神槍のルナル

未羊

文字の大きさ
上 下
131 / 139
第五章『思いはひとつ!』

呪いを解くには……

しおりを挟む
 シグムス王家に伝わる呪いを解くと決断したルナルは、ミレルだけを連れて魔王城から転送石によって移動する。向かった先はベティスにあるアルファガドの拠点である。
 なぜそこに向かったのか。そこには、呪いを解くための鍵となるものがあると踏んだからだった。
「マスター、いらっしゃいますか?」
 アルファガドに顔を出したルナルは、すぐにマスターを探し始めた。
「おや、ルナルじゃないか。どうしたんだい?」
 ギルドの中に入ったルナルを迎えてくれたのは、マスターの代わりにギルドを切り盛りするナターシャだった。
 中を確認するとミーアはいるものの、マスターたちの姿は見えなかった。
「ナターシャさん、マスターたちはどこにいらっしゃいますか?」
「マスターなら、まだイプセルタに居るはずだけど? 戻ってきたのはミーアだけだよ」
 ナターシャはルナルの質問に答えながら、ミーアの方へと視線を向けている。
 すると、ミーアがようやく気が付いたのかルナルの方へと駆け寄ってきた。
「うにゃー、ルナル様にゃー」
 ぴょんと飛びつくような感じでルナルに抱きつくミーアである。しかし、そのミーアにはすぐに鉄拳が下った。
「あたっ。何をするのにゃ、ミレル姉」
 頭を擦りながら涙目でミレルを睨んでいる。ただし、微妙に視線が合っていなかった。さすがのミーアもミレルの事が怖いのである。
「ミーア、今は大事な話をしているのです。邪魔をするのでしたら仕事をしていなさい」
 淡々とお説教を食らうミーアである。
 この三姉妹もミントとミレルは仕事に忠実なのだが、ミーアだけはちょっと自由なのである。なにせ、城を勝手に抜け出してルナルに会いに行くくらいなのだから。だからこそのお説教なのである。
「うにゃー、酷いにゃー。せっかくマスター様の伝言持ってますのにー」
 ミーアは尻尾をだらんと下げ、耳を押さえながら喚いている。そのせいで、再びミレルから雷が落ちる。
「そういう事は先に言いなさい。あなたは事の優先順位を間違えすぎなんですよ」
「うにゃー……」
 しっぽをピーンと立てて連続お説教のミレルである。さすがにミーアが可哀想になってくるレベルである。なので、二人の間にルナルが割って入っていった。
「まあまあ、ミレルもそのくらいにしましょう。これ以上は、ミーアも喋るに喋れなくなってしまいます」
 ルナルがミレルを窘めていると、ケンカ腰になっていたミレルの様子が柔和していく。そして、いつも通りのメイド立ちになっていった。
「ルナル様がそこまで仰るのでしたら、ここまでにしておきましょう。命拾いをしましたね、ミーア」
「うにゃあ……」
 ミレルの雰囲気が和らぐと同時に、ミーアはその場にへなへなと座り込んだ。よっぽどミレルの事が怖かったようだった。
「それで、マスターからの伝言とは何なのですか、ミーア」
 へたり込んでしまったミーアに手を差し伸べながら、改めて質問をするルナル。すると。ミーアは思い出したかのように急に立ち上がった。
「そ、そうなのにゃ。マスター様からの伝言にゃ」
 目をまん丸く見開くミーアである。
「……近いですよ、ミーア」
 鼻先がぶつかりそうな位置まで顔を近付けるミーアに、ルナルは落ち着かせようとして肩を少し強くつかんだ。
 その手の感触に、我に返るミーア。
「し、失礼しましたにゃ。では、改めて伝言を伝えますにゃ」
 ミーアが一つ咳払いをしている。一体どんな伝言が飛び出してくるのか、ルナルは思わず身構えてしまう。
「マスター様からの伝言は次の通りにゃ」
 ごくりと息を飲むルナル。
「『どうせお前の事だから、すぐ来る事になるだろう。イプセルタの事をさっさと終わらせて帰るが、俺が居なかったらしばらく待っていてくれ』ということなのですにゃ」
 ミーアは伝言を言い切る。
 しかし、目の前のルナルたちの様子がおかしかった。その視線はミーアではなく、その後ろの方に向いていた。
(むう、ルナル様たちは一体どこを見てるにゃ。それにしてもなんか変な感じがしたのにゃ)
 そう思って、後ろを振り返るミーア。すると、そこにはとんでもない人物が立っていた。
「ま、ま、ま、マスター様?! 一体いつお戻りに?!」
 そう、ミーアの真後ろにはマスターが立っていたのだ。本当に心臓に悪い登場の仕方である。どのくらい悪いかというと、ミーアの耳と尻尾がピーンと立ってしまうくらいだった。
「つい今しがただ。ナイスタイミングだろう?」
 いつものようにガハハと大声で笑うマスター。そのわざとらしい笑いを耳にして、ルナルは実に頭が痛そうにしていた。
「嘘仰い……。わざとこのタイミングになるように、移動をコントロールしてきたでしょうに……」
「うん、何の事だかな。ガハハハハハッ!」
 ルナルのお小言をさらりと聞き流すマスターである。相変わらず食えない男である。
「まったく、酷い顔をしてくれるな。せっかくこの二人も連れて帰ってきたのによ」
 マスターがくるりと後ろを振り返ると、そこにはセインとルルの二人の姿があったのだった。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

