スライム姉妹の受難

未羊

文字の大きさ
上 下
24 / 77
第一部 スライム姉妹、登場

第24話 唸れ拳

しおりを挟む
 カレンの正体を疑う勢力は、じわじわと広がっていた。やっぱり、わがままで暴力的な部分がすっかり鳴りを潜めた事は、疑いを持つ理由として十分すぎたのだ。あまりに周りがじろじろと見てくるので、ゼリアも鬱陶しく思い始めていた。
 ある日、周りの反応にあまりに気持ち悪くなってきたので、ゼリアは国王に訴えた。
「お父様、最近兵士や使用人たちがあまりに私を見てくるんですけれど?!」
 この訴えだけなら普通の可愛いお姫様といった感じである。しかし、続いて出てきた言葉に、思わず耳を疑った。
「全員ぶん殴ってよろしいですか?」
 うん、なんで?
 あまりに予想外だった。これではまるでカレンのようである。
 確かにカレンではないと疑う勢力を黙らせるには充分である。暴力的な部分を印象付けられればカレンだと認識させられるとは、はたして王女としてはどうなのかとは思うのだが、カレンの性質上仕方のない話である。
 国王もそれを認識しているようで、
「気に入らなければカレンのように殴っていいぞ。ただし、殺すのだけは絶対にやめてくれ。人員は重要だからな」
 頭を思いきり抱えながらゼリアの言葉を了承したのだった。
「分かりました。私もカレン様に一撃食らって鬱憤が溜まってますからね。兵士とかなら遠慮なく殴ります」
 というわけで、当面の対処法が決定した。その時のゼリアの笑顔に、国王は娘の顔を思い出したらしく、どこか震えていた。

 ドゴォッ!
 城に大きな音が響き渡る。
「ぐはぁっ!」
 壁に兵士がめり込んでいた。それを見た使用人たちが震えている。
「ああ、ごめんなさい。何かうるさかったから叩き落としたら兵士でしたのね」
 涼しい顔をして、ゼリアは怖い事を言っている。壁にめり込んだ兵士は、生きてはいるものの、壁から動けないでいる。
「耳障りな音が聞こえたら遠慮なく叩き落しますので、虫の一匹も城に入れないように頼みますわね」
「は、はいぃぃっ!」
 ゼリアが笑顔で歩いてその場を去ると、恐怖に固まった兵士や使用人だけが残された。
「だ、誰か……、助けてくれ」
 壁にめり込んだ兵士が、痛みに耐えながら懇願していた。
「あ、あの理不尽さは、カレン様です……」
 体を縮こまらせて内またで震える侍女。
「いてぇよ……。全身の骨が、砕けたかと、思ったぜ……」
 しばらく壁画と化していた兵士も、すっかり満身創痍である。同僚に手でなんとか壁画から人間へと戻ってこれたようだ。
 この兵士を殴って壁画に変え、にこやかな表情で歩き去ったカレンの話は、瞬く間に城中に広まった。これは、カレンの事を別人と疑った面々に衝撃を走らせた。一様に震え上がって、顔面を蒼白に染めていた。こんな反応を示されるカレン。お姫様だよね?
 別の日の事だ。
「お前たち、どうしたんだ?」
「こ、これはアレス殿下。いや、これはですね……」
 震え上がる侍女に、痛みに悶える兵士。どう見てもこれは普通の状況ではない。なのでアレスは状況の説明を求めた。
「……そうか、カレンがやらかしてくれたか」
 事情を聞いたアレスは、顔を押さえた。それと同時に、ゼリアがこういう行動に出た理由も察した。
 アレス自身も直接聞いていたわけではないが、カレンゼリアに対して怪しむ者が増えている空気を感じていた。だからこそ、その疑いを文字通り吹き飛ばすためにこのような行動に出たのだろう。実際カレンは、気に入らない兵士をこうやって殴り飛ばしていた。さすがに使用人は殴り飛ばさなかったが、その場合は壁が被害を受けていた。城の壁のあちこちに修繕の跡があるのはそのせいである。
「……せっかく修繕費が安くて済むと思っていたのに、さっそくこれか。これは財務大臣が頭を抱える事態だぞ」
 アレスが心ここにあらずといった感じに呟いている。
「とりあえずお前たち」
「は、はいっ!」
 アレスが呼び掛けると、使用人が驚いて飛び上がる。
「城を穴だらけにされたくないんでな、カレンの機嫌を損ねるような事はしないようにしてくれ。これが続けば、間違いなく財務大臣の胃に穴が開く」
 アレスが勘弁してくれと言わんばかりの困ったような表情で、兵士や使用人たちに言いつける。これに対して、兵士も使用人もぶんぶんとすごい勢いで首を縦に振っていた。
 この気に食わないやつは殴り飛ばすという作戦で、カレンは偽者という噂は、あっという間に鎮静化していった。やはり筋肉は偉大なのであった。
 だが、その一方で城のあちこちに凹みが発生して、国王とアレスと財務大臣が頭を抱えたのは言うまでもない事だった。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

