128 / 139
第五章『思いはひとつ!』
恨みの積もる土地へ
しおりを挟む
ディランが降伏した事で、イプセルタを襲撃していた魔族たちは全員おとなしくなり、アカーシャとソルトに睨まれながら魔王城へと引き上げていく。
そんな中、ルナルとミレルの二人で、ディランとマイアを引き連れてシグムスに向かう。
「くそっ、なんだって俺がこんな事を……」
文句を言うのはアイオロスである。
「仕方がないでしょう。あなたが一番速いんですから」
ルナルに窘められるアイオロスである。
というのもマスターが命令したからこんな事になっているのだ。
「まったく、無茶な頼みを聞いた分、あとでしっかり報酬をもらうからな」
「戦いたいんでしたら、いつでもお受けしますよ」
ルナルとアイオロスのやり取りに、他の面々は困惑しっぱなしだった。
そんななんとも言えない空気の中、シグムスへ向けてアイオロスは一直線に飛ぶのであった。
そんなこんなで砂漠の国シグムスに到着する。
「あれが今のシグムスか。俺の居た頃と見た目は変わらんな」
「はい、そのようでございますね」
アイオロスの背中から見下ろすディランとマイアは、シグムスに少々懐かしさを感じているようだった。
「アイオロス、とりあえず近くに降りて下さい。智将とサキが居るとはいえ、下手に近寄ると攻撃されかねませんからね」
「はいはい、んじゃ、あの辺りでいいか」
しょうがないなという感じで地上に降りていくアイオロス。
ところが、地上に降りたところで思わぬ出迎えを受けた。
「うげっ、トールのじじい、まだ居たのかよ……」
そう、シグムスに滞在しっぱなしになっていた雷帝龍トールである。マスターや他の五色龍の例に漏れず、やはりトールも人間形態を持っていたようだ。年寄りくさい喋り方をしていたのだが、人間の姿もそれ相応の姿だった事に、ミレルは驚くしかなかった。
「これはこれはトール様。わざわざお出迎えとは驚きました。地下から動かれたのですね」
「おやおや、誰かと思えば破邪の剣を持つ青年と精霊のお嬢ちゃんと一緒に来ていた子か。久しぶりだな」
立派なひげが特徴的な年寄りの姿のトールが話し掛けてきた。
「主から話は聞いておる。我について参れ」
くるりと振り返るトール。
「そっちの二人もおとなしくついてくるがよい。なに、今のシグムス相手に何も警戒する必要はないからな」
雷帝龍トールの言葉とはいえ、ディランとマイアの二人は信じる事はできなかった。なにせ一部の魔族はドラゴンたちとも敵対関係なのだから。
しかし、今は敗北者の身ゆえ、ディランはおとなしくトールの案内について行く。
「城も昔と変わらないな……」
「ええ、そうですね」
ディランは懐かしそうにシグムス王城を見上げている。
ルナルとミレルの二人が居るために、ここまで問題なく進めてこれた。そして、もちろん城の中にもすんなり入れる。
そうした一行が向かったのは、シグムス王国の現国王の部屋だった。
部屋の前には近衛兵が立っているが、手に持っている槍を突きつけてくるような事はなかった。
「国王陛下、トール様がルナル殿たちを連れてお戻りになられました」
それどころか、すぐさま中へと声を掛けていた。
「うむ、通せ」
「はっ!」
国王からの許可が下りた事で、扉が開いて中へと通されるルナルたち。
扉に入った先には、国王はもちろん、智将やサキも待ち構えていた。
「な……、なぜ魔族がこのシグムスに居るのだ」
ディランは驚きを隠せなかった。なにせ自分は不死者になる事を受け入れた事で国を追われたのだから。それがゆえに、シグムス国内に魔族が居る事が信じられずにいるのだ。
「サキは私の優秀な副官だよ。私が彼女の力を認め、こうやって置いているのだ」
智将はさらりと言い放っていた。
「認めん……、俺は認めぬぞ!」
攻撃を仕掛けようとするディラン。
「おとなしくせぬか!」
トールの手によってあっという間に制圧されてしまった。
見た目は年寄りとはいえ、さすがは五色龍の1体である。ルナルでもそこそこ苦戦した相手を、たった腕一本で制圧してみせたのだから。
「トール様、そちらの方はどなたですかな?」
