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第一部 スライム姉妹、登場
第23話 侍女の葛藤
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ちょっと時間が遡る。
最近、カレン様の様子がおかしい。
そういう声が城の中に聞こえ始めていた。
ここ20日間くらいだろうか。あれだけ暴れ散らし、ガサツな笑い声を飛ばしていたカレン姫が、まるで人が変わったかのようにお淑やかになっていたのだ。所作は美しいし、声掛けも優しい言葉が出てくる。本当に別人ではないかと疑うには十分だった。
「姫様を疑うのはよろしくないが、どうしても気に掛かる事が多すぎる。解き明かすために協力してくれないだろうか」
兵士の詰め所で上がったこの声に、何名かの兵士が同調した。そして、この声に同調する向きは、使用人たちの間にも広がっていった。
カレンの専属侍女であるルチアの耳にも、この声は届いていた。ルチアにもこの派閥から声は掛けられていた。
「ルチアは姫様の専属でしょ? 何か知らないの?」
「知っていたからといって、それを他人に漏らすような人間に専属なんて務まると思うの?」
同僚の侍女から聞かれたルチアは、バッサリと斬り捨てた。
ルチアは、今のカレンが偽者だという事は知っている。だからといって他人に話すわけにはいかない。王族からきっちり口止めをされているからだ。それに、ルチアはゼリアの事を今では気に入っているという理由もある。必死にカレンを演じようとしているその姿を、いつしか見守るようになっていた。やらかそうものならしっかりフォローを入れるのも忘れない。二人の関係は、もうそこまで構築されているのだ。
(さて、これはどうしたものかしらね。お耳に入れておくだけ入れておいて、泳がしておきましょうかね)
ルチアはとても冷静だった。
ルチアはゼリアのところに向かう前に、国王たちのところへと寄り道をする。
「陛下のお耳に入れておきたい事がございます。お会いする事ができますでしょうか」
「カレン様の侍女か。少し待っていろ」
国王の部屋の前で番をする衛兵の一人は、そう言って扉をノックして国王へと確認を取った。
「入室の許可が出た。入るがよい」
「ありがとうございます」
ルチアは頭を下げると、国王の部屋へと入っていった。
「陛下、失礼致します。ルチアでございます」
「ルチアか。どうした、カレンが何か問題でも起こしたか?」
国王が執務の手を止めると、ルチアを眺めた。するとルチアが深く頭を下げた。
「はい、ちょっと城で広がりつつある噂についてお耳にしておきたく存じまして、今回お寄りしました」
「……申せ」
国王の眉がピクリと動いた。
ルチアは、休憩中に同僚から持ち掛けられた話を国王に包み隠さず伝えた。今のカレン姫が偽者ではないかと疑っている事、その噂を聞いた同僚が専属侍女であるルチアに確認を取ってきた事といった事である。
それを聞いた国王は、少し難しそうな顔をしていた。ゼリアは理想の王女像を持って振る舞っているので、いくら病気などと理由をつけても急激な変化を説明づけるのは困難だったのだ。
対外的な事を考えると、今のゼリアの振る舞いは理想である。しかし、わがままにカレンが振る舞いすぎたがために、城の中の者への不信感がくすぶり始めたという事である。
「しばらくは様子を見ておこう。収拾があまりにも付きそうにないと判断したら、城の中限定で明かす事も考える」
「畏まりました。私もその方向で同僚に対応致します」
「うむ。一応王妃やアレスとも相談するが、しばらくはそのように頼むぞ」
国王への報告を終えたルチアは、そのまま国王の部屋を出る。そして、カレンの部屋に向かう最中で、人の気配のないところで大きくため息を吐いた。
(さすがにゼリア様は、カレン様との像がかけ離れていますものね)
噂が出始めた原因について、ルチアは正直同意するしかなかった。自分自身もゼリアを初めて見た時に、カレンとの違いに卒倒しそうなレベルで驚いたものである。
しかし、一方で別の感情も沸いたのだ。
それは、ルチアが目指したかった理想の王女像のようなものを、魔物が演じていた事による悔しさだ。王女付きの侍女として、お淑やかで強かな王女というものを育てたかった。ところが、カレンはそれとは大きくかけ離れた暴力的でわがままな王女として育った。正直心は折れかかった。それでも頑張れたのは、時折見せたカレンの優しさがあったからだ。だからこそ、理想とはかけ離れてしまったカレンでも、侍女として仕え続けたのだ。
(カレン様はいつ戻られるのかしら)
ルチアはそう思いながら、ゼリアの待つ部屋へと紅茶とお菓子を運んでいった。
本物のカレンが戻ってくる日まで、魔物のゼリアの相手をしなければならない。だが、そのゼリアとのカレン談義はひそかな楽しみとなっていた。
最近、カレン様の様子がおかしい。
そういう声が城の中に聞こえ始めていた。
ここ20日間くらいだろうか。あれだけ暴れ散らし、ガサツな笑い声を飛ばしていたカレン姫が、まるで人が変わったかのようにお淑やかになっていたのだ。所作は美しいし、声掛けも優しい言葉が出てくる。本当に別人ではないかと疑うには十分だった。
「姫様を疑うのはよろしくないが、どうしても気に掛かる事が多すぎる。解き明かすために協力してくれないだろうか」
兵士の詰め所で上がったこの声に、何名かの兵士が同調した。そして、この声に同調する向きは、使用人たちの間にも広がっていった。
カレンの専属侍女であるルチアの耳にも、この声は届いていた。ルチアにもこの派閥から声は掛けられていた。
「ルチアは姫様の専属でしょ? 何か知らないの?」
「知っていたからといって、それを他人に漏らすような人間に専属なんて務まると思うの?」
同僚の侍女から聞かれたルチアは、バッサリと斬り捨てた。
ルチアは、今のカレンが偽者だという事は知っている。だからといって他人に話すわけにはいかない。王族からきっちり口止めをされているからだ。それに、ルチアはゼリアの事を今では気に入っているという理由もある。必死にカレンを演じようとしているその姿を、いつしか見守るようになっていた。やらかそうものならしっかりフォローを入れるのも忘れない。二人の関係は、もうそこまで構築されているのだ。
(さて、これはどうしたものかしらね。お耳に入れておくだけ入れておいて、泳がしておきましょうかね)
ルチアはとても冷静だった。
ルチアはゼリアのところに向かう前に、国王たちのところへと寄り道をする。
「陛下のお耳に入れておきたい事がございます。お会いする事ができますでしょうか」
「カレン様の侍女か。少し待っていろ」
国王の部屋の前で番をする衛兵の一人は、そう言って扉をノックして国王へと確認を取った。
「入室の許可が出た。入るがよい」
「ありがとうございます」
ルチアは頭を下げると、国王の部屋へと入っていった。
「陛下、失礼致します。ルチアでございます」
「ルチアか。どうした、カレンが何か問題でも起こしたか?」
国王が執務の手を止めると、ルチアを眺めた。するとルチアが深く頭を下げた。
「はい、ちょっと城で広がりつつある噂についてお耳にしておきたく存じまして、今回お寄りしました」
「……申せ」
国王の眉がピクリと動いた。
ルチアは、休憩中に同僚から持ち掛けられた話を国王に包み隠さず伝えた。今のカレン姫が偽者ではないかと疑っている事、その噂を聞いた同僚が専属侍女であるルチアに確認を取ってきた事といった事である。
それを聞いた国王は、少し難しそうな顔をしていた。ゼリアは理想の王女像を持って振る舞っているので、いくら病気などと理由をつけても急激な変化を説明づけるのは困難だったのだ。
対外的な事を考えると、今のゼリアの振る舞いは理想である。しかし、わがままにカレンが振る舞いすぎたがために、城の中の者への不信感がくすぶり始めたという事である。
「しばらくは様子を見ておこう。収拾があまりにも付きそうにないと判断したら、城の中限定で明かす事も考える」
「畏まりました。私もその方向で同僚に対応致します」
「うむ。一応王妃やアレスとも相談するが、しばらくはそのように頼むぞ」
国王への報告を終えたルチアは、そのまま国王の部屋を出る。そして、カレンの部屋に向かう最中で、人の気配のないところで大きくため息を吐いた。
(さすがにゼリア様は、カレン様との像がかけ離れていますものね)
噂が出始めた原因について、ルチアは正直同意するしかなかった。自分自身もゼリアを初めて見た時に、カレンとの違いに卒倒しそうなレベルで驚いたものである。
しかし、一方で別の感情も沸いたのだ。
それは、ルチアが目指したかった理想の王女像のようなものを、魔物が演じていた事による悔しさだ。王女付きの侍女として、お淑やかで強かな王女というものを育てたかった。ところが、カレンはそれとは大きくかけ離れた暴力的でわがままな王女として育った。正直心は折れかかった。それでも頑張れたのは、時折見せたカレンの優しさがあったからだ。だからこそ、理想とはかけ離れてしまったカレンでも、侍女として仕え続けたのだ。
(カレン様はいつ戻られるのかしら)
ルチアはそう思いながら、ゼリアの待つ部屋へと紅茶とお菓子を運んでいった。
本物のカレンが戻ってくる日まで、魔物のゼリアの相手をしなければならない。だが、そのゼリアとのカレン談義はひそかな楽しみとなっていた。
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