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第五章『思いはひとつ!』
マイアの過去
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エウロパはマイアに顔を向ける。
「あなたに力を貸したのは、タイタンですね」
エウロパが短く問い掛けると、マイアはこくりと頷いた。
タイタンとは、五色龍の一人で地を司る。『破界龍』とも呼ばれ、世の理を捻じ曲げる事もできるドラゴンなのだ。
そんな力を持つ名前がエウロパの口から出た事で、マスターは納得ができてしまっていた。
「なるほどな。奴ならやりかねんな」
「何を納得してるんですか。こっちはまったく事情が分からないんですけど?」
一人で頷いているマスターに、ルナルが怒鳴るようにして迫っている。
「いや、悪いな。とりあえず、本人から詳しく聞いたらどうなんだ? 以前の説明じゃそこは伏せてもらってたが、想い人が居る今の状況なら、遠慮なく話しちまった方がいいだろうしな」
マイアを見ながら、マスターが促すように喋っている。それを聞いて、マイアは驚きの表情を浮かべながらも、強く頷いたのだった。
「聞いて下さい、ディラン様。今までの私の話を」
マイアの必死の願いが届いたのか、ディランはその場に座り込んでしまった。
「戦いに負けたのだ。敗者はおとなしく勝者に従うべきだろう」
ディランはそう言うものの、そのディランにつき従っていた魔族たちは混乱するばかりだ。
「なんだ? 暴れるというのなら、俺が相手をしてやろうか?」
その様子を見かねたマスターが半ば脅す感じに声を掛ける。すると、さすがにマスタードラゴンに逆らう事はできないのか、魔族たちはおとなしくなってしまった。
周りの状況が落ち着いてきた事で、マイアは静かに自分の話を語り出したのだった。
―――
今からどのくらい前だろうか。
ディランが不死者となって国を追われた後、専属メイドだったマイアは日に日にやつれていっていた。
ディランが居なくなった事で、心にすっぽりと穴が開いてしまったのである。
「はあ、ディラン様が居なくなってしまって、毎日がつまらない……。もう生きていても仕方ないわ」
もはや生きる気力を完全に失っていた。
そんなある日のこと、マイアはふととある事に思い至った。
「ディラン様は不死者になられたのよね。となれば、魔界に行けば出会えるのかしら」
そう、それは魔界へと向かう事だった。
ディランを追い出したシグムスにはもう思い入れはない。だったら、もうこの国に居ても意味がない。
その考えに思い至ったマイアは、かき集められるだけの食料を持って、城をこっそりと抜け出したのだ。
マイアは砂漠の中を、当てもなくさまよいながら歩く。ろくに戦闘能力も持たないメイドが、魔物がはびこる砂漠を歩いて越えるというのは、あまりにも無謀な話だ。
当然のごとく、運よく魔物に襲わなくても途中で力尽きてしまいそうになるマイア。
だが、その時だった。
マイアの上空から、大きな影が降り注いできたのだ。
もうダメだ。そう思ったマイアは覚悟を決める。どうせもう干からびて死んでしまうのだ。そんな状況では諦めるのが早いのは当然なのである。
「娘、なにゆえこんなところに居る」
だが、予想に反して、自分に語り掛ける声が聞こえてきた。
死にかけの状況ゆえに空耳かと思ったのだが、同じ言葉がもう一度掛けられた事で、現実だと認識した。
「わ、私の大切な方が、魔族となったがゆえに国を追われたのです。私は、その方を追いかけて国を出て参りました」
力を振り絞るように答えるマイア。
「ほう、おのが命を捨ててまで会いたい相手なのか?」
「……もちろんで、ございます」
力強く答えるマイア。それと同時に、自分に掛けられている声が、目の前の巨体から発せられている事に気が付いた。
「そうかそうか。ならばその願い、この我が叶えよう。この『破界龍タイタン』がな」
その声と同時に、目の前が真っ黒な光に包まれる。そして、周りの空間が真っ黒になると同時に、マイアの意識もその中へと沈み込んでいった。
「はっ」
意識を取り戻したマイアは、自分が居る場所に驚いていた。
「うう……」
思わず吐きそうになってしまうマイア。それもそうだろう。そこは瘴気に淀んだ魔界の中だったのだから。
「こ、ここは?」
「ここは魔界だ。あの場所からなら山を越えねばならなかったからな。我が空を飛んで連れてきた」
「ここが……魔界……。ここに、ディラン様がいらっしゃるのですね」
一歩歩き出そうとするマイアだったが、すぐさまその場にしゃがみ込んでしまう。ただでさえ体が弱っているところにこの瘴気の中だ。まともに立っていられるわけがないのである。
「まあそうだろうな。ハンターであってもこの瘴気はきつい。ただの人間のお前には猛毒といってもいいだろうな」
息も絶え絶えのマイアを見つめながら、タイタンは話をしている。そして、こう言い放った。
「お前をこの環境でも生きられる体にしてやろう。我の気まぐれとはいえ、実に幸運な奴よ!」
タイタンから強力な魔法が放たれ、マイアの体を包み込む。
