神槍のルナル

未羊

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第五章『思いはひとつ!』

混沌とする戦い

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 上空から一つの影が降ってくる。
 その姿を見たルルたちは、歓喜に打ち震えた。なにせ、その人がやってくる事を待っていたのだから。その姿こそ、みんなの希望なのだ。
「ルナル様!」
 ルルは叫ぶ。
「お待たせしました、みなさん」
 ちらりとルルたちの方へと視線を向けたルナル。そして、すぐさまディランたちへと鋭い視線を向ける。そこに先んじて現れたミーアたち三姉妹が、ルナルを守るように周りに立って身構えている。
「くっ、どうやってあの魔眼石の支配から逃れたというのだ……」
 三姉妹の攻撃を食らって少し怯んだディランは、目の前の状況が信じられないようだった。
「ルナル様たちの思いが、私を救って下さったのです。他人を駒としか思えないあなたには、到底理解できないでしょうね」
 ミントがディランへと吐き捨てる。
「ほざけ、この裏切者が!」
「どちらが裏切者なのでしょうね」
 感情に任せて発言するディラン。それに対して冷めきっているミントである。
「おのれ……、どいつもこいつもこけにしおってからに……」
 ディランは怒りに打ち震えている。そして、一度伏せていた顔を上げると大声で叫ぶ。
「ええい、この魔族の風上にも置けぬ連中を皆殺しにするのだ。いくぞっ!」
 ディランの号令に、行動を渋る魔族たち。それもそうだろう、魔王軍のトップの三人が目の前に立ちはだかっているのだ。勝ち目がないと動けないのだろう。
「まったく、どうしたのですかね。私たちを皆殺しにするのではなかったのですか?」
 挑発的に話すルナル。さすがにこの状況にはディランもしびれを切らす。
「ふん、腰抜けどもが。ならば、この俺だけでもやってくれる。いでよ、我が下僕どもよ!」
 ディランが叫ぶと、地面が盛り上がって何かが飛び出してくる。さらには空中には何かが集まり始める。
「俺はデュラハンだ。その力、甘く見てくれるなよ?」
「うわあっ!」
 ディランが顔をニヤつかせると同時に、イプセルタ兵が叫ぶ事が響き渡る。
 それは無理もない。倒したはずの魔族が起き上がるし、空中にはどす黒い物体が浮かんでいるし、墓場からは死体が起き上がってきているのだ。
「ひっ、気持ち悪い……」
「こやつ、死霊使いか。面倒な力を手に入れておるな」
 ルルとフォルがそれぞれに反応している。
「さあ、たっぷりと遊んでやれ」
「ガアアッ……!」
 ディランが命じると、死体や怨霊たちがルナルたち目がけて襲い掛かる。
「ミント、ミレル、ミーア。ルルちゃんの隣に居る子を守って下さい」
「畏まりました」
「仰せの通りに」
「分かりましたにゃー」
 ルナルが命じると、猫人の三人はすぐさまルルのところへと向かっていく。
 アンデッドが出現して混乱する様子を見て、ようやく行動を渋っていた魔族たちも行動を開始する。
「うおおおっ、裏切者を殺せ、人間どもを根絶やしにするのだ!」
「おおおっ!」
 さっきまで行動を渋っていたとは思えないくらい積極的に打って出ている。
「さて、俺も動くとしようか。なあ、ルナル」
「ディラン……」
 ちょうど取り巻きが離れてお互いに一人になったルナルとディラン。ここでいよいよ顔を合わせる事になる。
「ちょうどいいですね。城でやり合った時の借りを返させて頂きますよ」
「ふん、人間どもの中で鈍った槍で、俺に勝てるとでも思っているのか?」
 お互いに挑発し合う二人。
 ルナルはフラムベルクを取り出して構える。一方のディランは剣を顔の前で一度構えると、そのままルナルへと突きつける。ディランのこの行動は王子であり、騎士でもあった時からの名残だろう。
「さあ、し合おうではないか」
「そうですね。どちらが魔族の頂点に立つにふさわしいか、はっきりさせましょう!」
 力を込めて互いに笑みを浮かべる二人であった。

 その周りでは人間サイドと魔族サイドの戦いが繰り広げられている。
「まったく、死体を操るなどさすがは魔道に堕ちた者のする事じゃな」
「お姉ちゃん、これは何なんですか。シグムスの地下のスライムよりも気持ち悪いですよ」
 あまりにも非道な事に顔をしかめるフォル。気持ち悪がって怖がるルル。姉妹で対照的な反応をしている。
「ネクロマンス、死体を操って使役する禁断の魔法じゃよ。さすが人に紛れた妹は知らん事じゃったか」
「まったく、気持ち悪い事をしやがるな」
 精霊二人の側で剣で戦うセイン。
 アンデッドの軍勢が加わった事で、一気に形勢が不利になってしまった。アンデッドたちは少し引いていたセインたちが引き受けている。
「その通りじゃが、おぬしの剣があればこやつらとて脅威ではない。聞いておるじゃろう、おぬしの剣が破邪の剣だと」
「ああ、ルナルがそんな事を言っていたな。それがどうしたんだ?」
「破邪の剣は名の通り邪を払う。アンデッドにとっては脅威なのじゃよ」
「……なるほどな」
 一から十まで説明してようやく理解するセインである。相変わらず理解力に乏しいようである。
 混戦を極めるイプセルタ城。はたして勝負の行方はどうなるのであろうか。そして、どちらが勝利を収めるというのだろうか。状況は全く不透明だった。
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