103 / 139
第四章『運命のいたずら』
静かに動き出す時
しおりを挟む
ルナルが魔王城に戻っていた頃、ベティスのアルファガドの本拠地では……。
「まだあの少女は目を覚まさないかい?」
ナタリーが不安そうにミーアに尋ねていた。
「はいなのにゃー。ぴくりとも動かないのにゃ」
様子を見てきたミーアが、不安そうな顔で答えていた。そのくらいに、助け出された少女は眠り続けていた。呼吸をしている感じはあるので、生きているのは間違いない。だが、まったくの無反応なのである。これにはさすがのナタリーも心配にならざるを得なかった。
しかし、今は魔物の氾濫を抑え込んだハンターたちが戻ってきていて賑やかなところだ。少女の事は心配ではあるものの、慰労の真っ只中であるためにいつまでも様子を見ていられない。気にはなるものの、ナタリーもミーアもハンターたちの相手をする事にしたのだった。
「まったく、マスターが居れば少しは余裕があるんだけど、こういう時に限ってあの人はどこに行ったんだかね」
ナタリーは少し前に出掛けてしまったマスターに対して愚痴をこぼしたのだった。
その頃、マスターはシグムス城の地下を訪れていた。
「トール、居るか?」
「おお、この声はマスター様。ここに居りますとも」
マスターの呼び掛けに、城の地下の書庫に留まり続けるトールが姿を現した。
相変わらず全身にバリバリとほとばしる雷をまとった金色に光る体が特徴の五色龍である。
どうやらトールはあれからずっと動かずにシグムスの地下に留まり続けていたようである。基本的に五色龍はマスタードラゴンの命令によって動くようになっている。なので、新たな命令がない状態では仕方のない事だった。五色龍の力は強力ではあるものの、それであるがゆえにマスターの命令なしには勝手に動けないのである。
「トール、お前に新しい指示を出す。聞いてくれるか?」
「もちろんですとも。マスター様の指示がそうそう間違うわけではありませんからな。して、次なるご指示はなんでございましょうか」
トールはおとなしく座ってマスターからの指示を待つ。ミレルたちとあれだけの激闘を繰り広げたとは思えないくらい、実におとなしくおとなしいドラゴンである。
トールの視線がマスターに集中する。
「ふっ、相変わらずの忠実な態度だな。トール、お前の指示だが……」
マスターがトールに指示を出すと、トールの表情がにわかに曇ったように見えた。
「それは真でしょうか」
「うむ、間違いない。ルナルの奴のやらかしが、大きな動きに発展してきている。お前はそれに備えてくれ」
「畏まりました。マスター様の仰せの通りに」
トールは首を垂れている。それを見たマスターは目を閉じて首を縦に1回振った。
「では、俺はベティスに戻る。シッタの方はエウロパに任せてあるので問題ないはずだ。ここは頼んだぞ」
「はっ、お任せ下さい」
トールの返事を聞いて、マスターはシグムス城の地下から姿を消したのだった。
引き続きシグムス城の地下に留まる事になったトールは、書庫の片隅でその体を丸めてその時を静かに待つ事にしたのだった。
シグムス城の地下でトールに話をつけたマスターは、あっという間にベティスへと戻ってくる。ドラゴンの姿に戻ればこの程度の距離はあってもないに等しいのだ。
「おう、今戻ったぞ。ナタリー、ギルドの様子はどうだ?」
「マスター、どこ行ってたんだい」
マスターの声が響き渡ると、奥から怒った様子でナタリーが出てきた。伝言だけ残して急に消えたのだから、そりゃまあそうなるわけである。
「悪い悪い、野暮用があったんだ。それももう終わったから気にすんな」
悪びれる様子のないマスターである。こんなだからエウロパにも怒られるのだ。これでも世界で最も偉いマスタードラゴンなはずなのだが、その威厳を全く感じない姿である。
「あー、マスターにゃーっ!」
「おお、ミーアか。すっかりうちに馴染んじまってるな」
「にへへへ」
マスターに飛びついたミーアは頭を撫でられて満足そうに笑っている。
