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第一部 スライム姉妹、登場
第9話 魔王からの返事
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それからも、ゼリアはカレンの影武者として、王族としての教育を施されていった。それは講師陣からも評価されるほどの頑張りで、人前に出ても問題は無いレベルに達していった。
あっと今に20日ほどが過ぎていった。
その間、ゼリアはグミとも連絡を取り合い、その時に聞いたカレンの様子を国王たちに報告している。その度に国王と王妃、それにアレスと宰相とルチア、入れ替わりを知る全員が頭を抱えていた。一国の王女ともあろう者が、己の拳ひとつで魔物を次々と倒すどころか、街でトラブルを起こしては文字通りの鉄拳制裁で解決していったのだから。グミから連絡を受けていたゼリアが、真っ先に卒倒しかけたのは言うまでもない話である。
さて、さすがに20日も経てば、ゼリアたちの雇い主である魔王からの返事も来ていた。というわけで、ゼリアは現在、夕食の席で魔王からの返事を読み上げる事になっていた。ちなみに手紙の中身はまだ確認できていない。なぜなら届いたばかりだからである。
ゼリアは緊張の面持ちで国王たちと向き合っている。
(魔王様は、一体どんな返事を書かれたのかしら)
ゼリアも気になるところである。
緊張はしたものの、無事に返事を読み終えたゼリア。手紙に書かれていたのは、王女の命を狙った事への謝罪と、魔族たちの現状の話だった。
ゼリアも意思のある魔物としてはある程度認識していたが、考えていた以上に魔族領は荒れている状態だった。そちらへの対処があるために、人間たちと戦う事はしないという明確な意思が示されていた。これにはビボーナ王国としては、ほっとしたようである。
「魔族との戦いが避けられたのは大きいな」
「しかし、魔族というのも一枚岩というわけではないのですね」
国王と王妃がそれぞれ感想を述べている。
「私も詳しくは知りませんでしたが、現在の魔王様を中心とした穏健派と地方の武闘派の間でいさかいが起きている事は聞いた事があります」
ゼリアの認識もこの程度だが、魔族領はかなり広いので情報が正確に伝わらなくても仕方のない事だった。
「私たちもそうだが、魔族というものに対しては敵対的な考えを持つ者が多いのは事実だ。特に妹のカレンは悪者と決めつけていたからな。スライムを素手で倒せるくらいに鍛えているのもそのせいだろうな」
「魔王が娘を狙う気も分かるな。我々とて脅威と感じたら、潰すか取り入るかの二択になるからな」
「という事は、あの子が出ていった理由って……」
何かに感づいた王妃がゼリアを見る。その視線にゼリアは一瞬委縮する。
「はい。元々城の生活を窮屈に感じられていた事も原因ですが、こちらの事情を話したら、カレン様には魔王様に敵対する勢力を潰してあげるから、身代わりをしてと言われました」
思い当たった理由そのままで、王妃は盛大にため息を吐いた。これには周り全員が苦笑いするしかなかった。
「すまなかったな、妹のせいで大変な目に遭わせてしまって」
「い、いえ、お兄様。私は大丈夫ですから。むしろ、現在進行形でカレン様に付き合わされているグミの方が心配です」
アレスが謝罪してきたが、ゼリアは慌てて言い繕った。ちなみにこのゼリアの言葉に、誰も否定の言葉を返す者は居なかった。それどころか、全員が強く頷いている。家族はおろか側近にまでこんな風に思われている姫様というのもそうそう居ない。ゼリアは引きつった笑顔を浮かべる事しかできなかった。
夜の食事を終えたところで、国王とゼリアは手紙を認め、ゼリアの分体に手紙を持たせて魔王の元へと行かせた。主だった内容は、提案の受け入れとカレンの扱いである。グミが付いている以上、おそらく一度は魔王の所へ向かうはずだからだ。
魔王からの返事を受け取った夜、ゼリアは寝間着に着替えてベッドに転がった。着替えた直後なので、侍女のルチアも近くに居る。
「ねえ、ルチア」
「なんでしょう、ゼリアさん」
ベッドに転がった状態で、ゼリアはルチアに話し掛ける。
「魔族と仲良くしろって言われて、可能かしらね」
ゼリアにこう尋ねられて、ルチアは少し考え込んだ。
「……そうですね、普通に考えて無理だと思います」
「でしょうね」
ルチアから返ってきた答えは予想通りだ。
「でも、あなたのようなのも居るから、無理なだけで不可能ではないと思います」
「……」
だが、ルチアから続けて出てきた言葉に、ゼリアは驚いた。
「……私は自分を明かして、この国に受け入れられるかしら」
「少なくとも、驚かれるでしょうね。姫様だと思ったらスライムですもの」
ゼリアの呟きに、ルチアは淡々と返す。そして、ゆっくりと立ち上がった。
「これまでは仕事だと思って付き合って参りましたけれど、少なくとも、私はゼリアさんを受け入れますよ」
「ルチア……」
後ろを向いたまま、ルチアははっきりと言っていた。
「さあ、明日も一日講義がございます。寝坊しないように早くお休み下さい」
「……そうね。おやすみなさい、ルチア」
「おやすみなさいませ、カレン様」
