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第二部 王太子妃ゼリア
第63話 魔族領へ駆け行く
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結局帰る日まで、リョブクたちだの、ココアたちだの、街の人だのに囲まれ続けたゼリアたちであった。新婚旅行という目的は果たせなかったが、視察旅行という目的は果たせた。
さて、この後は魔族領へ向かう事になっている。カレンと魔王の結婚式に出席するためだ。国王と王妃の許可は、マシュロを通して既にもらっている。ついでにキャンディたちを通してリョブクたちをショークアの王都に帰らせた。これで心置きなく魔族領へと移動ができるのだ。
「では、楽しませて頂きました」
「いえいえ、またお越し下さい」
「あれだけうまそうに食べてもらえたら、作ってるかいがあるってもんだよ」
ゼリアはジョーボクの街の人と簡単に話をして、馬車に乗り込もうとする。
「ご主人様!」
「ココア?」
そこにココアが声を掛けてきた。
「みんなと話せるようにしてくれて、ありがとうなの。ここが気に入っているから、ボク、もっと頑張るの」
「ほどほどにね。あの花畑のように魔力の溜まり場にしないでよ?」
「分かってるの。任せるなの」
ココアはぴょんぴょんと大きく跳ねていた。よく見れば、見送りの人に混じってダーティスライムが何体か見える。掃除に回っているメンバーが見に来たのだろう。ゼリアは手を振っておいた。すると、そのダーティスライムたちは嬉しそうにぴょんぴょんと跳ねた。
こうして、ゼリアたちは無事にジョーボクを発ち、魔族領に向かう事ができたのだ。
「グミ、聞こえる?」
『お姉ちゃん? 今どこ?』
「ジョーボクを発ったところ。何もなければ予定通りに着けるわ」
『了解。待ってるからね』
すぐさまグミに念話を入れるゼリア。その様子を見ていたアレスが言葉を掛けてきた。
「お前の妹に連絡入れたのか」
「はい。予定通りこっちを出発できた事を伝えておきました。なにせ結婚式ですからね」
「魔界の結婚式は興味があるな。どんな感じなんだ?」
「私もよくは存じません。スライムには本来そんな概念が無いですし、魔王様の配下だからといってもそこらの魔物の一体にしかすぎませんから」
「ほぉ、そういうものなのか」
「そういうものなのです」
アレスはどうも納得いっていない顔をしている。従者であるルチアとフレンは、あえて反応をしていないようだ。
3日ほど移動したところで、目の前の景色が一変する。さっきまでの開けた景色から、鬱蒼とした森が目の前に広がっている。ゼリアとグミのパスに従って進んできたのだが、これではここから先が進めなくなってしまう。
「少々お待ち下さい」
ゼリアはそう言って馬車から降りると、森の前に立って魔力を注ぐ。すると、森の木々が一気に一斉に両脇にずれ、そこに道が現れたのである。
実はこの森は、魔王の配下の魔族や魔物の魔力を感知すると道を開くようになっている。いわゆるセキュリティシステムのようなものを備えているのだ。魔王の配下の中でもそれなりの地位に居るゼリアの魔力に大いに反応したため、この通り十分な道を切り開いたのである。
「では、参りましょうか」
ゼリアは再び馬車に乗り込む。
「なかなかすごいな。木々がこれほどまでに動くとは」
「私の魔力に反応するだけでは、それこそ獣道程度しか開けませんよ。今は人間に化けている上に馬車にも乗っていると、魔力に乗せて森に伝えましたからね。ちなみに通り過ぎた道は徐々に元通りになっています」
魔族のセキュリティシステムは半端なかった。馬車が止まれば元に戻るのも止まるらしい。
地面も地面で素晴らしいほどに平坦である。揺れないので馬車も快適である。
「さすがに3日間も森の中なんてことはありませんが、さすがに最初の一泊は森の中になっちゃいますね」
「この森の中か。不気味だが、一応安全なのだろうな」
「大丈夫ですよ。私はそこらの魔物よりは強いですから」
ゼリアが自信たっぷりに言うと、アレスとルチアが疑いの目を向けてくる。
「な、な、なんですか、その目は! これでもスライム最強種の一つアサシンスライムですよ、私!」
「いや、最強種と言われてもあれだけバタバタ倒れられてはな?」
「ちょっと、使節団の時のはわざとですし! ジョーボクの時は頭が混乱しただけですから!」
アレスの疑う目に、ゼリアは必死に言い訳をしている。本当にぶよぶよ不定形のスライムとは思えない可愛い反応である。必死に言い繕うとしているゼリアだったが、誰もまともに相手してくれず、しまいには頬を膨らませて拗ねてしまった。
「本当に魔物かと思われるくらい、可愛いお方ですよね」
「ああ、だからこそ愛でたくなるというものだ」
「殿下が毎日楽しそうなのは、そういう理由からでしたか」
アレスたちのやり取りを見て、フレンも納得できたようである。フレンだけはあまりゼリアとは面識がなかったので、ようやく納得がいくのも無理はない。
こうして馬車の中がなかなか楽しくなっている中、一行はどんどんと魔族領の中心部へと近付いていく。1日半かけて森を抜けると、目の前にはなんとも重苦しい空気の景色が広がっていた。
「ようこそ、魔族領へ」
ゼリアはにこりと微笑んだ。