「それより、例の少女の様子はどうなんだ?」
ミーアの頭を撫でながら、マスターはナタリーに確認する。
「まだ目を覚まさないね。呼吸はしているんで生きているのは間違いないんだけど、これだけ起きてこないと心配になっちまうもんだよ」
頬に手を当てながら困惑顔のナタリーである。これには頭を撫でられていたミーアも同じようである。
これを聞いたマスターはつい顎に手を当ててしまう。ここまで目を覚まさないとなると、さすがのマスターも困ってしまうようだった。
「参ったな……。彼女は何かとカギになるというのにな」
ぼそりと呟くマスターである。どうやら何かしら知ってるような口ぶりである。
その時だった。ミーアの耳がぴくりと動いた。
「うみゃ?!」
「うん? どうした、ミーア」
突然声を上げるミーアに、マスターとナタリーはつい顔を向けてしまう。
「何か聞こえたのにゃ。上からなのにゃ!」
そう言うと、バタバタと駆けだすミーアである。マスターとナタリーもそれを追いかける。
追いかけてやって来たのは、例の少女が眠る部屋の前だった。
ミーアを制しながら、息を飲んで扉を開けるマスター。
すると部屋の中では、眠っていたはずの少女が目を覚まし、その上体を起こしていたのだった。
「まだあの少女は目を覚まさないかい?」
ナタリーが不安そうにミーアに尋ねていた。
「はいなのにゃー。ぴくりとも動かないのにゃ」
様子を見てきたミーアが、不安そうな顔で答えていた。そのくらいに、助け出された少女は眠り続けていた。呼吸をしている感じはあるので、生きているのは間違いない。だが、まったくの無反応なのである。これにはさすがのナタリーも心配にならざるを得なかった。
しかし、今は魔物の氾濫を抑え込んだハンターたちが戻ってきていて賑やかなところだ。少女の事は心配ではあるものの、慰労の真っ只中であるためにいつまでも様子を見ていられない。気にはなるものの、ナタリーもミーアもハンターたちの相手をする事にしたのだった。
「まったく、マスターが居れば少しは余裕があるんだけど、こういう時に限ってあの人はどこに行ったんだかね」
ナタリーは少し前に出掛けてしまったマスターに対して愚痴をこぼしたのだった。
その頃、マスターはシグムス城の地下を訪れていた。
「トール、居るか?」
「おお、この声はマスター様。ここに居りますとも」
マスターの呼び掛けに、城の地下の書庫に留まり続けるトールが姿を現した。
相変わらず全身にバリバリとほとばしる雷をまとった金色に光る体が特徴の五色龍である。
どうやらトールはあれからずっと動かずにシグムスの地下に留まり続けていたようである。基本的に五色龍はマスタードラゴンの命令によって動くようになっている。なので、新たな命令がない状態では仕方のない事だった。五色龍の力は強力ではあるものの、それであるがゆえにマスターの命令なしには勝手に動けないのである。
「トール、お前に新しい指示を出す。聞いてくれるか?」
「もちろんですとも。マスター様の指示がそうそう間違うわけではありませんからな。して、次なるご指示はなんでございましょうか」
トールはおとなしく座ってマスターからの指示を待つ。ミレルたちとあれだけの激闘を繰り広げたとは思えないくらい、実におとなしくおとなしいドラゴンである。
トールの視線がマスターに集中する。
「ふっ、相変わらずの忠実な態度だな。トール、お前の指示だが……」
マスターがトールに指示を出すと、トールの表情がにわかに曇ったように見えた。
「それは真でしょうか」
「うむ、間違いない。ルナルの奴のやらかしが、大きな動きに発展してきている。お前はそれに備えてくれ」
「畏まりました。マスター様の仰せの通りに」
トールは首を垂れている。それを見たマスターは目を閉じて首を縦に1回振った。
「では、俺はベティスに戻る。シッタの方はエウロパに任せてあるので問題ないはずだ。ここは頼んだぞ」
