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第五章『思いはひとつ!』
変われるものと変われぬもの
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重い空気が漂い続ける。
ディランの方はシグムスに対して恨みしかないし、シグムス王たちの方からすればディランの事情を知っているためだ。お互いに安易に言葉がかけられないのである。
そこで口を開いたのが、トールだった。
「話し合いに来たのではなかったのか? わしら五色龍が二体もおるんじゃから、多少の事は気にせずともよいのだぞ?」
腕を組みながら、シグムス王やディランたちをちらりと見やるトールである。
それがきっかけとなったのか、シグムス王が最初に動く。
「……すまなかったな、ディラン・シグムス。成り立ちを知らぬとはいえ、当時の者たちが無礼を働きすぎた。現在のシグムスの王として、ここに深くお詫びを申し上げる」
椅子から立ち上がり、ディランに向かって深く頭を下げて謝罪をしている。
この姿を智将やサキたちは黙って見守っている。
一方のディランの方はまったく動かない。腕を組んだまま仏頂面である。隣に座るマイアの方がよっぽど動揺している状況だった。
「魔族の王として、シグムス王の謝罪を受け入れます。ですが、当のディランは許す気がまったくないようですね。そのくらい、当時の当たりが熾烈だったというのは想像に難くないですね」
代わりに反応をするルナルである。そのルナルに対しても、ディランはギロリと睨みを向ける。安易に謝罪を受け入れたのが気に入らないようだった。
「……ふん、だからお前は甘ちゃんだというのだ。この俺の苦しみを知らぬから、そんな行動を取れるのだ」
ようやく喋ったかと思うと、相当に気に入らないのか険しい表情で吐き捨てていた。
あまりの溝の深さに、場は再び沈黙に包まれる。
「確かに、歴史書からも抹消されていましたからね。シグムスからしても、ディラン殿の事は汚点として見ていたという事でしょう。それを思えば、ディラン殿の感情は理解できるというものです」
「うむ、サキの言う通りだな」
顎に手を添えながら話すサキ。智将もその言葉には全面同意のようである。
「だが、今はもう昔とは違う。王国の過去を知り、私自身も不死者の運命を受け入れた。ディラン殿の気は晴れぬだろうが、シグムスはこれから変わっていけると思うぞ」
「……」
シグムス王が告げた言葉に、ディランはただただ黙っていた。
「国王陛下も、不死者に……」
その代わり、ディランのメイドだったマイアが反応を示していた。
「うむ。呪いをかけた者は既にこの世にはおらぬゆえに、解く手段が存在せぬ。悩んで死ぬくらいなら、いっその事と受け入れることにしたのだ。……もっと早く分かっていれば、ここまでおぬしを苦しめずに済んだのかもしれないな」
シグムス王は静かに語った。
「いずれにせよ、陛下の決断に加えて私とミレルの事もあるので、シグムスは魔族に対して寛容になっていく事だろう。ディラン殿が戻られる決心がついた時には、ちゃんと受け入れられるだけの国にしておこうと思う」
「はっ、戯言を」
サキがそう語ると、ディランはやっぱり一蹴していた。相当に根深い問題なのだった。
「……みなさん、お気持ちは嬉しいですけれども、ディラン様の事はこのままそっとしておいて下さい。もう今さらなんです。お願いします」
見かねたマイアが頭を下げている。
ディランの一番の理解者だろう彼女にこう言われてしまえば、もう誰もこれ以上言葉を掛ける事はなかった。
「みなさん、本当にありがとうございます。和解できるのであればそれがよかったのですが、ディランの気持ちを量り切れなかったようですね。後の事は、私たち魔族に任せておいて下さい」
「うむ、ルナル殿、よろしくお願いします」
ルナルが小さく頭を下げると、智将が理解を示していた。
「しかし、どうなさるのですか、ルナル様。ディランはルナル様の命を狙った不届き者でございますよ?」
ついて来ていたミレルがルナルに確認する。すると、マイアが思わず体を震わせてしまう。
「それは魔王城に戻ってからにしましょう。まだ魔封陣の効果が続いていますから、まずは解かせませんとね」
「畏まりました」
「ふん、解いてやらん事もない。……計画に邪魔なだけだったからな」
ディランの態度は終始不機嫌なままだった。
「それでルナル殿。わしも城までついて行っても構わんかな?」
「おい、じじいが行くのかよ。俺はどうするんだ」
トールがルナルに尋ねると、アイオロスが反応している。
「若造がでしゃばるな。お前さんはシッタに戻ってエウロパの説教でも受けておれ」
「うげっ、やめてくれよ。俺はエウロパが苦手なんだよ……」
トールに止められたアイオロスは、本気で嫌そうな顔をしていた。
こうして、シグムス王国での話し合いを終える事となったルナルたち。
シグムス王国側は柔和な態度を示したものの、ディランの側の怨恨が相当に根深いものだという事を再確認するだけに終わってしまった。
しかし、両者の対面が無事に果たせたことは、おそらく大きな意味があっただろう。
