スライム姉妹の受難

未羊

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第一部 スライム姉妹、登場

第40話 同じ轍を踏むな

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 国王の誕生祭を前に、ショークア王国へ出ていた隊商が戻ってきた。ビボーナ王国の茶器や衣類などを売り、小麦や芋などの保存の効く食糧や植物の種などを大量に仕入れてきた。隊商は国王の誕生祭の事も失念しておらず、それに向けた食料品もちゃんと仕入れてきていた。これで当日の料理はなんとかなりそうである。
 厨房にはゼリアが仕留めてきた魔物を解体した肉も置いてあり、どういう料理を作るのか料理人たちが頭を悩ませていた。
 誕生祭に際して、自国の貴族たちが続々と城にやって来ている。これだけの貴族が揃う事はこういう時くらいしかない。あまりの人数にゼリアはちょっと緊張してきているようだ。
「いや、いくらなんでも多すぎない?」
「いえ、いつもこのくらいでございますよ」
 窓から外を見るゼリアがびびっているが、ルチアはしれっと恐ろしい事実を言ってくれた。数百人は居るように見えるのに、これが当たり前らしい。
「ビボーナ王国には爵位が50家ほどございます。その血縁まで含めれば2~300人は居てもまったくおかしくないのでございます。それに付き人となる使用人もついて来ますからね」
 なんとまぁ、それなりに大所帯の国だったのだ。
「そっかぁ、使用人は失念していたわね」
 ゼリアは窓枠にへなへなと突っ伏した。
「観念して下さいませ。カレン様のフリをされるんですから、これくらいの事は覚悟して頂きませんとね」
「うん、そうね。一国の姫様なんだから腹を括らなきゃね……」
 ゼリアは城の外に連なる行列に、また一つ大きなため息を吐いた。

 さて、この時のアレスは精力的に動いていた。将来の国王なので、これくらいの事態に動揺なんてしていられない。自身には各貴族が取り入ろうと近付いてくる。それを適切にあしらっていかなければならないのである。なにせ娘の居る貴族は、将来の王妃にと自分の娘を売り込んでくるのだ。取り乱している暇などなかった。きちんと対応できねば、言葉尻を取っていいように転がそうとする輩まで出てくる。油断はできなかった。
 だからこそ、アレスは厳しく言って適当にあしらった。今のアレスにはまだ結婚するつもりがないのである。というか、貴族の令嬢たちに興味が抱けないようなのである。将来的に国を継ぐとなれば王妃の存在は欠かせないというのに、このアレスの態度には、臣下たちも首を捻った。
「お疲れ様でございます、殿下」
「ああ、爺か。……後の予定は?」
 人の流れが切れたところで、アレスの侍従がやって来た。そこでアレスは確認を取る。
「はっ、今の方で面会は最後でございます。今日のところはもう予定がございません。面会だけで精一杯になる事は予想できましたので」
「そうか」
 今日の予定がもうない事を確認して、アレスはひと息つく。
 正直、アレスはうんざりしていた。どいつもこいつも張り付けたような気持ち悪い顔をしてへつらってくるのだから仕方がない。会いに来た貴族は、誰もが娘の居る貴族ばかりだった。中にはまだ幼子を連れた者まで居た。明らかに王妃の座を狙った奴らだというのが嫌でも分かる。そのせいでアレスは、伴侶が必要な事は分かっていても、それを拒絶したくなるのであった。
「ふむ……。ならば、父上の事でカレンとも相談してみるか。あいつは父上に何か贈るつもりでいるらしいからな。兄として相談に乗るのもいいだろう」
「左様でございますね。カレン様は誕生会で貴族の前に出る事を嫌っておりますし、何かと退屈でございましょうから」
 アレスの発言を、爺は肯定してきた。長く王家を見てきた爺だから、何かを感じ取っていたのかも知れない。
「よし、少しカレンのところへ行ってくる。もし貴族が来ても休んでいるとでも言って追い返せ」
「承知致しました」
 こう言って、アレスはカレンの部屋へと出向いた。

「おい、カレン、居るか?」
 部屋の扉をノックしたアレスは、中へと問い掛ける。
「お、お兄様?! 何か御用ですか?」
「ああ、父上への贈り物で、相談にでも乗ろうと思ってな」
 アレスが用件を話すと、少し間が開く。
「そうですね。どうぞお入り下さい」
 カレンが返事をすると、ルチアが扉を開いてアレスを迎え入れた。
「どうだ、ゼリア。父上への贈り物は決まったのか?」
「いえ、その。すでに魔物を倒して食材を提供しました」
「……カレンと同じ事をしなくてもいいだろうが」
 ゼリアの言葉を聞いたアレスは何とも言えない気持ちになった。悩みに悩んで、結局カレンと同じ事をしたというのだから、呆れてしまうのも無理はない話である。でもまぁ、魔物を倒してくる場所が近くの森であるならば、メイン料理を陣取れるものだから問題がないと言えば問題がない。
「で、何を倒してきたんだ?」
 一応確認を取るアレス。
「フォレストバードを4羽ほどでございます」
「あのでかい鳥を……」
 返ってきた答えを聞いて、ますます呆れるアレス。人の背丈の倍はあるという巨鳥フォレストバード、それを4羽。ちなみにこの数ならカレンも余裕で倒してくる。
「まぁ、無事に贈り物が決まったというのなら、俺から何も言う事はない。しかし、どこまでもカレンと同じ事をしなくてもいいだろうが」
「あ、いえ……。あはははは」
 アレスがじっと見てくるものだから、ゼリアはもう乾いた笑いをするしかなかった。
「まったく、心配をして損した気分だ。贈り物が済んだのなら、俺は部屋に戻る。邪魔したな」
 アレスはそう言い放つと扉の方へと歩いていく。
「いえ、心配して下さってありがとうございます」
 ゼリアの方も、申し訳なさそうにアレスを見送る。そして、アレスが部屋を出て行くと、ゼリアは自己嫌悪で盛大なため息を吐いたのだった。
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