魔境へ追放された公爵令息のチート領地開拓 〜動く屋敷でもふもふ達とスローライフ!〜

西園寺わかばEX
ファンタジー
公爵家に生まれたエリクは転生者である。 4歳の頃、前世の記憶が戻って以降、知識無双していた彼は気づいたら不自由極まりない生活を送るようになっていた。 そんな彼はある日、追放される。 「よっし。やっと追放だ。」 自由を手に入れたぶっ飛んび少年エリクが、ドラゴンやフェンリルたちと気ままに旅先を決めるという物語。 - この話はフィクションです。 - カクヨム様でも連載しています。

外れスキル《コピー》を授かったけど「無能」と言われて家を追放された~ だけど発動条件を満たせば"魔族のスキル"を発動することができるようだ~

そらら
ファンタジー
「鑑定ミスではありません。この子のスキルは《コピー》です。正直、稀に見る外れスキルですね、何せ発動条件が今だ未解明なのですから」 「何てことなの……」 「全く期待はずれだ」 私の名前はラゼル、十五歳になったんだけども、人生最悪のピンチに立たされている。 このファンタジックな世界では、15歳になった際、スキル鑑定を医者に受けさせられるんだが、困ったことに私は外れスキル《コピー》を当ててしまったらしい。 そして数年が経ち……案の定、私は家族から疎ましく感じられてーーついに追放されてしまう。 だけど私のスキルは発動条件を満たすことで、魔族のスキルをコピーできるようだ。 そして、私の能力が《外れスキル》ではなく、恐ろしい能力だということに気づく。 そんでこの能力を使いこなしていると、知らないうちに英雄と呼ばれていたんだけど? 私を追放した家族が戻ってきてほしいって泣きついてきたんだけど、もう戻らん。 私は最高の仲間と最強を目指すから。

人生負け組のスローライフ

雪那 由多
青春
バアちゃんが体調を悪くした! 俺は長男だからバアちゃんの面倒みなくては!! ある日オヤジの叫びと共に突如引越しが決まって隣の家まで車で十分以上、ライフラインはあれどメインは湧水、ぼっとん便所に鍵のない家。 じゃあバアちゃんを頼むなと言って一人単身赴任で東京に帰るオヤジと新しいパート見つけたから実家から通うけど高校受験をすててまで来た俺に高校生なら一人でも大丈夫よね?と言って育児拒否をするオフクロ。  ほぼ病院生活となったバアちゃんが他界してから築百年以上の古民家で一人引きこもる俺の日常。 ―――――――――――――――――――――― 第12回ドリーム小説大賞 読者賞を頂きました! 皆様の応援ありがとうございます! ――――――――――――――――――――――

贖罪のセツナ~このままだと地獄行きなので、異世界で善行積みます~

鐘雪アスマ
ファンタジー
海道刹那はごく普通の女子高生。 だったのだが、どういうわけか異世界に来てしまい、 そこでヒョウム国の皇帝にカルマを移されてしまう。 そして死後、このままでは他人の犯した罪で地獄に落ちるため、 一度生き返り、カルマを消すために善行を積むよう地獄の神アビスに提案される。 そこで生き返ったはいいものの、どういうわけか最強魔力とチートスキルを手に入れてしまい、 災厄級の存在となってしまう。 この小説はフィクションであり、実在の人物または団体とは関係ありません。 著作権は作者である私にあります。 恋愛要素はありません。 笑いあり涙ありのファンタジーです。 毎週日曜日が更新日です。

お前じゃないと、追い出されたが最強に成りました。ざまぁ~見ろ(笑)

いくみ
ファンタジー
お前じゃないと、追い出されたので楽しく復讐させて貰いますね。実は転生者で今世紀では貴族出身、前世の記憶が在る、今まで能力を隠して居たがもう我慢しなくて良いな、開き直った男が楽しくパーティーメンバーに復讐していく物語。 --------- 掲載は不定期になります。 追記 「ざまぁ」までがかなり時間が掛かります。 お知らせ カクヨム様でも掲載中です。

底辺おっさん異世界通販生活始めます!〜ついでに傾国を建て直す〜

ぽっちゃりおっさん
ファンタジー
 学歴も、才能もない底辺人生を送ってきたアラフォーおっさん。  運悪く暴走車との事故に遭い、命を落とす。  憐れに思った神様から不思議な能力【通販】を授かり、異世界転生を果たす。  異世界で【通販】を用いて衰退した村を建て直す事に成功した僕は、国家の建て直しにも協力していく事になる。

伯爵令嬢アンマリアのダイエット大作戦

未羊
ファンタジー
気が付くとまん丸と太った少女だった?! 痩せたいのに食事を制限しても運動をしても太っていってしまう。 一体私が何をしたというのよーっ! 驚愕の異世界転生、始まり始まり。

パーティを抜けた魔法剣士は憧れの冒険者に出会い、最強の冒険者へと至る

一ノ瀬一
ファンタジー
 幼馴染とパーティを組んでいた魔法剣士コルネは領主の息子が入ってきたいざこざでパーティを抜ける。たまたま目に入ったチラシは憧れの冒険者ロンドが開く道場のもので、道場へ向かったコルネはそこで才能を開花させていく。 ※毎日更新 小説家になろう、カクヨムでも同時連載中! https://ncode.syosetu.com/n6654gw/ https://kakuyomu.jp/works/16816452219601856526

処理中です...