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第二部 王太子妃ゼリア
第62話 魔力の花畑
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翌日から2日間は、予定通り新婚旅行で夫婦水入らずといきたいところだったのだが……。
「ゼリア様のお役に立つなのー」
ココアがすっかり懐いたのか、ついて来てしまった。もちろん街の中限定の話なのだが、どうしてこうなった。
ダーティスライムは汚物を食べるものの、スライムの体自体はきれいである。なので頭に乗っかられてもまったく問題はない。気分的な問題なのである。ゼリアの頭の上で、ココアは鼻もないのに鼻歌を歌っていた。一体どこでそんなものを覚えるのだろうか。
「あっちにはお花畑があるのー。ボクたちの分体で育てた花だよー」
ココアがぶにょんと体の一部を伸ばして指し示す。どうやら、ダーティスライムたちが過剰な栄養を捨てた花畑があるらしい。ゼリアはアレスを見る。
「そんなに行きたいのなら、行ってみるか」
ゼリアがとても見てみたそうにしているので、アレスは仕方なくその方針を了承する。元々は新婚旅行なのである。断る理由などないのだ。ちなみにアレスの返答に、ゼリアは表情を明るくしていた。そもそもがスライムと思えないくらいに、反応がこの世界の一般的な女性である。
ココアに導かれてやって来た街の郊外。そこには確かに美しい花畑が広がっていた。ダーティスライムによる効果なのか、この季節には咲いていないような花まで見られた。
「ボクたちは汚いものを食べるだけで、別にこういうのが嫌いなわけじゃないのー」
ココアはそう言っている。だが、その言葉が嘘じゃないのはよく分かる。雑草が見当たらないくらいに手入れが行き届いているのである。
「ボクたち以外は特に誰も手を入れてないの。自然とこうなったの」
ココアが言うには、栄養過多の自分の分体を切り落として肥料しただけなのだそうだ。
「ちょっと待って。ここすごく魔力が溜まってるんだけど?」
あまりの状態に、ゼリアは思わず声を上げた。
「ん、ここ魔力濃い」
「普通の人、多分酔う」
「キャンディ、ガム、いつの間に来たのよ」
突然聞こえた眷属の声に、ゼリアは慌てて反応する。振り返った先に立っていたのは、間違いなく眷属のキャンディとガムだった。
「ん、今さっき」
「魔力感じた。だから来た」
二人はしれっと答える。
「リョブクさんはどうしたの?」
「ん、あそこに居る」
「ここ魔力濃い。普通の人間には危ない」
キャンディたちが指差す先に、確かにリョブクたちショークアの人間たちが居た。
「まあそうなるの。平気なアレスさんの方がおかしいの」
ココアがそんな事を言う。確かに、アレスは平気な顔をして立っている。
「そうなのか? 別になんて事はないのだが、まあフレンやルチアの顔色が悪いから、そういう事なのだろうな」
アレスの言葉にゼリアは慌ててルチアを見る。そしたらば、もう吐きそうな感じで顔を青ざめさせている。これはいけないと、急いで花畑から離れた。
「アレス様、なんで平気なんですか。これはもうカレン様のお兄様だという事を認めざるを得ませんね」
「何を言っているんだ。カレンは私の妹だ。それは間違いな事だ」
「あー、カレン様とは違って普通の方だと思っていたのに、ビボーナの王家って実は規格外の集まりなの?」
ゼリアは頭を抱えた。
「まあ、アサシンスライムであるお前を妻にめとった時点で察しが付くだろう」
「……そうでしたわね」
ゼリアはがくっと項垂れた。
「どうした。私の事が嫌いになったか?」
「そ、そんなわけないじゃないですか! ただ、ちょっと意外だっただけです」
アレスの問い掛けに、ゼリアは今度は口を尖らせて両手の人差し指を突き合わせていた。本当に行動の一つ一つが人間っぽくて、今もスライムだという事を否定させてくる。
「それにしても、これだけ人間に影響のある場所だと危険だな。どうにかできないのか?」
「そうなのねー。ここはほとんどの仲間が利用してる場所だから、濃くなったのかもなの。だから、分体を捨てる場所を分散させればそのうち薄まってくるかもなの」
「ここから魔力を取り除くのは、確かに無理でしょうね。土壌にまで染み込んでますから」
「なのなの」
というわけで、花畑の魔力を薄める策としては、10日間程度ではなく相当の期間に渡って魔力供給を断つしかなさそうだった。となると、その間に分体を切り離す場所の候補を増やすしかなさそうだ。まあ、それを決めるのはジョーボクの街やショークアだ。アレスとゼリアにはとりあえず関係ない話である。
「ココア、私たちの案内はいいから、今の事を他の子たちに伝えてきて」
「はいなの」
ゼリアがそう伝えると、ココアはゼリアの頭からぴょんと飛び降りて、他のダーティスライムの所まで飛び跳ねていった。
「はぁ、なかなか二人で落ち着けないな」
「ええ、まったくですね」
新婚旅行なはずなのに、結構いろんな人に絡まれてのんびりできないアレスとゼリアである。気が付けば新婚旅行も移動以外の時間は2日を切っていた。終われば今度は魔族領である。二人にまともに夫婦の時間を過ごせる時は果たして来るのだろうか。本当に誰にも分からなかった。
