/21……カクヨム 恋愛週間 17位
2023/08/16……カクヨム 恋愛日間 12位
2023/08/14……連載開始
解呪の魔法しか使えないからとSランクパーティーから追放された俺は、呪いをかけられていた美少女ドラゴンを拾って最強へと至る
早見羽流
ファンタジー
「ロイ・クノール。お前はもう用無しだ」
解呪の魔法しか使えない初心者冒険者の俺は、呪いの宝箱を解呪した途端にSランクパーティーから追放され、ダンジョンの最深部へと蹴り落とされてしまう。
そこで出会ったのは封印された邪龍。解呪の能力を使って邪龍の封印を解くと、なんとそいつは美少女の姿になり、契約を結んで欲しいと頼んできた。
彼女は元は世界を守護する守護龍で、英雄や女神の陰謀によって邪龍に堕とされ封印されていたという。契約を結んだ俺は彼女を救うため、守護龍を封印し世界を牛耳っている女神や英雄の血を引く王家に立ち向かうことを誓ったのだった。
(1話2500字程度、1章まで完結保証です)
家庭菜園物語
コンビニ
ファンタジー
お人好しで動物好きな最上 悠(さいじょう ゆう)は肉親であった祖父が亡くなり、最後の家族であり姉のような存在でもある黒猫の杏(あんず)も静かに息を引き取ろうとする中で、助けたいなら異世界に来てくれないかと、少し残念な神様に提案される。
その転移先で秋田犬の大福を助けたことで、能力を失いそのままスローライフをおくることとなってしまう。
異世界で新しい家族や友人を作り、本人としてはほのぼのと家庭菜園を営んでいるが、小さな畑が世界には大きな影響を与えることになっていく。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる