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第二部 王太子妃ゼリア
第61話 街に馴染むスライム
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「みんな、集まるなのー」
ココアの呼び掛けに、養鶏場に居るダーティスライムたちが一気に集まってきた。思った以上に数が居る。
「ボクの群れは全部で20体なの。これでも結構増殖は抑えてきてたの」
ぷるんぷるんと震えながら、ココアはダーティスライムの事を説明している。これにさっきまでのココアの説明を踏まえると、このジョーボクのあらゆる物の品質が良い事がなんとなくだが理解できた。
そう、ダーティスライムたちが切り離した部位が肥料として供給されていたのだ。良質の肥料が供給された事で作物がよく育ち、その作物を元にした飼料を食べた家畜たちもよく育つ。ダーティスライムたちはその排泄物などを食べて、また余剰分を切り離す。このサイクルこそが、このジョーボクが発展してきた理由なのだろう。ゼリアはもとより、アレスやリョブクも納得がいったようである。
正直、ゼリアの正体がスライムだと分かった時点でいろいろ責めたい気持ちはあったのだが、このジョーボクがスライムとともに発展してきた街だと分かると、とても責められたものではなくなったのだ。ゼリアよりも長く、スライムとの付き合いをしてきた街が自国内にあったのだから。
「正直、スライムなど知性の欠片のない厄介な魔物としか見えておりませんでした。ですが、こうやって見てみると、なかなか別な意味で侮れない魔物だと実感させられますな」
「ん、適応力は自慢」
「スライムこそ、最強」
キャンディとガムも親指を立てて自慢げな顔をしている。それには、リョブクも二人の頭を撫でて褒めていた。意外な事に、二人ともそれをおとなしく嬉しそうに受けていた。褒められるのが好きなのだろう。
「擬態ができるスライムはアサシンスライムやミミックスライムだけですから、ココアに擬態はできないはずです。いくら私が名前を与えて眷属化したからと言っても、それはないでしょう。それに、絵面が酷くなります」
「絵面ってなんだ」
ゼリアの説明にアレスはすぐにツッコミを入れた。ゼリアは表情をむっとさせる。
「考えてもみて下さい。ダーティスライムが食べるのは汚物です。人間がそういうのを食べている様子を見てどう思われますか?」
ゼリアが怒りながら言う。確かに酷くとんでもない光景である。正直想像して吐きそうになった。
「……悪かった」
アレスは顔を押さえて謝った。
「ココア、ここに居る子たちは全員仲間なのよね?」
「そうなのー、ずっと一緒なのー」
この声に、他のダーティスライムたちもぷるぷると反応している。言葉は通じないが、同じスライムとしてゼリアにもその感情は伝わっている。
「うん、他の子も同じみたいだし、この子たちはこの街で過ごさせるのが一番ですね」
ゼリアがくるりと振り向けば、養鶏場の職員と思われる人物たちも頷いていた。リョブクもこのスライムたちの事は認識していたので、街の意思を尊重するようである。
「ありがとなのー。ボクたちは汚れさえ食べさせてもらえれば満足なのー」
ココアはぴょんぴょんと跳ねている。
「それにしても、こんなに居たんだな、このスライム……」
街の人は驚いていた。養鶏場に居たのはせいぜいココア含めて6体くらいだからだ。
「でも、これで街がきれいなのはすごく合点がいったなぁ……」
確かに、街にはこれといったごみも落ちてないし、牧場がこんなにあるなら普通はかなり臭うはずである。それすらもほとんどなかったのだから、このダーティスライムたちが頑張って食べていたのだろう。
「ただ、街でスライムを堂々とうろつかせるとして、この群れのスライムかどうかをどうやって見分ければいいんだ?」
目の前のダーティスライムを受け入れるのはいいが、とある職員が懸念を口にする。確かに、よそからスライムが流れてくれば分からない可能性はある。
「まずは体色で見分けるの。ダーティスライムは基本的に茶色なの」
目の前にうごめくダーティスライムは、眷属化したココアを含めて全部茶色である。スライムはその食性や生息地で色が変わる。主に汚物を好むダーティスライムは茶色なのである。
「それからみんな、あれをやるの」
ココアがこう命じると、ダーティスライムたちは体を変形させていく。そこに現れたのは、ショークア王国の紋章の六角形に形を変えたダーティスライムたちだった。
「あれをやれと命じてこの形に変えられたらボクの群れなのー」
「その形どこで覚えたんだ?」
「それはそこのおじさんのおかげなのー」
ココアはリョブクを指し示す。どうやら、取引に来たリョブクの馬車に付いているショークア王国の紋章の形を覚え込んだようである。
「こいつは驚いたな。ゼリアやグミの事もあるが、スライムは意外と頭がいいのかも知れないな」
この様子を見ていたアレスは非常に感心していた。これにはキャンディやガムもドヤ顔で胸を張っていた。
街の案内だったはずが、気が付けばダーティスライムに完全に塗り替えられてしまった一日である。
ちなみにゼリアは倒れた事をリョブクたちに謝罪していた。あれには確かに困ったものではあるが、その後の対応で帳消しになったようで、リョブクたちは特に怒っている様子はなかった。まあもっとも、ゼリアが気絶している間はアレスとフレンがその辺りの話は全部聞いていたし、支障はなかったようだった。
