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第一部 スライム姉妹、登場
第24話 唸れ拳
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カレンの正体を疑う勢力は、じわじわと広がっていた。やっぱり、わがままで暴力的な部分がすっかり鳴りを潜めた事は、疑いを持つ理由として十分すぎたのだ。あまりに周りがじろじろと見てくるので、ゼリアも鬱陶しく思い始めていた。
ある日、周りの反応にあまりに気持ち悪くなってきたので、ゼリアは国王に訴えた。
「お父様、最近兵士や使用人たちがあまりに私を見てくるんですけれど?!」
この訴えだけなら普通の可愛いお姫様といった感じである。しかし、続いて出てきた言葉に、思わず耳を疑った。
「全員ぶん殴ってよろしいですか?」
うん、なんで?
あまりに予想外だった。これではまるでカレンのようである。
確かにカレンではないと疑う勢力を黙らせるには充分である。暴力的な部分を印象付けられればカレンだと認識させられるとは、はたして王女としてはどうなのかとは思うのだが、カレンの性質上仕方のない話である。
国王もそれを認識しているようで、
「気に入らなければカレンのように殴っていいぞ。ただし、殺すのだけは絶対にやめてくれ。人員は重要だからな」
頭を思いきり抱えながらゼリアの言葉を了承したのだった。
「分かりました。私もカレン様に一撃食らって鬱憤が溜まってますからね。兵士とかなら遠慮なく殴ります」
というわけで、当面の対処法が決定した。その時のゼリアの笑顔に、国王は娘の顔を思い出したらしく、どこか震えていた。
ドゴォッ!
城に大きな音が響き渡る。
「ぐはぁっ!」
壁に兵士がめり込んでいた。それを見た使用人たちが震えている。
「ああ、ごめんなさい。何かうるさかったから叩き落としたら兵士でしたのね」
涼しい顔をして、ゼリアは怖い事を言っている。壁にめり込んだ兵士は、生きてはいるものの、壁から動けないでいる。
「耳障りな音が聞こえたら遠慮なく叩き落しますので、虫の一匹も城に入れないように頼みますわね」
「は、はいぃぃっ!」
ゼリアが笑顔で歩いてその場を去ると、恐怖に固まった兵士や使用人だけが残された。
「だ、誰か……、助けてくれ」
壁にめり込んだ兵士が、痛みに耐えながら懇願していた。
「あ、あの理不尽さは、カレン様です……」
体を縮こまらせて内またで震える侍女。
「いてぇよ……。全身の骨が、砕けたかと、思ったぜ……」
しばらく壁画と化していた兵士も、すっかり満身創痍である。同僚に手でなんとか壁画から人間へと戻ってこれたようだ。
この兵士を殴って壁画に変え、にこやかな表情で歩き去ったカレンの話は、瞬く間に城中に広まった。これは、カレンの事を別人と疑った面々に衝撃を走らせた。一様に震え上がって、顔面を蒼白に染めていた。こんな反応を示されるカレン。お姫様だよね?
別の日の事だ。
「お前たち、どうしたんだ?」
「こ、これはアレス殿下。いや、これはですね……」
震え上がる侍女に、痛みに悶える兵士。どう見てもこれは普通の状況ではない。なのでアレスは状況の説明を求めた。
「……そうか、カレンがやらかしてくれたか」
事情を聞いたアレスは、顔を押さえた。それと同時に、ゼリアがこういう行動に出た理由も察した。
アレス自身も直接聞いていたわけではないが、カレンに対して怪しむ者が増えている空気を感じていた。だからこそ、その疑いを文字通り吹き飛ばすためにこのような行動に出たのだろう。実際カレンは、気に入らない兵士をこうやって殴り飛ばしていた。さすがに使用人は殴り飛ばさなかったが、その場合は壁が被害を受けていた。城の壁のあちこちに修繕の跡があるのはそのせいである。
「……せっかく修繕費が安くて済むと思っていたのに、さっそくこれか。これは財務大臣が頭を抱える事態だぞ」
アレスが心ここにあらずといった感じに呟いている。
「とりあえずお前たち」
「は、はいっ!」
アレスが呼び掛けると、使用人が驚いて飛び上がる。
「城を穴だらけにされたくないんでな、カレンの機嫌を損ねるような事はしないようにしてくれ。これが続けば、間違いなく財務大臣の胃に穴が開く」
アレスが勘弁してくれと言わんばかりの困ったような表情で、兵士や使用人たちに言いつける。これに対して、兵士も使用人もぶんぶんとすごい勢いで首を縦に振っていた。
この気に食わないやつは殴り飛ばすという作戦で、カレンは偽者という噂は、あっという間に鎮静化していった。やはり筋肉は偉大なのであった。
だが、その一方で城のあちこちに凹みが発生して、国王とアレスと財務大臣が頭を抱えたのは言うまでもない事だった。
ある日、周りの反応にあまりに気持ち悪くなってきたので、ゼリアは国王に訴えた。
「お父様、最近兵士や使用人たちがあまりに私を見てくるんですけれど?!」
この訴えだけなら普通の可愛いお姫様といった感じである。しかし、続いて出てきた言葉に、思わず耳を疑った。
「全員ぶん殴ってよろしいですか?」
うん、なんで?
