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第四章『運命のいたずら』
嵐の中の平和
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「目を覚ましたというのは、本当なのですか?!」
回復魔法が使えるという事で街に出ていたミレルが騒ぎながらアルファガドの客間にやって来る。
部屋の中にはすでにセインとルルもやって来ていて、かなりの大所帯になっていた。
「おお、ミレル。戻ったか」
「ただいま戻りました。まったくこれほどの規模の街ながら、医療の体制はどうなっているのですか。怖がられながらの治療って、治りが遅くなるんですよ?」
マスターの言葉に反応しながらも、ミレルはベティスの街に関して文句を言っていた。自分の回復魔法を活かすために街の病人やけが人を見て回っていたらしいが、猫耳メイドが相手だというのに魔族だからという理由で半分ほど怖がられてしまったそうだ。その事でミレルは少々機嫌が悪くなっているようである。
「悪いなぁ。最近の魔物の動きが活発なせいで、ヒーラーの連中の人手が足りねえってわけなんだ。我慢してくれ」
「まあ、マスター様がそう仰られるのでしたら……」
マスターの謝罪で、ミレルは少し気が落ち着いたようである。
「それにしても、その子は確かに魔族ですね。見たところかなり非力なようですが……」
ミレルがちらりと見ると、体を起こしたばかりの魔族の少女がびくりと体を震わせた。
「……私たちは別に怖くありませんからね。メイドである以上、どなたにでも優しくするものですよ」
ミレルが少女の頭に手を置こうとすると、少女は怯えてしまう。しかし、頭を撫でられると、少し落ち着いたように見えた。
「ふむ、怯え具合から見ると相当つらい目に遭ってきたんだろうな」
マスターはその様子を見ながら、少女の身の上を考察していた。
「そういえば、マスター様。この子はどちらで保護されたのですか?」
「魔界との国境付近だな。弱い魔族たちが集まる村で暮らしていたところを、先日の魔物の氾濫に巻き込まれたという事だそうだ」
ミレルの質問にマスターは淡々と答えていた。それを聞いてミレルはふむふむと頷いていた。
「ミーア、ちょっとこの子を頼みますね。私は何か食事を作ってきますので」
「分かりましたにゃー」
ミレルが頼むと、ミーアは右手を上げて元気に返事をしていた。
「とりあえず、目を覚ましたところだからしばらくは様子見だな」
マスターはルルとセインを後ろに下がらせて話をしている。
「なんでだ? 聞かなくていいのか?」
「何を言ってるんですか、セインさん。まだ状況が把握できていないでしょうから、ここで無理やり聞き出したら心閉ざして話してくれませんよ。なんでそんなに短絡的なんですか……」
セインはルルに思いきり怒られていた。
「ナタリーとミーアにしばらく任せておこう。話の続きは事務所でするぞ」
「分かりました」
マスターに言われて、ルルとセインは部屋から出て1階の事務室へと移動していった。こうして、再び少女の部屋にはナタリーとミーアの二人だけになったのだった。
「さあ、ミーア。目が覚めたみたいだし、この子をお風呂に入れようか」
「わっかりましたにゃーっ!」
目が覚めたばかりの少女は無気力な表情のまま、ミーアたちになされるがままにされるのであった。
一方、先に部屋から離れていたミレルは、食事の準備に取り掛かっていた。
「さて、目覚めたてだと軽い食事がいいでしょうね。まだここの食材の在庫は把握できていませんが、目に入る食材でとりあえず作っていきましょうか」
独り言のように呟くと、ミレルは料理を作り始める。格闘と魔法が得意なミレルではあるが、メイドとしての技能もひと通り身に付けている。それがゆえに、料理だってちゃんと作れてしまうのである。三姉妹の中で一番頼りないミーアですら料理ならちゃんと作れるくらいなのだ。猫人のメイド三姉妹はとても優秀なのである。
そこに、マスターたち三人が姿を現す。
「あら、マスター様。あの子はどうなさったのですか?」
「ああ、ナタリーとミーアに任せてきた。俺たちではちゃんと接する事ができるか分からないからな。特にセインはな」
「なんで俺が名指しなんだよ!」
「そういうところがです!」
ミレルの質問にマスターが答える。それに対してセインが文句を言い、ルルが叱るという、まるで漫才のような流れができ上がってしまっていた。あまりにきれいな流れに、ミレルはつい笑ってしまった。
「本当にここは楽しそうですね。ルナル様がなかなか帰ってこなかったのが分かる気がしますよ」
ミレルはそう言いながら、手の止めていた料理を再開する。
「みなさんも食事になさいますか? ちょうど作っていますので、ついでという言い方もなんですけれどね」
ミレルは手を動かしながらマスターたちに尋ねている。
「そうだな。いろいろ動き回った後だからな。お前らも食うだろう?」
「はい、もちろんです!」
「食うに決まってるだろ」
「セインさん、言い方!」
マスターの質問にルルとセインは同じ答えを返すのだが、言い方が悪かったために、セインはルルからツッコミを入れられていた。もうどっちが年上か分からない。
「それじゃ、あの子が出てくるのを待って飯にしよう。それを待つ間、あの子を発見した状況を説明してやるからな」
