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第五章『思いはひとつ!』
元に戻って!
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「ふむ、なるほどのう。魔眼石とは面倒なものを持ち出してくれておる。しかも面妖な術まで使いおってからに……」
ルナルたちの前に現れた魔法使いのような妖精のような女性は、実に顔をしかめている。
「フォル様?!」
思わず名前を呼んでしまうルナル。
「どうしてわしがここに居るかは、今は気にする事でもあるまい。そこな猫人よ、隙はわしが作ってやる。ありったけの魔法をぶつけてやれ!」
「は、はいっ!」
フォルの呼び掛けに、驚きながらも返事をするミレル。
手足を蔓で縛られたミントは、ぐるると唸りながら、蔓を引きちぎろうとして引っ張ったり噛みついたりして暴れている。
「さすがに狂っておるのう。わしの操る植物に抵抗しようとはな……」
歯を食いしばりながら必死の抵抗を見せるミントに、フォルは哀れむように言葉を漏らしている。だが、そう言っている間にも、ぶちぶちと蔓がちぎれる音がし始めている。これにはさすがにフォルも少し驚いた顔をしていた。
「ほう、やりおるわ。じゃが、何もわしの力はこれだけではないぞ。獣の身でどこまで抗えるかの?」
だが、決して慌てる事はない。母なる樹ユグドラシルの分体であるフォルには余裕があるのだ。そのフォルとミントの姿を、ルナルとミーアは見る事しかできなかった。
「おぬしらはしばらく休んでおけ。どのみちこの後もいろいろとあるのであろう?」
「わ、分かりました」
フォルの表情に、ルナルはそれしか言えなかった。そして、ミーアに近付いて耳打ちをする。
「ミレルの側に行きましょう。何もできないのなら、支えてあげませんと」
「分かりましたにゃー……」
ルナルの声に、ミーアは耳と尻尾をしょげしょげに垂らしながら残念そうに同意していた。よっぽど戦いたかったらしい。さすがは戦闘民族である。
「さて、命の根源たるユグドラシルが分体が命ずる。この者の悪しき力を取り押さえるのだ」
ルナルたちがミーアのところに移動したのを確認したフォルは、その力を存分に発揮し始める。だが、この場所は本来の活動範囲である還らずの森からは離れているために、その表情は少しつらそうに見える。
(くっ、やはり森を離れては力がうまく発揮できぬか。我ながら無茶をしたものだな……。妹分が羨ましいわい)
フォルの頬を汗が伝う。それでも、ルナルたちに大見得を切ったからには責を全うをするのがフォルという精霊なのである。
「さあ、我が同胞よ! 心清き者を悪しく呪縛から解き放つのだ!」
だが、力を使うフォルにあふれた魔物が襲い掛かる。
「そうはいかないにゃ!」
ミレルの近くに寄っていたはずのミーアが魔物を倒してしまう。
「にゃはーっ、これで暴れられるにゃ!」
「ふふっ、これは心強いな。待っておれ、お前の姉は必ず元に戻してやるからの。後ろは任せたぞ」
「はいにゃーっ!」
フォルの言葉に元気よく返事をするミーア。アイオロスが討ち漏らした魔物を、えいやと殴ったり蹴ったりしていた。
「が、あ……っ!」
一方のミントは苦しそうだった。蔓で縛られた状態で、ユグドラシル由来のフォルの魔力にさらされているからだ。
「魔眼石の魔力のせいで苦しいじゃろうが、いましばらくの我慢じゃぞ」
フォルが語り掛けるようにミントに言うと、今まで雄たけびを上げていたミントがすっとおとなしくなった。
「今じゃぞ、そこな猫人!」
「はい!」
呼ばれたミレルの全身に力が入る。そして、今までで一番強い光がミレルの拳に集まっていく。
「姉さん、元に戻って! ディスペル!」
魂の叫びと同時に、ミレルは魔法を放つ。
白い魔力がミントを包み込む。
すると、ユグドラシル由来のフォルの魔力と混ざり合って、その効果が増大していく。
「があ……あ……あ」
ミントの雄たけびが、少しずつ小さくなっていく。
するとどうした事だろうか、魔眼石がぐらぐらと揺れ始めているではないか。しかも、その大きさが少しずつ小さくなり始めているではないか。
しばらくすると、魔眼石は完全にミントの胸から外れ、そのまま地面へと転がってしまった。
それと同時に、不気味に膨れ上がっていたミントの筋肉と体毛が少しずつ元に戻っていく。変化を確認したフォルは、蔓を解く。すると、ミントはそのまま地面に座り込むどころか、平然と立っていた。なんという精神力の強さだろうか。
「はあ、はあ……。私、生きて……いるのですね」
表情は疲労困憊だが、その目はまっすぐ前を見据えている。さすがは戦闘民族の猫人である。呼吸が乱れているものの、ミントはすぐに魔物たちの方を見る。
「お前たち、もうやめなさい!」
胸を押さえながらも、暴れる魔物たちに大声で命令を出すミント。その声が届いたのか、魔物たちはその動きを次々止めていった。
「なんだ? もう終わりか?」
急に動きを止めた魔物たちに戸惑うアイオロス。そして、そのアイオロスを無視して、魔物たちは次々とミントの周りに集まり始めた。
「よしよし、私の言う事を聞いてくれて本当にありがとうございました。お前たちはもう好きにしてもいいのですよ」
この短時間であっという間に回復して普通に喋るミントにも驚きだが、ミントにそう言われてそばを離れようとしない魔物たちにも驚かされる。
「本当に、助けて下さりありがとうございます」
魔物たちを宥めたミントは、メイドらしくルナルたちに頭を下げたのだった。
ルナルたちの前に現れた魔法使いのような妖精のような女性は、実に顔をしかめている。
「フォル様?!」
思わず名前を呼んでしまうルナル。
「どうしてわしがここに居るかは、今は気にする事でもあるまい。そこな猫人よ、隙はわしが作ってやる。ありったけの魔法をぶつけてやれ!」
「は、はいっ!」
フォルの呼び掛けに、驚きながらも返事をするミレル。
手足を蔓で縛られたミントは、ぐるると唸りながら、蔓を引きちぎろうとして引っ張ったり噛みついたりして暴れている。
「さすがに狂っておるのう。わしの操る植物に抵抗しようとはな……」
歯を食いしばりながら必死の抵抗を見せるミントに、フォルは哀れむように言葉を漏らしている。だが、そう言っている間にも、ぶちぶちと蔓がちぎれる音がし始めている。これにはさすがにフォルも少し驚いた顔をしていた。
「ほう、やりおるわ。じゃが、何もわしの力はこれだけではないぞ。獣の身でどこまで抗えるかの?」
だが、決して慌てる事はない。母なる樹ユグドラシルの分体であるフォルには余裕があるのだ。そのフォルとミントの姿を、ルナルとミーアは見る事しかできなかった。
「おぬしらはしばらく休んでおけ。どのみちこの後もいろいろとあるのであろう?」
「わ、分かりました」
フォルの表情に、ルナルはそれしか言えなかった。そして、ミーアに近付いて耳打ちをする。
「ミレルの側に行きましょう。何もできないのなら、支えてあげませんと」
「分かりましたにゃー……」
ルナルの声に、ミーアは耳と尻尾をしょげしょげに垂らしながら残念そうに同意していた。よっぽど戦いたかったらしい。さすがは戦闘民族である。
「さて、命の根源たるユグドラシルが分体が命ずる。この者の悪しき力を取り押さえるのだ」
ルナルたちがミーアのところに移動したのを確認したフォルは、その力を存分に発揮し始める。だが、この場所は本来の活動範囲である還らずの森からは離れているために、その表情は少しつらそうに見える。
(くっ、やはり森を離れては力がうまく発揮できぬか。我ながら無茶をしたものだな……。妹分が羨ましいわい)
フォルの頬を汗が伝う。それでも、ルナルたちに大見得を切ったからには責を全うをするのがフォルという精霊なのである。
「さあ、我が同胞よ! 心清き者を悪しく呪縛から解き放つのだ!」
だが、力を使うフォルにあふれた魔物が襲い掛かる。
「そうはいかないにゃ!」
ミレルの近くに寄っていたはずのミーアが魔物を倒してしまう。
「にゃはーっ、これで暴れられるにゃ!」
「ふふっ、これは心強いな。待っておれ、お前の姉は必ず元に戻してやるからの。後ろは任せたぞ」
「はいにゃーっ!」
フォルの言葉に元気よく返事をするミーア。アイオロスが討ち漏らした魔物を、えいやと殴ったり蹴ったりしていた。
「が、あ……っ!」
一方のミントは苦しそうだった。蔓で縛られた状態で、ユグドラシル由来のフォルの魔力にさらされているからだ。
「魔眼石の魔力のせいで苦しいじゃろうが、いましばらくの我慢じゃぞ」
フォルが語り掛けるようにミントに言うと、今まで雄たけびを上げていたミントがすっとおとなしくなった。
「今じゃぞ、そこな猫人!」
「はい!」
呼ばれたミレルの全身に力が入る。そして、今までで一番強い光がミレルの拳に集まっていく。
「姉さん、元に戻って! ディスペル!」
魂の叫びと同時に、ミレルは魔法を放つ。
白い魔力がミントを包み込む。
すると、ユグドラシル由来のフォルの魔力と混ざり合って、その効果が増大していく。
「があ……あ……あ」
ミントの雄たけびが、少しずつ小さくなっていく。
するとどうした事だろうか、魔眼石がぐらぐらと揺れ始めているではないか。しかも、その大きさが少しずつ小さくなり始めているではないか。
しばらくすると、魔眼石は完全にミントの胸から外れ、そのまま地面へと転がってしまった。
それと同時に、不気味に膨れ上がっていたミントの筋肉と体毛が少しずつ元に戻っていく。変化を確認したフォルは、蔓を解く。すると、ミントはそのまま地面に座り込むどころか、平然と立っていた。なんという精神力の強さだろうか。
「はあ、はあ……。私、生きて……いるのですね」
表情は疲労困憊だが、その目はまっすぐ前を見据えている。さすがは戦闘民族の猫人である。呼吸が乱れているものの、ミントはすぐに魔物たちの方を見る。
「お前たち、もうやめなさい!」
胸を押さえながらも、暴れる魔物たちに大声で命令を出すミント。その声が届いたのか、魔物たちはその動きを次々止めていった。
「なんだ? もう終わりか?」
急に動きを止めた魔物たちに戸惑うアイオロス。そして、そのアイオロスを無視して、魔物たちは次々とミントの周りに集まり始めた。
「よしよし、私の言う事を聞いてくれて本当にありがとうございました。お前たちはもう好きにしてもいいのですよ」
この短時間であっという間に回復して普通に喋るミントにも驚きだが、ミントにそう言われてそばを離れようとしない魔物たちにも驚かされる。
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