そう、この禍々しいまでの景色こそが、魔族領なのである。ここから中心部まではまだ1日ほどかかる。アレスたちは無事に中心部にたどり着く事ができるのだろうか。
さて、この後は魔族領へ向かう事になっている。カレンと魔王の結婚式に出席するためだ。国王と王妃の許可は、マシュロを通して既にもらっている。ついでにキャンディたちを通してリョブクたちをショークアの王都に帰らせた。これで心置きなく魔族領へと移動ができるのだ。
「では、楽しませて頂きました」
「いえいえ、またお越し下さい」
「あれだけうまそうに食べてもらえたら、作ってるかいがあるってもんだよ」
ゼリアはジョーボクの街の人と簡単に話をして、馬車に乗り込もうとする。
「ご主人様!」
「ココア?」
そこにココアが声を掛けてきた。
「みんなと話せるようにしてくれて、ありがとうなの。ここが気に入っているから、ボク、もっと頑張るの」
「ほどほどにね。あの花畑のように魔力の溜まり場にしないでよ?」
「分かってるの。任せるなの」
ココアはぴょんぴょんと大きく跳ねていた。よく見れば、見送りの人に混じってダーティスライムが何体か見える。掃除に回っているメンバーが見に来たのだろう。ゼリアは手を振っておいた。すると、そのダーティスライムたちは嬉しそうにぴょんぴょんと跳ねた。
こうして、ゼリアたちは無事にジョーボクを発ち、魔族領に向かう事ができたのだ。
「グミ、聞こえる?」
『お姉ちゃん? 今どこ?』
「ジョーボクを発ったところ。何もなければ予定通りに着けるわ」
『了解。待ってるからね』
すぐさまグミに念話を入れるゼリア。その様子を見ていたアレスが言葉を掛けてきた。
「お前の妹に連絡入れたのか」
「はい。予定通りこっちを出発できた事を伝えておきました。なにせ結婚式ですからね」
「魔界の結婚式は興味があるな。どんな感じなんだ?」
「私もよくは存じません。スライムには本来そんな概念が無いですし、魔王様の配下だからといってもそこらの魔物の一体にしかすぎませんから」
「ほぉ、そういうものなのか」
「そういうものなのです」
アレスはどうも納得いっていない顔をしている。従者であるルチアとフレンは、あえて反応をしていないようだ。
3日ほど移動したところで、目の前の景色が一変する。さっきまでの開けた景色から、鬱蒼とした森が目の前に広がっている。ゼリアとグミのパスに従って進んできたのだが、これではここから先が進めなくなってしまう。
「少々お待ち下さい」
ゼリアはそう言って馬車から降りると、森の前に立って魔力を注ぐ。すると、森の木々が一気に一斉に両脇にずれ、そこに道が現れたのである。
実はこの森は、魔王の配下の魔族や魔物の魔力を感知すると道を開くようになっている。いわゆるセキュリティシステムのようなものを備えているのだ。魔王の配下の中でもそれなりの地位に居るゼリアの魔力に大いに反応したため、この通り十分な道を切り開いたのである。
「では、参りましょうか」
ゼリアは再び馬車に乗り込む。
「なかなかすごいな。木々がこれほどまでに動くとは」
「私の魔力に反応するだけでは、それこそ獣道程度しか開けませんよ。今は人間に化けている上に馬車にも乗っていると、魔力に乗せて森に伝えましたからね。ちなみに通り過ぎた道は徐々に元通りになっています」
魔族のセキュリティシステムは半端なかった。馬車が止まれば元に戻るのも止まるらしい。
地面も地面で素晴らしいほどに平坦である。揺れないので馬車も快適である。
「さすがに3日間も森の中なんてことはありませんが、さすがに最初の一泊は森の中になっちゃいますね」
「この森の中か。不気味だが、一応安全なのだろうな」
「大丈夫ですよ。私はそこらの魔物よりは強いですから」
ゼリアが自信たっぷりに言うと、アレスとルチアが疑いの目を向けてくる。
「な、な、なんですか、その目は! これでもスライム最強種の一つアサシンスライムですよ、私!」
「いや、最強種と言われてもあれだけバタバタ倒れられてはな?」
「ちょっと、使節団の時のはわざとですし! ジョーボクの時は頭が混乱しただけですから!」
アレスの疑う目に、ゼリアは必死に言い訳をしている。本当にぶよぶよ不定形のスライムとは思えない可愛い反応である。必死に言い繕うとしているゼリアだったが、誰もまともに相手してくれず、しまいには頬を膨らませて拗ねてしまった。
「本当に魔物かと思われるくらい、可愛いお方ですよね」
「ああ、だからこそ愛でたくなるというものだ」
「殿下が毎日楽しそうなのは、そういう理由からでしたか」
アレスたちのやり取りを見て、フレンも納得できたようである。フレンだけはあまりゼリアとは面識がなかったので、ようやく納得がいくのも無理はない。
こうして馬車の中がなかなか楽しくなっている中、一行はどんどんと魔族領の中心部へと近付いていく。1日半かけて森を抜けると、目の前にはなんとも重苦しい空気の景色が広がっていた。
「ようこそ、魔族領へ」
ゼリアはにこりと微笑んだ。
そう、この禍々しいまでの景色こそが、魔族領なのである。ここから中心部まではまだ1日ほどかかる。アレスたちは無事に中心部にたどり着く事ができるのだろうか。
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