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第二部 王太子妃ゼリア
第68話 わがまま姫カレン
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カレンとグミが客室を訪問すると、元カレンの侍女ルチアが顔を出した。その表情はちょっと困ったような感じである。何があったのだろうか。
「ルチアじゃないの、久しぶりね」
「カレン様ですか。どうりでうるさいと思いましたよ」
からっと笑うカレンに対して、やや邪険気味にするルチア。二人の表情が対照的だ。
「どうされたんですか? まさかお姉ちゃんに何かあったの?」
グミが心配そうにルチアに詰め寄った。ルチアは少し驚きはしたが、すぐに落ち着いて事情を説明し始めた。
「ゼリア様でしたら、お疲れになってお休みになったところです。今はアレス様が付いておられますし、心配はございません」
「お兄様も居るの? 会わせてよ」
ルチアの説明にカレンがぐいぐい詰め寄っていく。それをグミが必死に止めている。
「なによ、グミ。ぶん殴るわよ」
カレンが脅すものの、グミは今回は引かなかった。
「ダメです。あたしだって会いたいですけれど、夫婦の時間の邪魔はいけません!」
グミが足をスライムに戻して踏ん張っているが、それでもカレンが中へ進もうとしている。なんでスライムの方が気遣いできるんですかね、まったくよく分からない。しかも、スライム状態の足で踏ん張っているグミがずるずると引き摺られている。カレンの怪力は健在なのである。
「なんだ騒がしい」
カレンが中心となって起きている騒ぎに、アレスの声が響いた。
「お兄様、お久しぶりです」
「この騒ぎの原因はお前か、カレン」
アレスはカレンを見ると、頭にげんこつを一発叩き入れた。その様子を見たグミが顔を真っ青にさせる。
「お前な、妻が疲れて眠りについたというのに邪魔をする気か。ちゃんと結婚式には出るし、その際にゆっくり話はする。お前はもうちょっと他人の事も考えられるようになれ」
アレスが険しい顔をしてカレンを見ている。最初こそ久しぶりの兄の姿に喜んでいたカレンだったが、少しずつその表情が気まずさを増していった。
「魔王と結婚するお前なら分かると思うが、私にとってゼリアは大事な妻だ。お前もそういうのが分からないわけではあるまい?」
アレスにこう諭されて、カレンはようやくおとなしくなった。
「……分かりました、お兄様。大変申し訳ありませんでした」
こう謝罪すると、グミを引っ張る力がようやく弱くなる。グミは安心してカレンから手を離して、足の状態を人間のものへと変えた。
「しかし、跳ねっかえりのお前が結婚とはな。兄として嬉しく思うぞ。ぜひとも素晴らしい姿を見せてくれ」
「分かりましたわ、お兄様」
アレスが微笑みながら言うと、カレンはにっと笑ってそれに答えた。こういうところを見ると、やはり兄妹なのだと思わされる。
アレスに会った事で満足したカレンは、おとなしく客室から自室へと戻っていく。その間、ずっとグミが頭を下げていたのが印象的であった。
「やれやれ、あれではどっちが魔物か分からんな」
アレスはくしゃりと髪をかき上げて愚痴を呟いた。
カレンとグミを見送って、客室の扉を閉める。奥のベッドではゼリアが寝息を立てて眠っている。スライムなのだから呼吸は必要ないはずだが、人としての期間が長いからか、まるで人間のような行動が増えたゼリアである。
「あれだけの騒ぎの中、よく眠ってられますね」
「まったくですね。さすがはうちの殿下と結婚されただけの事はありますね」
ゼリアの寝顔を見るルチアとフレンは、驚いた表情を浮かべている。従者二人が覗き込む中、ゼリアはころっと寝返りを打った。
「ふっ、さすがは我が妻といったところだな。愛い奴め」
そう呟くアレスの顔は、優しげな笑顔を浮かべている。あまり見る事のないアレスの顔に、フレンは呆気に取られていた。
「……どうした、フレン。私の顔に何か付いているか?」
フレンの様子に気が付いたアレスが尋ねると、
「いえ、殿下もそういう顔をされるのかと、正直驚いてしまった次第です」
フレンは馬鹿正直に答える。その横でルチアが知らんぷりを決め込んでいる。
「正直な奴だな、褒美をやろう。今すぐ今後の予定を立てろ」
「それは褒美ではなく仕事かと存じます」
「黙ってすぐやれ」
笑顔で微笑むアレスに恐怖を感じたフレン。仕方なく黙って使用人の部屋へと歩いていった。
「……正直すぎるのもどうかと思いますが、彼の場合はそれを口に出してしまうのが問題ですね」
「あれでも、従者としては優秀なんだがな。本当に困った限りだ」
ルチアはすんとした困り顔だが、アレスは笑いながら話していた。
「それでは、私は紅茶を用意して参ります。それが終わりましたら、明日のゼリア様のお召し物の支度を致します」
「うむ、頼んだぞ」
「畏まりました」
ルチアはこう言って、女性側の使用人室へと姿を消した。
「しかし、あれもついに結婚をするのか。一生無理だと思ったが、こういう事もあるものだな」
アレスはゼリアの寝顔を見ながら、カレンの事を思い出していた。あれでも血のつながった大事な妹なのだから仕方ないだろう。
「まあ、あいつならその腕っぷしだけでもうまくやっていけるだろうな」
アレスはそう言って笑う。
「だが、今の私にとってお前以上に大事な存在はないぞ、ゼリア」
アレスはそう呟くと、すっとゼリアの顔に口づけをしたのだった。
「ルチアじゃないの、久しぶりね」
「カレン様ですか。どうりでうるさいと思いましたよ」
からっと笑うカレンに対して、やや邪険気味にするルチア。二人の表情が対照的だ。
「どうされたんですか? まさかお姉ちゃんに何かあったの?」
グミが心配そうにルチアに詰め寄った。ルチアは少し驚きはしたが、すぐに落ち着いて事情を説明し始めた。
「ゼリア様でしたら、お疲れになってお休みになったところです。今はアレス様が付いておられますし、心配はございません」
「お兄様も居るの? 会わせてよ」
ルチアの説明にカレンがぐいぐい詰め寄っていく。それをグミが必死に止めている。
「なによ、グミ。ぶん殴るわよ」
カレンが脅すものの、グミは今回は引かなかった。
「ダメです。あたしだって会いたいですけれど、夫婦の時間の邪魔はいけません!」
グミが足をスライムに戻して踏ん張っているが、それでもカレンが中へ進もうとしている。なんでスライムの方が気遣いできるんですかね、まったくよく分からない。しかも、スライム状態の足で踏ん張っているグミがずるずると引き摺られている。カレンの怪力は健在なのである。
「なんだ騒がしい」
カレンが中心となって起きている騒ぎに、アレスの声が響いた。
「お兄様、お久しぶりです」
「この騒ぎの原因はお前か、カレン」
アレスはカレンを見ると、頭にげんこつを一発叩き入れた。その様子を見たグミが顔を真っ青にさせる。
「お前な、妻が疲れて眠りについたというのに邪魔をする気か。ちゃんと結婚式には出るし、その際にゆっくり話はする。お前はもうちょっと他人の事も考えられるようになれ」
アレスが険しい顔をしてカレンを見ている。最初こそ久しぶりの兄の姿に喜んでいたカレンだったが、少しずつその表情が気まずさを増していった。
「魔王と結婚するお前なら分かると思うが、私にとってゼリアは大事な妻だ。お前もそういうのが分からないわけではあるまい?」
アレスにこう諭されて、カレンはようやくおとなしくなった。
「……分かりました、お兄様。大変申し訳ありませんでした」
こう謝罪すると、グミを引っ張る力がようやく弱くなる。グミは安心してカレンから手を離して、足の状態を人間のものへと変えた。
「しかし、跳ねっかえりのお前が結婚とはな。兄として嬉しく思うぞ。ぜひとも素晴らしい姿を見せてくれ」
「分かりましたわ、お兄様」
アレスが微笑みながら言うと、カレンはにっと笑ってそれに答えた。こういうところを見ると、やはり兄妹なのだと思わされる。
アレスに会った事で満足したカレンは、おとなしく客室から自室へと戻っていく。その間、ずっとグミが頭を下げていたのが印象的であった。
「やれやれ、あれではどっちが魔物か分からんな」
アレスはくしゃりと髪をかき上げて愚痴を呟いた。
カレンとグミを見送って、客室の扉を閉める。奥のベッドではゼリアが寝息を立てて眠っている。スライムなのだから呼吸は必要ないはずだが、人としての期間が長いからか、まるで人間のような行動が増えたゼリアである。
「あれだけの騒ぎの中、よく眠ってられますね」
「まったくですね。さすがはうちの殿下と結婚されただけの事はありますね」
ゼリアの寝顔を見るルチアとフレンは、驚いた表情を浮かべている。従者二人が覗き込む中、ゼリアはころっと寝返りを打った。
「ふっ、さすがは我が妻といったところだな。愛い奴め」
そう呟くアレスの顔は、優しげな笑顔を浮かべている。あまり見る事のないアレスの顔に、フレンは呆気に取られていた。
「……どうした、フレン。私の顔に何か付いているか?」
フレンの様子に気が付いたアレスが尋ねると、
「いえ、殿下もそういう顔をされるのかと、正直驚いてしまった次第です」
フレンは馬鹿正直に答える。その横でルチアが知らんぷりを決め込んでいる。
「正直な奴だな、褒美をやろう。今すぐ今後の予定を立てろ」
「それは褒美ではなく仕事かと存じます」
「黙ってすぐやれ」
笑顔で微笑むアレスに恐怖を感じたフレン。仕方なく黙って使用人の部屋へと歩いていった。
「……正直すぎるのもどうかと思いますが、彼の場合はそれを口に出してしまうのが問題ですね」
「あれでも、従者としては優秀なんだがな。本当に困った限りだ」
ルチアはすんとした困り顔だが、アレスは笑いながら話していた。
「それでは、私は紅茶を用意して参ります。それが終わりましたら、明日のゼリア様のお召し物の支度を致します」
「うむ、頼んだぞ」
「畏まりました」
ルチアはこう言って、女性側の使用人室へと姿を消した。
「しかし、あれもついに結婚をするのか。一生無理だと思ったが、こういう事もあるものだな」
アレスはゼリアの寝顔を見ながら、カレンの事を思い出していた。あれでも血のつながった大事な妹なのだから仕方ないだろう。
「まあ、あいつならその腕っぷしだけでもうまくやっていけるだろうな」
アレスはそう言って笑う。
「だが、今の私にとってお前以上に大事な存在はないぞ、ゼリア」
アレスはそう呟くと、すっとゼリアの顔に口づけをしたのだった。
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