神槍のルナル

未羊

文字の大きさ
上 下
138 / 139
第五章『思いはひとつ!』

エピローグ1

しおりを挟む
 魔王の宣言から半年が経ったが、世界は滅びることなく人々は普段の生活を送っている。
 ただ、一部の地域からではあるものの、以前とは違った様子が見受けられるようになっていっていた。
 その一つが、人間と魔族の共存である。
 これまでもイプセルタやシグムスでは一部で見られた光景だったが、イプセルタでの出来事を境に、その広がりを見せていた。
 ルルが過ごしてい村はゴブリンとの共存で以前とは比べ物にならないくらい豊かになっているし、ベティスではアルファガドにミーアが居ついて看板娘として振る舞っている。

 ――霊峰シッタ

「というわけですから、今までさぼった分、しっかりとやってもらいますからね」
「おい、エウロパ。それはさすがに横暴だろう」
「何を仰いますか。どれだけシッタから離れて好き勝手していたと思ってらっしゃるのです。いい加減本来の仕事をして下さい」
 マスターはエウロパから怒られていた。
 ところが、そのマスターの表情はまったくもって穏やかである。
「まっ、あいつが理想とする世界の実現が進み始めたんだ。ちょっくら、その基礎作りに集中してもいいか……」
「そういっている暇があるのでしたら、さっさとシッタ周りの結界を強化して下さい。本当に、あなたなら一瞬で終わるのに、代わりをする私は数日間拘束されるんですからね」
「ほいほい、分かったよ。任せておけって」
 そういうと、マスターは一瞬で霊峰シッタの象徴たる結界を強化してしまう。これにはエウロパは頭の痛い限りだった。
「これですもの……、私の数日間は一体何だっていうのですか……」
「はっはっはっ、お前ももう少し結界の張り方を勉強すべきだな」
 マスターはそう言うと、シッタの周りへと視線を向ける。
「それじゃ、見回りに行くとしようか」
「はい。とはいえ、ルナル殿とディラン殿の一件以来、すっかり暴れる魔族は減りましたけれどもね」
「だな。しかし、真の平和にはまだ遠い。俺たちは世界の番人として均衡を守らねばならぬからな」
「御意に」
 マスターとエウロパは、ドラゴンの姿となり空へと飛び去っていった。

 ――シグムス王国

 初代国王と現国王を蝕んでいた呪いが解け、国の中はお祭りムードになっていた。
 現国王は久しぶりに健康な状態で国民の前に姿を見せ、国民たちはみな一様に歓声を上げている。
「まったく、普通に血色の良い姿を見せるだけでこれとはな……」
「陛下はそのくらいずっと床に臥せってられたのです。それは国民も喜びますとも」
 国王がちょっと愚痴めいた事を漏らすと、智将がすぐさま指摘していた。
 なにせ国王がこうやって姿を見せるのは10年程ぶりなのだから。それは国民も喜ぶはずである。
「こうなると、次は陛下の伴侶ですかな」
「うむ、今からでも遅くはないな。せっかく呪いが解けたというのに、ここで血を絶やしてしまっては意味がないからな」
 智将がぼそっとこぼした言葉に、国王がしっかりと反応している。
「しかしだ。智将、おぬしもいい加減伴侶を持ったらどうかね」
 国王がお返しにと発言すると、どういうわけかと智将の隣に立つサキの方が反応している。
「いやはや、私にはそういった浮いた話は向きますまい。これからもシグムスを守る者として尽力していくつもりでございますよ」
「だそうだ」
「陛下?」
 国王の言葉に思わず首を傾げる智将である。軍事ひと筋の男は、こういうことにはとても鈍いようだ。
「まぁ頑張るのだな」
「はっ、この命尽きるまで、シグムスのために邁進致します」
 智将の言葉に、国王もサキも大きなため息と苦笑いを漏らすだけだった。
 はたして、この人たちに春は来るのだろうか。それは誰にも分からなかった。

