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第一部 スライム姉妹、登場
第35話 魔族領を行く
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ビボーナ王国で動きがある中、カレンとグミのペアも暴れていた。
「ほらほら、その程度なの?」
毒だけではなく麻痺毒も持つ魔物も居る中、カレンはその拳だけで怯む事なく殴り飛ばしていく。カレンの纏う服装に化けているグミは、内心悲鳴を上げながらカレンの状態を確認しつつ必要に応じて回復魔法を使っている。
(この脳筋姫は後先考えずに突っ込んでいくから、あたしの方がドキドキしっぱなしよ!)
魔王から次の鎮圧目標を聞かされたカレンは、詳細を聞く事はグミに任せて猪突猛進に突き進んでいた。考えるより先に体が動く。それがビボーナ王国のカレン王女なのだ。両親や兄と比べて、どうしてこうなったのか。
一方のグミは、姉のゼリアと一緒で目的を果たすために知略を張り巡らせる頭脳労働を得意としている。アサシンスライムは物騒な名前の種族だが、そのスライムの一般的なイメージとはかけ離れた知能の持ち主なのだ。下位のミミックスライム同様に擬態を使うので、それなりに知能を備えている必要があるからだ。
だが、その知能を備える過程は、基本的にスライムと同じ行動である。対象を捕食して、そこから知識や能力を吸い上げる。それこそがミミックスライムやアサシンスライムと他のスライムの決定的な違いなのだ。
「ギャアアッ!!」
ズーンとものすごい音を立てて、魔物がカレンの拳に倒れる。カレンは返り血を浴びながらもけらけらと笑っており、見る者に何とも言えない恐怖を与えている。それはカレンの外套に化けているグミも同じであった。
グミの戦闘能力だって、そんなに低くはない。カレンほどの派手な絵面ではないにしろ、今回カレンが相手にした魔物程度ではてこずる事はない。しかし、グミが戦う事はない。なぜなら安易に戦闘に参加したら、カレンの拳に巻き込まれる事になるからだ。それだったら、下手に戦うよりは援護に回った方が安全というものである。これは一緒に居て学んだ事である。
辺りの魔物はほぼ討伐できたので、グミは擬態を解いて解体処理を始める。魔物は魔族たちにとっても資源である。有効活用をするのはせめてもの情けというものだ。
カレンも解体に参加するが、その作業光景は対照的である。力に任せて剥ぎ取っていくカレンに対して、きちんと解体の手順に従って丁寧に解体するグミ。まるで逆である。というか、カレンは解体ができたのか。
魔族領は空が薄暗いので、天候の変化や時間の経過が分かりにくい。だが、グミはそういった環境で育ってきたので感知する事が可能である。
「カレン様、そろそろ陽が暮れます。場所が悪いですが野宿に致しますか?」
どうやら夜になるらしい。カレンはどこか野生染みているが、これでも人間で王女だ。ちゃんと休まないと後々響いてくる。今居る場所は森の中なので、一応グミは確認を取る。
「んー、もうちょっと開けた場所はないかしら」
「畏まりました。そこまでなんとか誘導します」
カレンが森の中を嫌ったので、グミはアサシンスライムの能力で周辺を探知する。これが使えないと上位種としての名が廃るというものだ。
魔物はまだいいとして、地形的な安心が欲しいものだ。グミは慎重に探知を行い、その場所を探し出した。
「こちらです」
グミが誘導した場所は、確かに少し開けた場所だった。周囲の危険も感じられないので、その場所をその日の夜営の場所とした。
「それでは、水の汲んでまいります」
火を起こして灯りと暖を確保すると、グミは少し離れた水場へと移動する。水魔法が使えないなら、水は汲んでくるしかないのだから仕方ない。
しばらくして水を汲んで戻ってきたグミ。そこではカレンが、いつものように筋トレをしていた。
これが、カレンが開けた場所を所望した理由である。でこぼこした地面や狭い場所では、思い切ってトレーニングができないのだ。カレンはそれほど魔法を使えないが、それを補って余りあるのが見た目からは分からないこの筋肉である。この筋肉はゼリアやグミをはじめとした、数多の魔物を屠ってきた。いわばカレンの武器であり、アイデンティティなのである。そういう事もあって、カレンは一日もトレーニングを欠かさなかった。そのトレーニングを横目に見ながら、グミは汲んできた水やこの日討伐した魔物の肉などを使って料理をしている。
こういう料理でカレンを倒せたらどんなに楽かと思うが、カレンはこういう悪意に対しては異様なまでの鋭さを持っている。何度も返り討ちに遭っているグミはもう諦めているのだ。なので、今夜も普通に料理を作っている。
ただ、この料理をカレンが褒めてくれるので、グミは悪い気がしなかった。褒められれば嬉しいのは魔物だって同じなのである。
「ねえ、グミ。目的地まであとどれくらいかしら」
筋トレをしながらカレンが尋ねてくる。
「そうですね。このままの調子でいけば、あと3日もすれば着くかと思います」
「そう、魔族領って広いのね」
「噂では世界の半分とも言われてますからね」
これだけ言葉を交わすと、カレンは再び黙り込んで筋トレに打ち込んだ。
魔族領は思った以上に広い。それは敵対勢力も多くなるというものである。管理し切れないのだ。グミは気の遠くなる任務になるなと遠い目をしたのだが、カレンはフルボッコにできると目を輝かせていた。
凸凹コンビによる魔族領制圧の旅は、まだ始まったばかりである。
「ほらほら、その程度なの?」
毒だけではなく麻痺毒も持つ魔物も居る中、カレンはその拳だけで怯む事なく殴り飛ばしていく。カレンの纏う服装に化けているグミは、内心悲鳴を上げながらカレンの状態を確認しつつ必要に応じて回復魔法を使っている。
(この脳筋姫は後先考えずに突っ込んでいくから、あたしの方がドキドキしっぱなしよ!)
