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第一部 スライム姉妹、登場
番外編1 カレンの魔族領平定
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「どっせいっ!」
カレンの拳が敵を吹き飛ばす。
「がはっ!」
殴られて魔族は、壁まで吹き飛んで背中を強打していた。それを見たカレンは満足しているし、外套に擬態しているグミは恐怖で震えていた。
「さて、これで魔王様に逆らう魔族は大体殴り飛ばしたわね。さて、あなたも逆らうのはやめてもらおうかしら」
覇気をまとったまま、カレンは吹き飛ばした魔族へと近付いていく。一歩、また一歩と近付いていくその姿は、まるで死神のようである。
「くっ、来るな! お前、本当に人間なのか?!」
意識がはっきりしているようで、声を荒げてカレンに抵抗している。しかし、そんな威勢だけの声で止まるようなカレンではなかった。
「あらぁ? まだ逆らう気があるようですわね。元気なのは褒めて差し上げたいですわね」
笑顔が怖い。冷血に貼り付けたような笑顔は、より恐怖を煽っている。魔族が後ろもないのに後退るほどだ。カレンから感じられるものは恐怖しかなかった。
「ふふふ、先程の答えですけれど、私は人間ですわよ。ちょっとばかり、人より腕っぷしが強いだけのね!」
こう言って、カレンは右ストレートを魔族の顔に打ち込んでいた。魔族は全身を痙攣させると、気絶したようである。
「し、死んでないわよね?」
「生きてるわよ。手加減したし」
「て、手加減って……」
グミが言葉に詰まるのも無理はない。追い詰められた魔族の鼻が折れている。人間より体が丈夫と言われている魔族の骨を折るとか、どんな腕力をしているのか聞いてみたいものである。
というわけで、カレンは魔王から依頼された辺境魔族の制圧を完了させたのだった。全部左右の拳だけで決着をつけた。正直あり得ない話である。だって、魔法のある世界なのにだよ?!
ちなみにこの頃は、ちょうどゼリアが眷属に招集を掛けていた頃である。
カレンの脚力も異常で、迂回すべきところも直進で通り抜けるなど、予定よりも早く魔族領の調停に精力を出していた。
すべては惚れた魔王のためという、まぁ何とも不純な動機ではあるが、魔王にとってはありがたい事であった。魔王にとっての面倒事が一気に片が付くのだから、それは多少目はつぶるといったところである。
かなり広いはずの魔族領を、そう時間を掛けずに制圧してしまったカレン。すべてを殴り飛ばして機嫌のいいカレンとは対照的に、一緒に行動していたグミは疲労のあまりに現実逃避の真っただ中だった。
「それで、我のところに来たというわけか」
魔族領制圧から戻ってきたカレンを、実に不機嫌な顔で出迎える魔王である。
「ええ、そうよ。歯向かう魔族は全部殴り飛ばして、魔王様に従う事に首を縦に振らせてきたんですから! 褒めて、褒めて!」
目を輝かせて報告するカレン。しかし、魔王の顔は険しいままだ。信じられるわけがなかった。
「あのなぁ、この短い期間で全部の反抗勢力を平定するとか無理に決まっているであろうが!」
魔王は激怒しているが、グミがおそるおそる発言をする。
「ま、魔王様。これ、本当なんです。反抗勢力として名の上っていた魔族を、カレン様が全部その拳で黙らせてきました」
グミの証言に魔王は絶句した。全部の魔族を黙らせたとか、正直信じられない話ではあるが、同行していたグミがそう証言するのなら信じるしかない。ゼリアもグミも嘘がへたくそだし、特に魔王に対して嘘を吐く事はないからである。だが、念のために経緯を確認した魔王だったが、それを聞いてさらに言葉を失ったのは言うまでもない。
しばしの沈黙の後、魔王がカレンの顔を確認する。満面の笑みを浮かべて何かを期待している顔がそこにある。それに対して魔王は恐怖を覚えた。魔族の長として威厳ある立場にいる魔王が恐怖したのである。
その魔王を眺めていたカレンが、突然何かを思い出したようだった。
「あっ、そうだ」
「な、なんだ?」
急にカレンが声を上げたので、魔王が確認を入れる。
「そろそろお父様の誕生祭が行われるんです。そこで、何かプレゼントを用意したいと思いまして。いつもは魔物の肉を差し入れているんですけれど、いつもそれでは芸がないかなと思うんです」
にっこりと魔王を凝視するカレン。その視線に、魔王もグミも何を期待しているのかすぐに分かって戦慄した。
(こ、こいつ……)
ここまでの態度で、カレンが何を欲しているのか気付かない方が鈍いと言えよう。だが、芸がないとか言っているが、いつも拳で解決している人間が何を言っているんだというものだった。
正直、魔王はしばらく悩んだ。人間など相手にできるかと思う一方で、カレンの魔族じみた拳の強さは魅力なのである。
やがて観念した魔王は、部下に書面を用意させた。
「ほれ、これをくれてやるから、お前の父親を喜ばせてやれ」
魔王が用意したのは、婚約を認める書面だった。これだけの人間は敵対するよりは手近に置いて味方にしておいた方がいいと判断したからである。これだけの実績があれば、魔王とてワンパンで気絶させられてしまう可能性が高いのだ。書面を用意した部下も、カレンに対してもの凄く震え上がっていた。あの強さは分かる者には分かるのだろう。
