スライム姉妹の受難

未羊

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第一部 スライム姉妹、登場

第43話 パーティー前日

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 ゼリアはアレスに連れられて、国王と王妃のところに向かった。よく思えば、ゼリアの人間形態では初めて会う事になる。少し不安がよぎった。
「父上、母上。緊急事態です」
「どうしたアレス」
 この日はたまたま二人が一緒に居る事を知っていたアレスは、ノックもせずに部屋の扉を開いた。なぜ二人が一緒かというと、明日の誕生祭の衣装の打ち合わせをしていたのである。自分たちの着る服をどれにするか、目の前に並ぶ中から夫婦仲良く決めている最中だったのである。
 驚いた国王夫妻だったが、アレスの後ろに居た女性に気が付いた。その雰囲気に何かを国王は察する。
「すまんが、お前たちは少し席を外せ」
「え? はいっ」
 急な退室命令に戸惑った使用人たちだったが、それに従って部屋を出て行った。
 扉が閉められ、部屋の中には王族とゼリアだけが残る形となった。
「ゼリアか、どうしたというのだ」
「!」
 国王がすぐに見抜いた。
「雰囲気で分かりますわよ。その分では、グミさんから何か報告がありましたね?」
 王妃まで鋭すぎる。どうしてこんな聡明な両親から脳筋が生まれたのか不思議でならない。
 ここまで察せられていたら、ゼリアは何も隠しはしなかった。グミからの念話を国王と王妃に伝える事にした。サプライズのつもりだろうから、魔物の名前は一応伏せておいた。
 その念話の内容を聞いた国王と王妃は、アレスと同じような反応をしてくれた。まぁそうなりますよねという反応である。本当に、あのお姫様は何をしてくれているのだろうか。
「明日の日中には戻られるようですので、近くまで来るとグミから念話を入れるように言い聞かせてあります。アレス様にお迎えに行って頂こうかと考えております」
 ゼリアはカレンが戻って来る時の流れを説明する。しかし、
「いや、下手に出迎えるのはやめた方がいい。行動が筒抜けになっていると思って暴れるだろうからな。私たちが迎えに行くなら、兵からの報告を受けてからの方がいいだろう」
 国王はすかさずゼリアの考える出迎え作戦を否定した。確かに、出迎えたとなると行動が不自然に感じられてしまう。ゼリアは自分の作戦を断念する事にした。
「で、ゼリアよ」
「はい、何でしょうか、陛下」
「明日は私たちの居る会場で給仕をしてくれ。上級貴族もそろう場だが、お前さんなら問題なく対応できるだろう。マシュロも王妃付きの侍女として参加するし、お前さんも同じ場所に居るなら落ち着くというものだろう」
 どうやら、国王はゼリアを自分の目の届く位置で働かせるようだ。カレンが戻って来るとか言わなければ、国王たちと一緒に壇上で座っていただろうから配置的にはそう変わらないというわけだ。
「畏まりました。謹んでお受けいたします」
 ゼリアはカーテシーをする。ここしばらくの王女生活が完全に染みついているのだ。それにしても、ゼリアのカーテシーはなかなかに美しかった。
「うむ。そういうわけだから、明日は使用人の一人という立場だが、パーティーを楽しんでくれたまえ」
「はい、畏まりました」
 こうして国王たちとの打ち合わせを終えたゼリアは、アレスと一緒に部屋を後にした。ちなみに国王たちは、中断した衣装合わせを再開していた。どんな服で臨むのだろうか。ゼリアはちょっと気になった。
 結局この後は、ゼリアはルチアと一緒に過ごしていた。カレンが一人で魔物を仕留めに行ったために、ルチアの手が空いてしまっていたのである。カレンがあんな王女だからと言っても、ルチアは普通の侍女なのだから仕方がない。
「ふぅん、それじゃゼリアは明日は会場での給仕役ってわけね」
 ルチアの口調が砕けていた。相手の立場によって口調を使い分けるとは驚きだった。
「まぁね。相手が多いから、給仕は一人でも多い方がいいじゃないの」
「確かにそうね。でも、私はカレン様が戻られるまで待機よ。王女付きとはいえ、何もしないでいるっていうのは苦痛だわ」
「うんまぁ、それは仕方ないんじゃないかな?」
 ルチアから出てくる言葉はやっかみと愚痴だった。意外と不満が溜まっているのだろうか。
「でも、他の使用人たちが忙しく動いてるのに、私たち、こんなにのんびりしてていいのかな」
「仕方ないわよ。陛下の命令で待機させられてるんだから。普通なら侍女長とかからあれこれ指示が出ているところよ」
 ルチアも退屈そうでさっきからため息が出ている。しかし、王命による待機なので変に動くわけにもいかなかった。そして、あまりの退屈さにあくびが出てしまうほどだった。
「驚いた、スライムでもあくびって出るのね」
「擬態を極めた弊害かしらね。人間形態だと普通に出ちゃうのよ」
「そういうものなのね」
 少し沈黙が流れたが、お互い大笑いしだすゼリアとルチア。
「本当におかしいわね。魔物なのに」
「私もそう思うわ」
「さて、他の人には悪いけれど、明日に備えて寝ちゃいましょう。カレン様がどんなサプライズを持ってくるのか、それだけが心配だから」
「うん、そうね。私は内容は知っているけれど、あえて黙っているからね」
「あら、なかなかに意地悪な事するわね」
「本人がサプライズのつもりなんだから、意図くらい汲まなきゃ……ね?」
 ルチアが「そっか」と納得したところで、二人は眠りにつくために布団に入った。普段はルチア一人だけだが、ゼリアも居るのでベッドが狭い。
「邪魔ならスライムに戻るけど?」
「いや、このままでいいかな」
「分かった」
 二人はぴったりくっついたまま、翌日のためにしっかりと眠るのだった。
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