智将が尋ねてくる。
「うむ、こやつはディランと申す者でな、魔王軍の副官を務める者だ」
「ほう」
最初に現在の職を告げるトールである。
「だが、こやつの正体は、昔にシグムス王国を追われた王子ディラン・シグムスなのだ。隣の魔族はその専属侍女だったマイアだ」
「なんだと?!」
続けてトールから放たれた言葉に、国王も智将も、そしてサキも驚いている。魔王軍の要職にある人物が、まさかの自分たちの関係者だったのだから。
「うわさくらいには聞いた事がある。その存在を疎まれ歴史から葬り去られた王子が居ると……」
国王はちらりと視線を向ける。それに対して顔を背けるディランである。
ディランにとってシグムス王家は恨みの積もった相手だ。そう簡単に顔が合わせられたものではないのである。
一方のシグムス王も、ディランたちにかける言葉が見つからなかった。
国王の部屋の中には、しばらくの間重い沈黙が漂い続けたのだった。
そんな中、ルナルとミレルの二人で、ディランとマイアを引き連れてシグムスに向かう。
「くそっ、なんだって俺がこんな事を……」
文句を言うのはアイオロスである。
「仕方がないでしょう。あなたが一番速いんですから」
ルナルに窘められるアイオロスである。
というのもマスターが命令したからこんな事になっているのだ。
「まったく、無茶な頼みを聞いた分、あとでしっかり報酬をもらうからな」
「戦いたいんでしたら、いつでもお受けしますよ」
ルナルとアイオロスのやり取りに、他の面々は困惑しっぱなしだった。
そんななんとも言えない空気の中、シグムスへ向けてアイオロスは一直線に飛ぶのであった。
そんなこんなで砂漠の国シグムスに到着する。
「あれが今のシグムスか。俺の居た頃と見た目は変わらんな」
「はい、そのようでございますね」
アイオロスの背中から見下ろすディランとマイアは、シグムスに少々懐かしさを感じているようだった。
「アイオロス、とりあえず近くに降りて下さい。智将とサキが居るとはいえ、下手に近寄ると攻撃されかねませんからね」
「はいはい、んじゃ、あの辺りでいいか」
しょうがないなという感じで地上に降りていくアイオロス。
ところが、地上に降りたところで思わぬ出迎えを受けた。
「うげっ、トールのじじい、まだ居たのかよ……」
そう、シグムスに滞在しっぱなしになっていた雷帝龍トールである。マスターや他の五色龍の例に漏れず、やはりトールも人間形態を持っていたようだ。年寄りくさい喋り方をしていたのだが、人間の姿もそれ相応の姿だった事に、ミレルは驚くしかなかった。
「これはこれはトール様。わざわざお出迎えとは驚きました。地下から動かれたのですね」
「おやおや、誰かと思えば破邪の剣を持つ青年と精霊のお嬢ちゃんと一緒に来ていた子か。久しぶりだな」
立派なひげが特徴的な年寄りの姿のトールが話し掛けてきた。
「主から話は聞いておる。我について参れ」
くるりと振り返るトール。
「そっちの二人もおとなしくついてくるがよい。なに、今のシグムス相手に何も警戒する必要はないからな」
雷帝龍トールの言葉とはいえ、ディランとマイアの二人は信じる事はできなかった。なにせ一部の魔族はドラゴンたちとも敵対関係なのだから。
しかし、今は敗北者の身ゆえ、ディランはおとなしくトールの案内について行く。
「城も昔と変わらないな……」
「ええ、そうですね」
ディランは懐かしそうにシグムス王城を見上げている。
ルナルとミレルの二人が居るために、ここまで問題なく進めてこれた。そして、もちろん城の中にもすんなり入れる。
そうした一行が向かったのは、シグムス王国の現国王の部屋だった。
部屋の前には近衛兵が立っているが、手に持っている槍を突きつけてくるような事はなかった。
「国王陛下、トール様がルナル殿たちを連れてお戻りになられました」
それどころか、すぐさま中へと声を掛けていた。
「うむ、通せ」
「はっ!」
国王からの許可が下りた事で、扉が開いて中へと通されるルナルたち。
扉に入った先には、国王はもちろん、智将やサキも待ち構えていた。
「な……、なぜ魔族がこのシグムスに居るのだ」
