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第五章『思いはひとつ!』
決着がついて……
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「それからというものの、生活は大変でしたよ。どうにかたどり着いた魔族の村で暮らしてましたが、そこも先日襲われて命からがら逃げ出してさまよって……」
マイアは涙いっぱいになって、声を詰まらせながら話している。
「でも、そんな生活も、ようやく報われるんです。……ディラン様に会えましたから」
涙を流しながら笑顔を見せるマイアに、その場に居た誰もが言葉を出せなかった。残虐な魔族たちですらである。
たった一つの思いのために、ここまでできるものだろうか。その執念たるの凄まじさは、魔族の心にすら響いたのだ。
そこへ、ルナルがすっと歩み出てくる。
「ディラン、あなたを大切に思う人がいるのですから、これ以上ばかな真似はやめなさい」
ルナルの言葉に対して、ディランはキッと強烈な睨みを向ける。
「うるさい。魔王としてぬくぬくと育ってきたお前に何が分かる。苦労を重ねてきた俺たちの何が分かるというのだ」
ディランの言い分はもっともだった。
ルナルは確かに魔族のエリート系の出身なのだ。魔王になるまでもあまり苦労した事はなかったのは事実なのである。
「貴様、ルナル様に何たることを!」
アカーシャが詰め寄ってくるが、ルナルはそれを制止する。そして、ディランへと声を掛ける。
「ええ、確かにそうです。でも、私だって悩みはあるんですよ。人間を支配するのは魔族としての使命なところはありましたが、よく思えば私は人間を知りません。なぜ今までの魔王は倒されてきたのか、それを知るために私は人間の中に紛れたんですよ」
「なんだと?!」
ルナルの告白に、驚きを隠せないディラン。
その様子に微笑みを浮かべたルナル。
「長らく私は迷っていました。でも、ようやく結論が出たのですよ」
こう話すとイプセルタ城の方へと顔を向ける。
「私は以前、世界を壊すと言ってしまいました。ですが、その言葉を実行しようかと思います」
このルナルの言葉に、イプセルタ場内はどよめきに包まれ、魔族たちからは期待の声が漏れる。
しかし、その声はすぐに収まってしまう。
「現在の魔王として宣言します。人間と魔族のいがみ合うこの世界を壊し、共存できる世界を目指す事を」
ルナルのこの宣言には、人間と魔族の双方に衝撃が走る。
ただ、ルナルの味方についていた面々は、納得したようにうんうんと頷いていた。
「バカな、人間どもと仲良くするだと?」
「ふざけるな。そんな事ができるわけがないだろうが」
当然ながら、魔族たちからは反発が出る。
「ふっ、はたしてそうかな?」
その声に最初に反応したのは、目の前に居たフォルだった。
「わしと妹分は精霊ぞ? それだけではあるまいて、なぁマスタードラゴン」
「まったくだ。第一ルナルはこの俺が認めたやつだ。不可能だと思うか?」
「ぐっ……」
世界の秩序を担うマスタードラゴンとユグドラシルの分体であるフォルという、ものすごい説得力を持った二人に睨まれれば、魔族たちは反論ができなかった。
「だが、お前たちの言い分も分かる。今すぐにというのも無茶だし、ずっと無理だという奴らもいるだろう。何も押し付けるつもりはないから安心しろ」
「ええ、その通りです。私として今までの世界を否定しているわけではありません。ただ、むやみやたらに血を流す世界を終わりにしたいだけです。私には、魔王として魔族を守る義務がありますからね」
マスターの言葉にルナルが付け加えておく。
「おーい、ルナル」
「ルナル様、ご無事ですか?」
セインやルルたちが走って合流してくる。
「どうしたんだよ。暴れていたアンデッドどもが突然崩れ落ちたもんだから驚いたぜ」
「ふふっ、全部決着したんですよ」
セインに対してにこやかに対応するルナルである。
「というか、マスター様ってばマスター様だったんですね。驚いちゃいましたよ」
「おや、フォルの方が気がついていたのにな。まだまだひよっこだな」
「ぶぅ」
マスターが笑いながら言うものだから、ルルは頬を膨らませていた。どうも子ども扱いされるのは嫌なようである。
「ルナル様、この後はどう致しましょうか」
ソルトが問い掛けてくる。
「そうですね。あなたとアカーシャは、ミントとディランの部下を連れて城へ戻って下さい」
「畏まりました」
ルナルの指示にソルトたちは従う。これには魔族たちも驚いている。
「命まで取るつもりはありませんよ。ただし、反乱の責任はそれなりに取ってもらいますけれどね」
向けられた笑顔に凍り付く魔族たちである。
「マスターはセインとルルちゃんたちをお願いします。しばらくはこのままイプセルタでの対応かと思いますが。あと、ミーアもうまく使って下さい」
「任せておけ。というわけだ、エウロパ。お前も頼むぞ」
マスターの声に、もう胃が痛そうなエウロパである。
「で、ディランとマイアちゃんですが、私と一緒にシグムスへ参りましょう。ミレルもよろしいですか?