「目覚めた時には、お前は魔族となっているだろう。だが、我がしてやるのはここまでだ。その後は思うように生きるといい」
変化に苦しむマイアを残し、タイタンはその場を立ち去っていったのだった。
「あなたに力を貸したのは、タイタンですね」
エウロパが短く問い掛けると、マイアはこくりと頷いた。
タイタンとは、五色龍の一人で地を司る。『破界龍』とも呼ばれ、世の理を捻じ曲げる事もできるドラゴンなのだ。
そんな力を持つ名前がエウロパの口から出た事で、マスターは納得ができてしまっていた。
「なるほどな。奴ならやりかねんな」
「何を納得してるんですか。こっちはまったく事情が分からないんですけど?」
一人で頷いているマスターに、ルナルが怒鳴るようにして迫っている。
「いや、悪いな。とりあえず、本人から詳しく聞いたらどうなんだ? 以前の説明じゃそこは伏せてもらってたが、想い人が居る今の状況なら、遠慮なく話しちまった方がいいだろうしな」
マイアを見ながら、マスターが促すように喋っている。それを聞いて、マイアは驚きの表情を浮かべながらも、強く頷いたのだった。
「聞いて下さい、ディラン様。今までの私の話を」
マイアの必死の願いが届いたのか、ディランはその場に座り込んでしまった。
「戦いに負けたのだ。敗者はおとなしく勝者に従うべきだろう」
ディランはそう言うものの、そのディランにつき従っていた魔族たちは混乱するばかりだ。
「なんだ? 暴れるというのなら、俺が相手をしてやろうか?」
その様子を見かねたマスターが半ば脅す感じに声を掛ける。すると、さすがにマスタードラゴンに逆らう事はできないのか、魔族たちはおとなしくなってしまった。
周りの状況が落ち着いてきた事で、マイアは静かに自分の話を語り出したのだった。
―――
今からどのくらい前だろうか。
ディランが不死者となって国を追われた後、専属メイドだったマイアは日に日にやつれていっていた。
ディランが居なくなった事で、心にすっぽりと穴が開いてしまったのである。
「はあ、ディラン様が居なくなってしまって、毎日がつまらない……。もう生きていても仕方ないわ」
もはや生きる気力を完全に失っていた。
そんなある日のこと、マイアはふととある事に思い至った。
「ディラン様は不死者になられたのよね。となれば、魔界に行けば出会えるのかしら」
そう、それは魔界へと向かう事だった。
ディランを追い出したシグムスにはもう思い入れはない。だったら、もうこの国に居ても意味がない。
その考えに思い至ったマイアは、かき集められるだけの食料を持って、城をこっそりと抜け出したのだ。
マイアは砂漠の中を、当てもなくさまよいながら歩く。ろくに戦闘能力も持たないメイドが、魔物がはびこる砂漠を歩いて越えるというのは、あまりにも無謀な話だ。
当然のごとく、運よく魔物に襲わなくても途中で力尽きてしまいそうになるマイア。
だが、その時だった。
マイアの上空から、大きな影が降り注いできたのだ。
もうダメだ。そう思ったマイアは覚悟を決める。どうせもう干からびて死んでしまうのだ。そんな状況では諦めるのが早いのは当然なのである。
「娘、なにゆえこんなところに居る」
だが、予想に反して、自分に語り掛ける声が聞こえてきた。
死にかけの状況ゆえに空耳かと思ったのだが、同じ言葉がもう一度掛けられた事で、現実だと認識した。
「わ、私の大切な方が、魔族となったがゆえに国を追われたのです。私は、その方を追いかけて国を出て参りました」
力を振り絞るように答えるマイア。
「ほう、おのが命を捨ててまで会いたい相手なのか?」
「……もちろんで、ございます」
力強く答えるマイア。それと同時に、自分に掛けられている声が、目の前の巨体から発せられている事に気が付いた。
「そうかそうか。ならばその願い、この我が叶えよう。この『破界龍タイタン』がな」
その声と同時に、目の前が真っ黒な光に包まれる。そして、周りの空間が真っ黒になると同時に、マイアの意識もその中へと沈み込んでいった。
「はっ」
意識を取り戻したマイアは、自分が居る場所に驚いていた。
「うう……」
思わず吐きそうになってしまうマイア。それもそうだろう。そこは瘴気に淀んだ魔界の中だったのだから。
「こ、ここは?」
「ここは魔界だ。あの場所からなら山を越えねばならなかったからな。我が空を飛んで連れてきた」
「ここが……魔界……。ここに、ディラン様がいらっしゃるのですね」
一歩歩き出そうとするマイアだったが、すぐさまその場にしゃがみ込んでしまう。ただでさえ体が弱っているところにこの瘴気の中だ。まともに立っていられるわけがないのである。
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「お前をこの環境でも生きられる体にしてやろう。我の気まぐれとはいえ、実に幸運な奴よ!」
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「目覚めた時には、お前は魔族となっているだろう。だが、我がしてやるのはここまでだ。その後は思うように生きるといい」
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