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第二部 王太子妃ゼリア
第54話 いっぱい食べる君
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カギョク滞在2日目もいい天気である。
「宿の方などから集めた情報で、回るとよいといい場所を並べてみました」
ルチアが朝食の時に出してきたリストを眺めるアレスとゼリア。この日はこれに沿って観光をする予定だったが、宿から出ようとする前にリョブクたちがやって来て、街の案内を買って出てきた。勝手が分からないアレスたちは、仕方なくそれを了承する。
そういう流れを受けて、今回の案内役はリョブクが務める事になった。すると、キャンディとガムが必然とおまけのようについて来た。後は元々の腰巾着が数名。ビボーナからの護衛も居るのでなかなかな人数である。予想以上の大所帯となってしまったので、街中を歩いていると目立って仕方なかった。
まずはカギョクの市場である。カギョクの周辺で手に入る作物などが並んでいる。陸の物だけではなく、海の物も並んでいる。
「あの辺りは今朝水揚げされた魚でございますな。鱗と内臓を取って、焼いて食べるのが一般的でございますぞ」
リョブクが、アレスとゼリアが興味を示したものを中心に説明をしている。ただ驚いたのは、リョブクの説明が思ったより短かったのだ。あれだけうんちくだけではなく余計な事まで垂れ流していた男が、説明を手短に済ませているのである。一体どういう事なのだろうか。
『ん、私たちで注意した』
『リョブク、説明長すぎる。眠くなる』
キャンディとガムが念話で教えてくれた。どうやら従業員が話が長すぎるリョブクに嘆願したようである。そのきっかけはキャンディとガムの二人だったようで、二人が歯に衣着せぬ物言いでリョブクに詰め寄っていたところに便乗したらしい。
なんでも、ビボーナの隊商からキャンディとガムを紹介されたリョブクは、二人をとても気に入ったという話だ。リョブクは意外にも跡取りが居ない状態だったので、養子にする方向で受け入れたのだとか。まぁ二人から聞けば聞くほど、予想外な話がたくさん出てくるので、ゼリアは表情を保つのが大変だったようである。
「どうした、ゼリア」
「な、なんでもございません。大丈夫ですから、リョブク殿の話を聞いていて下さい」
急にアレスが声を掛けてくるので、ゼリアはびっくりしていた。アサシンスライムとして、心情を読まれないようにしているはずなのに、アレスにはしっかり見抜かれてしまう。好きではあるが、どうにも苦手な相手なのだ。
(ゼリア様、結構顔に出ちゃう人なんですよね)
そのやり取りを見ながら、ルチアは心の中でボソッと呟いた。
そんな事はさておき、リョブクの説明を交えながら屋台街を進んでいく。屋台の人から挨拶をしきりにされるあたり、リョブクも人望だけはしっかりあるようだ。
実際、こういう商店を出すにあたってのリョブクの功績は大きい。このカギョクの街の港の形や商店の並び、街道の配置などはリョブクが考えたものである。商業における流動線をしっかりと見抜いた上で決めたらしい。さすがショークア王国一と言われるだけの事はある。だからこそ、カギョクの人たちからの人望は厚いのだ。
それにしても、気が付けばゼリアがいろいろと物を貰っては食べていた。ルチアが止めるのも聞かず、貰っては食べ貰っては食べを繰り返していた。
ゼリアが隣国ビボーナ王国の王太子妃だと分かった後からは、本当にひどくなった。多分、街の人からしたら売り込みをしている程度の認識なのだろう。人間たちの食べ物に疎いゼリアが嬉しそうにおいしく食べてくれるものだから、さらに餌付けが加速している。ルチアは呆れてしまい、止めるのを諦めた。ただ、
「ゼリア様、太っても知りませんからね」
とだけ囁いておいた。だが、当のゼリアは、
「私、太らないから」
と、全女性が羨んで敵に回るような事を言い放っていた。だが実際、ゼリアはその分運動するので太りにくいのだ。カレンの真似事をしていた影響だと思われる。だからといっても食べすぎな気がする。これではお昼が食べられないのではないのだろうか。そんな心配すらしてしまうほどである。
まぁそんなこんなで、リョブクの説明を聞きながら街を散策していった。
「午後には、我が国の誇る船というものにも乗って頂こうかと思っております」
「船とは?」
「私、分かります。あの港にある大きなやつですよね?」
アレスは分からないようだが、ゼリアは知っているのか大きな声で答えていた。
「その通りでございます。あれに乗って魚を取ったり、よその国との交流を行っているのございます」
リョブクはそう説明を続けた。アレスは興味が無さそうだが、ゼリアは目を輝かせている。妻にこういう表情をされてしまっては、アレスとしても乗らないわけにはいかなかった。
「分かった。その自慢の船とやらに乗せてもらおう」
「ははっ、そうこなくては。小型の船であれば湖や池などでも使えますからな。よろしければ造船の様子もお見せ致しましょう」
アレスが諦めたように言うと、リョブクはとても上機嫌となっていた。おそらく、使節団の件をやり返せたと思っているのだろう。こういうところはまだ小物感がある。
午後の予定も決まった事で、一行は近くの食堂で昼食を取る事になった。
