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第二部 王太子妃ゼリア
第60話 眷属契約
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ジョーボクの街で出会ったダーティスライムの群れ。その中の一匹があっさり言葉を喋るようになってしまった。一体何が起きたというのだろう。
「ぷるっぷるっ、ボクは悪いスライムとは違うの」
ぷるぷると震える茶色いスライムは、覚えたての発声魔法でそう話してきた。
「汚れとか生ごみとか、要らないものを食べさせてくれたらそれでいいの。必要だったらボクの体を分けてあげるの」
「お前の分けられた体は何かに使えるのか?」
ダーティスライムの言葉に、アレスはもう動じていなかった。さすがゼリアに惚れただけの事はある。
「肥料になるの。汚れを分解して栄養として取り込むの。だから、ボクたちの体の部分は肥料として使えるの」
「なるほど、そういうわけか」
アレスが一人で納得している。というか、この状況の中では、アレスとスライム三人しか話について来れていない。ルチアですら置いてかれているのだ。
「栄養を取り込み過ぎると、ボクたちは栄養の取り過ぎで大変になるの。だからその前に、分体か栄養の塊を体から切り離すの」
「大変になるってどうなるんだ?」
「体がとても大きくなるの。大きくなりすぎて動けなくなって、やがて死んじゃうの」
ダーティスライムはそう説明している。確かに大きくなりすぎるのは問題である。
「聞いている限りは、本当に害はなさそうですね。自分で限界を理解しているようですし、食べている物の割には臭わないですしきれいですし、いい事づくめですね」
ゼリアも感心している。種族名は知っていたものの、まさかこんな優れた種族だとは思っていなかったのだ。アレスも同様の解釈をしたようで、それをリョブクたちショークアの人間に説明していた。
「これほどに優れたスライムだとは。これはジョーボクの売り出しに一つ使えそうですな」
リョブクはすぐさまダーティスライムの利用方法を考え始めた。
「一家に一体、ダーティスライムなのー」
喋るダーティスライムは自慢げに震えていた。
「だが、便利とはいえ、あちこちに増やすのも考えものだろうな」
「そうですね。一応これでも魔物ですから」
「だな、利用だけして利用して葬り去るなんて事も考えられる。そうなればこののんびりとした魔物でも狂暴化は考えられるからな」
「ん、私たちミミックスライムも同じ」
「ゼリア様優しい、だから従う」
「もう、あなたたちったら」
ゼリアはキャンディとガムを撫でていた。それに対して二人は、とても満足げに撫でられていた。
だが、このアレスの懸念は実に正しい。過去にもおとなしい魔物が狂暴化した例はいくらでもあるのだ。下手な事はしない方がいいだろう。
話を聞けば、このダーティスライムたちは元々この辺で暮らしていて、知らないうちに当時は村だったジョーボクに住み着いたらしい。ジョーボクの人たちも最初こそ怖がっていたが、ごみをきれいに食べてくれるものだから、自然と今のように共生関係が築かれていったそうだ。
「ここは天国なのー」
代表格であるダーティスライムは体を弾ませている。まるで踊っているようだ。
「ん、ゼリア様」
「名前、付ける」
キャンディとガムが、ゼリアにしがみついて何やらせがんできた。どうやらこのダーティスライムに名前を付けて欲しいらしい。つまり、眷属化という事である。確かに、眷属化すれば念話の範囲は意図的に調整が利くようになる。今のこのダーティスライムの念話は極近距離に無差別に放たれている状態。これはこれで何かと問題があるのだ。
「よし、そうね」
ゼリアは意を決したように、キャンディの抱えるダーティスライムに近付く。
「あなたに名前を与えましょう。私の眷属になる事にはなるけど、あなたに不利益はまったく無いわ」
ゼリアが話し掛けると、ダーティスライムはまごまごとしていた。しばらくすると、一番大きくぷるっと震える。
「分かったの、眷属になるの」
どうやら了承したようである。
「アサシンスライム、ゼリアの名の下に、このダーティスライムに眷属の印を与えん。名はココア」
ゼリアが眷属契約の詠唱をすると、ダーティスライムの体が一瞬光る。これで眷属契約は終了したのである。
「今のが眷属の契約方法なのか。思ったより単純な方法なんだな」
「はい。私は魔族ではないので簡易の方法しか使えないのです。魔族になるともっと拘束力の強い契約方法もあるらしいですが」
アレスの感想に反応するゼリア。そして、ダーティスライム改め、ココアの方を見る。
「無理やり働かせるなんてのは、私にはやっぱり無理ですよ。一番きつい仕事は、やっぱり私がするべきだと思いますから」
ゼリアはキャンディたちを順番に撫でていた。これでもカレンを暗殺しようとしていたとはとても思えない姿である。
「ぷるっぷるっ、ありがとうなの。でも、ボクはここでずっと頑張っていくの」
「それでいいわよ。この街で何かあったら、念話でキャンディやガムに話を通せばいいから。そしたら、このリョブクさんにも伝わるわよ」
「分かったのー」
ココア本当に分かっているような言いっぷりである。スライムって実は頭がいいのだろうか。
「いい事をしたとは思うが、ゼリア」
「なんでしょうか、アレス様」
「お前はちょっと倒れ過ぎだな。王太子妃はつまり未来の王妃。もう少し強くなってもらわないと困るぞ」
「本当ですよ、ゼリア様。仕えるこちらの身にもなって下さい」
