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第一部 スライム姉妹、登場
第31話 リョブクという男
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リョブクという男は、そこそこどっしりとした体格の脂の乗った男性である。
ショークア王国の一大財閥の代表を務めるその男は、一代で財を築いた親の跡を継いで代表になった男だ。
ただ、親の財産を受け継いだというわけではない。
リョブクは努力家だった。珍しい物があると聞けば現地まで飛んで現物を確認する。経済から流通、帳簿の付け方などあらゆる事を親や周りから学んだ。それがゆえに、リョブクの財閥は安泰と言われている。
ただ、この男には一つ欠点があった。
跡を継いで代表となった頃からだったか、どうにも話が長いのである。一つ二つ語るだけではない。一から十までを語るのならまだいい、彼はそれ以上に冗長に話をするのだ。これのせいで手腕は尊敬に値するのに、リョブク自身の評価は著しく低かった。すべてはこのお喋り癖のせいである。
リョブクはこういった評価を覆すために、ビボーナ王国への使節団の話を聞いた時にはその一員となるべく飛びついた。結果は見事団長の座を射止めた。
こうしてショークア王国の目玉となる物品を集めて、意気揚々とビボーナ王国へと乗り込んだのだった。
それが今はどうだろうか。
ビボーナ王国の国王への挨拶の時点で、この悪癖が発動。カレン王女は目を回して倒れ、国王からは中断を余儀なく言い渡された。
これははっきり言って屈辱である。
だが、これが嫌われている最大の理由なのだと、本人だけが分かっていなかった。ついて来た使節団の団員全員が「やっぱりな」と思った瞬間である。
その認識の違いが、今、酷い形で世に出ようとしていた。
ショークア王国の使節団の滞在日数は3日間である。この短い期間の間で、リョブクはビボーナ王国の弱みを握ろうと画策していた。これは歓迎の晩餐会の最中から始まっており、リョブクはカレン王女がその弱みになると睨んでいた。
一度貪欲になった人間は、本当に周りが見えなくなる。すべては自分が輝くための舞台装置にしか見えなくなってしまうのだ。リョブクもそういった概念に囚われてしまっていた。
リョブクは自分に恥をかかせたカレン王女を強く恨むようになった。それこそある種の執念のように、カレンの裏を暴こうと画策し始めたのだ。
しかし、現状では情報源が乏しい。カレン王女の情報については徹底的に表に出ないように管理されていた。
商人仲間に話し掛けても、ビボーナ王国については話すものの、カレン王女に関しては多くを語ろうとする人物は少なかった。というか、全然話に出てこなかった。王女が居るという情報はあれど、その人物像に至る情報はまったく無いのである。
それもそうだろう。少なくとも美少女であるカレンが、頭の残念な筋肉系女子だなんて恥ずかしく言えないのである。この世界では、貴族の女性はお淑やかなものだというのが常識なのだ。ましてや王族である。なおさら世間には公表できなかったのだ。
リョブクはそのトップシークレットに対して手を出そうとしているのである。命知らずのする事である。
リョブクは城の中でいろいろと調べてみようとするが、部外者に城の中を自由にうろつかせる許可を出す馬鹿な君主が居るだろうか。居るわけがない。当然ながら、案内役が居ない間は軟禁状態である。やって来るのは飲み物を持ってくる使用人だけである。聞いてみたところで、「知りません」とあっさり簡単に返されるだけであった。
滞在初日に色々試みてみたものの、使用人にしろ兵士にしろ役人にしろ、カレン王女の事について語ろうとした者は一人も居なかった。ついでに言うと、カレン王女を見かける事もなかった。
このままコケにされたまま国に帰れるものかと、リョブクは意固地になり始めていた。どうあがいてもカレンの情報を手に入れるつもりのようである。こうなるとリョブクは止められない。団員たちは大きなため息とともに困り果てて項垂れた。
「アレス様。報告を致します」
部屋で執務をしているアレスの元に、一人の兵士がやって来た。
「ご苦労、動きはあったか?」
「はい。例の男ですが、手当たり次第にカレン様の事を聞いて回っているようです。我々とて簡単に喋る事はありませんが、いかんせんかなりしつこいようでございます」
アレスの問い掛けに、兵士は疲れたように答えていた。聞き取りした人数は相当数に上りそうだ。
この報告を受けたアレスは、意外と顔色一つ変えずに聞いていた。昨夜の段階で予想できた事だからやっぱりなといった感じだ。
だが、ここで受け身で終わらないのがアレスである。今はゼリアという別人とはいえ、脳筋とはいえ自分の妹へ危害を加えようとしている人物が居るのだ。捨ておけるわけがない。
「怪しい動きを見せたら斬り捨てるフリをしろ。ショークアがどう思おうと構わん。先に手を出そうとしたのは向こうの国の使節団、しかも団長だ。父上にも報告しておくから気にするな」
「はっ、畏まりました」
アレスの指示を受けて、兵士は部屋を出て行った。
部屋に残ったアレスは、面倒事がやって来たとため息を吐かざるを得なかった。これはどうにも穏便に済みそうにない。アレスはもう一度ため息を吐いてから国王の元へと向かうのだった。
ショークア王国の一大財閥の代表を務めるその男は、一代で財を築いた親の跡を継いで代表になった男だ。
ただ、親の財産を受け継いだというわけではない。
リョブクは努力家だった。珍しい物があると聞けば現地まで飛んで現物を確認する。経済から流通、帳簿の付け方などあらゆる事を親や周りから学んだ。それがゆえに、リョブクの財閥は安泰と言われている。
ただ、この男には一つ欠点があった。
跡を継いで代表となった頃からだったか、どうにも話が長いのである。一つ二つ語るだけではない。一から十までを語るのならまだいい、彼はそれ以上に冗長に話をするのだ。これのせいで手腕は尊敬に値するのに、リョブク自身の評価は著しく低かった。すべてはこのお喋り癖のせいである。
リョブクはこういった評価を覆すために、ビボーナ王国への使節団の話を聞いた時にはその一員となるべく飛びついた。結果は見事団長の座を射止めた。
こうしてショークア王国の目玉となる物品を集めて、意気揚々とビボーナ王国へと乗り込んだのだった。
それが今はどうだろうか。
ビボーナ王国の国王への挨拶の時点で、この悪癖が発動。カレン王女は目を回して倒れ、国王からは中断を余儀なく言い渡された。
これははっきり言って屈辱である。
だが、これが嫌われている最大の理由なのだと、本人だけが分かっていなかった。ついて来た使節団の団員全員が「やっぱりな」と思った瞬間である。
その認識の違いが、今、酷い形で世に出ようとしていた。
ショークア王国の使節団の滞在日数は3日間である。この短い期間の間で、リョブクはビボーナ王国の弱みを握ろうと画策していた。これは歓迎の晩餐会の最中から始まっており、リョブクはカレン王女がその弱みになると睨んでいた。
一度貪欲になった人間は、本当に周りが見えなくなる。すべては自分が輝くための舞台装置にしか見えなくなってしまうのだ。リョブクもそういった概念に囚われてしまっていた。
リョブクは自分に恥をかかせたカレン王女を強く恨むようになった。それこそある種の執念のように、カレンの裏を暴こうと画策し始めたのだ。
しかし、現状では情報源が乏しい。カレン王女の情報については徹底的に表に出ないように管理されていた。
商人仲間に話し掛けても、ビボーナ王国については話すものの、カレン王女に関しては多くを語ろうとする人物は少なかった。というか、全然話に出てこなかった。王女が居るという情報はあれど、その人物像に至る情報はまったく無いのである。
それもそうだろう。少なくとも美少女であるカレンが、頭の残念な筋肉系女子だなんて恥ずかしく言えないのである。この世界では、貴族の女性はお淑やかなものだというのが常識なのだ。ましてや王族である。なおさら世間には公表できなかったのだ。
リョブクはそのトップシークレットに対して手を出そうとしているのである。命知らずのする事である。
リョブクは城の中でいろいろと調べてみようとするが、部外者に城の中を自由にうろつかせる許可を出す馬鹿な君主が居るだろうか。居るわけがない。当然ながら、案内役が居ない間は軟禁状態である。やって来るのは飲み物を持ってくる使用人だけである。聞いてみたところで、「知りません」とあっさり簡単に返されるだけであった。
滞在初日に色々試みてみたものの、使用人にしろ兵士にしろ役人にしろ、カレン王女の事について語ろうとした者は一人も居なかった。ついでに言うと、カレン王女を見かける事もなかった。
このままコケにされたまま国に帰れるものかと、リョブクは意固地になり始めていた。どうあがいてもカレンの情報を手に入れるつもりのようである。こうなるとリョブクは止められない。団員たちは大きなため息とともに困り果てて項垂れた。
「アレス様。報告を致します」
部屋で執務をしているアレスの元に、一人の兵士がやって来た。
「ご苦労、動きはあったか?」
「はい。例の男ですが、手当たり次第にカレン様の事を聞いて回っているようです。我々とて簡単に喋る事はありませんが、いかんせんかなりしつこいようでございます」
アレスの問い掛けに、兵士は疲れたように答えていた。聞き取りした人数は相当数に上りそうだ。
この報告を受けたアレスは、意外と顔色一つ変えずに聞いていた。昨夜の段階で予想できた事だからやっぱりなといった感じだ。
だが、ここで受け身で終わらないのがアレスである。今はゼリアという別人とはいえ、脳筋とはいえ自分の妹へ危害を加えようとしている人物が居るのだ。捨ておけるわけがない。
「怪しい動きを見せたら斬り捨てるフリをしろ。ショークアがどう思おうと構わん。先に手を出そうとしたのは向こうの国の使節団、しかも団長だ。父上にも報告しておくから気にするな」
「はっ、畏まりました」
アレスの指示を受けて、兵士は部屋を出て行った。
部屋に残ったアレスは、面倒事がやって来たとため息を吐かざるを得なかった。これはどうにも穏便に済みそうにない。アレスはもう一度ため息を吐いてから国王の元へと向かうのだった。
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