神槍のルナル

未羊

文字の大きさ
上 下
107 / 139
第四章『運命のいたずら』

謎の少女を交えて

しおりを挟む
「あら、そちらの方は?」
 久しぶりにアルファガドに戻ってきたルナルがマスターに尋ねている。一人だけ事情をまったく知らないからである。
「ああ、この子が会議の時に話していた保護した魔族の子だ。弱っていたが、今はだいぶ回復したってところだ」
「へえ、そうなんですね」
 ルナルがじっと魔族の少女を見つめる。あまりに凝視されるものだから、少女は怯んでマスターの後ろに隠れてしまった。
「はっはっはっ、ルナル嫌われたな」
「張っ倒しますよ?」
 マスターの言葉を聞いて、ルナルはぎろりとマスターを睨む。
「おっかねえなぁ、せっかくの美人がもったいないぞ」
「誰のせいですか!」
 ルナルは完全にお冠である。まったく、マスターはどうしてこうもルナルをいじるのか。これがマスタードラゴンのする事なのか、甚だ疑問である。
「ソルト、アカーシャ、お前たちはちょっと来てくれないか?」
「何でしょうか、マスター様」
「一体どうしたというのですか」
 ちらりとソルトとアカーシャの姿が見えたので、マスターが呼び寄せる。
「ルナル様、よくご無事でございました」
「魔王城に戻られたと聞いて、心配になりましたよ。マスター様からいろいろ聞かされていましたので」
 ルナルに気が付いた二人が、頭を下げながら話し掛けている。
「二人とも心配かけましたね。この通り私は大丈夫ですので、安心して下さい」
「まっ、立ち話もなんだし、この子の事も踏まえて部屋に移動して話をしようか」
 ルナルがソルトたちに言葉を返していると、マスターが遮るように話し掛けてくるものだから、ルナルが少し膨れていた。これが魔王なのだから不思議なものである。

 膨れるルナルを連れてマスターは私室へとやって来た。
「さて、ディランの動向だな」
「あの男、いよいよやらかしてくれたらしいな。魔王軍の総司令としてとても許してはおけぬ……!」
 マスターが切り出すと、アカーシャが歯を食いしばって怒りを露わにする。この姿に少女は思わずマスターの後ろに隠れるように逃げる。
「こらこら、そんなに怒鳴るんじゃない。怖がっているじゃないか」
 アカーシャたちを宥めるマスターである。
「そうは申されましても、これは魔王軍たるあたしたちの問題。あたしたちでどうにかしなければならないのです」
「だがな、ディランは魔封じの魔法が使えるんだ。魔族のお前たちでは、返り討ちに遭いかねない。おとなしく行かせるわけにはいかないな」
 強い口調で止めるマスターである。
「そうですよ、私ですら危うくだったのです。ここはしっかり対策を練らなければ……」
 実際に強力な魔封じの魔法をその身に受けたルナルは、かなり慎重になっている。なにせアイオロスの乱入がなければ、本当に危なかったのだから。
「それはそうとして、マスター」
「なんだ、ルナル」
「その子は一体何者なんですか? 魔王城には居ない人物なはずなのに、なぜディランの事を様付けで呼んでいるのです?」
 ルナルはマスターの陰に隠れている少女について、鋭く質問をぶつけている。ルナルの視線が鋭く怖いがために、少女はマスターの後ろで震えたままである。
「そこまで凄んでやるな。ようやく回復した病み上がりなんだからな」
 マスターは必死にルナルから少女を守っている。
「で、話す気にはなれるかい?」
 庇いながらも、マスターは少女に確認するように話し掛ける。
 すると、少女は隠れながらもこくりと頷いた。
 その姿を見て、マスターはルナルたちを牽制しながら自分の隣に少女を改めて座らせた。
「とりあえず自分が何者であるか、それをルナルたちに伝えてやってくれ。大丈夫、こいつらなら敵には回らないさ」
 マスターはまだ身構えて表情の強張っている少女へ、諭すように優しく声を掛けている。少女はその声に応えるように、ごくりと息を飲んで覚悟を決める。
「あの……」
 少女がルナルたちに声を掛け、自分の事を話し始めた。
「私は、かつてシグムス王国でメイドをしていました。名前はマイアと申しまして、ディラン様付きのメイドでした」
 口を開いた少女から飛び出た言葉に、ルナルたちは衝撃を受ける。
「ちょっと待って下さい。ディランと同じ時を生きていた人間であれば、もうとっくに死んでいるはずです。それも魔族になっているとは、一体どういう事なんですか?!」
 ついつい声を荒げてしまうルナルである。そのせいで、マイアと名乗った少女はきゅっと体を強張らせて黙ってしまう。
「おい、ルナル。頼むから最後まで黙って聞け!」
 さすがのマスターもお怒りモードだ。これにはルナルもおとなしく黙ってしまう。さすがはギルドのマスターである。
「こいつらは俺がおとなしくさせておくから、一体今まで何があったのか話してくれ」
 マスターの言葉にマイアはルナルたちの方へちらり視線を送る。厳しい目を向けられてはいるものの、話を聞くつもりはあるらしくおとなしく座っているルナルたちである。
 そして、再び息を飲んだマイアは、おとなしく自分の事を話し始めたのだった。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

侯爵家の愛されない娘でしたが、前世の記憶を思い出したらお父様がバリ好みのイケメン過ぎて毎日が楽しくなりました

下菊みこと
ファンタジー
前世の記憶を思い出したらなにもかも上手くいったお話。 ご都合主義のSS。 お父様、キャラチェンジが激しくないですか。 小説家になろう様でも投稿しています。 突然ですが長編化します!ごめんなさい!ぜひ見てください!

眠っていた魔力紙を折紙みたいに折ったら、新しい魔法の使い方が出来たので、役立てます。

ゆう
ファンタジー
目が覚めたら森の中。 森をさ迷い、助けられ、森の奥の魔素の多い『森の聖域』の隣村『クルーラ』で暮らすことになるオルガ。 『クルーラ』で暮らしながら、いろんな魔道具に驚き、文字の書き方を教えてもらいながら、少しづつ村に馴染んでいく。 そんな『クルーラ』の収入源は、『森の聖域』の果実や薬草などで作られた魔法薬。『森の聖域』周辺で採取された木で作られた、魔法の原書や魔方陣の本、契約書の用紙として使われている、魔力を含んだ紙『魔力紙(マリョクシ)』。 オルガは勉強するため毎日通っていた村長ヒナキの店で、不要な『魔力紙』が入った収納箱を見つける。 記憶は無いのに、なんとなく手が覚えていて、その『魔力紙』を折り始め、魔力を込めることによって、新たな活用法を見いだしていく。 そして皆の役立つものに…。 手軽に日常生活に使えて、普及するために…。 『クルーラ』と『聖域』で、いろんな魔道具や魔法に出会い、のんびりスローライフをしながら、『魔紙(マシ)』を折って、役立てます。 オルガの『折り魔紙(オリマシ)』の話。 ◇森の聖域◇ 三年後、『クルーラ』に慣れてきたオルガが、魔法を練習したり、『森の聖域』に入り、お手伝いする話。 ◇熊族の町ベイエル◇ オルガが、ベイエルに行って、アレクの家族と買い物したり、勉強したり、果樹園の手伝いをする話。 ***** 『神の宿り木』(こっちはBL )と同じ世界の、数年後の『森の聖域』の隣村クラークからの話です。 なので、ちょいちょい『神の宿り木』のメンバーが出てきます。

チートがちと強すぎるが、異世界を満喫できればそれでいい

616號
ファンタジー
 不慮の事故に遭い異世界に転移した主人公アキトは、強さや魔法を思い通り設定できるチートを手に入れた。ダンジョンや迷宮などが数多く存在し、それに加えて異世界からの侵略も日常的にある世界でチートすぎる魔法を次々と編み出して、自由にそして気ままに生きていく冒険物語。

貴族令嬢に生まれたからには念願のだらだらニート生活したい。

譚音アルン
ファンタジー
ブラック企業に勤めてたのがいつの間にか死んでたっぽい。気がつくと異世界の伯爵令嬢(第五子で三女)に転生していた。前世働き過ぎだったから今世はニートになろう、そう決めた私ことマリアージュ・キャンディの奮闘記。 ※この小説はフィクションです。実在の国や人物、団体などとは関係ありません。 ※2020-01-16より執筆開始。

貴方に側室を決める権利はございません

章槻雅希
ファンタジー
婚約者がいきなり『側室を迎える』と言い出しました。まだ、結婚もしていないのに。そしてよくよく聞いてみると、婚約者は根本的な勘違いをしているようです。あなたに側室を決める権利はありませんし、迎える権利もございません。 思い付きによるショートショート。 国の背景やらの設定はふんわり。なんちゃって近世ヨーロッパ風な異世界。 『小説家になろう』様・『アルファポリス』様に重複投稿。

役立たずと言われダンジョンで殺されかけたが、実は最強で万能スキルでした !

本条蒼依
ファンタジー
地球とは違う異世界シンアースでの物語。  主人公マルクは神聖の儀で何にも反応しないスキルを貰い、絶望の淵へと叩き込まれる。 その役に立たないスキルで冒険者になるが、役立たずと言われダンジョンで殺されかけるが、そのスキルは唯一無二の万能スキルだった。  そのスキルで成り上がり、ダンジョンで裏切った人間は落ちぶれざまあ展開。 主人公マルクは、そのスキルで色んなことを解決し幸せになる。  ハーレム要素はしばらくありません。

スライムからパンを作ろう!〜そのパンは全てポーションだけど、絶品!!〜

櫛田こころ
ファンタジー
僕は、諏方賢斗(すわ けんと)十九歳。 パンの製造員を目指す専門学生……だったんだけど。 車に轢かれそうになった猫ちゃんを助けようとしたら、あっさり事故死。でも、その猫ちゃんが神様の御使と言うことで……復活は出来ないけど、僕を異世界に転生させることは可能だと提案されたので、もちろん承諾。 ただ、ひとつ神様にお願いされたのは……その世界の、回復アイテムを開発してほしいとのこと。パンやお菓子以外だと家庭レベルの調理技術しかない僕で、なんとか出来るのだろうか心配になったが……転生した世界で出会ったスライムのお陰で、それは実現出来ることに!! 相棒のスライムは、パン製造の出来るレアスライム! けど、出来たパンはすべて回復などを実現出来るポーションだった!! パン職人が夢だった青年の異世界のんびりスローライフが始まる!!

せっかくのクラス転移だけども、俺はポテトチップスでも食べながらクラスメイトの冒険を見守りたいと思います

霖空
ファンタジー
クラス転移に巻き込まれてしまった主人公。 得た能力は悪くない……いや、むしろ、チートじみたものだった。 しかしながら、それ以上のデメリットもあり……。 傍観者にならざるをえない彼が傍観者するお話です。 基本的に、勇者や、影井くんを見守りつつ、ほのぼの?生活していきます。 が、そのうち、彼自身の物語も始まる予定です。

処理中です...