十分な成果だと信じるルナルは、ディランとマイアを連れて魔王城へと戻ることになったのだった。
ディランの方はシグムスに対して恨みしかないし、シグムス王たちの方からすればディランの事情を知っているためだ。お互いに安易に言葉がかけられないのである。
そこで口を開いたのが、トールだった。
「話し合いに来たのではなかったのか? わしら五色龍が二体もおるんじゃから、多少の事は気にせずともよいのだぞ?」
腕を組みながら、シグムス王やディランたちをちらりと見やるトールである。
それがきっかけとなったのか、シグムス王が最初に動く。
「……すまなかったな、ディラン・シグムス。成り立ちを知らぬとはいえ、当時の者たちが無礼を働きすぎた。現在のシグムスの王として、ここに深くお詫びを申し上げる」
椅子から立ち上がり、ディランに向かって深く頭を下げて謝罪をしている。
この姿を智将やサキたちは黙って見守っている。
一方のディランの方はまったく動かない。腕を組んだまま仏頂面である。隣に座るマイアの方がよっぽど動揺している状況だった。
「魔族の王として、シグムス王の謝罪を受け入れます。ですが、当のディランは許す気がまったくないようですね。そのくらい、当時の当たりが熾烈だったというのは想像に難くないですね」
代わりに反応をするルナルである。そのルナルに対しても、ディランはギロリと睨みを向ける。安易に謝罪を受け入れたのが気に入らないようだった。
「……ふん、だからお前は甘ちゃんだというのだ。この俺の苦しみを知らぬから、そんな行動を取れるのだ」
ようやく喋ったかと思うと、相当に気に入らないのか険しい表情で吐き捨てていた。
あまりの溝の深さに、場は再び沈黙に包まれる。
「確かに、歴史書からも抹消されていましたからね。シグムスからしても、ディラン殿の事は汚点として見ていたという事でしょう。それを思えば、ディラン殿の感情は理解できるというものです」
「うむ、サキの言う通りだな」
顎に手を添えながら話すサキ。智将もその言葉には全面同意のようである。
「だが、今はもう昔とは違う。王国の過去を知り、私自身も不死者の運命を受け入れた。ディラン殿の気は晴れぬだろうが、シグムスはこれから変わっていけると思うぞ」
「……」
シグムス王が告げた言葉に、ディランはただただ黙っていた。
「国王陛下も、不死者に……」
その代わり、ディランのメイドだったマイアが反応を示していた。
「うむ。呪いをかけた者は既にこの世にはおらぬゆえに、解く手段が存在せぬ。悩んで死ぬくらいなら、いっその事と受け入れることにしたのだ。……もっと早く分かっていれば、ここまでおぬしを苦しめずに済んだのかもしれないな」
シグムス王は静かに語った。
「いずれにせよ、陛下の決断に加えて私とミレルの事もあるので、シグムスは魔族に対して寛容になっていく事だろう。ディラン殿が戻られる決心がついた時には、ちゃんと受け入れられるだけの国にしておこうと思う」
「はっ、戯言を」
サキがそう語ると、ディランはやっぱり一蹴していた。相当に根深い問題なのだった。
「……みなさん、お気持ちは嬉しいですけれども、ディラン様の事はこのままそっとしておいて下さい。もう今さらなんです。お願いします」
見かねたマイアが頭を下げている。
ディランの一番の理解者だろう彼女にこう言われてしまえば、もう誰もこれ以上言葉を掛ける事はなかった。
「みなさん、本当にありがとうございます。和解できるのであればそれがよかったのですが、ディランの気持ちを量り切れなかったようですね。後の事は、私たち魔族に任せておいて下さい」
「うむ、ルナル殿、よろしくお願いします」
ルナルが小さく頭を下げると、智将が理解を示していた。
「しかし、どうなさるのですか、ルナル様。ディランはルナル様の命を狙った不届き者でございますよ?」
ついて来ていたミレルがルナルに確認する。すると、マイアが思わず体を震わせてしまう。
「それは魔王城に戻ってからにしましょう。まだ魔封陣の効果が続いていますから、まずは解かせませんとね」
「畏まりました」
「ふん、解いてやらん事もない。……計画に邪魔なだけだったからな」
ディランの態度は終始不機嫌なままだった。
「それでルナル殿。わしも城までついて行っても構わんかな?」
「おい、じじいが行くのかよ。俺はどうするんだ」
トールがルナルに尋ねると、アイオロスが反応している。
「若造がでしゃばるな。お前さんはシッタに戻ってエウロパの説教でも受けておれ」
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トールに止められたアイオロスは、本気で嫌そうな顔をしていた。
こうして、シグムス王国での話し合いを終える事となったルナルたち。
シグムス王国側は柔和な態度を示したものの、ディランの側の怨恨が相当に根深いものだという事を再確認するだけに終わってしまった。
しかし、両者の対面が無事に果たせたことは、おそらく大きな意味があっただろう。
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