「もちろんでございます」
ルナルの提案に驚きを隠せないディランとマイア。いい思い出のない国なのだ。戸惑うのも無理はないだろう。
「今のシグムスは昔とは違います。その目で見てみるのもいいと思いますよ」
戦いが決着して、それぞれに事後処理にあたる事になったのだった。
はたして、ルナルの願いは叶うのだろうか。
そんな中、ルナルはディランたちを連れてシグムスに向かう事になったのだった。
マイアは涙いっぱいになって、声を詰まらせながら話している。
「でも、そんな生活も、ようやく報われるんです。……ディラン様に会えましたから」
涙を流しながら笑顔を見せるマイアに、その場に居た誰もが言葉を出せなかった。残虐な魔族たちですらである。
たった一つの思いのために、ここまでできるものだろうか。その執念たるの凄まじさは、魔族の心にすら響いたのだ。
そこへ、ルナルがすっと歩み出てくる。
「ディラン、あなたを大切に思う人がいるのですから、これ以上ばかな真似はやめなさい」
ルナルの言葉に対して、ディランはキッと強烈な睨みを向ける。
「うるさい。魔王としてぬくぬくと育ってきたお前に何が分かる。苦労を重ねてきた俺たちの何が分かるというのだ」
ディランの言い分はもっともだった。
ルナルは確かに魔族のエリート系の出身なのだ。魔王になるまでもあまり苦労した事はなかったのは事実なのである。
「貴様、ルナル様に何たることを!」
アカーシャが詰め寄ってくるが、ルナルはそれを制止する。そして、ディランへと声を掛ける。
「ええ、確かにそうです。でも、私だって悩みはあるんですよ。人間を支配するのは魔族としての使命なところはありましたが、よく思えば私は人間を知りません。なぜ今までの魔王は倒されてきたのか、それを知るために私は人間の中に紛れたんですよ」
「なんだと?!」
ルナルの告白に、驚きを隠せないディラン。
その様子に微笑みを浮かべたルナル。
「長らく私は迷っていました。でも、ようやく結論が出たのですよ」
こう話すとイプセルタ城の方へと顔を向ける。
「私は以前、世界を壊すと言ってしまいました。ですが、その言葉を実行しようかと思います」
このルナルの言葉に、イプセルタ場内はどよめきに包まれ、魔族たちからは期待の声が漏れる。
しかし、その声はすぐに収まってしまう。
「現在の魔王として宣言します。人間と魔族のいがみ合うこの世界を壊し、共存できる世界を目指す事を」
ルナルのこの宣言には、人間と魔族の双方に衝撃が走る。
ただ、ルナルの味方についていた面々は、納得したようにうんうんと頷いていた。
「バカな、人間どもと仲良くするだと?」
「ふざけるな。そんな事ができるわけがないだろうが」
当然ながら、魔族たちからは反発が出る。
「ふっ、はたしてそうかな?」
その声に最初に反応したのは、目の前に居たフォルだった。
「わしと妹分は精霊ぞ? それだけではあるまいて、なぁマスタードラゴン」
「まったくだ。第一ルナルはこの俺が認めたやつだ。不可能だと思うか?」
「ぐっ……」
世界の秩序を担うマスタードラゴンとユグドラシルの分体であるフォルという、ものすごい説得力を持った二人に睨まれれば、魔族たちは反論ができなかった。
「だが、お前たちの言い分も分かる。今すぐにというのも無茶だし、ずっと無理だという奴らもいるだろう。何も押し付けるつもりはないから安心しろ」
「ええ、その通りです。私として今までの世界を否定しているわけではありません。ただ、むやみやたらに血を流す世界を終わりにしたいだけです。私には、魔王として魔族を守る義務がありますからね」
マスターの言葉にルナルが付け加えておく。
「おーい、ルナル」
「ルナル様、ご無事ですか?」
セインやルルたちが走って合流してくる。
「どうしたんだよ。暴れていたアンデッドどもが突然崩れ落ちたもんだから驚いたぜ」
「ふふっ、全部決着したんですよ」
セインに対してにこやかに対応するルナルである。
「というか、マスター様ってばマスター様だったんですね。驚いちゃいましたよ」
「おや、フォルの方が気がついていたのにな。まだまだひよっこだな」
「ぶぅ」
マスターが笑いながら言うものだから、ルルは頬を膨らませていた。どうも子ども扱いされるのは嫌なようである。
「ルナル様、この後はどう致しましょうか」
ソルトが問い掛けてくる。
「そうですね。あなたとアカーシャは、ミントとディランの部下を連れて城へ戻って下さい」
「畏まりました」
ルナルの指示にソルトたちは従う。これには魔族たちも驚いている。
「命まで取るつもりはありませんよ。ただし、反乱の責任はそれなりに取ってもらいますけれどね」
向けられた笑顔に凍り付く魔族たちである。
「マスターはセインとルルちゃんたちをお願いします。しばらくはこのままイプセルタでの対応かと思いますが。あと、ミーアもうまく使って下さい」
「任せておけ。というわけだ、エウロパ。お前も頼むぞ」
マスターの声に、もう胃が痛そうなエウロパである。
「で、ディランとマイアちゃんですが、私と一緒にシグムスへ参りましょう。ミレルもよろしいですか?
「もちろんでございます」
ルナルの提案に驚きを隠せないディランとマイア。いい思い出のない国なのだ。戸惑うのも無理はないだろう。
「今のシグムスは昔とは違います。その目で見てみるのもいいと思いますよ」
戦いが決着して、それぞれに事後処理にあたる事になったのだった。
はたして、ルナルの願いは叶うのだろうか。
そんな中、ルナルはディランたちを連れてシグムスに向かう事になったのだった。
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