最後に強調するように王女の名を呼んだルチアに、ゼリアはくすっと笑ってしまった。王女付きの侍女としての振る舞いなのだろう。だが、ゼリアはどこか嬉しかったようだ。
そして、ゼリアはすっと眠りについた。
あっと今に20日ほどが過ぎていった。
その間、ゼリアはグミとも連絡を取り合い、その時に聞いたカレンの様子を国王たちに報告している。その度に国王と王妃、それにアレスと宰相とルチア、入れ替わりを知る全員が頭を抱えていた。一国の王女ともあろう者が、己の拳ひとつで魔物を次々と倒すどころか、街でトラブルを起こしては文字通りの鉄拳制裁で解決していったのだから。グミから連絡を受けていたゼリアが、真っ先に卒倒しかけたのは言うまでもない話である。
さて、さすがに20日も経てば、ゼリアたちの雇い主である魔王からの返事も来ていた。というわけで、ゼリアは現在、夕食の席で魔王からの返事を読み上げる事になっていた。ちなみに手紙の中身はまだ確認できていない。なぜなら届いたばかりだからである。
ゼリアは緊張の面持ちで国王たちと向き合っている。
(魔王様は、一体どんな返事を書かれたのかしら)
ゼリアも気になるところである。
緊張はしたものの、無事に返事を読み終えたゼリア。手紙に書かれていたのは、王女の命を狙った事への謝罪と、魔族たちの現状の話だった。
ゼリアも意思のある魔物としてはある程度認識していたが、考えていた以上に魔族領は荒れている状態だった。そちらへの対処があるために、人間たちと戦う事はしないという明確な意思が示されていた。これにはビボーナ王国としては、ほっとしたようである。
「魔族との戦いが避けられたのは大きいな」
「しかし、魔族というのも一枚岩というわけではないのですね」
国王と王妃がそれぞれ感想を述べている。
「私も詳しくは知りませんでしたが、現在の魔王様を中心とした穏健派と地方の武闘派の間でいさかいが起きている事は聞いた事があります」
ゼリアの認識もこの程度だが、魔族領はかなり広いので情報が正確に伝わらなくても仕方のない事だった。
「私たちもそうだが、魔族というものに対しては敵対的な考えを持つ者が多いのは事実だ。特に妹のカレンは悪者と決めつけていたからな。スライムを素手で倒せるくらいに鍛えているのもそのせいだろうな」
「魔王が娘を狙う気も分かるな。我々とて脅威と感じたら、潰すか取り入るかの二択になるからな」
「という事は、あの子が出ていった理由って……」
何かに感づいた王妃がゼリアを見る。その視線にゼリアは一瞬委縮する。
「はい。元々城の生活を窮屈に感じられていた事も原因ですが、こちらの事情を話したら、カレン様には魔王様に敵対する勢力を潰してあげるから、身代わりをしてと言われました」
思い当たった理由そのままで、王妃は盛大にため息を吐いた。これには周り全員が苦笑いするしかなかった。
「すまなかったな、妹のせいで大変な目に遭わせてしまって」
「い、いえ、お兄様。私は大丈夫ですから。むしろ、現在進行形でカレン様に付き合わされているグミの方が心配です」
アレスが謝罪してきたが、ゼリアは慌てて言い繕った。ちなみにこのゼリアの言葉に、誰も否定の言葉を返す者は居なかった。それどころか、全員が強く頷いている。家族はおろか側近にまでこんな風に思われている姫様というのもそうそう居ない。ゼリアは引きつった笑顔を浮かべる事しかできなかった。
夜の食事を終えたところで、国王とゼリアは手紙を認め、ゼリアの分体に手紙を持たせて魔王の元へと行かせた。主だった内容は、提案の受け入れとカレンの扱いである。グミが付いている以上、おそらく一度は魔王の所へ向かうはずだからだ。
魔王からの返事を受け取った夜、ゼリアは寝間着に着替えてベッドに転がった。着替えた直後なので、侍女のルチアも近くに居る。
「ねえ、ルチア」
「なんでしょう、ゼリアさん」
ベッドに転がった状態で、ゼリアはルチアに話し掛ける。
「魔族と仲良くしろって言われて、可能かしらね」
ゼリアにこう尋ねられて、ルチアは少し考え込んだ。
「……そうですね、普通に考えて無理だと思います」
「でしょうね」
ルチアから返ってきた答えは予想通りだ。
「でも、あなたのようなのも居るから、無理なだけで不可能ではないと思います」
「……」
だが、ルチアから続けて出てきた言葉に、ゼリアは驚いた。
「……私は自分を明かして、この国に受け入れられるかしら」
「少なくとも、驚かれるでしょうね。姫様だと思ったらスライムですもの」
ゼリアの呟きに、ルチアは淡々と返す。そして、ゆっくりと立ち上がった。
「これまでは仕事だと思って付き合って参りましたけれど、少なくとも、私はゼリアさんを受け入れますよ」
「ルチア……」
後ろを向いたまま、ルチアははっきりと言っていた。
「さあ、明日も一日講義がございます。寝坊しないように早くお休み下さい」
「……そうね。おやすみなさい、ルチア」
「おやすみなさいませ、カレン様」
最後に強調するように王女の名を呼んだルチアに、ゼリアはくすっと笑ってしまった。王女付きの侍女としての振る舞いなのだろう。だが、ゼリアはどこか嬉しかったようだ。
そして、ゼリアはすっと眠りについた。
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