3 / 77
第一部 スライム姉妹、登場
第3話 王子との密約
しおりを挟む
事の成り行きを聞いたアレスは、頭が痛くてたまらなかった。
「それで、君の妹はどうしたんだい?」
頭を抱えたまま、カレンに化けたゼリアを見る。すると、ゼリアは思いっきり顔を背けてため息をつきながらこう言った。
「妹のグミは、カレン様に同行していまして、カレン様の髪の毛などの変装道具に化けています。私たちアサシンスライムは分体を作れますし、足音をかき消す事もできますから、こっそりと移動するにはもってこいなんですよ」
ゼリアの顔がどんどんやさぐれていく。その様子を見て、アレスも事情を察したようだった。
「そうか、それで誰もカレンに気付かなかったのか。すまないな、お転婆が過ぎる妹のせいで……」
最初はカレンに化けていた事に怒っていたアレスだったが、事情を聴くにつれて同情を向けるようになっていった。それくらいにカレンには手を焼いていたのだ。
「お転婆が過ぎるってレベルじゃないですよ。私たちスライムを素手で圧倒するんですよ? 物理攻撃をほぼ無効化する私たちを、素手で気絶寸前まで持っていけるって本当に人間なんですか、あの姫様は!」
両手を震わせながら、ゼリアは恐怖に震えている。さすがにアレスも、これには言葉を失った。
しばらく硬直していたアレスが、ゼリアの頭に手を置く。すると、ゼリアの体がびくりとする。
「君の態度を見ていると嘘を言ってるようには思えないし、カレンによっぽど酷い目に遭わされた事はよく分かる。なら、その兄である私にも震えて当然か」
突然の優しい声に、ゼリアはアレスの顔をゆっくりと見上げる。そこには、優しく微笑むアレスの顔があった。
「ところで、当のカレンがどこに居るか分かるかい?」
目が合ったところで、アレスから質問をぶつけられたゼリア。一瞬戸惑ったが、
「妹のグミとは特殊なパスでつながってますので、おおよその位置は把握できます。私たち魔物だけの特殊な能力ですので、カレン様には気付かれていないとは思いますが……」
わずかに震えながらゼリアは質問に答えた。あの規格外の王女カレンの事なのだ。絶対にないとは言い切れないのである。それが、ゼリアが身を震わせた理由なのである。
「そうか。なら無理はさせない方がいいな」
アレスは額に手を当てて、盛大にため息を吐いた。
「それにしても、見た目だけなら本当にカレンそのものだな」
アレスはその姿勢のまま、視線だけをゼリアに向けながら話す。
「はい。カレン様から髪の毛一本だけ頂きまして、それを元に再現してみました。スライムの中でもミミックスライムとアサシンスライムだけが行える、解析再現というスキルです。性格などは、ご本人からなるべくお淑やかにしてくれと言われましたので、私どもの持つ一般的な王女のイメージに基づいて行動させて頂いてます」
ばれてしまったという事もあって、ゼリアは隠す事なくアレスに全部を話している。
それにしても不思議なものである。妹の命を狙った魔物だというのに、フルボッコで返り討ちにされた上に妹を人質に身代わりまで要求されているゼリアに、どういうわけかアレスは同情してしまっていた。それくらいにカレンは規格外のお転婆姫なのである。気が付けば、アレスはゼリアの頭に手を乗せていた。
「分かった。こうなれば妹を連れ戻すのは困難だろう。周りには適当な理由を付けてごまかしておこう」
「私は……、ここに居ていいのですね」
ゼリアは顔の前に両手を上げて、震えながら言う。
「ああ。カレンはすぐに戻るような奴じゃないからな。きっとずっと城を出たくて仕方なかったはずだ。なら、しばらく放っておいて飽きて戻って来るのを待った方がいい」
アレスはゼリアの頭に手を置いたまま、顔をゼリアの前に持ってくる。
「お前の強さも相当なものなのだろう? そうだったら、かえって都合がいい。ただ、父上や母上など、一部の人間には伝えておかねばならんがな」
そう話しているアレスに見つめられたゼリアは、どういうわけかドキッとした気がした。
「そういうわけだ。ゼリア、私からもお前に命じる。カレンの身代わりを見事務めてみせろ。そうすれば、お前の身の安全は私たちが保証する」
アレスにこう告げられて、きゅっとゼリアは顔を引き締めた。
「畏まりました、アレス様。こうなったのも何かの縁。見事カレン様の身代わりを務めあげてみせましょう」
こうして、ゼリアのビボーナ王女としての生活が始まったのだった。
「それで、君の妹はどうしたんだい?」
頭を抱えたまま、カレンに化けたゼリアを見る。すると、ゼリアは思いっきり顔を背けてため息をつきながらこう言った。
「妹のグミは、カレン様に同行していまして、カレン様の髪の毛などの変装道具に化けています。私たちアサシンスライムは分体を作れますし、足音をかき消す事もできますから、こっそりと移動するにはもってこいなんですよ」
ゼリアの顔がどんどんやさぐれていく。その様子を見て、アレスも事情を察したようだった。