「ゼリア様のお役に立つなのー」
ココアがすっかり懐いたのか、ついて来てしまった。もちろん街の中限定の話なのだが、どうしてこうなった。
ダーティスライムは汚物を食べるものの、スライムの体自体はきれいである。なので頭に乗っかられてもまったく問題はない。気分的な問題なのである。ゼリアの頭の上で、ココアは鼻もないのに鼻歌を歌っていた。一体どこでそんなものを覚えるのだろうか。
「あっちにはお花畑があるのー。ボクたちの分体で育てた花だよー」
ココアがぶにょんと体の一部を伸ばして指し示す。どうやら、ダーティスライムたちが過剰な栄養を捨てた花畑があるらしい。ゼリアはアレスを見る。
「そんなに行きたいのなら、行ってみるか」
ゼリアがとても見てみたそうにしているので、アレスは仕方なくその方針を了承する。元々は新婚旅行なのである。断る理由などないのだ。ちなみにアレスの返答に、ゼリアは表情を明るくしていた。そもそもがスライムと思えないくらいに、反応がこの世界の一般的な女性である。
ココアに導かれてやって来た街の郊外。そこには確かに美しい花畑が広がっていた。ダーティスライムによる効果なのか、この季節には咲いていないような花まで見られた。
「ボクたちは汚いものを食べるだけで、別にこういうのが嫌いなわけじゃないのー」
ココアはそう言っている。だが、その言葉が嘘じゃないのはよく分かる。雑草が見当たらないくらいに手入れが行き届いているのである。
「ボクたち以外は特に誰も手を入れてないの。自然とこうなったの」
ココアが言うには、栄養過多の自分の分体を切り落として肥料しただけなのだそうだ。
「ちょっと待って。ここすごく魔力が溜まってるんだけど?」
あまりの状態に、ゼリアは思わず声を上げた。
「ん、ここ魔力濃い」
「普通の人、多分酔う」
「キャンディ、ガム、いつの間に来たのよ」
突然聞こえた眷属の声に、ゼリアは慌てて反応する。振り返った先に立っていたのは、間違いなく眷属のキャンディとガムだった。
「ん、今さっき」
「魔力感じた。だから来た」
二人はしれっと答える。
「リョブクさんはどうしたの?」
「ん、あそこに居る」
「ここ魔力濃い。普通の人間には危ない」
キャンディたちが指差す先に、確かにリョブクたちショークアの人間たちが居た。
「まあそうなるの。平気なアレスさんの方がおかしいの」
ココアがそんな事を言う。確かに、アレスは平気な顔をして立っている。
「そうなのか? 別になんて事はないのだが、まあフレンやルチアの顔色が悪いから、そういう事なのだろうな」
アレスの言葉にゼリアは慌ててルチアを見る。そしたらば、もう吐きそうな感じで顔を青ざめさせている。これはいけないと、急いで花畑から離れた。
「アレス様、なんで平気なんですか。これはもうカレン様のお兄様だという事を認めざるを得ませんね」
「何を言っているんだ。カレンは私の妹だ。それは間違いな事だ」
「あー、カレン様とは違って普通の方だと思っていたのに、ビボーナの王家って実は規格外の集まりなの?」
ゼリアは頭を抱えた。
「まあ、アサシンスライムであるお前を妻にめとった時点で察しが付くだろう」
「……そうでしたわね」
ゼリアはがくっと項垂れた。
「どうした。私の事が嫌いになったか?」
「そ、そんなわけないじゃないですか! ただ、ちょっと意外だっただけです」
アレスの問い掛けに、ゼリアは今度は口を尖らせて両手の人差し指を突き合わせていた。本当に行動の一つ一つが人間っぽくて、今もスライムだという事を否定させてくる。
「それにしても、これだけ人間に影響のある場所だと危険だな。どうにかできないのか?」
「そうなのねー。ここはほとんどの仲間が利用してる場所だから、濃くなったのかもなの。だから、分体を捨てる場所を分散させればそのうち薄まってくるかもなの」
「ここから魔力を取り除くのは、確かに無理でしょうね。土壌にまで染み込んでますから」
「なのなの」
というわけで、花畑の魔力を薄める策としては、10日間程度ではなく相当の期間に渡って魔力供給を断つしかなさそうだった。となると、その間に分体を切り離す場所の候補を増やすしかなさそうだ。まあ、それを決めるのはジョーボクの街やショークアだ。アレスとゼリアにはとりあえず関係ない話である。
「ココア、私たちの案内はいいから、今の事を他の子たちに伝えてきて」
「はいなの」
ゼリアがそう伝えると、ココアはゼリアの頭からぴょんと飛び降りて、他のダーティスライムの所まで飛び跳ねていった。
「はぁ、なかなか二人で落ち着けないな」
「ええ、まったくですね」
新婚旅行なはずなのに、結構いろんな人に絡まれてのんびりできないアレスとゼリアである。気が付けば新婚旅行も移動以外の時間は2日を切っていた。終われば今度は魔族領である。二人にまともに夫婦の時間を過ごせる時は果たして来るのだろうか。本当に誰にも分からなかった。
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