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第一部 スライム姉妹、登場
第22話 結果は同じですから
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そんなわけで、カレンの正体を暴こうとする兵士の一派が結成された。ゼリアはそんな事などつゆ知らず、王女としての活動を続けていた。
毎日座学をしたりダンスの練習をしたり、ゼリアは大変な勉強を楽しみながらこなしている。魔物のゼリアにとって、人間の生活は新鮮なのである。そして、国王、王妃、アレスと話をしているのも、だいぶ楽しくなっていた。国王たちも実の娘と接しているように振る舞っているので、ゼリアもこの国の王女になったかのような錯覚を覚えた。
「もうすっかり馴染んでいらっしゃいますね」
こういうのはカレンの専属侍女であるルチアだ。すっかりゼリアの事を認めたようで、無礼な口を聞く事もすっかりなくなっていた。それと比例するように、カレンに対する愚痴が増えたような気がするが、カレンの性格からすれば仕方のない事かも知れない。
「私も正直こうも馴染めるとは思っていませんでしたけれどね。それくらいにカレン様には苦労させられてきたのでしょうね、ルチアも」
ゼリアが部屋でお茶をしながら、ルチアと話をしている。
「最近は顔色がいいですねと、同僚から言われる始末ですから。自分ではそこまで思ってはいませんでしたが、疲れ切っていたのでしょうね」
「……本当にご苦労様ね」
ルチアの近況の話に、ゼリアは困惑して笑う事しかできなかった。
「私はカレン様に近付けつつ、理想的な王女様を演じさせてもらうだけど」
ゼリアがどこか嫌そうな顔をしつつ、ルチアにそう伝える。
「……カレン様とかけ離れすぎてて、別人疑惑が抱かれてしまうと思いますが……」
「いや、カレン様の普段は私知らないし! 擬態できるからといって完全コピーなんて無理よ」
ルチアが懸念を話せば、ゼリアは全力で無理だと伝える。
「……はっきり言えるという事は、カレン様の普段をご存じなのですね?」
ゼリアはルチアのツッコミに、思わず顔を逸らしていた。……間抜けは見つかったようだ。
「いや、その、あの……」
ゼリアはしどろもどろに慌てている。その姿を見てルチアは笑っていた。
「本当にあなたは面白い方ですね。魔物だなんていうのが信じられませんよ」
本当に出会った頃からは想像もできないくらいの笑顔である。それくらいにゼリアとルチアは打ち解けている。
「私だって、あんなイメージからかけ離れた姫様が居るなんて思わなかったわよ」
カレンの事で愚痴るゼリアだが、その顔は文句を言っているとは思えないくらいに笑っていた。
しばらく談笑していた二人だったが、急にルチアが真剣な表情になる。
「カレン様、というかゼリア様のお耳に入れておきたい事がございます」
「……何かしら」
「最近、ゼリア様の扮するカレン様に違和感を覚える者が増えており、その正体を暴こうとしている勢力がございます」
「……やっぱり出てくるの?」
ルチアからの報告を聞いたゼリアが、困ったような表情で確認を取ると、ルチアは黙って頷いていた。それを見たゼリアは大きくため息を吐いた。
これも仕方のない事である。いろいろ理由付けをしたところで、カレンとゼリアではその像が大きくかけ離れている。そういった疑念が出ない方が難しいと言える。この流れは必至なのであった。
「どうしましょうかね」
「どうもこうも、このまま泳がせておくつもりです。ゼリア様は陛下と王妃殿下の公認の身代わりなのですから、訴えてきたところでどのみち不敬罪で罰せられる事になります。ゼリア様がお気になさる事ではないのですよ」
ルチアは淡々と言い放ってくれた。
「いや、死罪とかはやめてね?」
「あら、お優しい」
ゼリアの言葉に、意外だと言わんばかりのルチアの反応。
「暗殺対象以外には基本的に優しいのですよ。私はスライムですから、目撃されたってそう影響はないですから」
そう、ゼリアは自分は最底辺のスライムと思われているだろうし、ターゲット以外には興味を持つ事がなかったのだ。なので、基本的にスルーで不殺を心掛けていたのだ。本当に変わったスライムである。
「とにかく軽い罰則程度にしておいて欲しいです。寝起きに影響しそうで怖いですから」
ゼリアはぷいっと頬を膨らませて顔を背けた。
「畏まりました。もしそうなった際には、カレン様が処罰を求めていないとお伝えさせて頂きます」
ルチアはここに来て無表情にゼリアの訴えを受け入れた。どうやら不服のようである。しかし、侍女という立場上、主人には逆らえないからこその表情なのだろう。ルチアは顔を傾げてため息を吐いた。
「ルチア?」
ゼリアは強気にルチアに迫る。
「……ゼリア様がそこまで仰られるのでしたら、我慢するしかありませんね」
こっわ……、この侍女は死刑にするつもりだったらしい。なので、ゼリアは、
「だったら、私が正拳突き寸止めをするでいい?」
慌てたように刑罰を提案する。すると、
「それでしたら構いませんね。それで妥協いたしましょう」
仕方なしといった表情だった。まぁアサシンスライムを素手で一撃でノックダウンするカレンの拳だ。寸止めであっても相当にダメージが入るのは想像に難くない。刑罰としては十分言えよう。