魔王から次の鎮圧目標を聞かされたカレンは、詳細を聞く事はグミに任せて猪突猛進に突き進んでいた。考えるより先に体が動く。それがビボーナ王国のカレン王女なのだ。両親や兄と比べて、どうしてこうなったのか。
一方のグミは、姉のゼリアと一緒で目的を果たすために知略を張り巡らせる頭脳労働を得意としている。アサシンスライムは物騒な名前の種族だが、そのスライムの一般的なイメージとはかけ離れた知能の持ち主なのだ。下位のミミックスライム同様に擬態を使うので、それなりに知能を備えている必要があるからだ。
だが、その知能を備える過程は、基本的にスライムと同じ行動である。対象を捕食して、そこから知識や能力を吸い上げる。それこそがミミックスライムやアサシンスライムと他のスライムの決定的な違いなのだ。
「ギャアアッ!!」
ズーンとものすごい音を立てて、魔物がカレンの拳に倒れる。カレンは返り血を浴びながらもけらけらと笑っており、見る者に何とも言えない恐怖を与えている。それはカレンの外套に化けているグミも同じであった。
グミの戦闘能力だって、そんなに低くはない。カレンほどの派手な絵面ではないにしろ、今回カレンが相手にした魔物程度ではてこずる事はない。しかし、グミが戦う事はない。なぜなら安易に戦闘に参加したら、カレンの拳に巻き込まれる事になるからだ。それだったら、下手に戦うよりは援護に回った方が安全というものである。これは一緒に居て学んだ事である。
辺りの魔物はほぼ討伐できたので、グミは擬態を解いて解体処理を始める。魔物は魔族たちにとっても資源である。有効活用をするのはせめてもの情けというものだ。
カレンも解体に参加するが、その作業光景は対照的である。力に任せて剥ぎ取っていくカレンに対して、きちんと解体の手順に従って丁寧に解体するグミ。まるで逆である。というか、カレンは解体ができたのか。
魔族領は空が薄暗いので、天候の変化や時間の経過が分かりにくい。だが、グミはそういった環境で育ってきたので感知する事が可能である。
「カレン様、そろそろ陽が暮れます。場所が悪いですが野宿に致しますか?」
どうやら夜になるらしい。カレンはどこか野生染みているが、これでも人間で王女だ。ちゃんと休まないと後々響いてくる。今居る場所は森の中なので、一応グミは確認を取る。
「んー、もうちょっと開けた場所はないかしら」
「畏まりました。そこまでなんとか誘導します」
カレンが森の中を嫌ったので、グミはアサシンスライムの能力で周辺を探知する。これが使えないと上位種としての名が廃るというものだ。
魔物はまだいいとして、地形的な安心が欲しいものだ。グミは慎重に探知を行い、その場所を探し出した。
「こちらです」
グミが誘導した場所は、確かに少し開けた場所だった。周囲の危険も感じられないので、その場所をその日の夜営の場所とした。
「それでは、水の汲んでまいります」
火を起こして灯りと暖を確保すると、グミは少し離れた水場へと移動する。水魔法が使えないなら、水は汲んでくるしかないのだから仕方ない。
しばらくして水を汲んで戻ってきたグミ。そこではカレンが、いつものように筋トレをしていた。
これが、カレンが開けた場所を所望した理由である。でこぼこした地面や狭い場所では、思い切ってトレーニングができないのだ。カレンはそれほど魔法を使えないが、それを補って余りあるのが見た目からは分からないこの筋肉である。この筋肉はゼリアやグミをはじめとした、数多の魔物を屠ってきた。いわばカレンの武器であり、アイデンティティなのである。そういう事もあって、カレンは一日もトレーニングを欠かさなかった。そのトレーニングを横目に見ながら、グミは汲んできた水やこの日討伐した魔物の肉などを使って料理をしている。
こういう料理でカレンを倒せたらどんなに楽かと思うが、カレンはこういう悪意に対しては異様なまでの鋭さを持っている。何度も返り討ちに遭っているグミはもう諦めているのだ。なので、今夜も普通に料理を作っている。
ただ、この料理をカレンが褒めてくれるので、グミは悪い気がしなかった。褒められれば嬉しいのは魔物だって同じなのである。
「ねえ、グミ。目的地まであとどれくらいかしら」
筋トレをしながらカレンが尋ねてくる。
「そうですね。このままの調子でいけば、あと3日もすれば着くかと思います」
「そう、魔族領って広いのね」
「噂では世界の半分とも言われてますからね」
これだけ言葉を交わすと、カレンは再び黙り込んで筋トレに打ち込んだ。
魔族領は思った以上に広い。それは敵対勢力も多くなるというものである。管理し切れないのだ。グミは気の遠くなる任務になるなと遠い目をしたのだが、カレンはフルボッコにできると目を輝かせていた。
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