スライム姉妹の受難

未羊

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第二部 王太子妃ゼリア

第70話 談笑?

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 無事に結婚式も終わり、カレンは兄のアレスとその妻ゼリア、そして従者のグミを交えて一晩中語らう事になった。
 カレンとグミから出てくる言葉に、アレスとゼリアは絶句するのが精一杯。どう反応していいのか分からなかった。特にゼリアなんて、念話で時々報告を受けていたにも関わ図なのである。本当に拳ひとつで魔族領を平定してしまったのだから、それも当然と言えるだろう。実になんて言っていいのか分からない。伝説級の偉業である。
 これだけの事をやり遂げているのなら、魔王が震えながら結婚を飲むのがよく分かる。逆らったら命は無い、はっきり分かんだね。
「まあ、お前がそれで幸せだというのなら、私からは何も言う事はない。むしろ、こんなに早く結婚できた事は奇跡だとすら思う」
 アレスははっきり言ってのけた。その横では内心びびりながら、ゼリアがジュースを飲んでいた。ゼリアの心配とは裏腹に、カレンはにっこにこの笑顔である。
「それは私も思っていたわ。第一、王国の貴族たちはみんな貧弱で、私の眼鏡には適わなかったもの。こっちに来て魔王様を見て、もう私の好みのど真ん中だった時の衝撃と言ったらもうね」
 すごく饒舌で語るカレン。これが魔族領全土を震撼させた恐怖のお姫様なのだろうか。それくらいの笑顔である。
(笑って座っていれば、本当にただのお姫様なんだけどなぁ……)
 ゼリアがそう思ってカレンを見ると、ゼリアは顔をぎょっとさせた。
「何か、失礼な事を思わなかった? ゼ・リ・ア?」
 カレンが笑顔で首を傾げてゼリアをじっと見ている。その笑顔は冷徹な感情に貼り付けたようなもので、もの凄くを恐怖を感じるものだった。
「か、か、か、カレン様?! なんか怖いんですけれど?!」
 ゼリアがびびりまくって、背筋を伸ばして驚いている。グミは我関せずといった感じでジュースをちびちびと飲んでいる。
「やっぱり何か思ったのね? さぁ、白状してもらおうかしら」
「き、き、き、気のせいですよ。あの、私だって一応王太子妃なんですから、下手に暴力を振るえば国際問題ですよ? ね、抑えましょ?」
 ゼリアは座ったまま、椅子ごと後ずさりをしている。ゼリアがこんな事を言うものだから、カレンはアレスへと確認を取る。
「お兄様、ゼリアを一発殴ってよろしいかしら」
「……死なないで程度で頼む。多分、そいつが失礼な事を思ったのは事実だ。私も思った事だが、お前はおとなしくしていればお姫様に見えるんだからな。今はお妃だが」
「ちょっと、アレス様?!」
 カレンの冷徹な微笑みに、アレスは実に冷淡に答えた。しかも同じ事を思ったのなら、アレスも同罪である。実にこれは薄情だ。
 しかし、現実は非情である。ゼリアには笑顔のカレンが近付いてくる。グミもルチアも華麗にスルーをしている。ゼリアはもう逃げられない。
「さっ、歯を食いしばりなさい」
 笑顔で怖い事を言うカレン。
「いや、あの、ごめんなさい。許して、ね?」
「ギルティ♪」
 どごおーんという音を立てて、ゼリアが床に食い込んだ。どう見てみても女性の腕力じゃない。さすがグレーターコングを超える女である。
「いっ……たぁーいっ! カレン様、本気で殴りましたね? 私じゃなければ死んでましたよ。頸部骨折、頭部粉砕ですよ。お祝いのあった日にそんな悲劇やめて下さいよ!」
 器用に頭部だけをスライム状にして復元するゼリア。化粧も髪型も元通りである。本気で怒って怒鳴るゼリアだが、カレンは口笛を吹いて知らん顔である。その様子を見ていたアレスはため息を吐いていた。その横では侍従のフレンが反応に困って固まっていた。
「しかし、あれが殴る前に断りを入れるなんて珍しい事もあるものだ」
「まあ、私の命を狙った大罪人といえ、お兄様の妻ですから。勝手に殴るわけにはいかないでしょう?」
「まあ確かにそうだな。だが、床に穴を開けるのは感心できないな」
 アレスはこう言うと、床にできたくぼみを見ていた。
「あ、あたしが直しておきます」
 グミは衝撃から立ち直って床のくぼみに近付くと、両手をかざして魔法を使う。すると、見る見るうちに床の状態が元に戻っていく。
「ふむ、お前たち二人の魔法はいつ見てもすごいな」
「一応お姉ちゃんとあたしの二人は、ひと通りの治癒魔法と修繕魔法と解呪魔法が使えますよ。その気になれば、ビボーナ城の壁の凹みも全部直せるんじゃないんでしょうか」
 グミがこう言うと、アレスはゼリアをじろっと見た。
「本当か?」
 問い掛けるアレスに、ゼリアはちょっと顔を背けながら、
「ま、まあ、直せますよ。アサシンスライムなんですから、暴れた痕跡なんて残せませんよ」
 赤くなりながら恥ずかしそうに答えた。
 つまり、暗殺に手間取って抵抗された時に、暴れられた証拠を消すために会得したという事らしい。エリートを自称する以上、完璧を目指したかったのだろう。事情を察したアレスは、思わぬ可愛いところについ吹き出してしまう。
「な、何を笑ってるんですか!」
「いや、魔物だと思っていたが、意外と可愛いところがあると思ってな。ますます気に入ったぞ」
「ああ、もう。恥ずかしい!」
 口を押さえて笑うアレスに、顔を覆って恥ずかしがるゼリア。
「うん、お兄様、とても幸せそうで安心しました」
 それを見ていたカレンもつられて笑顔になっている。そして、テーブルに並んだお菓子を頬張った。
 こうして、身内による語らいは平和に終わりを迎えたのだった。
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