アレスとルチアから思いっきり責められるゼリア。
「わ、分かりましたわよ……」
ゼリアが不貞腐れると、その場には笑いが起きたのだった。
「ぷるっぷるっ、ボクは悪いスライムとは違うの」
ぷるぷると震える茶色いスライムは、覚えたての発声魔法でそう話してきた。
「汚れとか生ごみとか、要らないものを食べさせてくれたらそれでいいの。必要だったらボクの体を分けてあげるの」
「お前の分けられた体は何かに使えるのか?」
ダーティスライムの言葉に、アレスはもう動じていなかった。さすがゼリアに惚れただけの事はある。
「肥料になるの。汚れを分解して栄養として取り込むの。だから、ボクたちの体の部分は肥料として使えるの」
「なるほど、そういうわけか」
アレスが一人で納得している。というか、この状況の中では、アレスとスライム三人しか話について来れていない。ルチアですら置いてかれているのだ。
「栄養を取り込み過ぎると、ボクたちは栄養の取り過ぎで大変になるの。だからその前に、分体か栄養の塊を体から切り離すの」
「大変になるってどうなるんだ?」
「体がとても大きくなるの。大きくなりすぎて動けなくなって、やがて死んじゃうの」
ダーティスライムはそう説明している。確かに大きくなりすぎるのは問題である。
「聞いている限りは、本当に害はなさそうですね。自分で限界を理解しているようですし、食べている物の割には臭わないですしきれいですし、いい事づくめですね」
ゼリアも感心している。種族名は知っていたものの、まさかこんな優れた種族だとは思っていなかったのだ。アレスも同様の解釈をしたようで、それをリョブクたちショークアの人間に説明していた。
「これほどに優れたスライムだとは。これはジョーボクの売り出しに一つ使えそうですな」
リョブクはすぐさまダーティスライムの利用方法を考え始めた。
「一家に一体、ダーティスライムなのー」
喋るダーティスライムは自慢げに震えていた。
「だが、便利とはいえ、あちこちに増やすのも考えものだろうな」
「そうですね。一応これでも魔物ですから」
「だな、利用だけして利用して葬り去るなんて事も考えられる。そうなればこののんびりとした魔物でも狂暴化は考えられるからな」
「ん、私たちミミックスライムも同じ」
「ゼリア様優しい、だから従う」
「もう、あなたたちったら」
ゼリアはキャンディとガムを撫でていた。それに対して二人は、とても満足げに撫でられていた。
だが、このアレスの懸念は実に正しい。過去にもおとなしい魔物が狂暴化した例はいくらでもあるのだ。下手な事はしない方がいいだろう。
話を聞けば、このダーティスライムたちは元々この辺で暮らしていて、知らないうちに当時は村だったジョーボクに住み着いたらしい。ジョーボクの人たちも最初こそ怖がっていたが、ごみをきれいに食べてくれるものだから、自然と今のように共生関係が築かれていったそうだ。
「ここは天国なのー」
代表格であるダーティスライムは体を弾ませている。まるで踊っているようだ。
「ん、ゼリア様」
「名前、付ける」
キャンディとガムが、ゼリアにしがみついて何やらせがんできた。どうやらこのダーティスライムに名前を付けて欲しいらしい。つまり、眷属化という事である。確かに、眷属化すれば念話の範囲は意図的に調整が利くようになる。今のこのダーティスライムの念話は極近距離に無差別に放たれている状態。これはこれで何かと問題があるのだ。
「よし、そうね」
ゼリアは意を決したように、キャンディの抱えるダーティスライムに近付く。
「あなたに名前を与えましょう。私の眷属になる事にはなるけど、あなたに不利益はまったく無いわ」
ゼリアが話し掛けると、ダーティスライムはまごまごとしていた。しばらくすると、一番大きくぷるっと震える。
「分かったの、眷属になるの」
どうやら了承したようである。
「アサシンスライム、ゼリアの名の下に、このダーティスライムに眷属の印を与えん。名はココア」
ゼリアが眷属契約の詠唱をすると、ダーティスライムの体が一瞬光る。これで眷属契約は終了したのである。
「今のが眷属の契約方法なのか。思ったより単純な方法なんだな」
「はい。私は魔族ではないので簡易の方法しか使えないのです。魔族になるともっと拘束力の強い契約方法もあるらしいですが」
アレスの感想に反応するゼリア。そして、ダーティスライム改め、ココアの方を見る。
「無理やり働かせるなんてのは、私にはやっぱり無理ですよ。一番きつい仕事は、やっぱり私がするべきだと思いますから」
ゼリアはキャンディたちを順番に撫でていた。これでもカレンを暗殺しようとしていたとはとても思えない姿である。
「ぷるっぷるっ、ありがとうなの。でも、ボクはここでずっと頑張っていくの」
「それでいいわよ。この街で何かあったら、念話でキャンディやガムに話を通せばいいから。そしたら、このリョブクさんにも伝わるわよ」
「分かったのー」
ココア本当に分かっているような言いっぷりである。スライムって実は頭がいいのだろうか。
「いい事をしたとは思うが、ゼリア」
「なんでしょうか、アレス様」
「お前はちょっと倒れ過ぎだな。王太子妃はつまり未来の王妃。もう少し強くなってもらわないと困るぞ」
「本当ですよ、ゼリア様。仕えるこちらの身にもなって下さい」
アレスとルチアから思いっきり責められるゼリア。
「わ、分かりましたわよ……」
ゼリアが不貞腐れると、その場には笑いが起きたのだった。
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