「本当に申し訳ありませんでした」
ゼリアはその日の夜はずっと反省をしていたのであった。
ココアの呼び掛けに、養鶏場に居るダーティスライムたちが一気に集まってきた。思った以上に数が居る。
「ボクの群れは全部で20体なの。これでも結構増殖は抑えてきてたの」
ぷるんぷるんと震えながら、ココアはダーティスライムの事を説明している。これにさっきまでのココアの説明を踏まえると、このジョーボクのあらゆる物の品質が良い事がなんとなくだが理解できた。
そう、ダーティスライムたちが切り離した部位が肥料として供給されていたのだ。良質の肥料が供給された事で作物がよく育ち、その作物を元にした飼料を食べた家畜たちもよく育つ。ダーティスライムたちはその排泄物などを食べて、また余剰分を切り離す。このサイクルこそが、このジョーボクが発展してきた理由なのだろう。ゼリアはもとより、アレスやリョブクも納得がいったようである。
正直、ゼリアの正体がスライムだと分かった時点でいろいろ責めたい気持ちはあったのだが、このジョーボクがスライムとともに発展してきた街だと分かると、とても責められたものではなくなったのだ。ゼリアよりも長く、スライムとの付き合いをしてきた街が自国内にあったのだから。
「正直、スライムなど知性の欠片のない厄介な魔物としか見えておりませんでした。ですが、こうやって見てみると、なかなか別な意味で侮れない魔物だと実感させられますな」
「ん、適応力は自慢」
「スライムこそ、最強」
キャンディとガムも親指を立てて自慢げな顔をしている。それには、リョブクも二人の頭を撫でて褒めていた。意外な事に、二人ともそれをおとなしく嬉しそうに受けていた。褒められるのが好きなのだろう。
「擬態ができるスライムはアサシンスライムやミミックスライムだけですから、ココアに擬態はできないはずです。いくら私が名前を与えて眷属化したからと言っても、それはないでしょう。それに、絵面が酷くなります」
「絵面ってなんだ」
ゼリアの説明にアレスはすぐにツッコミを入れた。ゼリアは表情をむっとさせる。
「考えてもみて下さい。ダーティスライムが食べるのは汚物です。人間がそういうのを食べている様子を見てどう思われますか?」
ゼリアが怒りながら言う。確かに酷くとんでもない光景である。正直想像して吐きそうになった。
「……悪かった」
アレスは顔を押さえて謝った。
「ココア、ここに居る子たちは全員仲間なのよね?」
「そうなのー、ずっと一緒なのー」
この声に、他のダーティスライムたちもぷるぷると反応している。言葉は通じないが、同じスライムとしてゼリアにもその感情は伝わっている。
「うん、他の子も同じみたいだし、この子たちはこの街で過ごさせるのが一番ですね」
ゼリアがくるりと振り向けば、養鶏場の職員と思われる人物たちも頷いていた。リョブクもこのスライムたちの事は認識していたので、街の意思を尊重するようである。
「ありがとなのー。ボクたちは汚れさえ食べさせてもらえれば満足なのー」
ココアはぴょんぴょんと跳ねている。
「それにしても、こんなに居たんだな、このスライム……」
街の人は驚いていた。養鶏場に居たのはせいぜいココア含めて6体くらいだからだ。
「でも、これで街がきれいなのはすごく合点がいったなぁ……」
確かに、街にはこれといったごみも落ちてないし、牧場がこんなにあるなら普通はかなり臭うはずである。それすらもほとんどなかったのだから、このダーティスライムたちが頑張って食べていたのだろう。
「ただ、街でスライムを堂々とうろつかせるとして、この群れのスライムかどうかをどうやって見分ければいいんだ?」
目の前のダーティスライムを受け入れるのはいいが、とある職員が懸念を口にする。確かに、よそからスライムが流れてくれば分からない可能性はある。
「まずは体色で見分けるの。ダーティスライムは基本的に茶色なの」
目の前にうごめくダーティスライムは、眷属化したココアを含めて全部茶色である。スライムはその食性や生息地で色が変わる。主に汚物を好むダーティスライムは茶色なのである。
「それからみんな、あれをやるの」
ココアがこう命じると、ダーティスライムたちは体を変形させていく。そこに現れたのは、ショークア王国の紋章の六角形に形を変えたダーティスライムたちだった。
「あれをやれと命じてこの形に変えられたらボクの群れなのー」
「その形どこで覚えたんだ?」
「それはそこのおじさんのおかげなのー」
ココアはリョブクを指し示す。どうやら、取引に来たリョブクの馬車に付いているショークア王国の紋章の形を覚え込んだようである。
「こいつは驚いたな。ゼリアやグミの事もあるが、スライムは意外と頭がいいのかも知れないな」
この様子を見ていたアレスは非常に感心していた。これにはキャンディやガムもドヤ顔で胸を張っていた。
街の案内だったはずが、気が付けばダーティスライムに完全に塗り替えられてしまった一日である。
ちなみにゼリアは倒れた事をリョブクたちに謝罪していた。あれには確かに困ったものではあるが、その後の対応で帳消しになったようで、リョブクたちは特に怒っている様子はなかった。まあもっとも、ゼリアが気絶している間はアレスとフレンがその辺りの話は全部聞いていたし、支障はなかったようだった。
「本当に申し訳ありませんでした」
ゼリアはその日の夜はずっと反省をしていたのであった。
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