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第一部 スライム姉妹、登場
第25話 姉妹の念話
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噂も沈静化した頃、ゼリアの元にグミから念話が飛んできた。
『お姉ちゃん、今大丈夫?』
『ええ、一日の行事も全部終わって、自室で休んでるところよ』
湯あみも終わり、あとはもう寝るだけとなっていたゼリア。なので気兼ねなく、グミからの念話に応答できるというものである。
『カレン様はどうなのかしら』
ゼリアの気になるところはそこである。暗殺者をしていたくせに、こういう薄情になりきれないスライムなのだ。
『相変わらず元気よ。今日も笑顔で魔物を殴り飛ばしていたわ。ついでに率いていた魔族も殴ってたわ』
グミから返ってきた答えは、まあなんというか予想通りである。カレンは見た目こそ普通の女性なのだが、思いもよらぬパワーで相手を殴り飛ばす。ゼリアもグミも、そのパワーの前にあえなく敗れ去っていた。
カレンが相変わらずなようで、ゼリアはつい笑みがこぼれてしまう。
『予想外だったのは、カレン様が魔王様にひと目惚れした事ね。おかげで穏便に事が運んだわ。惚れた魔王様のために抵抗勢力をフルボッコにしてるわよ。それこそこの上ない笑顔でね……』
グミの声が震えているようだった。ゼリアもその光景を思い浮かべて、ぶるっと寒気がした。
それにしても、カレンが魔王に惚れるとはゼリアにとっても意外な話だった。だが、これはこれで心配事が一つ減ったのは間違いない。
はっきり言って、今の魔族領にとって魔王様は必要な存在である。反発する勢力が存在するのは確かだが、魔王様のカリスマ性と実力はゼリアが知る限りはトップクラスのものだと思われるからだ。
『カレン様が魔王様に惚れてくれたおかげで、あたしはだいぶ気持ちが楽になったわよ。とにかく、これであたしは、カレン様のサポートだけに集中できるからね』
グミの声が本当に安心したような感じである。魔王様の事に関しては、本気で心配していたからしょうがない事である。
『お姉ちゃんの方はどうなの?』
グミが話題をゼリアの方へと振ってきた。まぁ気になるのは仕方ないだろう。
『うん、おとなしくお淑やかにしていたら、偽者だと疑われたわね』
『ええ?! それでどうなったの?』
疑われた事を正直に言うと、グミは酷く驚いて動揺している。実の姉妹ではないとはいえ、ゼリアの事を本当の姉のように慕っているのだから、これは当然か。
『国王陛下に確認して、死なない程度に殴り飛ばしていいと許可をもらったから、遠慮なく殴ってあげたわよ』
『ええぇ?!』
『そうしたらみんな怖がって、疑う声は収束していったわね。カレン様の拳は最強だと認識させられたわ』
『ええぇ……』
ゼリアがありのままに伝えると、グミがドン引きしていた。声が困惑している。殴り飛ばして黙らせるなど、恐怖政治そのものである。魔族が得意とするようなものを、人間、しかも王女が行っているなど、困惑するなという方が無理な事である。
『よく見ると、城の中にはあちこち壁を直した跡があるのよ。国王陛下や王妃殿下に確認してみても、言葉を濁していたからね。間違いなくカレン様が作った凹みを直した跡よ』
『……何をやってるのよ、この王女様は』
ゼリアが気が付いた事に、グミも言葉を失いかけた。魔物にこんな反応をされるカレンは、グミは擬態している天幕の中で、大きないびきを立てながら眠っている。カレンを見ていると、グミが持っていた王女像がどんどん音を立てて崩れていく気がした。
『それで、カレン様は今どうしてるの?』
『あたしが化けた天幕の中でよく寝てるわよ。何十何百と魔物を殴り飛ばしてたから、疲れ切ってよく寝ているわ』
『……相変わらずね』
グミから聞いたカレンの様子に、ほっとした一方で、その恐ろしさに身震いをするゼリア。殴り飛ばされて刻まれた恐怖が、いまだに残っているようである。
『お姉ちゃん、偽者騒動以外の状況はどうなの?』
『カレン様の侍女であるルチアさんとは、一応仲良くしているわ。カレン様のそばで仕えていた事もあって、多少の事では動じないわね。あと、これは言わないで欲しいんだけど、カレン様にだいぶうんざりしていたようよ。そのせいか、私も最初のうちは愚痴を聞かされたものだわ。私が信用できないってのもあるから、私の悪口と一緒にね』
『……聞いたら、今すぐにでも戻って殴り飛ばしそうね』
ゼリアが言った内容に、グミも何とも言えない気持ちになった。
『外交面は現状懸案がないみたいだから、国王陛下も王妃殿下も、アレス王子も城の中で過ごしてられるわ。ただ、近いうちによその国から使節団が来るみたいね。私もそこで、カレン王女として出席する事になったわ』
一応カレンに共有する意味で、ゼリアはグミに内情を話す。
『お姉ちゃんなら大丈夫だと思うけど、別な意味で大丈夫なの?』
『カレン様は外交の場に王女として出てくる事はなかったから大丈夫だと思うわよ。つまり、私の印象がそのまま他国への印象として伝わる事になるわね』
『責任重大ね』
『うん、まぁ頑張らせてもらうわ』
ここで二人はしばらく黙り込んだ。
『さて、明日も朝から王女教育を組まれてるから、私は寝るわね』
『そっか。お姉ちゃん、おやすみ』
『うん、グミもおやすみ。カレン様を頼むわね』
『任せておいて。……自身は無いけど』
『あはは。それじゃあね』
こう言って、二人は念話を終了した。