【完結】初級魔法しか使えない低ランク冒険者の少年は、今日も依頼を達成して家に帰る。

アノマロカリス
ファンタジー
少年テッドには、両親がいない。 両親は低ランク冒険者で、依頼の途中で魔物に殺されたのだ。 両親の少ない保険でやり繰りしていたが、もう金が尽きかけようとしていた。 テッドには、妹が3人いる。 両親から「妹達を頼む!」…と出掛ける前からいつも約束していた。 このままでは家族が離れ離れになると思ったテッドは、冒険者になって金を稼ぐ道を選んだ。 そんな少年テッドだが、パーティーには加入せずにソロ活動していた。 その理由は、パーティーに参加するとその日に家に帰れなくなるからだ。 両親は、小さいながらも持ち家を持っていてそこに住んでいる。 両親が生きている頃は、父親の部屋と母親の部屋、子供部屋には兄妹4人で暮らしていたが…   両親が死んでからは、父親の部屋はテッドが… 母親の部屋は、長女のリットが、子供部屋には、次女のルットと三女のロットになっている。 今日も依頼をこなして、家に帰るんだ! この少年テッドは…いや、この先は本編で語ろう。 お楽しみくださいね! HOTランキング20位になりました。 皆さん、有り難う御座います。

婚約破棄?一体何のお話ですか?

リヴァルナ
ファンタジー
なんだかざまぁ(?)系が書きたかったので書いてみました。 エルバルド学園卒業記念パーティー。 それも終わりに近付いた頃、ある事件が起こる… ※エブリスタさんでも投稿しています

【完結】転生7年!ぼっち脱出して王宮ライフ満喫してたら王国の動乱に巻き込まれた少女戦記 〜愛でたいアイカは救国の姫になる

三矢さくら
ファンタジー
【完結しました】異世界からの召喚に応じて6歳児に転生したアイカは、護ってくれる結界に逆に閉じ込められた結果、山奥でサバイバル生活を始める。 こんなはずじゃなかった! 異世界の山奥で過ごすこと7年。ようやく結界が解けて、山を下りたアイカは王都ヴィアナで【天衣無縫の無頼姫】の異名をとる第3王女リティアと出会う。 珍しい物好きの王女に気に入られたアイカは、なんと侍女に取り立てられて王宮に! やっと始まった異世界生活は、美男美女ぞろいの王宮生活! 右を見ても左を見ても「愛でたい」美人に美少女! 美男子に美少年ばかり! アイカとリティア、まだまだ幼い侍女と王女が数奇な運命をたどる異世界王宮ファンタジー戦記。

