45 / 77
第一部 スライム姉妹、登場
第45話 これでいいのかな?
しおりを挟む
アレスが変な事を言うので、会場が更なる混乱に叩き落とされる。
「ほぉ、それはよいな!」
「ええ、ゼリアさんなら任せられますわ」
国王と王妃まで乗ってくる。
「ちょっと待ちなさいよ。お姉ちゃんは渡さないわよ!」
カレンにまとわりつく服が、姿を変えていく。そこに現れたのはメイド服に身を包んだグミだった。
「ちょっと、グミ。人前で変身するなんて何を!」
とここでアレスによって口を押さえられるゼリア。混乱していて何を口走っているのか分からないので黙らせたようだ。
「何をされるんですか、アレス様」
「まったく、面倒な事をしてくれたな」
「最初に面倒な事を起こしたのは、アレス様でしょうが!」
ゼリアが怒っているのに、アレスの顔はどこ吹く風というくらいに気にしていなかった。
「あははは、まったく考えなしに動いちゃって」
「それはあんたの事よ!」
カレンが大声で笑うので、グミが即ツッコミを入れる。考えるより喋るより先に体が動くカレンに言われたくないのはよく分かる。
はてさて、それはいいとしても、この場をどう収めるのかそれが問題だった。
それでここで動いたのはゼリアだった。ゼリアは国王たちの前まで移動すると、驚くべき行動に出る。
ぐにゃりと歪んだ侍女姿のゼリアは、赤色のスライムへと変貌する。その姿に、貴族たちの中から悲鳴が響いた。しかし、これで驚くのはまだ早い。ゼリアは続けてカレンの姿へと変わる。着ている服は昨日城を出て行った時に着ていたものだ。これには貴族たちは驚いて黙り込んでしまった。
「本当に申し訳ございません。このようなお祝いの席で混乱させるような事をしてしまいまして」
ゼリアはカレンの姿で頭を下げる。そして、ゼリア本来の姿へと再び変貌する。
「私はアサシンスライムのゼリアと申します。今回の事の経緯は私からこの場ですべて話させて頂きます」
くるりと振り向いて、国王と王妃に頭を下げるゼリア。それに対して、国王たちは無言で頷いた。
ゼリアはここまでの経緯をすべて話した。
魔王からの命を受けてカレンを暗殺しに来た事。それでいてあっさり返り討ちに遭って、ゼリアはカレンの身代わり、グミはカレンの従者として付き合わされていた事。カレンは魔王を一発殴りに行こうとしてひと目惚れをした事。とにかく、これまでにあったすべての事をパーティー会場の全員にぶちまけたのである。会場に居る誰もが、驚きの事実に身動き一つ取れなかった。
「で、お前からの返事はどうなんだ、ゼリア」
そんな中で、空気を読まない男が一人。言わずと知れたアレス王子である。
「な、な、なんで、今返事をしなきゃいけないんですか!!」
ゼリアは顔を真っ赤にして叫ぶ。
「なぜって、私がお前を妻にすると公衆の面前で言ったんだ。だったらお前もこの場で返事をするのが当たり前だろう?」
「どうしてそうなるんですか! わ、私はもっと雰囲気とかそういうのを大事にしたいんですけど?!」
まったく動じないアレスに、完全に慌てているゼリア。まったくの対照的な二人である。
「そうか。その返事だと、私の申し出は受けるという事でいいのだな?」
「あ、あ、あのですね。それは、その……、いいに決まってるじゃないですかっ!」
まったくデリカシーの欠片もないアレスの押しに、ゼリアはつい叫んでしまった。その発言に気が付いて口を押さえたのも、時すでに遅しである。
「お姉ちゃん……、そうだったんだ」
「あ、いや、これはね?」
「お姉ちゃん、アレス王子の事になると饒舌だったから、まさかとは思ってたけど……。これはお祝いするしかないわね」
「ぐ、グミ?」
どうやら念話の中でグミには悟られていたらしい。