いろいろと世界の情勢が動いている中、アルファガドの中は実に平和な光景が繰り広げられていたのだった。
回復魔法が使えるという事で街に出ていたミレルが騒ぎながらアルファガドの客間にやって来る。
部屋の中にはすでにセインとルルもやって来ていて、かなりの大所帯になっていた。
「おお、ミレル。戻ったか」
「ただいま戻りました。まったくこれほどの規模の街ながら、医療の体制はどうなっているのですか。怖がられながらの治療って、治りが遅くなるんですよ?」
マスターの言葉に反応しながらも、ミレルはベティスの街に関して文句を言っていた。自分の回復魔法を活かすために街の病人やけが人を見て回っていたらしいが、猫耳メイドが相手だというのに魔族だからという理由で半分ほど怖がられてしまったそうだ。その事でミレルは少々機嫌が悪くなっているようである。
「悪いなぁ。最近の魔物の動きが活発なせいで、ヒーラーの連中の人手が足りねえってわけなんだ。我慢してくれ」
「まあ、マスター様がそう仰られるのでしたら……」
マスターの謝罪で、ミレルは少し気が落ち着いたようである。
「それにしても、その子は確かに魔族ですね。見たところかなり非力なようですが……」
ミレルがちらりと見ると、体を起こしたばかりの魔族の少女がびくりと体を震わせた。
「……私たちは別に怖くありませんからね。メイドである以上、どなたにでも優しくするものですよ」
ミレルが少女の頭に手を置こうとすると、少女は怯えてしまう。しかし、頭を撫でられると、少し落ち着いたように見えた。
「ふむ、怯え具合から見ると相当つらい目に遭ってきたんだろうな」
マスターはその様子を見ながら、少女の身の上を考察していた。
「そういえば、マスター様。この子はどちらで保護されたのですか?」
「魔界との国境付近だな。弱い魔族たちが集まる村で暮らしていたところを、先日の魔物の氾濫に巻き込まれたという事だそうだ」
ミレルの質問にマスターは淡々と答えていた。それを聞いてミレルはふむふむと頷いていた。
「ミーア、ちょっとこの子を頼みますね。私は何か食事を作ってきますので」
「分かりましたにゃー」
ミレルが頼むと、ミーアは右手を上げて元気に返事をしていた。
「とりあえず、目を覚ましたところだからしばらくは様子見だな」
マスターはルルとセインを後ろに下がらせて話をしている。
「なんでだ? 聞かなくていいのか?」
「何を言ってるんですか、セインさん。まだ状況が把握できていないでしょうから、ここで無理やり聞き出したら心閉ざして話してくれませんよ。なんでそんなに短絡的なんですか……」
セインはルルに思いきり怒られていた。
「ナタリーとミーアにしばらく任せておこう。話の続きは事務所でするぞ」
「分かりました」
マスターに言われて、ルルとセインは部屋から出て1階の事務室へと移動していった。こうして、再び少女の部屋にはナタリーとミーアの二人だけになったのだった。
「さあ、ミーア。目が覚めたみたいだし、この子をお風呂に入れようか」
「わっかりましたにゃーっ!」
目が覚めたばかりの少女は無気力な表情のまま、ミーアたちになされるがままにされるのであった。
一方、先に部屋から離れていたミレルは、食事の準備に取り掛かっていた。
「さて、目覚めたてだと軽い食事がいいでしょうね。まだここの食材の在庫は把握できていませんが、目に入る食材でとりあえず作っていきましょうか」
独り言のように呟くと、ミレルは料理を作り始める。格闘と魔法が得意なミレルではあるが、メイドとしての技能もひと通り身に付けている。それがゆえに、料理だってちゃんと作れてしまうのである。三姉妹の中で一番頼りないミーアですら料理ならちゃんと作れるくらいなのだ。猫人のメイド三姉妹はとても優秀なのである。
そこに、マスターたち三人が姿を現す。
「あら、マスター様。あの子はどうなさったのですか?」
「ああ、ナタリーとミーアに任せてきた。俺たちではちゃんと接する事ができるか分からないからな。特にセインはな」
「なんで俺が名指しなんだよ!」
「そういうところがです!」
ミレルの質問にマスターが答える。それに対してセインが文句を言い、ルルが叱るという、まるで漫才のような流れができ上がってしまっていた。あまりにきれいな流れに、ミレルはつい笑ってしまった。
「本当にここは楽しそうですね。ルナル様がなかなか帰ってこなかったのが分かる気がしますよ」
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「みなさんも食事になさいますか? ちょうど作っていますので、ついでという言い方もなんですけれどね」
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「そうだな。いろいろ動き回った後だからな。お前らも食うだろう?」
「はい、もちろんです!」
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「それじゃ、あの子が出てくるのを待って飯にしよう。それを待つ間、あの子を発見した状況を説明してやるからな」
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