「はっ、お任せ下さい」
トールの返事を聞いて、マスターはシグムス城の地下から姿を消したのだった。
引き続きシグムス城の地下に留まる事になったトールは、書庫の片隅でその体を丸めてその時を静かに待つ事にしたのだった。
シグムス城の地下でトールに話をつけたマスターは、あっという間にベティスへと戻ってくる。ドラゴンの姿に戻ればこの程度の距離はあってもないに等しいのだ。
「おう、今戻ったぞ。ナタリー、ギルドの様子はどうだ?」
「マスター、どこ行ってたんだい」
マスターの声が響き渡ると、奥から怒った様子でナタリーが出てきた。伝言だけ残して急に消えたのだから、そりゃまあそうなるわけである。
「悪い悪い、野暮用があったんだ。それももう終わったから気にすんな」
悪びれる様子のないマスターである。こんなだからエウロパにも怒られるのだ。これでも世界で最も偉いマスタードラゴンなはずなのだが、その威厳を全く感じない姿である。
「あー、マスターにゃーっ!」
「おお、ミーアか。すっかりうちに馴染んじまってるな」
「にへへへ」
マスターに飛びついたミーアは頭を撫でられて満足そうに笑っている。
「それより、例の少女の様子はどうなんだ?」
ミーアの頭を撫でながら、マスターはナタリーに確認する。
「まだ目を覚まさないね。呼吸はしているんで生きているのは間違いないんだけど、これだけ起きてこないと心配になっちまうもんだよ」
頬に手を当てながら困惑顔のナタリーである。これには頭を撫でられていたミーアも同じようである。
これを聞いたマスターはつい顎に手を当ててしまう。ここまで目を覚まさないとなると、さすがのマスターも困ってしまうようだった。
「参ったな……。彼女は何かとカギになるというのにな」
ぼそりと呟くマスターである。どうやら何かしら知ってるような口ぶりである。
その時だった。ミーアの耳がぴくりと動いた。
「うみゃ?!」
「うん? どうした、ミーア」
突然声を上げるミーアに、マスターとナタリーはつい顔を向けてしまう。
「何か聞こえたのにゃ。上からなのにゃ!」
そう言うと、バタバタと駆けだすミーアである。マスターとナタリーもそれを追いかける。
追いかけてやって来たのは、例の少女が眠る部屋の前だった。
ミーアを制しながら、息を飲んで扉を開けるマスター。
すると部屋の中では、眠っていたはずの少女が目を覚まし、その上体を起こしていたのだった。
0
お気に入りに追加
12
あなたにおすすめの小説

転生貴族の異世界無双生活
guju
ファンタジー
神の手違いで死んでしまったと、突如知らされる主人公。
彼は、神から貰った力で生きていくものの、そうそう幸せは続かない。
その世界でできる色々な出来事が、主人公をどう変えて行くのか!
ハーレム弱めです。

【完結】転生少女は異世界でお店を始めたい
梅丸
ファンタジー
せっかく40代目前にして夢だった喫茶店オープンに漕ぎ着けたと言うのに事故に遭い呆気なく命を落としてしまった私。女神様が管理する異世界に転生させてもらい夢を実現するために奮闘するのだが、この世界には無いものが多すぎる! 創造魔法と言う女神様から授かった恩寵と前世の料理レシピを駆使して色々作りながら頑張る私だった。
スキル盗んで何が悪い!
大都督
ファンタジー
"スキル"それは誰もが欲しがる物
"スキル"それは人が持つには限られた能力
"スキル"それは一人の青年の運命を変えた力
いつのも日常生活をおくる彼、大空三成(オオゾラミツナリ)彼は毎日仕事をし、終われば帰ってゲームをして遊ぶ。そんな毎日を繰り返していた。
本人はこれからも続く生活だと思っていた。
そう、あのゲームを起動させるまでは……
大人気商品ワールドランド、略してWL。
ゲームを始めると指先一つリアルに再現、ゲーマーである主人公は感激と喜び物語を勧めていく。
しかし、突然目の前に現れた女の子に思わぬ言葉を聞かさせる……
女の子の正体は!? このゲームの目的は!?