ディランは驚きを隠せなかった。なにせ自分は不死者になる事を受け入れた事で国を追われたのだから。それがゆえに、シグムス国内に魔族が居る事が信じられずにいるのだ。
「サキは私の優秀な副官だよ。私が彼女の力を認め、こうやって置いているのだ」
智将はさらりと言い放っていた。
「認めん……、俺は認めぬぞ!」
攻撃を仕掛けようとするディラン。
「おとなしくせぬか!」
トールの手によってあっという間に制圧されてしまった。
見た目は年寄りとはいえ、さすがは五色龍の1体である。ルナルでもそこそこ苦戦した相手を、たった腕一本で制圧してみせたのだから。
「トール様、そちらの方はどなたですかな?」
智将が尋ねてくる。
「うむ、こやつはディランと申す者でな、魔王軍の副官を務める者だ」
「ほう」
最初に現在の職を告げるトールである。
「だが、こやつの正体は、昔にシグムス王国を追われた王子ディラン・シグムスなのだ。隣の魔族はその専属侍女だったマイアだ」
「なんだと?!」
続けてトールから放たれた言葉に、国王も智将も、そしてサキも驚いている。魔王軍の要職にある人物が、まさかの自分たちの関係者だったのだから。
「うわさくらいには聞いた事がある。その存在を疎まれ歴史から葬り去られた王子が居ると……」
国王はちらりと視線を向ける。それに対して顔を背けるディランである。
ディランにとってシグムス王家は恨みの積もった相手だ。そう簡単に顔が合わせられたものではないのである。
一方のシグムス王も、ディランたちにかける言葉が見つからなかった。
国王の部屋の中には、しばらくの間重い沈黙が漂い続けたのだった。
0
お気に入りに追加
12
あなたにおすすめの小説
解放
かひけつ
ファンタジー
ある少年は、抗った。
謎の施設。謎の検査。謎の生活。
頭が狂いそうになりながらも施設から出る方法を模索する。
使えるものを活かした反抗計画とその結末は……。
ある科学者は悩んだ。
時折、無力感や後悔の念が身を焦がす。
利口が故に、自己嫌悪に陥ってしまう。
悩みぬいた末に出した結論は……。
ある貴族は覚悟を決めた。
貴ばれる血族であるが故のプライド、
それ相応とは言い難い重しをつけさせられる。
一家を背負い込む覚悟を、世界を調和させることを……。
あるモノは、嘆いた。
自由にはなれない……。
そう思わせる程、管理されてしまった世界。
ここには情すら……ないのかもしれない……。
諦めかけていた、でも、希望が見えた気がした……。
その希望は現状を打開し、解放してくれるのだろうか?

【しっかり書き換え版】『異世界でたった1人の日本人』~ 異世界で日本の神の加護を持つたった1人の男~
石のやっさん
ファンタジー
12/17 13時20分 HOT男性部門1位 ファンタジー日間 1位 でした。
ありがとうございます
主人公の神代理人(かみしろ りひと)はクラスの異世界転移に巻き込まれた。
転移前に白い空間にて女神イシュタスがジョブやスキルを与えていたのだが、理人の番が来た時にイシュタスの顔色が変わる。「貴方神臭いわね」そう言うと理人にだけジョブやスキルも与えずに異世界に転移をさせた。
ジョブやスキルの無い事から早々と城から追い出される事が決まった、理人の前に天照の分体、眷属のアマ=テラス事『テラスちゃん』が現れた。
『異世界の女神は誘拐犯なんだ』とリヒトに話し、神社の宮司の孫の理人に異世界でも生きられるように日本人ならではの力を授けてくれた。
ここから『異世界でたった1人の日本人、理人の物語』がスタートする
「『異世界でたった1人の日本人』 私達を蔑ろにしチート貰ったのだから返して貰いますね」が好評だったのですが...昔に書いて小説らしくないのでしっかり書き始めました。
神による異世界転生〜転生した私の異世界ライフ〜
シュガーコクーン
ファンタジー
女神のうっかりで死んでしまったOLが一人。そのOLは、女神によって幼女に戻って異世界転生させてもらうことに。
その幼女の新たな名前はリティア。リティアの繰り広げる異世界ファンタジーが今始まる!