それにしても、あれだけ食べていたゼリアはここでもかなり食べていて、全員を呆れさせる事態となったのだった。
「宿の方などから集めた情報で、回るとよいといい場所を並べてみました」
ルチアが朝食の時に出してきたリストを眺めるアレスとゼリア。この日はこれに沿って観光をする予定だったが、宿から出ようとする前にリョブクたちがやって来て、街の案内を買って出てきた。勝手が分からないアレスたちは、仕方なくそれを了承する。
そういう流れを受けて、今回の案内役はリョブクが務める事になった。すると、キャンディとガムが必然とおまけのようについて来た。後は元々の腰巾着が数名。ビボーナからの護衛も居るのでなかなかな人数である。予想以上の大所帯となってしまったので、街中を歩いていると目立って仕方なかった。
まずはカギョクの市場である。カギョクの周辺で手に入る作物などが並んでいる。陸の物だけではなく、海の物も並んでいる。
「あの辺りは今朝水揚げされた魚でございますな。鱗と内臓を取って、焼いて食べるのが一般的でございますぞ」
リョブクが、アレスとゼリアが興味を示したものを中心に説明をしている。ただ驚いたのは、リョブクの説明が思ったより短かったのだ。あれだけうんちくだけではなく余計な事まで垂れ流していた男が、説明を手短に済ませているのである。一体どういう事なのだろうか。
『ん、私たちで注意した』
『リョブク、説明長すぎる。眠くなる』
キャンディとガムが念話で教えてくれた。どうやら従業員が話が長すぎるリョブクに嘆願したようである。そのきっかけはキャンディとガムの二人だったようで、二人が歯に衣着せぬ物言いでリョブクに詰め寄っていたところに便乗したらしい。
なんでも、ビボーナの隊商からキャンディとガムを紹介されたリョブクは、二人をとても気に入ったという話だ。リョブクは意外にも跡取りが居ない状態だったので、養子にする方向で受け入れたのだとか。まぁ二人から聞けば聞くほど、予想外な話がたくさん出てくるので、ゼリアは表情を保つのが大変だったようである。
「どうした、ゼリア」
「な、なんでもございません。大丈夫ですから、リョブク殿の話を聞いていて下さい」
急にアレスが声を掛けてくるので、ゼリアはびっくりしていた。アサシンスライムとして、心情を読まれないようにしているはずなのに、アレスにはしっかり見抜かれてしまう。好きではあるが、どうにも苦手な相手なのだ。
(ゼリア様、結構顔に出ちゃう人なんですよね)
そのやり取りを見ながら、ルチアは心の中でボソッと呟いた。
そんな事はさておき、リョブクの説明を交えながら屋台街を進んでいく。屋台の人から挨拶をしきりにされるあたり、リョブクも人望だけはしっかりあるようだ。
実際、こういう商店を出すにあたってのリョブクの功績は大きい。このカギョクの街の港の形や商店の並び、街道の配置などはリョブクが考えたものである。商業における流動線をしっかりと見抜いた上で決めたらしい。さすがショークア王国一と言われるだけの事はある。だからこそ、カギョクの人たちからの人望は厚いのだ。
それにしても、気が付けばゼリアがいろいろと物を貰っては食べていた。ルチアが止めるのも聞かず、貰っては食べ貰っては食べを繰り返していた。
ゼリアが隣国ビボーナ王国の王太子妃だと分かった後からは、本当にひどくなった。多分、街の人からしたら売り込みをしている程度の認識なのだろう。人間たちの食べ物に疎いゼリアが嬉しそうにおいしく食べてくれるものだから、さらに餌付けが加速している。ルチアは呆れてしまい、止めるのを諦めた。ただ、
「ゼリア様、太っても知りませんからね」
とだけ囁いておいた。だが、当のゼリアは、
「私、太らないから」
と、全女性が羨んで敵に回るような事を言い放っていた。だが実際、ゼリアはその分運動するので太りにくいのだ。カレンの真似事をしていた影響だと思われる。だからといっても食べすぎな気がする。これではお昼が食べられないのではないのだろうか。そんな心配すらしてしまうほどである。
まぁそんなこんなで、リョブクの説明を聞きながら街を散策していった。
「午後には、我が国の誇る船というものにも乗って頂こうかと思っております」
「船とは?」
「私、分かります。あの港にある大きなやつですよね?」
アレスは分からないようだが、ゼリアは知っているのか大きな声で答えていた。
「その通りでございます。あれに乗って魚を取ったり、よその国との交流を行っているのございます」
リョブクはそう説明を続けた。アレスは興味が無さそうだが、ゼリアは目を輝かせている。妻にこういう表情をされてしまっては、アレスとしても乗らないわけにはいかなかった。
「分かった。その自慢の船とやらに乗せてもらおう」
「ははっ、そうこなくては。小型の船であれば湖や池などでも使えますからな。よろしければ造船の様子もお見せ致しましょう」
アレスが諦めたように言うと、リョブクはとても上機嫌となっていた。おそらく、使節団の件をやり返せたと思っているのだろう。こういうところはまだ小物感がある。
午後の予定も決まった事で、一行は近くの食堂で昼食を取る事になった。
それにしても、あれだけ食べていたゼリアはここでもかなり食べていて、全員を呆れさせる事態となったのだった。
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