「はっはっは、これはめでたいな」
「いや、国王陛下? 私魔物ですよ、スライムですよ?」
「なに、お互い好いておるのなら問題なかろう。すぐにでも婚姻の日取りを決めんとな」
国王陛下もノリが軽い。呆然としていた貴族たちも、アレス王子の婚姻と聞いて祝福し始めた。ゼリアは一人騒いでいたが、アレスの結婚話のせいでカレンの婚姻話もすっかり吹き飛んでしまっていた。
というわけで、国王の誕生祭だったはずが、あれよあれよという間に別な祭典へと切り替わっていった。
この後は、とんとん拍子に話が進んでいく。そんな中、国に戻ってきたばかりのカレンは湯あみへと直行となった。全身泥だらけでは仕方のない話だ。
こうして、せっかく国中の貴族が集まっているうちに済ませてしまおうと、突貫工事で話が進められていく。こうして、アレスとゼリアの結婚式は3日後に開催される運びとなった。ウェディングドレスを3日で作り上げるのはさすがに厳しいので、グミがデザインを参考に化ける事になった。擬態はお手の物ゆえの判断である。
こうして迎えた3日後、アレスとゼリアの結婚式が行われた。それにしても王城の一画にある神聖な場所に、まさか魔物が入り込む事など誰が想像しただろうか。しかも、新婦として。
カチコチに固まったゼリアだったが、アレスに手を引かれると、顔を真っ赤にしながらも素直に式場の通路を歩いていった。ここまで純情な乙女の顔をされては、誰がこの女性を魔物だと思うだろうか。3日前に魔物だと明かされた時にショックを受けていた貴族たちも、泣いて二人を祝福していた。
結婚式も無事に進み、最後に二人は互いの唇を重ねる。よく思えば、二人してファーストキスである。花嫁衣装に扮しているグミも恥ずかしかったようで、衣装の一部がピンクがかっていた。
こうして無事に、アレスとゼリアの結婚式が終わったのだった。
「ほぉ、それはよいな!」
「ええ、ゼリアさんなら任せられますわ」
国王と王妃まで乗ってくる。
「ちょっと待ちなさいよ。お姉ちゃんは渡さないわよ!」
カレンにまとわりつく服が、姿を変えていく。そこに現れたのはメイド服に身を包んだグミだった。
「ちょっと、グミ。人前で変身するなんて何を!」
とここでアレスによって口を押さえられるゼリア。混乱していて何を口走っているのか分からないので黙らせたようだ。
「何をされるんですか、アレス様」
「まったく、面倒な事をしてくれたな」
「最初に面倒な事を起こしたのは、アレス様でしょうが!」
ゼリアが怒っているのに、アレスの顔はどこ吹く風というくらいに気にしていなかった。
「あははは、まったく考えなしに動いちゃって」
「それはあんたの事よ!」
カレンが大声で笑うので、グミが即ツッコミを入れる。考えるより喋るより先に体が動くカレンに言われたくないのはよく分かる。
はてさて、それはいいとしても、この場をどう収めるのかそれが問題だった。
それでここで動いたのはゼリアだった。ゼリアは国王たちの前まで移動すると、驚くべき行動に出る。
ぐにゃりと歪んだ侍女姿のゼリアは、赤色のスライムへと変貌する。その姿に、貴族たちの中から悲鳴が響いた。しかし、これで驚くのはまだ早い。ゼリアは続けてカレンの姿へと変わる。着ている服は昨日城を出て行った時に着ていたものだ。これには貴族たちは驚いて黙り込んでしまった。
「本当に申し訳ございません。このようなお祝いの席で混乱させるような事をしてしまいまして」
ゼリアはカレンの姿で頭を下げる。そして、ゼリア本来の姿へと再び変貌する。
「私はアサシンスライムのゼリアと申します。今回の事の経緯は私からこの場ですべて話させて頂きます」
くるりと振り向いて、国王と王妃に頭を下げるゼリア。それに対して、国王たちは無言で頷いた。