こうして、ビボーナ王国の国王誕生祭でこの書簡は国王に手渡され、大いに腰を抜かせる結果となったのだった。
カレンの拳が敵を吹き飛ばす。
「がはっ!」
殴られて魔族は、壁まで吹き飛んで背中を強打していた。それを見たカレンは満足しているし、外套に擬態しているグミは恐怖で震えていた。
「さて、これで魔王様に逆らう魔族は大体殴り飛ばしたわね。さて、あなたも逆らうのはやめてもらおうかしら」
覇気をまとったまま、カレンは吹き飛ばした魔族へと近付いていく。一歩、また一歩と近付いていくその姿は、まるで死神のようである。
「くっ、来るな! お前、本当に人間なのか?!」
意識がはっきりしているようで、声を荒げてカレンに抵抗している。しかし、そんな威勢だけの声で止まるようなカレンではなかった。
「あらぁ? まだ逆らう気があるようですわね。元気なのは褒めて差し上げたいですわね」
笑顔が怖い。冷血に貼り付けたような笑顔は、より恐怖を煽っている。魔族が後ろもないのに後退るほどだ。カレンから感じられるものは恐怖しかなかった。
「ふふふ、先程の答えですけれど、私は人間ですわよ。ちょっとばかり、人より腕っぷしが強いだけのね!」
こう言って、カレンは右ストレートを魔族の顔に打ち込んでいた。魔族は全身を痙攣させると、気絶したようである。
「し、死んでないわよね?」
「生きてるわよ。手加減したし」
「て、手加減って……」
グミが言葉に詰まるのも無理はない。追い詰められた魔族の鼻が折れている。人間より体が丈夫と言われている魔族の骨を折るとか、どんな腕力をしているのか聞いてみたいものである。
というわけで、カレンは魔王から依頼された辺境魔族の制圧を完了させたのだった。全部左右の拳だけで決着をつけた。正直あり得ない話である。だって、魔法のある世界なのにだよ?!
ちなみにこの頃は、ちょうどゼリアが眷属に招集を掛けていた頃である。
カレンの脚力も異常で、迂回すべきところも直進で通り抜けるなど、予定よりも早く魔族領の調停に精力を出していた。
すべては惚れた魔王のためという、まぁ何とも不純な動機ではあるが、魔王にとってはありがたい事であった。魔王にとっての面倒事が一気に片が付くのだから、それは多少目はつぶるといったところである。
かなり広いはずの魔族領を、そう時間を掛けずに制圧してしまったカレン。すべてを殴り飛ばして機嫌のいいカレンとは対照的に、一緒に行動していたグミは疲労のあまりに現実逃避の真っただ中だった。
「それで、我のところに来たというわけか」
魔族領制圧から戻ってきたカレンを、実に不機嫌な顔で出迎える魔王である。
「ええ、そうよ。歯向かう魔族は全部殴り飛ばして、魔王様に従う事に首を縦に振らせてきたんですから! 褒めて、褒めて!」
目を輝かせて報告するカレン。しかし、魔王の顔は険しいままだ。信じられるわけがなかった。
「あのなぁ、この短い期間で全部の反抗勢力を平定するとか無理に決まっているであろうが!」
魔王は激怒しているが、グミがおそるおそる発言をする。
「ま、魔王様。これ、本当なんです。反抗勢力として名の上っていた魔族を、カレン様が全部その拳で黙らせてきました」
グミの証言に魔王は絶句した。全部の魔族を黙らせたとか、正直信じられない話ではあるが、同行していたグミがそう証言するのなら信じるしかない。ゼリアもグミも嘘がへたくそだし、特に魔王に対して嘘を吐く事はないからである。だが、念のために経緯を確認した魔王だったが、それを聞いてさらに言葉を失ったのは言うまでもない。
しばしの沈黙の後、魔王がカレンの顔を確認する。満面の笑みを浮かべて何かを期待している顔がそこにある。それに対して魔王は恐怖を覚えた。魔族の長として威厳ある立場にいる魔王が恐怖したのである。
その魔王を眺めていたカレンが、突然何かを思い出したようだった。
「あっ、そうだ」
「な、なんだ?」
急にカレンが声を上げたので、魔王が確認を入れる。
「そろそろお父様の誕生祭が行われるんです。そこで、何かプレゼントを用意したいと思いまして。いつもは魔物の肉を差し入れているんですけれど、いつもそれでは芸がないかなと思うんです」
にっこりと魔王を凝視するカレン。その視線に、魔王もグミも何を期待しているのかすぐに分かって戦慄した。
(こ、こいつ……)
ここまでの態度で、カレンが何を欲しているのか気付かない方が鈍いと言えよう。だが、芸がないとか言っているが、いつも拳で解決している人間が何を言っているんだというものだった。
正直、魔王はしばらく悩んだ。人間など相手にできるかと思う一方で、カレンの魔族じみた拳の強さは魅力なのである。
やがて観念した魔王は、部下に書面を用意させた。
「ほれ、これをくれてやるから、お前の父親を喜ばせてやれ」
魔王が用意したのは、婚約を認める書面だった。これだけの人間は敵対するよりは手近に置いて味方にしておいた方がいいと判断したからである。これだけの実績があれば、魔王とてワンパンで気絶させられてしまう可能性が高いのだ。書面を用意した部下も、カレンに対してもの凄く震え上がっていた。あの強さは分かる者には分かるのだろう。
こうして、ビボーナ王国の国王誕生祭でこの書簡は国王に手渡され、大いに腰を抜かせる結果となったのだった。
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