何かと物騒な話題もあったが、ゼリアはルチアとのお茶を楽しんだのであった。
毎日座学をしたりダンスの練習をしたり、ゼリアは大変な勉強を楽しみながらこなしている。魔物のゼリアにとって、人間の生活は新鮮なのである。そして、国王、王妃、アレスと話をしているのも、だいぶ楽しくなっていた。国王たちも実の娘と接しているように振る舞っているので、ゼリアもこの国の王女になったかのような錯覚を覚えた。
「もうすっかり馴染んでいらっしゃいますね」
こういうのはカレンの専属侍女であるルチアだ。すっかりゼリアの事を認めたようで、無礼な口を聞く事もすっかりなくなっていた。それと比例するように、カレンに対する愚痴が増えたような気がするが、カレンの性格からすれば仕方のない事かも知れない。
「私も正直こうも馴染めるとは思っていませんでしたけれどね。それくらいにカレン様には苦労させられてきたのでしょうね、ルチアも」
ゼリアが部屋でお茶をしながら、ルチアと話をしている。
「最近は顔色がいいですねと、同僚から言われる始末ですから。自分ではそこまで思ってはいませんでしたが、疲れ切っていたのでしょうね」
「……本当にご苦労様ね」
ルチアの近況の話に、ゼリアは困惑して笑う事しかできなかった。
「私はカレン様に近付けつつ、理想的な王女様を演じさせてもらうだけど」
ゼリアがどこか嫌そうな顔をしつつ、ルチアにそう伝える。
「……カレン様とかけ離れすぎてて、別人疑惑が抱かれてしまうと思いますが……」
「いや、カレン様の普段は私知らないし! 擬態できるからといって完全コピーなんて無理よ」
ルチアが懸念を話せば、ゼリアは全力で無理だと伝える。
「……はっきり言えるという事は、カレン様の普段をご存じなのですね?」
ゼリアはルチアのツッコミに、思わず顔を逸らしていた。……間抜けは見つかったようだ。
「いや、その、あの……」
ゼリアはしどろもどろに慌てている。その姿を見てルチアは笑っていた。
「本当にあなたは面白い方ですね。魔物だなんていうのが信じられませんよ」
本当に出会った頃からは想像もできないくらいの笑顔である。それくらいにゼリアとルチアは打ち解けている。
「私だって、あんなイメージからかけ離れた姫様が居るなんて思わなかったわよ」
カレンの事で愚痴るゼリアだが、その顔は文句を言っているとは思えないくらいに笑っていた。
しばらく談笑していた二人だったが、急にルチアが真剣な表情になる。
「カレン様、というかゼリア様のお耳に入れておきたい事がございます」
「……何かしら」
「最近、ゼリア様の扮するカレン様に違和感を覚える者が増えており、その正体を暴こうとしている勢力がございます」
「……やっぱり出てくるの?」
ルチアからの報告を聞いたゼリアが、困ったような表情で確認を取ると、ルチアは黙って頷いていた。それを見たゼリアは大きくため息を吐いた。
これも仕方のない事である。いろいろ理由付けをしたところで、カレンとゼリアではその像が大きくかけ離れている。そういった疑念が出ない方が難しいと言える。この流れは必至なのであった。
「どうしましょうかね」
「どうもこうも、このまま泳がせておくつもりです。ゼリア様は陛下と王妃殿下の公認の身代わりなのですから、訴えてきたところでどのみち不敬罪で罰せられる事になります。ゼリア様がお気になさる事ではないのですよ」
ルチアは淡々と言い放ってくれた。
「いや、死罪とかはやめてね?」
「あら、お優しい」
ゼリアの言葉に、意外だと言わんばかりのルチアの反応。
「暗殺対象以外には基本的に優しいのですよ。私はスライムですから、目撃されたってそう影響はないですから」
そう、ゼリアは自分は最底辺のスライムと思われているだろうし、ターゲット以外には興味を持つ事がなかったのだ。なので、基本的にスルーで不殺を心掛けていたのだ。本当に変わったスライムである。
「とにかく軽い罰則程度にしておいて欲しいです。寝起きに影響しそうで怖いですから」
ゼリアはぷいっと頬を膨らませて顔を背けた。
「畏まりました。もしそうなった際には、カレン様が処罰を求めていないとお伝えさせて頂きます」
ルチアはここに来て無表情にゼリアの訴えを受け入れた。どうやら不服のようである。しかし、侍女という立場上、主人には逆らえないからこその表情なのだろう。ルチアは顔を傾げてため息を吐いた。
「ルチア?」
ゼリアは強気にルチアに迫る。
「……ゼリア様がそこまで仰られるのでしたら、我慢するしかありませんね」
こっわ……、この侍女は死刑にするつもりだったらしい。なので、ゼリアは、
「だったら、私が正拳突き寸止めをするでいい?」
慌てたように刑罰を提案する。すると、
「それでしたら構いませんね。それで妥協いたしましょう」
仕方なしといった表情だった。まぁアサシンスライムを素手で一撃でノックダウンするカレンの拳だ。寸止めであっても相当にダメージが入るのは想像に難くない。刑罰としては十分言えよう。
何かと物騒な話題もあったが、ゼリアはルチアとのお茶を楽しんだのであった。
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