ゼリアはここまでの経緯をすべて話した。
魔王からの命を受けてカレンを暗殺しに来た事。それでいてあっさり返り討ちに遭って、ゼリアはカレンの身代わり、グミはカレンの従者として付き合わされていた事。カレンは魔王を一発殴りに行こうとしてひと目惚れをした事。とにかく、これまでにあったすべての事をパーティー会場の全員にぶちまけたのである。会場に居る誰もが、驚きの事実に身動き一つ取れなかった。
「で、お前からの返事はどうなんだ、ゼリア」
そんな中で、空気を読まない男が一人。言わずと知れたアレス王子である。
「な、な、なんで、今返事をしなきゃいけないんですか!!」
ゼリアは顔を真っ赤にして叫ぶ。
「なぜって、私がお前を妻にすると公衆の面前で言ったんだ。だったらお前もこの場で返事をするのが当たり前だろう?」
「どうしてそうなるんですか! わ、私はもっと雰囲気とかそういうのを大事にしたいんですけど?!」
まったく動じないアレスに、完全に慌てているゼリア。まったくの対照的な二人である。
「そうか。その返事だと、私の申し出は受けるという事でいいのだな?」
「あ、あ、あのですね。それは、その……、いいに決まってるじゃないですかっ!」
まったくデリカシーの欠片もないアレスの押しに、ゼリアはつい叫んでしまった。その発言に気が付いて口を押さえたのも、時すでに遅しである。
「お姉ちゃん……、そうだったんだ」
「あ、いや、これはね?」
「お姉ちゃん、アレス王子の事になると饒舌だったから、まさかとは思ってたけど……。これはお祝いするしかないわね」
「ぐ、グミ?」
どうやら念話の中でグミには悟られていたらしい。
「はっはっは、これはめでたいな」
「いや、国王陛下? 私魔物ですよ、スライムですよ?」
「なに、お互い好いておるのなら問題なかろう。すぐにでも婚姻の日取りを決めんとな」
国王陛下もノリが軽い。呆然としていた貴族たちも、アレス王子の婚姻と聞いて祝福し始めた。ゼリアは一人騒いでいたが、アレスの結婚話のせいでカレンの婚姻話もすっかり吹き飛んでしまっていた。
というわけで、国王の誕生祭だったはずが、あれよあれよという間に別な祭典へと切り替わっていった。
この後は、とんとん拍子に話が進んでいく。そんな中、国に戻ってきたばかりのカレンは湯あみへと直行となった。全身泥だらけでは仕方のない話だ。
こうして、せっかく国中の貴族が集まっているうちに済ませてしまおうと、突貫工事で話が進められていく。こうして、アレスとゼリアの結婚式は3日後に開催される運びとなった。ウェディングドレスを3日で作り上げるのはさすがに厳しいので、グミがデザインを参考に化ける事になった。擬態はお手の物ゆえの判断である。
こうして迎えた3日後、アレスとゼリアの結婚式が行われた。それにしても王城の一画にある神聖な場所に、まさか魔物が入り込む事など誰が想像しただろうか。しかも、新婦として。
カチコチに固まったゼリアだったが、アレスに手を引かれると、顔を真っ赤にしながらも素直に式場の通路を歩いていった。ここまで純情な乙女の顔をされては、誰がこの女性を魔物だと思うだろうか。3日前に魔物だと明かされた時にショックを受けていた貴族たちも、泣いて二人を祝福していた。
結婚式も無事に進み、最後に二人は互いの唇を重ねる。よく思えば、二人してファーストキスである。花嫁衣装に扮しているグミも恥ずかしかったようで、衣装の一部がピンクがかっていた。
こうして無事に、アレスとゼリアの結婚式が終わったのだった。
1
お気に入りに追加
26
あなたにおすすめの小説
東方並行時空 〜Parallel Girls
獣野狐夜
ファンタジー
アナタは、“ドッペルゲンガー”を知っていますか?
この世には、自分と全く同じ容姿の人間“ドッペルゲンガー”というものが存在するそう…。
そんな、自分と全く同じ容姿をしている人間に会ってみたい…そう思ってしまった少女達が、幻想入りする話。
〈当作品は、上海アリス幻樂団様の東方Projectシリーズ作品をモチーフとした二次創作作品です。〉
【書籍化進行中、完結】私だけが知らない
綾雅(要らない悪役令嬢1/7発売)
ファンタジー
書籍化進行中です。詳細はしばらくお待ちください(o´-ω-)o)ペコッ
目が覚めたら何も覚えていなかった。父と兄を名乗る二人は泣きながら謝る。痩せ細った体、痣が残る肌、誰もが過保護に私を気遣う。けれど、誰もが何が起きたのかを語らなかった。
優しい家族、ぬるま湯のような生活、穏やかに過ぎていく日常……その陰で、人々は己の犯した罪を隠しつつ微笑む。私を守るため、そう言いながら真実から遠ざけた。
やがて、すべてを知った私は――ひとつの決断をする。
記憶喪失から始まる物語。冤罪で殺されかけた私は蘇り、陥れようとした者は断罪される。優しい嘘に隠された真実が徐々に明らかになっていく。
【同時掲載】 小説家になろう、アルファポリス、カクヨム、エブリスタ
2024/12/26……書籍化確定、公表
2023/12/20……小説家になろう 日間、ファンタジー 27位
2023/12/19……番外編完結
2023/12/11……本編完結(番外編、12/12)
2023/08/27……エブリスタ ファンタジートレンド 1位
2023/08/26……カテゴリー変更「恋愛」⇒「ファンタジー」
2023/08/25……アルファポリス HOT女性向け 13位
2023/08/22……小説家になろう 異世界恋愛、日間 22位
2023/08/21……カクヨム 恋愛週間 17位
2023/08/16……カクヨム 恋愛日間 12位
2023/08/14……連載開始
どうやら夫に疎まれているようなので、私はいなくなることにします
文野多咲
恋愛
秘めやかな空気が、寝台を囲う帳の内側に立ち込めていた。
夫であるゲルハルトがエレーヌを見下ろしている。
エレーヌの髪は乱れ、目はうるみ、体の奥は甘い熱で満ちている。エレーヌもまた、想いを込めて夫を見つめた。
「ゲルハルトさま、愛しています」
ゲルハルトはエレーヌをさも大切そうに撫でる。その手つきとは裏腹に、ぞっとするようなことを囁いてきた。
「エレーヌ、俺はあなたが憎い」
エレーヌは凍り付いた。
【完結】もう…我慢しなくても良いですよね?
アノマロカリス
ファンタジー
マーテルリア・フローレンス公爵令嬢は、幼い頃から自国の第一王子との婚約が決まっていて幼少の頃から厳しい教育を施されていた。
泣き言は許されず、笑みを浮かべる事も許されず、お茶会にすら参加させて貰えずに常に完璧な淑女を求められて教育をされて来た。
16歳の成人の義を過ぎてから王子との婚約発表の場で、事あろうことか王子は聖女に選ばれたという男爵令嬢を連れて来て私との婚約を破棄して、男爵令嬢と婚約する事を選んだ。
マーテルリアの幼少からの血の滲むような努力は、一瞬で崩壊してしまった。
あぁ、今迄の苦労は一体なんの為に…
もう…我慢しなくても良いですよね?
この物語は、「虐げられる生活を曽祖母の秘術でざまぁして差し上げますわ!」の続編です。
前作の登場人物達も多数登場する予定です。
マーテルリアのイラストを変更致しました。
悪役令嬢になるのも面倒なので、冒険にでかけます
綾月百花
ファンタジー
リリーには幼い頃に決められた王子の婚約者がいたが、その婚約者の誕生日パーティーで婚約者はミーネと入場し挨拶して歩きファーストダンスまで踊る始末。国王と王妃に謝られ、贈り物も準備されていると宥められるが、その贈り物のドレスまでミーネが着ていた。リリーは怒ってワインボトルを持ち、美しいドレスをワイン色に染め上げるが、ミーネもリリーのドレスの裾を踏みつけ、ワインボトルからボトボトと頭から濡らされた。相手は子爵令嬢、リリーは伯爵令嬢、位の違いに国王も黙ってはいられない。婚約者はそれでも、リリーの肩を持たず、リリーは国王に婚約破棄をして欲しいと直訴する。それ受け入れられ、リリーは清々した。婚約破棄が完全に決まった後、リリーは深夜に家を飛び出し笛を吹く。会いたかったビエントに会えた。過ごすうちもっと好きになる。必死で練習した飛行魔法とささやかな攻撃魔法を身につけ、リリーは今度は自分からビエントに会いに行こうと家出をして旅を始めた。旅の途中の魔物の森で魔物に襲われ、リリーは自分の未熟さに気付き、国営の騎士団に入り、魔物狩りを始めた。最終目的はダンジョンの攻略。悪役令嬢と魔物退治、ダンジョン攻略等を混ぜてみました。メインはリリーが王妃になるまでのシンデレラストーリーです。
私を裏切った相手とは関わるつもりはありません
みちこ
ファンタジー
幼なじみに嵌められて処刑された主人公、気が付いたら8年前に戻っていた。
未来を変えるために行動をする
1度裏切った相手とは関わらないように過ごす
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる