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第四章『運命のいたずら』
謎の少女を交えて
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「あら、そちらの方は?」
久しぶりにアルファガドに戻ってきたルナルがマスターに尋ねている。一人だけ事情をまったく知らないからである。
「ああ、この子が会議の時に話していた保護した魔族の子だ。弱っていたが、今はだいぶ回復したってところだ」
「へえ、そうなんですね」
ルナルがじっと魔族の少女を見つめる。あまりに凝視されるものだから、少女は怯んでマスターの後ろに隠れてしまった。
「はっはっはっ、ルナル嫌われたな」
「張っ倒しますよ?」
マスターの言葉を聞いて、ルナルはぎろりとマスターを睨む。
「おっかねえなぁ、せっかくの美人がもったいないぞ」
「誰のせいですか!」
ルナルは完全にお冠である。まったく、マスターはどうしてこうもルナルをいじるのか。これがマスタードラゴンのする事なのか、甚だ疑問である。
「ソルト、アカーシャ、お前たちはちょっと来てくれないか?」
「何でしょうか、マスター様」
「一体どうしたというのですか」
ちらりとソルトとアカーシャの姿が見えたので、マスターが呼び寄せる。
「ルナル様、よくご無事でございました」
「魔王城に戻られたと聞いて、心配になりましたよ。マスター様からいろいろ聞かされていましたので」
ルナルに気が付いた二人が、頭を下げながら話し掛けている。
「二人とも心配かけましたね。この通り私は大丈夫ですので、安心して下さい」
「まっ、立ち話もなんだし、この子の事も踏まえて部屋に移動して話をしようか」
ルナルがソルトたちに言葉を返していると、マスターが遮るように話し掛けてくるものだから、ルナルが少し膨れていた。これが魔王なのだから不思議なものである。
膨れるルナルを連れてマスターは私室へとやって来た。
「さて、ディランの動向だな」
「あの男、いよいよやらかしてくれたらしいな。魔王軍の総司令としてとても許してはおけぬ……!」
マスターが切り出すと、アカーシャが歯を食いしばって怒りを露わにする。この姿に少女は思わずマスターの後ろに隠れるように逃げる。
「こらこら、そんなに怒鳴るんじゃない。怖がっているじゃないか」
アカーシャたちを宥めるマスターである。
「そうは申されましても、これは魔王軍たるあたしたちの問題。あたしたちでどうにかしなければならないのです」
「だがな、ディランは魔封じの魔法が使えるんだ。魔族のお前たちでは、返り討ちに遭いかねない。おとなしく行かせるわけにはいかないな」
強い口調で止めるマスターである。
「そうですよ、私ですら危うくだったのです。ここはしっかり対策を練らなければ……」
実際に強力な魔封じの魔法をその身に受けたルナルは、かなり慎重になっている。なにせアイオロスの乱入がなければ、本当に危なかったのだから。
「それはそうとして、マスター」
「なんだ、ルナル」
「その子は一体何者なんですか? 魔王城には居ない人物なはずなのに、なぜディランの事を様付けで呼んでいるのです?」
ルナルはマスターの陰に隠れている少女について、鋭く質問をぶつけている。ルナルの視線が鋭く怖いがために、少女はマスターの後ろで震えたままである。
「そこまで凄んでやるな。ようやく回復した病み上がりなんだからな」
マスターは必死にルナルから少女を守っている。
「で、話す気にはなれるかい?」
庇いながらも、マスターは少女に確認するように話し掛ける。
すると、少女は隠れながらもこくりと頷いた。
その姿を見て、マスターはルナルたちを牽制しながら自分の隣に少女を改めて座らせた。
「とりあえず自分が何者であるか、それをルナルたちに伝えてやってくれ。大丈夫、こいつらなら敵には回らないさ」
マスターはまだ身構えて表情の強張っている少女へ、諭すように優しく声を掛けている。少女はその声に応えるように、ごくりと息を飲んで覚悟を決める。
「あの……」
少女がルナルたちに声を掛け、自分の事を話し始めた。
「私は、かつてシグムス王国でメイドをしていました。名前はマイアと申しまして、ディラン様付きのメイドでした」
口を開いた少女から飛び出た言葉に、ルナルたちは衝撃を受ける。
「ちょっと待って下さい。ディランと同じ時を生きていた人間であれば、もうとっくに死んでいるはずです。それも魔族になっているとは、一体どういう事なんですか?!」
ついつい声を荒げてしまうルナルである。そのせいで、マイアと名乗った少女はきゅっと体を強張らせて黙ってしまう。
「おい、ルナル。頼むから最後まで黙って聞け!」
さすがのマスターもお怒りモードだ。これにはルナルもおとなしく黙ってしまう。さすがはギルドのマスターである。
「こいつらは俺がおとなしくさせておくから、一体今まで何があったのか話してくれ」
マスターの言葉にマイアはルナルたちの方へちらり視線を送る。厳しい目を向けられてはいるものの、話を聞くつもりはあるらしくおとなしく座っているルナルたちである。
そして、再び息を飲んだマイアは、おとなしく自分の事を話し始めたのだった。
久しぶりにアルファガドに戻ってきたルナルがマスターに尋ねている。一人だけ事情をまったく知らないからである。
「ああ、この子が会議の時に話していた保護した魔族の子だ。弱っていたが、今はだいぶ回復したってところだ」
「へえ、そうなんですね」
ルナルがじっと魔族の少女を見つめる。あまりに凝視されるものだから、少女は怯んでマスターの後ろに隠れてしまった。
「はっはっはっ、ルナル嫌われたな」
「張っ倒しますよ?」
マスターの言葉を聞いて、ルナルはぎろりとマスターを睨む。
「おっかねえなぁ、せっかくの美人がもったいないぞ」
「誰のせいですか!」
ルナルは完全にお冠である。まったく、マスターはどうしてこうもルナルをいじるのか。これがマスタードラゴンのする事なのか、甚だ疑問である。
「ソルト、アカーシャ、お前たちはちょっと来てくれないか?」
「何でしょうか、マスター様」
「一体どうしたというのですか」
ちらりとソルトとアカーシャの姿が見えたので、マスターが呼び寄せる。
「ルナル様、よくご無事でございました」
「魔王城に戻られたと聞いて、心配になりましたよ。マスター様からいろいろ聞かされていましたので」
ルナルに気が付いた二人が、頭を下げながら話し掛けている。
「二人とも心配かけましたね。この通り私は大丈夫ですので、安心して下さい」
「まっ、立ち話もなんだし、この子の事も踏まえて部屋に移動して話をしようか」
ルナルがソルトたちに言葉を返していると、マスターが遮るように話し掛けてくるものだから、ルナルが少し膨れていた。これが魔王なのだから不思議なものである。
膨れるルナルを連れてマスターは私室へとやって来た。
「さて、ディランの動向だな」
「あの男、いよいよやらかしてくれたらしいな。魔王軍の総司令としてとても許してはおけぬ……!」
マスターが切り出すと、アカーシャが歯を食いしばって怒りを露わにする。この姿に少女は思わずマスターの後ろに隠れるように逃げる。
「こらこら、そんなに怒鳴るんじゃない。怖がっているじゃないか」
アカーシャたちを宥めるマスターである。
「そうは申されましても、これは魔王軍たるあたしたちの問題。あたしたちでどうにかしなければならないのです」
「だがな、ディランは魔封じの魔法が使えるんだ。魔族のお前たちでは、返り討ちに遭いかねない。おとなしく行かせるわけにはいかないな」
強い口調で止めるマスターである。
「そうですよ、私ですら危うくだったのです。ここはしっかり対策を練らなければ……」
実際に強力な魔封じの魔法をその身に受けたルナルは、かなり慎重になっている。なにせアイオロスの乱入がなければ、本当に危なかったのだから。
「それはそうとして、マスター」
「なんだ、ルナル」
「その子は一体何者なんですか? 魔王城には居ない人物なはずなのに、なぜディランの事を様付けで呼んでいるのです?」
ルナルはマスターの陰に隠れている少女について、鋭く質問をぶつけている。ルナルの視線が鋭く怖いがために、少女はマスターの後ろで震えたままである。
「そこまで凄んでやるな。ようやく回復した病み上がりなんだからな」
マスターは必死にルナルから少女を守っている。
「で、話す気にはなれるかい?」
庇いながらも、マスターは少女に確認するように話し掛ける。
すると、少女は隠れながらもこくりと頷いた。
その姿を見て、マスターはルナルたちを牽制しながら自分の隣に少女を改めて座らせた。
「とりあえず自分が何者であるか、それをルナルたちに伝えてやってくれ。大丈夫、こいつらなら敵には回らないさ」
マスターはまだ身構えて表情の強張っている少女へ、諭すように優しく声を掛けている。少女はその声に応えるように、ごくりと息を飲んで覚悟を決める。
「あの……」
少女がルナルたちに声を掛け、自分の事を話し始めた。
「私は、かつてシグムス王国でメイドをしていました。名前はマイアと申しまして、ディラン様付きのメイドでした」
口を開いた少女から飛び出た言葉に、ルナルたちは衝撃を受ける。
「ちょっと待って下さい。ディランと同じ時を生きていた人間であれば、もうとっくに死んでいるはずです。それも魔族になっているとは、一体どういう事なんですか?!」
ついつい声を荒げてしまうルナルである。そのせいで、マイアと名乗った少女はきゅっと体を強張らせて黙ってしまう。
「おい、ルナル。頼むから最後まで黙って聞け!」
さすがのマスターもお怒りモードだ。これにはルナルもおとなしく黙ってしまう。さすがはギルドのマスターである。
「こいつらは俺がおとなしくさせておくから、一体今まで何があったのか話してくれ」
マスターの言葉にマイアはルナルたちの方へちらり視線を送る。厳しい目を向けられてはいるものの、話を聞くつもりはあるらしくおとなしく座っているルナルたちである。
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