「そうか、それで誰もカレンに気付かなかったのか。すまないな、お転婆が過ぎる妹のせいで……」
最初はカレンに化けていた事に怒っていたアレスだったが、事情を聴くにつれて同情を向けるようになっていった。それくらいにカレンには手を焼いていたのだ。
「お転婆が過ぎるってレベルじゃないですよ。私たちスライムを素手で圧倒するんですよ? 物理攻撃をほぼ無効化する私たちを、素手で気絶寸前まで持っていけるって本当に人間なんですか、あの姫様は!」
両手を震わせながら、ゼリアは恐怖に震えている。さすがにアレスも、これには言葉を失った。
しばらく硬直していたアレスが、ゼリアの頭に手を置く。すると、ゼリアの体がびくりとする。
「君の態度を見ていると嘘を言ってるようには思えないし、カレンによっぽど酷い目に遭わされた事はよく分かる。なら、その兄である私にも震えて当然か」
突然の優しい声に、ゼリアはアレスの顔をゆっくりと見上げる。そこには、優しく微笑むアレスの顔があった。
「ところで、当のカレンがどこに居るか分かるかい?」
目が合ったところで、アレスから質問をぶつけられたゼリア。一瞬戸惑ったが、
「妹のグミとは特殊なパスでつながってますので、おおよその位置は把握できます。私たち魔物だけの特殊な能力ですので、カレン様には気付かれていないとは思いますが……」
わずかに震えながらゼリアは質問に答えた。あの規格外の王女カレンの事なのだ。絶対にないとは言い切れないのである。それが、ゼリアが身を震わせた理由なのである。
「そうか。なら無理はさせない方がいいな」
アレスは額に手を当てて、盛大にため息を吐いた。
「それにしても、見た目だけなら本当にカレンそのものだな」
アレスはその姿勢のまま、視線だけをゼリアに向けながら話す。
「はい。カレン様から髪の毛一本だけ頂きまして、それを元に再現してみました。スライムの中でもミミックスライムとアサシンスライムだけが行える、解析再現というスキルです。性格などは、ご本人からなるべくお淑やかにしてくれと言われましたので、私どもの持つ一般的な王女のイメージに基づいて行動させて頂いてます」
ばれてしまったという事もあって、ゼリアは隠す事なくアレスに全部を話している。
それにしても不思議なものである。妹の命を狙った魔物だというのに、フルボッコで返り討ちにされた上に妹を人質に身代わりまで要求されているゼリアに、どういうわけかアレスは同情してしまっていた。それくらいにカレンは規格外のお転婆姫なのである。気が付けば、アレスはゼリアの頭に手を乗せていた。
「分かった。こうなれば妹を連れ戻すのは困難だろう。周りには適当な理由を付けてごまかしておこう」
「私は……、ここに居ていいのですね」
ゼリアは顔の前に両手を上げて、震えながら言う。
「ああ。カレンはすぐに戻るような奴じゃないからな。きっとずっと城を出たくて仕方なかったはずだ。なら、しばらく放っておいて飽きて戻って来るのを待った方がいい」
アレスはゼリアの頭に手を置いたまま、顔をゼリアの前に持ってくる。
「お前の強さも相当なものなのだろう? そうだったら、かえって都合がいい。ただ、父上や母上など、一部の人間には伝えておかねばならんがな」
そう話しているアレスに見つめられたゼリアは、どういうわけかドキッとした気がした。
「そういうわけだ。ゼリア、私からもお前に命じる。カレンの身代わりを見事務めてみせろ。そうすれば、お前の身の安全は私たちが保証する」
アレスにこう告げられて、きゅっとゼリアは顔を引き締めた。
「畏まりました、アレス様。こうなったのも何かの縁。見事カレン様の身代わりを務めあげてみせましょう」
こうして、ゼリアのビボーナ王女としての生活が始まったのだった。
1
お気に入りに追加
26
あなたにおすすめの小説

【完結】初級魔法しか使えない低ランク冒険者の少年は、今日も依頼を達成して家に帰る。
アノマロカリス
ファンタジー
少年テッドには、両親がいない。
両親は低ランク冒険者で、依頼の途中で魔物に殺されたのだ。
両親の少ない保険でやり繰りしていたが、もう金が尽きかけようとしていた。
テッドには、妹が3人いる。
両親から「妹達を頼む!」…と出掛ける前からいつも約束していた。
このままでは家族が離れ離れになると思ったテッドは、冒険者になって金を稼ぐ道を選んだ。
そんな少年テッドだが、パーティーには加入せずにソロ活動していた。
その理由は、パーティーに参加するとその日に家に帰れなくなるからだ。
両親は、小さいながらも持ち家を持っていてそこに住んでいる。
両親が生きている頃は、父親の部屋と母親の部屋、子供部屋には兄妹4人で暮らしていたが…
両親が死んでからは、父親の部屋はテッドが…
母親の部屋は、長女のリットが、子供部屋には、次女のルットと三女のロットになっている。
今日も依頼をこなして、家に帰るんだ!