これからどうするの主人公!
【スキル盗んで何が悪い!】始まります!

黒豚辺境伯令息の婚約者
ツノゼミ
ファンタジー
デイビッド・デュロックは自他ともに認める醜男。
ついたあだ名は“黒豚”で、王都中の貴族子女に嫌われていた。
そんな彼がある日しぶしぶ参加した夜会にて、王族の理不尽な断崖劇に巻き込まれ、ひとりの令嬢と婚約することになってしまう。
始めは同情から保護するだけのつもりが、いつの間にか令嬢にも慕われ始め…
ゆるゆるなファンタジー設定のお話を書きました。
誤字脱字お許しください。

チートがちと強すぎるが、異世界を満喫できればそれでいい
616號
ファンタジー
不慮の事故に遭い異世界に転移した主人公アキトは、強さや魔法を思い通り設定できるチートを手に入れた。ダンジョンや迷宮などが数多く存在し、それに加えて異世界からの侵略も日常的にある世界でチートすぎる魔法を次々と編み出して、自由にそして気ままに生きていく冒険物語。
公女様は愛されたいと願うのやめました。~態度を変えた途端、家族が溺愛してくるのはなぜですか?~
朱色の谷
恋愛
公爵家の末娘として生まれた幼いティアナ。
お屋敷で働いている使用人に虐げられ『公爵家の汚点』と呼ばれる始末。
お父様やお兄様は私に関心がないみたい。
ただ、愛されたいと願った。
そんな中、夢の中の本を読むと自分の正体が明らかに。

せっかくのクラス転移だけども、俺はポテトチップスでも食べながらクラスメイトの冒険を見守りたいと思います
霖空
ファンタジー
クラス転移に巻き込まれてしまった主人公。
得た能力は悪くない……いや、むしろ、チートじみたものだった。
しかしながら、それ以上のデメリットもあり……。
傍観者にならざるをえない彼が傍観者するお話です。
基本的に、勇者や、影井くんを見守りつつ、ほのぼの?生活していきます。
が、そのうち、彼自身の物語も始まる予定です。

眠っていた魔力紙を折紙みたいに折ったら、新しい魔法の使い方が出来たので、役立てます。
ゆう
ファンタジー
目が覚めたら森の中。
森をさ迷い、助けられ、森の奥の魔素の多い『森の聖域』の隣村『クルーラ』で暮らすことになるオルガ。
『クルーラ』で暮らしながら、いろんな魔道具に驚き、文字の書き方を教えてもらいながら、少しづつ村に馴染んでいく。
そんな『クルーラ』の収入源は、『森の聖域』の果実や薬草などで作られた魔法薬。『森の聖域』周辺で採取された木で作られた、魔法の原書や魔方陣の本、契約書の用紙として使われている、魔力を含んだ紙『魔力紙(マリョクシ)』。
オルガは勉強するため毎日通っていた村長ヒナキの店で、不要な『魔力紙』が入った収納箱を見つける。
記憶は無いのに、なんとなく手が覚えていて、その『魔力紙』を折り始め、魔力を込めることによって、新たな活用法を見いだしていく。
そして皆の役立つものに…。
手軽に日常生活に使えて、普及するために…。
『クルーラ』と『聖域』で、いろんな魔道具や魔法に出会い、のんびりスローライフをしながら、『魔紙(マシ)』を折って、役立てます。
オルガの『折り魔紙(オリマシ)』の話。
◇森の聖域◇
三年後、『クルーラ』に慣れてきたオルガが、魔法を練習したり、『森の聖域』に入り、お手伝いする話。
◇熊族の町ベイエル◇
オルガが、ベイエルに行って、アレクの家族と買い物したり、勉強したり、果樹園の手伝いをする話。
*****
『神の宿り木』(こっちはBL )と同じ世界の、数年後の『森の聖域』の隣村クラークからの話です。
なので、ちょいちょい『神の宿り木』のメンバーが出てきます。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる