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第五章『思いはひとつ!』
蹂躙劇
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「魔族が来るぞ! 総員ー、構えっ!」
城門の前には歩兵や騎馬隊、上には弓兵や魔法兵が構える。まだ必要なほどの応援は集まっておらず、城門に詰めている者だけで対処する状況である。
(くそう、なんだって俺が警備にあたってる時に来るんだ……)
上官はぐっと歯を食いしばっている。予想外過ぎて腹立たしくなっているのである。
だが、文句を言ったところで魔族が迫っている状況には変わりはない。気持ちを切り替えて迎撃の態勢を取るしかないのである。
「イプセルタ軍の司令官の一人として、魔族どもはここで食い止めてみせる!」
意気込む上官だが、その姿を見たディランは嘲り笑っていた。
「ふん、その心意気は褒めてやろう。だが、所詮は雑魚。我が軍勢の敵ではないわ」
余裕たっぷりのディランは魔族たちに号令をかける。
「さあ、お前ら。目の前の虫けらどもを蹴散らし、我らの力をここに示そうではないか」
「おおーっ!」
魔族たちの士気が一層高まる。
「蹂躙してやれ、我が軍勢どもよ!」
「来るぞ、総員かかれーっ!」
イプセルタの城門の北側で、イプセルタ軍と魔族がぶつかり合う。
だが、その結果は歴然としていた。
ディランに率いられている魔族たちは、ディランの声に応じて集まった各地の屈強たる魔族たちだ。それこそ、1体だけでもかなりの強敵といえる存在である。
それに対してイプセルタ軍は、援軍が間に合わず、城門に詰めている兵士たちだけでの応戦となった。
そもそもが多勢に無勢。
圧倒的な戦力差の前に、イプセルタ軍はなす術なく蹂躙されてしまったのだった。
「ば、バカな……。我がイプセルタの軍勢が……」
辺りに倒れ込む兵士たち。一部が激しく損壊した城門。この光景が、イプセルタ軍と魔族との間の戦力さを如実に物語っていた。
「さあ、さっさと城門を開けて俺たちを通すのだ。そうすれば、お前の命は助けてやろう」
倒れ込む上官を前にして、ディランが不敵な笑みを浮かべながら見下ろしている。交渉というより命令である。
「それは……、本当だろうな?」
「ああ、約束しよう」
「……」
一方的な戦いに心を折られた上官は、悔しさをにじませながら伏せた顔を上げる。
「残念ながら、俺たちには門を開ける事はできない。開けるための人員が居なくなってしまったからな」
再び顔を伏せて、ガリッと地面の土を削って握りしめる上官。
「門を越えて内側の閂を外せば通れる。……もう、好きに通ってくれ」
「そうか」
上官の言葉を受けて、空を飛べる魔族が門を飛び越える。そして、勢いよく閂を外すと、門を解放させた。
「よし、お前たち、進軍するぞ」
ディランが戻ろうとすると、上官が声を掛ける。
「俺は……助けてもらえるん、だろう、な……?」
その言葉を聞いたディランがにやりと笑う。
次の瞬間、ディランの後ろから巨体の魔族が現れ、手に持った棍棒を振り上げている。
「なっ、約束が、約束が違うぞ!」
「約束? 何を言っている。お前が約束したのはこの俺だけだ。俺は手を出していないから、約束は破っていないぞ?」
屁理屈ではあるものの、確かに間違ってはいない、その通りだ。
「う、うわあぁぁっ!!」
会話が終わるかというタイミングで、巨体の魔族の棍棒が思い切り振り降ろされた。
「ふん、所詮人間などこの程度の存在だな……」
ディランはその場を確認する事なく台座に座り直す。
「さあ、イプセルタの街の中へと進むぞ」
「おおお、ディラン様!」
「人間どもは皆殺しだ!」
ディランの声に盛り上がる魔族たち。ひと通り盛り上がると、イプセルタの街の中へと進んでいったのだった。
魔族の居なくなった城門。
そこへ、ひとつの影が降りてくる。
「まったく、酷い有様ですね。いくら命令とはいえ、この一方的な状況を見守らなかったのは、つらい限りでした」
辺りには倒れて動かなくなった兵士や馬たちが転がっている。
「我が癒しの力をもって、この場に居る者たちを癒したまえ」
降り立った影から、強力な魔力の渦が巻き起こる。
「フルオルキュア!」
人影が魔法を使うと、倒れている兵士や馬たちの傷がみるみると癒えていく。凄まじいまでの回復魔法である。
「う……ん……」
回復魔法の光が消えると、兵士たちがじわじわとその体を起こし始める。それは馬も同じだった。
「私たちは、なぜ……」
「はっ、魔族たちは?!」
目を覚ました兵士たちは困惑した状態だ。そこへ、先程の人影が近付いていく。
「さすがはタイタンの力。一人も死なずに済むとはさすがですね」
「だ、誰だ、お前は!」
棍棒に潰されたはずの上官が、人影に向かって剣を構える。
そこに居たのは、全身が青色に包まれた女性だった。