「不細工なお前とは婚約破棄したい」と言ってみたら、秒で破棄されました。

桜乃
ファンタジー
ロイ王子の婚約者は、不細工と言われているテレーゼ・ハイウォール公爵令嬢。彼女からの愛を確かめたくて、思ってもいない事を言ってしまう。 「不細工なお前とは婚約破棄したい」 この一言が重要な言葉だなんて思いもよらずに。 ※約4000文字のショートショートです。11/21に完結いたします。 ※1回の投稿文字数は少な目です。 ※前半と後半はストーリーの雰囲気が変わります。 表紙は「かんたん表紙メーカー2」にて作成いたしました。 ❇❇❇❇❇❇❇❇❇ 2024年10月追記 お読みいただき、ありがとうございます。 こちらの作品は完結しておりますが、10月20日より「番外編 バストリー・アルマンの事情」を追加投稿致しますので、一旦、表記が連載中になります。ご了承ください。 1ページの文字数は少な目です。 約4500文字程度の番外編です。 バストリー・アルマンって誰やねん……という読者様のお声が聞こえてきそう……(;´∀`) ロイ王子の側近です。(←言っちゃう作者 笑) ※番外編投稿後は完結表記に致します。再び、番外編等を投稿する際には連載表記となりますこと、ご容赦いただけますと幸いです。

悪役令嬢に転生したので、ゲームを無視して自由に生きる。私にしか使えない植物を操る魔法で、食べ物の心配は無いのでスローライフを満喫します。

向原 行人
ファンタジー
死にかけた拍子に前世の記憶が蘇り……どハマりしていた恋愛ゲーム『ときめきメイト』の世界に居ると気付く。 それだけならまだしも、私の名前がルーシーって、思いっきり悪役令嬢じゃない! しかもルーシーは魔法学園卒業後に、誰とも結ばれる事なく、辺境に飛ばされて孤独な上に苦労する事が分かっている。 ……あ、だったら、辺境に飛ばされた後、苦労せずに生きていけるスキルを学園に居る内に習得しておけば良いじゃない。 魔法学園で起こる恋愛イベントを全て無視して、生きていく為のスキルを習得して……と思ったら、いきなりゲームに無かった魔法が使えるようになってしまった。 木から木へと瞬間移動出来るようになったので、学園に通いながら、辺境に飛ばされた後のスローライフの練習をしていたんだけど……自由なスローライフが楽し過ぎるっ! ※第○話:主人公視点  挿話○:タイトルに書かれたキャラの視点  となります。

ユーヤのお気楽異世界転移

暇野無学
ファンタジー
 死因は神様の当て逃げです!  地震による事故で死亡したのだが、原因は神社の扁額が当たっての即死。問題の神様は気まずさから俺を輪廻の輪から外し、異世界の神に俺をゆだねた。異世界への移住を渋る俺に、神様特典付きで異世界へ招待されたが・・・ この神様が超適当な健忘症タイプときた。

狼の子 ~教えてもらった常識はかなり古い!?~

一片
ファンタジー
バイト帰りに何かに引っ張られた俺は、次の瞬間突然山の中に放り出された。 しかも体をピクリとも動かせない様な瀕死の状態でだ。 流石に諦めかけていたのだけど、そんな俺を白い狼が救ってくれた。 その狼は天狼という神獣で、今俺がいるのは今までいた世界とは異なる世界だという。 右も左も分からないどころか、右も左も向けなかった俺は天狼さんに魔法で癒され、ついでに色々な知識を教えてもらう。 この世界の事、生き延び方、戦う術、そして魔法。 数年後、俺は天狼さんの庇護下から離れ新しい世界へと飛び出した。 元の世界に戻ることは無理かもしれない……でも両親に連絡くらいはしておきたい。 根拠は特にないけど、魔法がある世界なんだし……連絡くらいは出来るよね? そんな些細な目標と、天狼さん以外の神獣様へとお使いを頼まれた俺はこの世界を東奔西走することになる。 色々な仲間に出会い、ダンジョンや遺跡を探索したり、何故か謎の組織の陰謀を防いだり……。 ……これは、現代では失われた強大な魔法を使い、小さな目標とお使いの為に大陸をまたにかける小市民の冒険譚!

処理中です...