スライム姉妹の受難

未羊

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第一部 スライム姉妹、登場

第45話 これでいいのかな?

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 アレスが変な事を言うので、会場が更なる混乱に叩き落とされる。
「ほぉ、それはよいな!」
「ええ、ゼリアさんなら任せられますわ」
 国王と王妃まで乗ってくる。
「ちょっと待ちなさいよ。お姉ちゃんは渡さないわよ!」
 カレンにまとわりつく服が、姿を変えていく。そこに現れたのはメイド服に身を包んだグミだった。
「ちょっと、グミ。人前で変身するなんて何を!」
 とここでアレスによって口を押さえられるゼリア。混乱していて何を口走っているのか分からないので黙らせたようだ。
「何をされるんですか、アレス様」
「まったく、面倒な事をしてくれたな」
「最初に面倒な事を起こしたのは、アレス様でしょうが!」
 ゼリアが怒っているのに、アレスの顔はどこ吹く風というくらいに気にしていなかった。
「あははは、まったく考えなしに動いちゃって」
「それはあんたの事よ!」
 カレンが大声で笑うので、グミが即ツッコミを入れる。考えるより喋るより先に体が動くカレンに言われたくないのはよく分かる。
 はてさて、それはいいとしても、この場をどう収めるのかそれが問題だった。
 それでここで動いたのはゼリアだった。ゼリアは国王たちの前まで移動すると、驚くべき行動に出る。
 ぐにゃりと歪んだ侍女姿のゼリアは、赤色のスライムへと変貌する。その姿に、貴族たちの中から悲鳴が響いた。しかし、これで驚くのはまだ早い。ゼリアは続けてカレンの姿へと変わる。着ている服は昨日城を出て行った時に着ていたものだ。これには貴族たちは驚いて黙り込んでしまった。
「本当に申し訳ございません。このようなお祝いの席で混乱させるような事をしてしまいまして」
 ゼリアはカレンの姿で頭を下げる。そして、ゼリア本来の姿へと再び変貌する。
「私はアサシンスライムのゼリアと申します。今回の事の経緯は私からこの場ですべて話させて頂きます」
 くるりと振り向いて、国王と王妃に頭を下げるゼリア。それに対して、国王たちは無言で頷いた。
 ゼリアはここまでの経緯をすべて話した。
 魔王からの命を受けてカレンを暗殺しに来た事。それでいてあっさり返り討ちに遭って、ゼリアはカレンの身代わり、グミはカレンの従者として付き合わされていた事。カレンは魔王を一発殴りに行こうとしてひと目惚れをした事。とにかく、これまでにあったすべての事をパーティー会場の全員にぶちまけたのである。会場に居る誰もが、驚きの事実に身動き一つ取れなかった。
「で、お前からの返事はどうなんだ、ゼリア」
 そんな中で、空気を読まない男が一人。言わずと知れたアレス王子である。
「な、な、なんで、今返事をしなきゃいけないんですか!!」
 ゼリアは顔を真っ赤にして叫ぶ。
「なぜって、私がお前を妻にすると公衆の面前で言ったんだ。だったらお前もこの場で返事をするのが当たり前だろう?」
「どうしてそうなるんですか! わ、私はもっと雰囲気とかそういうのを大事にしたいんですけど?!」
 まったく動じないアレスに、完全に慌てているゼリア。まったくの対照的な二人である。
「そうか。その返事だと、私の申し出は受けるという事でいいのだな?」
「あ、あ、あのですね。それは、その……、いいに決まってるじゃないですかっ!」
 まったくデリカシーの欠片もないアレスの押しに、ゼリアはつい叫んでしまった。その発言に気が付いて口を押さえたのも、時すでに遅しである。
「お姉ちゃん……、そうだったんだ」
「あ、いや、これはね?」
「お姉ちゃん、アレス王子の事になると饒舌だったから、まさかとは思ってたけど……。これはお祝いするしかないわね」
「ぐ、グミ?」
 どうやら念話の中でグミには悟られていたらしい。
「はっはっは、これはめでたいな」
「いや、国王陛下? 私魔物ですよ、スライムですよ?」
「なに、お互い好いておるのなら問題なかろう。すぐにでも婚姻の日取りを決めんとな」
 国王陛下もノリが軽い。呆然としていた貴族たちも、アレス王子の婚姻と聞いて祝福し始めた。ゼリアは一人騒いでいたが、アレスの結婚話のせいでカレンの婚姻話もすっかり吹き飛んでしまっていた。
 というわけで、国王の誕生祭だったはずが、あれよあれよという間に別な祭典へと切り替わっていった。
 この後は、とんとん拍子に話が進んでいく。そんな中、国に戻ってきたばかりのカレンは湯あみへと直行となった。全身泥だらけでは仕方のない話だ。
 こうして、せっかく国中の貴族が集まっているうちに済ませてしまおうと、突貫工事で話が進められていく。こうして、アレスとゼリアの結婚式は3日後に開催される運びとなった。ウェディングドレスを3日で作り上げるのはさすがに厳しいので、グミがデザインを参考に化ける事になった。擬態はお手の物ゆえの判断である。
 こうして迎えた3日後、アレスとゼリアの結婚式が行われた。それにしても王城の一画にある神聖な場所に、まさか魔物が入り込む事など誰が想像しただろうか。しかも、新婦として。
 カチコチに固まったゼリアだったが、アレスに手を引かれると、顔を真っ赤にしながらも素直に式場の通路を歩いていった。ここまで純情な乙女の顔をされては、誰がこの女性を魔物だと思うだろうか。3日前に魔物だと明かされた時にショックを受けていた貴族たちも、泣いて二人を祝福していた。
 結婚式も無事に進み、最後に二人は互いの唇を重ねる。よく思えば、二人してファーストキスである。花嫁衣装に扮しているグミも恥ずかしかったようで、衣装の一部がピンクがかっていた。
 こうして無事に、アレスとゼリアの結婚式が終わったのだった。
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