スライム姉妹の受難

未羊

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第一部 スライム姉妹、登場

第8話 水面下の交渉へ

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 舞台は再びビボーナ王国の城に戻る。
 この日はいろいろとお勉強の日である。歴史であったり言語であったり、それこそ多岐に渡って学ばなければならなかった。カレンだったら文句ばかりだっただろうが、今のカレンは全くの別人、というか人ですらなかった。ゼリアはまじめに勉強をしている。
 元々魔族たちの住む領域で生まれた魔物であるゼリアは、ここ数日のやり取りで真剣に人間たちの世界を学ぼうとしていたのだ。影武者をするという事よりも、単純に探究意欲が勝っていた。このゼリアの姿勢に、講師陣は涙していた。よっぽど脳筋姫に手を焼いていたのだろう。魔物であるはずのゼリアは、内心同情していた。
 こうして午前中の座学を済ませたゼリアは、ルチアに連れられて王族の食堂へとやって来た。
「ゼリアさん、お疲れ様」
「うむ、近うに寄れ」
「……」
 国王と王妃はゼリアに声を掛けたが、兄のアレスは黙ってゼリアを見ただけだった。
「今日から勉強を再開させてみたけど、どうだったかしら」
 食事をしながら王妃が尋ねてくる。少し驚いたゼリアだったが、
「実に興味深いです。アサシンスライムという特性上、他の魔物や魔族に比べれば学習意欲があるせいでしょうが、なかなか楽しかったです」
 少し早口気味に笑顔で返していた。それを聞いた国王と兄は驚き、王妃にいたっては涙を流した。一体どういう事なのかと思ったが、カレンが脳筋過ぎる事やさっきの講師陣の態度を見て察するゼリア。そう、カレンは家族にまでかなり心労を掛けていたのだった。
「そう。ゼリアは魔物なのに変わっているのね」
 王妃が微笑みながら言っている。
 ……分からなくはない。魔物といえば本能の従い動くだけだったり、使役者の意図のままに動いたりする、自我の乏しい存在だからだ。だが、ゼリアやグミの種族であるアサシンスライムとその下位にあたるミミックスライムは、擬態という特殊な能力を持つ。時に人間に化ける事もあるので、適応を重ねた結果自立意思を持つ個体も現れた。魔物や人間を取り込んではその思考や行動を学習する事もある。
 ゼリアやグミはそういった進化した個体であるとともに、姉妹の契りという特殊な行動を取っていた。なので、二人は特殊個体となるまでに進化したのである。それは魔物というより、魔族といった方がよいレベルだった。
「しかし、そなたの妹、カレンに無理やり付き合わされておるのだったな」
「はい、グミは今カレン様と行動を共にしています。カレン様の性格を考えると、私グミに恨まれそうです……」
 国王がグミの話題を振ると、ゼリアはちょっと顔を背けながら懸念を話す。
「確かにな。お前さんが娘のフリをしている間は、衣食住は問題ないしな。暗殺に来る奴はたまに居るだろうが、我が国の警備をなめてもらっては困る。……お前さんたちという例外はあったがな」
「そうね。あの子が無事に戻ってきた時には、グミさんの褒美を考えておきませんとね」
 ゼリアの懸念に、国王や王妃は共感したようだ。ただ、カレンが外をうろついている限りは、こちらではどうする事もできなかった。
「時に、そなたの主、魔王殿と話をする事は可能か?」
「えっ? あ、はい。私の能力を使えばできなくはないです」
 国王の急な質問にゼリアは驚いていた。だが、その質問の意図をゼリアは理解し、髪の毛を一本抜いて変化させた。
「これは私の分体です。本体わたしと違って意思は持ちませんが、伝言や突撃といった簡単な命令を実行する事が出来ます」
「ほほぉ」
「手紙を持たせて伝言役にする事はできますよ。分体でも収納袋というスキルは使えますから」
 ゼリアはフォークを分体に突っ込んでみせる。すると、フォークは分体へと吸い込まれていった。
「魔王様はこのスキルの事はご存じです。収納を発動しているサインも取り出し方も知っていらっしゃいます」
 ゼリアが指し示す分体は、うっすらと点滅していた。
「色で中身が分かるんです。危険な物が入っていれば赤く光りますし、今はフォークが入っているので、ちょっと危険な意味で橙に光っています。ちなみに手紙でしたら白色に光ります」
「あらまぁ、便利ね」
 王妃が感心していると、ゼリアはよく分からない単語を呟く。すると、分体に取り込まれていたフォークが飛び出した。
「取り出しの合図はスキル保有者が自由に設定できるんです。私の場合は、魔族だけに伝わる古代語なんです」
 国王、王妃、アレスが驚いて見ている。それはまるで、カレンとは違う意味での爆弾を抱え込んだ気分だった。とはいえ、これで国を取り巻く脅威が一つ取り払えるかも知れないという期待ができた。
 食事の後、国王は早速魔王宛てに一筆認め、ゼリアへとそれを託したのだった。
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