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第五章『思いはひとつ!』
エピローグ1
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魔王の宣言から半年が経ったが、世界は滅びることなく人々は普段の生活を送っている。
ただ、一部の地域からではあるものの、以前とは違った様子が見受けられるようになっていっていた。
その一つが、人間と魔族の共存である。
これまでもイプセルタやシグムスでは一部で見られた光景だったが、イプセルタでの出来事を境に、その広がりを見せていた。
ルルが過ごしてい村はゴブリンとの共存で以前とは比べ物にならないくらい豊かになっているし、ベティスではアルファガドにミーアが居ついて看板娘として振る舞っている。
――霊峰シッタ
「というわけですから、今までさぼった分、しっかりとやってもらいますからね」
「おい、エウロパ。それはさすがに横暴だろう」
「何を仰いますか。どれだけシッタから離れて好き勝手していたと思ってらっしゃるのです。いい加減本来の仕事をして下さい」
マスターはエウロパから怒られていた。
ところが、そのマスターの表情はまったくもって穏やかである。
「まっ、あいつが理想とする世界の実現が進み始めたんだ。ちょっくら、その基礎作りに集中してもいいか……」
「そういっている暇があるのでしたら、さっさとシッタ周りの結界を強化して下さい。本当に、あなたなら一瞬で終わるのに、代わりをする私は数日間拘束されるんですからね」
「ほいほい、分かったよ。任せておけって」
そういうと、マスターは一瞬で霊峰シッタの象徴たる結界を強化してしまう。これにはエウロパは頭の痛い限りだった。
「これですもの……、私の数日間は一体何だっていうのですか……」
「はっはっはっ、お前ももう少し結界の張り方を勉強すべきだな」
マスターはそう言うと、シッタの周りへと視線を向ける。
「それじゃ、見回りに行くとしようか」
「はい。とはいえ、ルナル殿とディラン殿の一件以来、すっかり暴れる魔族は減りましたけれどもね」
「だな。しかし、真の平和にはまだ遠い。俺たちは世界の番人として均衡を守らねばならぬからな」
「御意に」
マスターとエウロパは、ドラゴンの姿となり空へと飛び去っていった。
――シグムス王国
初代国王と現国王を蝕んでいた呪いが解け、国の中はお祭りムードになっていた。
現国王は久しぶりに健康な状態で国民の前に姿を見せ、国民たちはみな一様に歓声を上げている。
「まったく、普通に血色の良い姿を見せるだけでこれとはな……」
「陛下はそのくらいずっと床に臥せってられたのです。それは国民も喜びますとも」
国王がちょっと愚痴めいた事を漏らすと、智将がすぐさま指摘していた。
なにせ国王がこうやって姿を見せるのは10年程ぶりなのだから。それは国民も喜ぶはずである。
「こうなると、次は陛下の伴侶ですかな」
「うむ、今からでも遅くはないな。せっかく呪いが解けたというのに、ここで血を絶やしてしまっては意味がないからな」
智将がぼそっとこぼした言葉に、国王がしっかりと反応している。
「しかしだ。智将、おぬしもいい加減伴侶を持ったらどうかね」
国王がお返しにと発言すると、どういうわけかと智将の隣に立つサキの方が反応している。
「いやはや、私にはそういった浮いた話は向きますまい。これからもシグムスを守る者として尽力していくつもりでございますよ」
「だそうだ」
「陛下?」
国王の言葉に思わず首を傾げる智将である。軍事ひと筋の男は、こういうことにはとても鈍いようだ。
「まぁ頑張るのだな」
「はっ、この命尽きるまで、シグムスのために邁進致します」
智将の言葉に、国王もサキも大きなため息と苦笑いを漏らすだけだった。
はたして、この人たちに春は来るのだろうか。それは誰にも分からなかった。
――プサイラ砂漠近くの魔界
辺境の地に飛ばされたディランは、自分を慕うマイアと部下たちとともに、拠点づくりに勤しんでいた。
魔王の座は諦めていないとはいえど、あれだけ一方的にやられたのでは、すぐにやり直す気にもなれなかった。
そんなわけで、ひとまずは自分たちの拠点をしっかりと築くことに集中しているというわけだった。
「すまなかったな。だが、こんなおれについて来てくれたことに感謝する」
一日を終えて労いの場で挨拶をするディラン。それに対して、魔族たちからは歓声が上がっていた。
なんだかんだとはいえ、ディランも一国の王子だったのでそれなりにカリスマ性を有しているのである。
「魔王の座は諦めてはいないが、今の俺では難しいだろう。ならば、ここに新たな国を樹立するまでと考えた」
ディランの言葉に、場がどよめいている。
どうやら、魔王になれないのなら新たな王の座を作ってしまえばいいと考えたようである。
「おお、ディラン様ーっ!」
「ディラン王、万歳!」
高揚した魔族たちは、口々にディランを讃える言葉を発する。この光景に、ディランはマイアを抱き寄せながら満足げに笑っている。
「ディラン様。私はどこまでお慕いしております」
「うむ、マイア。これからもよろしく頼むぞ」