 ――プサイラ砂漠近くの魔界

 辺境の地に飛ばされたディランは、自分を慕うマイアと部下たちとともに、拠点づくりに勤しんでいた。
 魔王の座は諦めていないとはいえど、あれだけ一方的にやられたのでは、すぐにやり直す気にもなれなかった。
 そんなわけで、ひとまずは自分たちの拠点をしっかりと築くことに集中しているというわけだった。
「すまなかったな。だが、こんなおれについて来てくれたことに感謝する」
 一日を終えて労いの場で挨拶をするディラン。それに対して、魔族たちからは歓声が上がっていた。
 なんだかんだとはいえ、ディランも一国の王子だったのでそれなりにカリスマ性を有しているのである。
「魔王の座は諦めてはいないが、今の俺では難しいだろう。ならば、ここに新たな国を樹立するまでと考えた」
 ディランの言葉に、場がどよめいている。
 どうやら、魔王になれないのなら新たな王の座を作ってしまえばいいと考えたようである。
「おお、ディラン様ーっ!」
「ディラン王、万歳!」
 高揚した魔族たちは、口々にディランを讃える言葉を発する。この光景に、ディランはマイアを抱き寄せながら満足げに笑っている。
「ディラン様。私はどこまでお慕いしております」
「うむ、マイア。これからもよろしく頼むぞ」
「はい……」
 目を閉じて、ぴたりと寄り添うマイア。
 この姿を見た魔族たちはますます高揚し、しばらくの間、新たな国の誕生に酔いしれていたのだった。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

トラップって強いよねぇ?

TURE 8
ファンタジー
 主人公の加藤浩二は最新ゲームであるVR MMO『Imagine world』の世界に『カジ』として飛び込む。そこで彼はスキル『罠生成』『罠設置』のスキルを使い、冒険者となって未開拓の大陸を冒険していく。だが、何やら遊んでいくうちにゲーム内には不穏な空気が流れ始める。そんな中でカジは生きているかのようなNPC達に自分とを照らし合わせていった……。  NPCの関わりは彼に何を与え、そしてこのゲームの隠された真実を知るときは来るのだろうか?

マヨマヨ~迷々の旅人~

雪野湯
ファンタジー
誰でもよかった系の人に刺されて笠鷺燎は死んだ。(享年十四歳・男) んで、あの世で裁判。 主文・『前世の罪』を償っていないので宇宙追放→次元の狭間にポイッ。 襲いかかる理不尽の連続。でも、土壇場で運良く異世界へ渡る。 なぜか、黒髪の美少女の姿だったけど……。 オマケとして剣と魔法の才と、自分が忘れていた記憶に触れるという、いまいち微妙なスキルもついてきた。 では、才能溢れる俺の初クエストは!?  ドブ掃除でした……。 掃除はともかく、異世界の人たちは良い人ばかりで居心地は悪くない。 故郷に帰りたい気持ちはあるけど、まぁ残ってもいいかなぁ、と思い始めたところにとんだ試練が。 『前世の罪』と『マヨマヨ』という奇妙な存在が、大切な日常を壊しやがった。

どーも、反逆のオッサンです

わか
ファンタジー
簡単なあらすじ オッサン異世界転移する。 少し詳しいあらすじ 異世界転移したオッサン...能力はスマホ。森の中に転移したオッサンがスマホを駆使して普通の生活に向けひたむきに行動するお話。 この小説は、小説家になろう様、カクヨム様にて同時投稿しております。

結婚しても別居して私は楽しくくらしたいので、どうぞ好きな女性を作ってください

シンさん
ファンタジー
サナス伯爵の娘、ニーナは隣国のアルデーテ王国の王太子との婚約が決まる。 国に行ったはいいけど、王都から程遠い別邸に放置され、1度も会いに来る事はない。 溺愛する女性がいるとの噂も! それって最高!好きでもない男の子供をつくらなくていいかもしれないし。 それに私は、最初から別居して楽しく暮らしたかったんだから! そんな別居願望たっぷりの伯爵令嬢と王子の恋愛ストーリー 最後まで書きあがっていますので、随時更新します。 表紙はエブリスタでBeeさんに描いて頂きました!綺麗なイラストが沢山ございます。リンク貼らせていただきました。

動物に好かれまくる体質の少年、ダンジョンを探索する 配信中にレッドドラゴンを手懐けたら大バズりしました!

海夏世もみじ
ファンタジー
 旧題:動物に好かれまくる体質の少年、ダンジョン配信中にレッドドラゴン手懐けたら大バズりしました  動物に好かれまくる体質を持つ主人公、藍堂咲太《あいどう・さくた》は、友人にダンジョンカメラというものをもらった。  そのカメラで暇つぶしにダンジョン配信をしようということでダンジョンに向かったのだが、イレギュラーのレッドドラゴンが現れてしまう。  しかし主人公に攻撃は一切せず、喉を鳴らして好意的な様子。その様子が全て配信されており、拡散され、大バズりしてしまった!  戦闘力ミジンコ主人公が魔物や幻獣を手懐けながらダンジョンを進む配信のスタート!

【しっかり書き換え版】『異世界でたった1人の日本人』~ 異世界で日本の神の加護を持つたった1人の男~

石のやっさん
ファンタジー
12/17 13時20分 HOT男性部門1位 ファンタジー日間 1位 でした。 ありがとうございます 主人公の神代理人(かみしろ りひと)はクラスの異世界転移に巻き込まれた。 転移前に白い空間にて女神イシュタスがジョブやスキルを与えていたのだが、理人の番が来た時にイシュタスの顔色が変わる。「貴方神臭いわね」そう言うと理人にだけジョブやスキルも与えずに異世界に転移をさせた。 ジョブやスキルの無い事から早々と城から追い出される事が決まった、理人の前に天照の分体、眷属のアマ=テラス事『テラスちゃん』が現れた。 『異世界の女神は誘拐犯なんだ』とリヒトに話し、神社の宮司の孫の理人に異世界でも生きられるように日本人ならではの力を授けてくれた。 ここから『異世界でたった1人の日本人、理人の物語』がスタートする 「『異世界でたった1人の日本人』 私達を蔑ろにしチート貰ったのだから返して貰いますね」が好評だったのですが...昔に書いて小説らしくないのでしっかり書き始めました。

ブラック・スワン  ~『無能』な兄は、優美な黒鳥の皮を被る~ 

ファンタジー
「詰んだ…」遠い眼をして呟いた4歳の夏、カイザーはここが乙女ゲーム『亡国のレガリアと王国の秘宝』の世界だと思い出す。ゲームの俺様攻略対象者と我儘悪役令嬢の兄として転生した『無能』なモブが、ブラコン&シスコンへと華麗なるジョブチェンジを遂げモブの壁を愛と努力でぶち破る!これは優雅な白鳥ならぬ黒鳥の皮を被った彼が、無自覚に周りを誑しこんだりしながら奮闘しつつ総愛され(慕われ)する物語。生まれ持った美貌と頭脳・身体能力に努力を重ね、財力・身分と全てを活かし悪役令嬢ルート阻止に励むカイザーだがある日謎の能力が覚醒して…?!更にはそのミステリアス超絶美形っぷりから隠しキャラ扱いされたり、様々な勘違いにも拍車がかかり…。鉄壁の微笑みの裏で心の中の独り言と突っ込みが炸裂する彼の日常。(一話は短め設定です)

ポンコツ錬金術師、魔剣のレプリカを拾って魔改造したら最強に

椎名 富比路
ファンタジー
 錬金術師を目指す主人公キャルは、卒業試験の魔剣探しに成功した。  キャルは、戦闘力皆無。おまけに錬金術師は非戦闘職なため、素材採取は人頼み。  ポンコツな上に極度のコミュ障で人と話せないキャルは、途方に暮れていた。  意思疎通できる魔剣【レーヴァテイン】も、「実験用・訓練用」のサンプル品だった。  しかしレーヴァテインには、どれだけの実験や創意工夫にも対応できる頑丈さがあった。    キャルは魔剣から身体強化をしてもらい、戦闘技術も学ぶ。  魔剣の方も自身のタフさを活かして、最強の魔剣へと進化していく。  キャルは剣にレベッカ(レーヴァテイン・レプリカ)と名付け、大切に育成することにした。  クラスの代表生徒で姫君であるクレアも、主人公に一目置く。  彼女は伝説の聖剣を 「人の作ったもので喜んでいては、一人前になれない」  と、へし折った。  自分だけの聖剣を自力で作ることこそ、クレアの目的だったのである。  その過程で、着実に自身の持つ夢に無自覚で一歩ずつ近づいているキャルに興味を持つ。

処理中です...