あまりに予想外だった。これではまるでカレンのようである。
確かにカレンではないと疑う勢力を黙らせるには充分である。暴力的な部分を印象付けられればカレンだと認識させられるとは、はたして王女としてはどうなのかとは思うのだが、カレンの性質上仕方のない話である。
国王もそれを認識しているようで、
「気に入らなければカレンのように殴っていいぞ。ただし、殺すのだけは絶対にやめてくれ。人員は重要だからな」
頭を思いきり抱えながらゼリアの言葉を了承したのだった。
「分かりました。私もカレン様に一撃食らって鬱憤が溜まってますからね。兵士とかなら遠慮なく殴ります」
というわけで、当面の対処法が決定した。その時のゼリアの笑顔に、国王は娘の顔を思い出したらしく、どこか震えていた。
ドゴォッ!
城に大きな音が響き渡る。
「ぐはぁっ!」
壁に兵士がめり込んでいた。それを見た使用人たちが震えている。
「ああ、ごめんなさい。何かうるさかったから叩き落としたら兵士でしたのね」
涼しい顔をして、ゼリアは怖い事を言っている。壁にめり込んだ兵士は、生きてはいるものの、壁から動けないでいる。
「耳障りな音が聞こえたら遠慮なく叩き落しますので、虫の一匹も城に入れないように頼みますわね」
「は、はいぃぃっ!」
ゼリアが笑顔で歩いてその場を去ると、恐怖に固まった兵士や使用人だけが残された。
「だ、誰か……、助けてくれ」
壁にめり込んだ兵士が、痛みに耐えながら懇願していた。
「あ、あの理不尽さは、カレン様です……」
体を縮こまらせて内またで震える侍女。
「いてぇよ……。全身の骨が、砕けたかと、思ったぜ……」
しばらく壁画と化していた兵士も、すっかり満身創痍である。同僚に手でなんとか壁画から人間へと戻ってこれたようだ。
この兵士を殴って壁画に変え、にこやかな表情で歩き去ったカレンの話は、瞬く間に城中に広まった。これは、カレンの事を別人と疑った面々に衝撃を走らせた。一様に震え上がって、顔面を蒼白に染めていた。こんな反応を示されるカレン。お姫様だよね?
別の日の事だ。
「お前たち、どうしたんだ?」
「こ、これはアレス殿下。いや、これはですね……」
震え上がる侍女に、痛みに悶える兵士。どう見てもこれは普通の状況ではない。なのでアレスは状況の説明を求めた。
「……そうか、カレンがやらかしてくれたか」
事情を聞いたアレスは、顔を押さえた。それと同時に、ゼリアがこういう行動に出た理由も察した。
アレス自身も直接聞いていたわけではないが、カレンに対して怪しむ者が増えている空気を感じていた。だからこそ、その疑いを文字通り吹き飛ばすためにこのような行動に出たのだろう。実際カレンは、気に入らない兵士をこうやって殴り飛ばしていた。さすがに使用人は殴り飛ばさなかったが、その場合は壁が被害を受けていた。城の壁のあちこちに修繕の跡があるのはそのせいである。
「……せっかく修繕費が安くて済むと思っていたのに、さっそくこれか。これは財務大臣が頭を抱える事態だぞ」
アレスが心ここにあらずといった感じに呟いている。
「とりあえずお前たち」
「は、はいっ!」
アレスが呼び掛けると、使用人が驚いて飛び上がる。
「城を穴だらけにされたくないんでな、カレンの機嫌を損ねるような事はしないようにしてくれ。これが続けば、間違いなく財務大臣の胃に穴が開く」
アレスが勘弁してくれと言わんばかりの困ったような表情で、兵士や使用人たちに言いつける。これに対して、兵士も使用人もぶんぶんとすごい勢いで首を縦に振っていた。
この気に食わないやつは殴り飛ばすという作戦で、カレンは偽者という噂は、あっという間に鎮静化していった。やはり筋肉は偉大なのであった。
だが、その一方で城のあちこちに凹みが発生して、国王とアレスと財務大臣が頭を抱えたのは言うまでもない事だった。
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