「こんな話をいれて欲しい!」そんな要望も是非下さい!出来る限り書きたいと思います。
素人のつたない作品ですが、よければリティアの異世界ライフをお楽しみ下さい╰(*´︶`*)╯
旧題「神による異世界転生〜転生幼女の異世界ライフ〜」
現在、小説家になろうでこの作品のリメイクを連載しています!そちらも是非覗いてみてください。
公女様は愛されたいと願うのやめました。~態度を変えた途端、家族が溺愛してくるのはなぜですか?~
朱色の谷
恋愛
公爵家の末娘として生まれた幼いティアナ。
お屋敷で働いている使用人に虐げられ『公爵家の汚点』と呼ばれる始末。
お父様やお兄様は私に関心がないみたい。
ただ、愛されたいと願った。
そんな中、夢の中の本を読むと自分の正体が明らかに。

そして、アドレーヌは眠る。
緋島礼桜
ファンタジー
長く続いた大戦、それにより腐りきった大地と生命を『奇跡の力』で蘇らせ終戦へと導いた女王――アドレーヌ・エナ・リンクス。
彼女はその偉業と引き換えに長い眠りについてしまいました。彼女を称え、崇め、祀った人々は彼女の名が付けられた新たな王国を創りました。
眠り続けるアドレーヌ。そこに生きる者たちによって受け継がれていく物語―――そして、辿りつく真実と結末。
これは、およそ千年続いたアドレーヌ王国の、始まりと終わりの物語です。
*あらすじ*
~第一篇~
かつての大戦により鉄くずと化し投棄された負の遺産『兵器』を回収する者たち―――狩人(ハンター)。
それを生業とし、娘と共に旅をするアーサガ・トルトはその活躍ぶりから『漆黒の弾丸』と呼ばれていた。
そんな彼はとある噂を切っ掛けに、想い人と娘の絆が揺れ動くことになる―――。
~第二篇~
アドレーヌ女王の血を継ぐ王族エミレス・ノト・リンクス王女は王国東方の街ノーテルの屋敷で暮らしていた。
中肉中背、そばかすに見た目も地味…そんな引け目から人前を避けてきた彼女はある日、とある男性と出会う。
それが、彼女の過去と未来に関わる大切な恋愛となっていく―――。
~第三篇~
かつての反乱により一斉排除の対象とされ、長い年月虐げられ続けているイニム…ネフ族。
『ネフ狩り』と呼ばれる駆逐行為は隠れ里にて暮らしていた青年キ・シエの全てを奪っていった。
愛する者、腕、両目を失った彼は名も一族の誇りすらも捨て、復讐に呑まれていく―――。
~第四篇~
最南端の村で暮らすソラはいつものように兄のお使いに王都へ行った帰り、謎の男二人組に襲われる。
辛くも通りすがりの旅人に助けられるが、その男もまた全身黒尽くめに口紅を塗った奇抜な出で立ちで…。
この出会いをきっかけに彼女の日常は一変し歴史を覆すような大事件へと巻き込まれていく―――。
*
*2020年まで某サイトで投稿していたものですがサイト閉鎖に伴い、加筆修正して完結を目標に再投稿したいと思います。
*他小説家になろう、アルファポリスでも投稿しています。
*毎週、火曜日に更新を予定しています。

劣悪だと言われたハズレ加護の『空間魔法』を、便利だと思っているのは僕だけなのだろうか?
はらくろ
ファンタジー
海と交易で栄えた国を支える貴族家のひとつに、
強くて聡明な父と、優しくて活動的な母の間に生まれ育った少年がいた。
母親似に育った賢く可愛らしい少年は優秀で、将来が楽しみだと言われていたが、
その少年に、突然の困難が立ちはだかる。
理由は、貴族の跡取りとしては公言できないほどの、劣悪な加護を洗礼で授かってしまったから。
一生外へ出られないかもしれない幽閉のような生活を続けるよりも、少年は屋敷を出て行く選択をする。
それでも持ち前の強く非常識なほどの魔力の多さと、負けず嫌いな性格でその困難を乗り越えていく。
そんな少年の物語。
異世界へ誤召喚されちゃいました~女神の加護でほのぼのスローライフ送ります~
モーリー
ファンタジー
⭐︎第4回次世代ファンタジーカップ16位⭐︎
飛行機事故で両親が他界してしまい、社会人の長男、高校生の長女、幼稚園児の次女で生きることになった御剣家。
保険金目当てで寄ってくる奴らに嫌気がさしながらも、3人で支え合いながら生活を送る日々。
そんな矢先に、3人揃って異世界に召喚されてしまった。
召喚特典として女神たちが加護やチート能力を与え、異世界でも生き抜けるようにしてくれた。
強制的に放り込まれた異世界。
知らない土地、知らない人、知らない世界。
不安をはねのけながら、時に怖い目に遭いながら、3人で異世界を生き抜き、平穏なスローライフを送る。
そんなほのぼのとした物語。

レディース異世界満喫禄
日の丸
ファンタジー
〇城県のレディース輝夜の総長篠原連は18才で死んでしまう。
その死に方があまりな死に方だったので運命神の1人に異世界におくられることに。
その世界で出会う仲間と様々な体験をたのしむ!!
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる