スライム姉妹の受難

未羊

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第一部 スライム姉妹、登場

第28話 言葉酔い

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「よくぞ参られた、ショークア王国の使いよ。国交を断っていたとはいえ、わざわざ出向かれた事を喜ばしく思う」
 国王が玉座に座ったまま、ショークアの使節団を労った。その使節団の後ろには、いろいろと差し入れの品が入った箱がたくさん置かれており、和睦を結んで国交を回復するつもりだという事が見て取れる。
 だが、過去に勢い任せに何度も戦争を仕掛けてきたという事実があるために、正直言ってしまえばビボーナ王国としてはショークア王国を手放しで信用する事はできない。とはいえ、これだけの貢物があれば精査する必要がある。ぶっちゃけてしまえば腹の探り合いである。
 ショークア王国は何かと野心家だが、物資は豊富である。なのに、何かと短気な性質が災いしてか加工業の質はそれほど高くはない。
 対してのビボーナ王国はそれほど資源が豊かというわけではない。だが、国内の加工業は周辺随一であり、装備の質の高さが過去の戦争の勝利要因ではないかとも言われている。
「急な申し入れを受け入れて下さり、ビボーナ国王の懐の深さを実感しております。申し遅れましたが、わたくし、ショークア王国使節団団長のリョブクと申します。以後お見知りおきを」
 使節団の団長が挨拶をする。表情はとてもにこやかにしているが、何やら妙な感じがする。だが、不安を感じても表にそれは出さない。腹の探り合いなのだから表情に出してしまっては負けなのだ。
(何だろう……。このリョブクっていう男、すごく嫌な感じがするわ)
 ゼリアもひしひしと怪しさを感じている。アサシンスライムでも特異体であるゼリアは、そういった感情を読み取る能力が備わっているのだ。本当に目の前の男が気持ち悪くて仕方ない。しかし、使節団を迎えたばかりのこの段階では、退席というのは少々難しい状況であった。
 気が付けば、ゼリアは隣に立つアレスの裾を掴んでいた。ゼリアが裾を掴む行動に気が付いたアレスが、ちらりとゼリアの方を見る。ゼリアの体が少し震えているように見えた。次の瞬間、ゼリアの頭の上にふわっとした感触がする。アレスが自分の手を置いたのである。すると不思議な事に、ゼリアはちょっと落ち着いたようだった。
「どうされたのですか、殿下」
 その行動に気付いたリョブクが、国王への言葉を止めてアレスに声を掛けた。
「いや、すまないな。カレンが慣れない場に戸惑っていたようなので、落ち着かせただけだ」
「左様でしたか。これは失礼致しました」
「いや、こちらこそ話の腰を折って悪かった。続けてくれ」
 アレスがこう答えると、リョブクは何事もなかったかのように話を再開した。
 ……それにしても、このリョブクという男の話が長い。献上品の説明をしているようだが、自慢が混ざりまくって冗長化していた。いい加減に飽きてくる。
「リョブクとか申したな。ちょっといいか?」
 国王がしびれを切らして話を遮る。
「はっ、何でございましょう」
 驚いた様子でリョブクが反応する。
「そろそろ献上品の中身を確認させたい。このままでは夜中にまで突入してしまうかも知れんからな。中には腐ってしまうものもあろう? 自慢したいのは分かるが、献上品が台無しになっては本末転倒だ。よいか?」
 国王が諭すようにリョブクに言うと、リョブクは渋々納得したような表情をした。
「はぁ、確かにその通りでございますな。では、献上品は運ばせますが、内容の説明は続けさせて頂きます」
 他国に乗り込んでいるというのになんとも不遜な表情をするリョブク。さすがにアレスが一瞬顔を顰めた。明確に話をやめろというメッセージが入っているのに、それを無視して続けようとしているのだ。正直言ってしまうと、ここで怒って追い返したくなる行動である。献上品が運び出される中、リョブクは説明を再開する。
 ここでゼリアがちらりとアレスを見る。アレスが視線に気が付いてゼリアに視線を送る。すると、ゼリアはリョブクに一度視線を移すと、すぐさまアレスに見直った。
 アレスはその意図をすぐに理解した。その瞬間、ゼリアは体をよろけさせた。
「おい、どうしたんだ、カレン」
 ゼリアを受け止めると、すぐにアレスは声を掛けた。
「すみません、お兄様。……ちょっと言葉に酔ってしまったようです」
「そうか、すぐに休ませる。医者と侍女を呼べ!」
 この様子をリョブクは驚いた顔で見ていた。それを尻目に、ゼリアはルチアに肩を抱えられて歩いていく。ルチアは状況が分かっているのか心配そうに何かを言っているが、実は口パクである。実に有能な侍女である。
「すまんな。リョブクとか言ったか、私どもも娘の事が心配なのでこれで退席させてもらおう。本当なら歓迎の式典をしっかりと行いたかったのだが、娘が倒れてしまってはやむを得まい」
 国王は玉座から立ち上がる。
「ショークア王国の使節団を部屋まで案内致せ。客人ゆえに丁重にな」
 国王はそう言うと、王妃やアレスを引き連れて謁見の間から姿を消した。その場に残されたのは、突然の事に口を開いたまま固まっているリョブクと使節団の一行だった。使節団はこの後、ビボーナの衛兵たちに案内されておとなしく客室まで向かった。
 出鼻をくじかれたリョブクは、客室でしばらく荒れていたのだった。
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