遠く離れていても、この二人の絆はしっかりしているようである。いろいろ懸案はあるものの、二人とも話をして少し気持ちが楽になったようである。
『お姉ちゃん、今大丈夫?』
『ええ、一日の行事も全部終わって、自室で休んでるところよ』
湯あみも終わり、あとはもう寝るだけとなっていたゼリア。なので気兼ねなく、グミからの念話に応答できるというものである。
『カレン様はどうなのかしら』
ゼリアの気になるところはそこである。暗殺者をしていたくせに、こういう薄情になりきれないスライムなのだ。
『相変わらず元気よ。今日も笑顔で魔物を殴り飛ばしていたわ。ついでに率いていた魔族も殴ってたわ』
グミから返ってきた答えは、まあなんというか予想通りである。カレンは見た目こそ普通の女性なのだが、思いもよらぬパワーで相手を殴り飛ばす。ゼリアもグミも、そのパワーの前にあえなく敗れ去っていた。
カレンが相変わらずなようで、ゼリアはつい笑みがこぼれてしまう。
『予想外だったのは、カレン様が魔王様にひと目惚れした事ね。おかげで穏便に事が運んだわ。惚れた魔王様のために抵抗勢力をフルボッコにしてるわよ。それこそこの上ない笑顔でね……』
グミの声が震えているようだった。ゼリアもその光景を思い浮かべて、ぶるっと寒気がした。
それにしても、カレンが魔王に惚れるとはゼリアにとっても意外な話だった。だが、これはこれで心配事が一つ減ったのは間違いない。
はっきり言って、今の魔族領にとって魔王様は必要な存在である。反発する勢力が存在するのは確かだが、魔王様のカリスマ性と実力はゼリアが知る限りはトップクラスのものだと思われるからだ。
『カレン様が魔王様に惚れてくれたおかげで、あたしはだいぶ気持ちが楽になったわよ。とにかく、これであたしは、カレン様のサポートだけに集中できるからね』
グミの声が本当に安心したような感じである。魔王様の事に関しては、本気で心配していたからしょうがない事である。
『お姉ちゃんの方はどうなの?』
グミが話題をゼリアの方へと振ってきた。まぁ気になるのは仕方ないだろう。
『うん、おとなしくお淑やかにしていたら、偽者だと疑われたわね』
『ええ?! それでどうなったの?』
疑われた事を正直に言うと、グミは酷く驚いて動揺している。実の姉妹ではないとはいえ、ゼリアの事を本当の姉のように慕っているのだから、これは当然か。
『国王陛下に確認して、死なない程度に殴り飛ばしていいと許可をもらったから、遠慮なく殴ってあげたわよ』
『ええぇ?!』
『そうしたらみんな怖がって、疑う声は収束していったわね。カレン様の拳は最強だと認識させられたわ』
『ええぇ……』
ゼリアがありのままに伝えると、グミがドン引きしていた。声が困惑している。殴り飛ばして黙らせるなど、恐怖政治そのものである。魔族が得意とするようなものを、人間、しかも王女が行っているなど、困惑するなという方が無理な事である。
『よく見ると、城の中にはあちこち壁を直した跡があるのよ。国王陛下や王妃殿下に確認してみても、言葉を濁していたからね。間違いなくカレン様が作った凹みを直した跡よ』
『……何をやってるのよ、この王女様は』
ゼリアが気が付いた事に、グミも言葉を失いかけた。魔物にこんな反応をされるカレンは、グミは擬態している天幕の中で、大きないびきを立てながら眠っている。カレンを見ていると、グミが持っていた王女像がどんどん音を立てて崩れていく気がした。
『それで、カレン様は今どうしてるの?』
『あたしが化けた天幕の中でよく寝てるわよ。何十何百と魔物を殴り飛ばしてたから、疲れ切ってよく寝ているわ』
『……相変わらずね』
グミから聞いたカレンの様子に、ほっとした一方で、その恐ろしさに身震いをするゼリア。殴り飛ばされて刻まれた恐怖が、いまだに残っているようである。
『お姉ちゃん、偽者騒動以外の状況はどうなの?』
『カレン様の侍女であるルチアさんとは、一応仲良くしているわ。カレン様のそばで仕えていた事もあって、多少の事では動じないわね。あと、これは言わないで欲しいんだけど、カレン様にだいぶうんざりしていたようよ。そのせいか、私も最初のうちは愚痴を聞かされたものだわ。私が信用できないってのもあるから、私の悪口と一緒にね』
『……聞いたら、今すぐにでも戻って殴り飛ばしそうね』
ゼリアが言った内容に、グミも何とも言えない気持ちになった。
『外交面は現状懸案がないみたいだから、国王陛下も王妃殿下も、アレス王子も城の中で過ごしてられるわ。ただ、近いうちによその国から使節団が来るみたいね。私もそこで、カレン王女として出席する事になったわ』
一応カレンに共有する意味で、ゼリアはグミに内情を話す。
『お姉ちゃんなら大丈夫だと思うけど、別な意味で大丈夫なの?』
『カレン様は外交の場に王女として出てくる事はなかったから大丈夫だと思うわよ。つまり、私の印象がそのまま他国への印象として伝わる事になるわね』
『責任重大ね』
『うん、まぁ頑張らせてもらうわ』
ここで二人はしばらく黙り込んだ。
『さて、明日も朝から王女教育を組まれてるから、私は寝るわね』
『そっか。お姉ちゃん、おやすみ』
『うん、グミもおやすみ。カレン様を頼むわね』
『任せておいて。……自身は無いけど』
『あはは。それじゃあね』
こう言って、二人は念話を終了した。
遠く離れていても、この二人の絆はしっかりしているようである。いろいろ懸案はあるものの、二人とも話をして少し気持ちが楽になったようである。
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