この少年テッドは…いや、この先は本編で語ろう。
お楽しみくださいね!
HOTランキング20位になりました。
皆さん、有り難う御座います。
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。

【完結】あなたに知られたくなかった
ここ
ファンタジー
セレナの幸せな生活はあっという間に消え去った。新しい継母と異母妹によって。
5歳まで令嬢として生きてきたセレナは6歳の今は、小さな手足で必死に下女見習いをしている。もう自分が令嬢だということは忘れていた。
そんなセレナに起きた奇跡とは?

【完結】転生7年!ぼっち脱出して王宮ライフ満喫してたら王国の動乱に巻き込まれた少女戦記 〜愛でたいアイカは救国の姫になる
三矢さくら
ファンタジー
【完結しました】異世界からの召喚に応じて6歳児に転生したアイカは、護ってくれる結界に逆に閉じ込められた結果、山奥でサバイバル生活を始める。
こんなはずじゃなかった!
異世界の山奥で過ごすこと7年。ようやく結界が解けて、山を下りたアイカは王都ヴィアナで【天衣無縫の無頼姫】の異名をとる第3王女リティアと出会う。
珍しい物好きの王女に気に入られたアイカは、なんと侍女に取り立てられて王宮に!
やっと始まった異世界生活は、美男美女ぞろいの王宮生活!
右を見ても左を見ても「愛でたい」美人に美少女! 美男子に美少年ばかり!
アイカとリティア、まだまだ幼い侍女と王女が数奇な運命をたどる異世界王宮ファンタジー戦記。

魅了が解けた貴男から私へ
砂礫レキ
ファンタジー
貴族学園に通う一人の男爵令嬢が第一王子ダレルに魅了の術をかけた。
彼女に操られたダレルは婚約者のコルネリアを憎み罵り続ける。
そして卒業パーティーでとうとう婚約破棄を宣言した。
しかし魅了の術はその場に運良く居た宮廷魔術師に見破られる。
男爵令嬢は処刑されダレルは正気に戻った。
元凶は裁かれコルネリアへの愛を取り戻したダレル。
しかしそんな彼に半年後、今度はコルネリアが婚約破棄を告げた。
三話完結です。
婚約破棄されて辺境へ追放されました。でもステータスがほぼMAXだったので平気です!スローライフを楽しむぞっ♪
naturalsoft
恋愛
シオン・スカーレット公爵令嬢は転生者であった。夢だった剣と魔法の世界に転生し、剣の鍛錬と魔法の鍛錬と勉強をずっとしており、攻略者の好感度を上げなかったため、婚約破棄されました。
「あれ?ここって乙女ゲーの世界だったの?」
まっ、いいかっ!
持ち前の能天気さとポジティブ思考で、辺境へ追放されても元気に頑張って生きてます!
嵌められたオッサン冒険者、Sランクモンスター(幼体)に懐かれたので、その力で復讐しようと思います
ゆさま
ファンタジー
美少女パーティーにオヤジ狩りの標的にされ、生死の境をさまよっていたら、Sランクモンスターに懐かれてしまった、ベテランオッサン冒険者のお話。
懐いたモンスターが成長し、美女に擬態できるようになって迫ってきます。どうするオッサン!?
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる