スライム姉妹の受難

未羊

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第一部 スライム姉妹、登場

第38話 王妃とお茶の席

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 さて、ショークア王国潜入作戦は無事に開始できた。キャンディとガムから念話での報告を受けたのだ。ゼリアはアレスや国王たちに相談の上で指示を伝えた。やらかさないか心配だが、自分の眷属たちは大丈夫だと自分に言い聞かせていた。
 さて、唯一ビボーナ王国に残ったマシュロは、もう一人の王妃付きの侍女パラサと一緒に王妃について歩いている。
 パラサ自身は子爵家の出で、王妃付き侍女というのは王城で下積みを重ねてきた現場叩き上げで射止めた座である。それをぽっと出の少女に並ばれてしまった事で、マシュロをかなり敵視していた。
 パラサは最初こそマシュロに厳しく当たっていたが、何を言われても動じない(正確に言うとまったく意図が分かっていないだけ)し、仕事はちゃんとこなすし、分からない事があれば質問をしてくる。その仕事に対する姿勢を見て、評価して認めたのである。
 パラサがマシュロを可愛がるようになったのは、もう一つ理由がある。マシュロの見た目年齢が自分の子どもの年齢と近しいのだ。なので、娘を教えているような気分になったというわけである。まぁ、パラサの娘は実際に城で働き始めているわけだが。
 しかし、その娘のように思えてきたマシュロが、実はスライムだなんて知ったらどんな顔をするのだろうか。想像しただけで怖い話である。
「それにしても、マシュロも普通に話せるのね」
「はい、風魔法を応用した発声訓練は、私もグミも眷属に徹底的に仕込みましたから。グミも同じように三体の眷属のミミックスライムが居ますけれど、そちらも私の眷属同様に言葉が喋れますよ」
 ルチア以外の使用人を外した状態で、ゼリアと王妃が話をしている。パラサとマシュロにはお茶の準備をさせているのだ。
「そちらも会ってみたいわね」
「うーん、そっちは私とは逆で、男性格二体と女性格一体なんですけれど、グミじゃないと話通じませんからね。グミがカレン様に同行させられている今だと無理だと思いますよ」
「あら、それは残念ね」
 王妃がとんでもない事を言い出すので、ゼリアはそれっぽい事を言って断った。まぁ実際にグミの言う事しか聞かないので仕方のない話である。それに、今どこに居るのかはグミすら把握していない。眷属とはいえ、基本的に自由行動なのである。
「そういえば、ゼリアちゃんは魔族じゃなくて魔物なのよね?」
「えっ、あっはい。ただのスライムでした」
「本当に?」
 ゼリアの返答に、王妃は訝しんで睨んでくる。
「本当ですよ。アサシンスライムという特殊な種族ですけれど、擬態に特化したスライムの最上位っていうだけです」
 少し気圧されはしたものの、ゼリアは説明をする。
「普通のスライムなら、こんな風に人間とのんびりお話するような事なんてあるのかしら」
「……ないでしょうね。ただ、最弱系のスライムなら、人に懐く事はありますよ。それこそ人間に犬や猫が懐くようなものですから。生きるための手段ってところですね」
 王妃の質問にゼリアは正直に答えていく。これに対して王妃はなるほどと頷いていた。この王妃、スライムでも飼うつもりなのだろうか。
「下手にスライムを飼うと、マシュロどころか私も拗ねますよ?」
「え? 嫌われるのは嫌ね。やめときましょう」
 ゼリアが確認するように言うと、王妃はそう言い切った。本当にスライムを飼うつもりだったようだ。
「お母様、これ以上そういう事を言うのはやめて下さい。お父様とお兄様が頭を抱えますから!」
「あら、あなた言葉……」
 ゼリアの口調が変わった事に王妃は戸惑ったが、
「王妃様、お待たせしまして申し訳ございません。紅茶とお菓子をお持ちしました」
「お持ち致しました」
 この声を聞いて納得した。パラサとマシュロが戻ってきたのである。
 二人が席を外していた理由だが、急なお茶会だったので準備ができていなかったのだ。結構思い付きで行動する王妃なので、王妃付きの侍女も重労働なのである。
「うふふ、それじゃ揃ったからお茶でも楽しみましょうか」
「そうですね、お母様」
 こうして、ゼリアと王妃の二人(侍女込み)だけのお茶会が始まった。
 王妃と話していると、あんな脳筋王女ではあるものの、カレンの事を大事にしている事が伝わってきた。唯一カレンの状況を知らされていないパラサが居るので、その辺りはぼかしながら話をしている。こうやって聞いていると、王妃もかなり話術に長けている事がよく分かる。さすがかなり遠回しな言い方が飛び交う婦人方の世界を過ごしてきただけの事はある。正直王妃と会話をしていて、今後社交界の中でうまく立ち回れるのか不安になってくる。
「うふふ、何を不安に思っているのかしら。カレンなら大丈夫よ」
 出所不明な王妃の言葉だが、ちらりと横に目を遣れば、ルチアが頷いているのが見えた。さらに王妃に視線を戻すとマシュロも頷いている。二人が同意している事に混乱するゼリア。
「そうそう、今度国王陛下の誕生祭が行われるから、カレンも参加しなさいね」
「ええっ?!」
 混乱しているところに王妃から更なる衝撃発言に、ゼリアは混乱の極みに陥った。
 ゼリア、ついに自国の催しに参加する事となったのだった。
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