「はい……」
目を閉じて、ぴたりと寄り添うマイア。
この姿を見た魔族たちはますます高揚し、しばらくの間、新たな国の誕生に酔いしれていたのだった。
ただ、一部の地域からではあるものの、以前とは違った様子が見受けられるようになっていっていた。
その一つが、人間と魔族の共存である。
これまでもイプセルタやシグムスでは一部で見られた光景だったが、イプセルタでの出来事を境に、その広がりを見せていた。
ルルが過ごしてい村はゴブリンとの共存で以前とは比べ物にならないくらい豊かになっているし、ベティスではアルファガドにミーアが居ついて看板娘として振る舞っている。
――霊峰シッタ
「というわけですから、今までさぼった分、しっかりとやってもらいますからね」
「おい、エウロパ。それはさすがに横暴だろう」
「何を仰いますか。どれだけシッタから離れて好き勝手していたと思ってらっしゃるのです。いい加減本来の仕事をして下さい」
マスターはエウロパから怒られていた。
ところが、そのマスターの表情はまったくもって穏やかである。
「まっ、あいつが理想とする世界の実現が進み始めたんだ。ちょっくら、その基礎作りに集中してもいいか……」
「そういっている暇があるのでしたら、さっさとシッタ周りの結界を強化して下さい。本当に、あなたなら一瞬で終わるのに、代わりをする私は数日間拘束されるんですからね」
「ほいほい、分かったよ。任せておけって」
そういうと、マスターは一瞬で霊峰シッタの象徴たる結界を強化してしまう。これにはエウロパは頭の痛い限りだった。
「これですもの……、私の数日間は一体何だっていうのですか……」
「はっはっはっ、お前ももう少し結界の張り方を勉強すべきだな」
マスターはそう言うと、シッタの周りへと視線を向ける。
「それじゃ、見回りに行くとしようか」
「はい。とはいえ、ルナル殿とディラン殿の一件以来、すっかり暴れる魔族は減りましたけれどもね」
「だな。しかし、真の平和にはまだ遠い。俺たちは世界の番人として均衡を守らねばならぬからな」
「御意に」
マスターとエウロパは、ドラゴンの姿となり空へと飛び去っていった。
――シグムス王国
初代国王と現国王を蝕んでいた呪いが解け、国の中はお祭りムードになっていた。
現国王は久しぶりに健康な状態で国民の前に姿を見せ、国民たちはみな一様に歓声を上げている。
「まったく、普通に血色の良い姿を見せるだけでこれとはな……」
「陛下はそのくらいずっと床に臥せってられたのです。それは国民も喜びますとも」
国王がちょっと愚痴めいた事を漏らすと、智将がすぐさま指摘していた。
なにせ国王がこうやって姿を見せるのは10年程ぶりなのだから。それは国民も喜ぶはずである。
「こうなると、次は陛下の伴侶ですかな」
「うむ、今からでも遅くはないな。せっかく呪いが解けたというのに、ここで血を絶やしてしまっては意味がないからな」
智将がぼそっとこぼした言葉に、国王がしっかりと反応している。
「しかしだ。智将、おぬしもいい加減伴侶を持ったらどうかね」
国王がお返しにと発言すると、どういうわけかと智将の隣に立つサキの方が反応している。
「いやはや、私にはそういった浮いた話は向きますまい。これからもシグムスを守る者として尽力していくつもりでございますよ」
「だそうだ」
「陛下?」
国王の言葉に思わず首を傾げる智将である。軍事ひと筋の男は、こういうことにはとても鈍いようだ。
「まぁ頑張るのだな」
「はっ、この命尽きるまで、シグムスのために邁進致します」
智将の言葉に、国王もサキも大きなため息と苦笑いを漏らすだけだった。
はたして、この人たちに春は来るのだろうか。それは誰にも分からなかった。
――プサイラ砂漠近くの魔界
辺境の地に飛ばされたディランは、自分を慕うマイアと部下たちとともに、拠点づくりに勤しんでいた。
魔王の座は諦めていないとはいえど、あれだけ一方的にやられたのでは、すぐにやり直す気にもなれなかった。
そんなわけで、ひとまずは自分たちの拠点をしっかりと築くことに集中しているというわけだった。
「すまなかったな。だが、こんなおれについて来てくれたことに感謝する」
一日を終えて労いの場で挨拶をするディラン。それに対して、魔族たちからは歓声が上がっていた。
なんだかんだとはいえ、ディランも一国の王子だったのでそれなりにカリスマ性を有しているのである。
「魔王の座は諦めてはいないが、今の俺では難しいだろう。ならば、ここに新たな国を樹立するまでと考えた」
ディランの言葉に、場がどよめいている。
どうやら、魔王になれないのなら新たな王の座を作ってしまえばいいと考えたようである。
「おお、ディラン様ーっ!」
「ディラン王、万歳!」
高揚した魔族たちは、口々にディランを讃える言葉を発する。この光景に、ディランはマイアを抱き寄せながら満足げに笑っている。
「ディラン様。私はどこまでお慕いしております」
「うむ、マイア。これからもよろしく頼むぞ」
「はい……」
目を閉じて、ぴたりと寄り添うマイア。
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