「私は水智龍エウロパ。マスタードラゴン様の命令で、助けに参りました」
「ま、マスタードラゴンだと?!」
エウロパの言葉に戸惑う兵士たちである。
「あなた方を助けなかったのは、マスタードラゴン様の考えあってのこと。後の事は私たちにお任せ下さいませ」
話を終えたエウロパは、背中から翼を出して飛び去っていく。
あまりに突然のできごとに、兵士たちはしばらくその場から動く事ができなかったのだった。
城門の前には歩兵や騎馬隊、上には弓兵や魔法兵が構える。まだ必要なほどの応援は集まっておらず、城門に詰めている者だけで対処する状況である。
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上官はぐっと歯を食いしばっている。予想外過ぎて腹立たしくなっているのである。
だが、文句を言ったところで魔族が迫っている状況には変わりはない。気持ちを切り替えて迎撃の態勢を取るしかないのである。
「イプセルタ軍の司令官の一人として、魔族どもはここで食い止めてみせる!」
意気込む上官だが、その姿を見たディランは嘲り笑っていた。
「ふん、その心意気は褒めてやろう。だが、所詮は雑魚。我が軍勢の敵ではないわ」
余裕たっぷりのディランは魔族たちに号令をかける。
「さあ、お前ら。目の前の虫けらどもを蹴散らし、我らの力をここに示そうではないか」
「おおーっ!」
魔族たちの士気が一層高まる。
「蹂躙してやれ、我が軍勢どもよ!」
「来るぞ、総員かかれーっ!」
イプセルタの城門の北側で、イプセルタ軍と魔族がぶつかり合う。
だが、その結果は歴然としていた。
ディランに率いられている魔族たちは、ディランの声に応じて集まった各地の屈強たる魔族たちだ。それこそ、1体だけでもかなりの強敵といえる存在である。
それに対してイプセルタ軍は、援軍が間に合わず、城門に詰めている兵士たちだけでの応戦となった。
そもそもが多勢に無勢。
圧倒的な戦力差の前に、イプセルタ軍はなす術なく蹂躙されてしまったのだった。
「ば、バカな……。我がイプセルタの軍勢が……」
辺りに倒れ込む兵士たち。一部が激しく損壊した城門。この光景が、イプセルタ軍と魔族との間の戦力さを如実に物語っていた。
「さあ、さっさと城門を開けて俺たちを通すのだ。そうすれば、お前の命は助けてやろう」
倒れ込む上官を前にして、ディランが不敵な笑みを浮かべながら見下ろしている。交渉というより命令である。
「それは……、本当だろうな?」
「ああ、約束しよう」
「……」
一方的な戦いに心を折られた上官は、悔しさをにじませながら伏せた顔を上げる。
「残念ながら、俺たちには門を開ける事はできない。開けるための人員が居なくなってしまったからな」
再び顔を伏せて、ガリッと地面の土を削って握りしめる上官。
「門を越えて内側の閂を外せば通れる。……もう、好きに通ってくれ」
「そうか」
上官の言葉を受けて、空を飛べる魔族が門を飛び越える。そして、勢いよく閂を外すと、門を解放させた。
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「俺は……助けてもらえるん、だろう、な……?」
その言葉を聞いたディランがにやりと笑う。
次の瞬間、ディランの後ろから巨体の魔族が現れ、手に持った棍棒を振り上げている。
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ディランはその場を確認する事なく台座に座り直す。
「さあ、イプセルタの街の中へと進むぞ」
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ディランの声に盛り上がる魔族たち。ひと通り盛り上がると、イプセルタの街の中へと進んでいったのだった。
魔族の居なくなった城門。
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辺りには倒れて動かなくなった兵士や馬たちが転がっている。
「我が癒しの力をもって、この場に居る者たちを癒したまえ」
降り立った影から、強力な魔力の渦が巻き起こる。
「フルオルキュア!」
人影が魔法を使うと、倒れている兵士や馬たちの傷がみるみると癒えていく。凄まじいまでの回復魔法である。
「う……ん……」
回復魔法の光が消えると、兵士たちがじわじわとその体を起こし始める。それは馬も同じだった。
「私たちは、なぜ……」
「はっ、魔族たちは?!」
目を覚ました兵士たちは困惑した状態だ。そこへ、先程の人影が近付いていく。
「さすがはタイタンの力。一人も死なずに済むとはさすがですね」
「だ、誰だ、お前は!」
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