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第四章『運命のいたずら』
交錯する運命
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人間界と魔界との境界付近の高台。そこでは、魔物を操っていた黒幕を、マスターとフォルの二人で尋問している真っ只中だった。
「よもや、現在の魔王の配下の者が、こんな場所でこのような姑息な真似をしておるとはな……。ルナル殿が聞いたら、さぞや悲しむ悲しむ事だろうな」
「……」
フォルが操る蔦に絡まれ、黒幕たる魔族はまったくもって身動きが取れなくなっていた。フォルはその魔族を見下すような視線を送りながら、厳しい言葉を浴びせていく。
「まあもっとも、魔族の本来の性分からすれば、お前さんのしている事は、褒められて然るべき事なのだろうがな」
このような蔑むような言葉をぶつけられても、蔦に捕らえられた魔族は一向に口を開こうとはしなかった。マスターやフォルからすれば予想通りの行動なのか、二人とも特に慌てるような様子はなかった。
「ふぅ、やれやれ……。相当に口の堅いこったな。だが、お前がいくら黙っていようが、俺たちにはお前の背後に居る真の黒幕の見当がついているんだよ」
「うむ。ルナル殿の配下の魔族に『ディラン』とかいう不死者の男がおったな。黒幕は恐らく奴だろうな」
マスターの言葉には耐え切った魔族だが、フォルの口から出た『ディラン』という単語に、捕らえられている魔族はごくわずかながらも反応を見せた。これを二人が見逃すわけもない。
「ふむ。口は堅くとも、さすがに核心を突かれると反応に出てしまうようだな」
「ディランという奴は、表向きはルナルに忠誠を誓っているようだが、裏では相当な野心家のようだ。いよいよ穏健派で何もしないルナルに対して辛抱がならなくなったと見える」
フォルとマスターが口々に喋っていると、さすがにここまで見抜かれていた事に、魔族の表情はじわじわと険しい表情へと変化していく。そして、ついには堰を切ったかのように喋り始めた。
「黙れ! 魔王様による世界の支配は、我らが魔族の悲願ぞ!」
目を見開き、眉間にしわを寄せ、大声を上げる魔族。
「だというのに、あの魔王ときたらどうだ。あのような宣言を出しておきながら、そのための行動はまったく起こさず、いたずらに時間だけが過ぎていくではないか! その現状がゆえに、俺は無能な魔王に失望したのだ。だからこそ、ディラン様が進める計画に賛同し、行動を起こしたのだ!」
完全に頭に血がのぼっているのか、すべてをさらけ出すかの如く、次から次へと喋るまくる魔族。
聞きたい情報を全部吐き出してくれた事で、マスターとフォルは不敵な笑みを魔族へと向けた。
「はっ、お、俺は何を!?」
二人の表情を見て我に返った魔族は、青ざめていく。だが、時すでに遅しである。
「いやあ、実にありがたい情報だったよ。だがな、俺はお前たちの好き勝手を許すわけにはいかないんだよな」
マスターはそう話すと、持っている剣で目の前の魔族を下から上へと真っ二つにしてしまった。だが、どういうわけか魔族の体は無事であり、その頭上には何やら光り輝く物体が飛び出してきた。
「龍族の、それは?」
目の前の見慣れない物体に、フォルがマスターに尋ねる。
「こいつは高位の不死者だけが持つ魔核と呼ばれるやつさ。死んで動けなくなった体にこの核が入る事で、その体は動き出すってわけだ。そして、この核を破壊されれば、不死者は死ぬというわけだ」
「ほうほう」
マスターの言葉を証明するかのように、魔核を取り出された目の前の魔族は、ぴくりとも動かなくなっていた。二人はじっとその魔族の体を眺めている。
「こんな奴だろうが、死ねばルナルは悲しむだろう。このまましばらく眠ってもらう事にするか」
そう言ってマスターは、魔族の魔核を持っていた結晶に閉じ込めた。
「それは?」
「なーに、夢袋みたいにいろんなものを放り込んでおけるって代物だ。気にすんな」
フォルの質問に、マスターは少々とぼけたように答えていた。
こうして、魔物たちを操る黒幕は倒された。すると、魔物たちは一気に我に返っていき、完全に統率を失っていた。散々ミムニア軍を苦しめた連携は無くなり、動きがちくはぐとなっていく。
こうなってくると、もうアルファガドのハンターたちの一方的な展開となる。なぜなら、ハンターの一部には瘴気に対する耐性があるからだ。そのために、混乱していく魔物たちは戦意を失っていき、やがて逃走に転じ始めた。
「ふむ、どうやら終わったみたいだな」
高台から状況を眺めるマスターは、ぽつりと呟いていた。
「さて、シグムスの方もそろそろ動きがあるはずだ。トールの奴に伝言を頼んでおいたし、シグムスの中枢には頭の回転が速い奴が居る。おそらくはトールに頼んだ伝言の意味に気が付いて、ルナルは魔王城に戻る事になるだろうな」
マスターはそう喋りながら、フォルの方を見る。
「だが、そうなると魔王城に戻った時点で危険ではないのか?」
「まぁ危険なのは承知さ。だが、殺すような真似はしないだろう。かなりうっ憤が溜まっているようだから、やるならルナルも人間たちも絶望に叩き落とすような方法を取るだろうよ」
「やれやれ、ずいぶんと確信を持った言い方をするな……」
「俺はマスタードラゴンだぞ? 分からない事などあると思っているか?」
にやりと笑って言い放つマスターに、フォルは呆れかえっている。
「やれやれ、お前さんの相手は本当に疲れるわい」
「まあそう言うな。ちなみにだが、どう転んでもいいようにいろいろ保険はかけてあるからな」
自信満々に笑みを浮かべながら言い放つマスター。これにはさすがにフォルも言葉を失っていた。
「それじゃ、俺はとりあえずギルドの連中と合流するか。ユグドラシルの、お前さんは自分とこの魔物を引き連れて帰ってくれよ」
「言われなくてもそうするわい」
言葉を交わしたマスターとフォルは高台を後にする。そして、自分たちのやるべき事をするために、それぞれに行動を始めたのだった。
「よもや、現在の魔王の配下の者が、こんな場所でこのような姑息な真似をしておるとはな……。ルナル殿が聞いたら、さぞや悲しむ悲しむ事だろうな」
「……」
フォルが操る蔦に絡まれ、黒幕たる魔族はまったくもって身動きが取れなくなっていた。フォルはその魔族を見下すような視線を送りながら、厳しい言葉を浴びせていく。
「まあもっとも、魔族の本来の性分からすれば、お前さんのしている事は、褒められて然るべき事なのだろうがな」
このような蔑むような言葉をぶつけられても、蔦に捕らえられた魔族は一向に口を開こうとはしなかった。マスターやフォルからすれば予想通りの行動なのか、二人とも特に慌てるような様子はなかった。
「ふぅ、やれやれ……。相当に口の堅いこったな。だが、お前がいくら黙っていようが、俺たちにはお前の背後に居る真の黒幕の見当がついているんだよ」
「うむ。ルナル殿の配下の魔族に『ディラン』とかいう不死者の男がおったな。黒幕は恐らく奴だろうな」
マスターの言葉には耐え切った魔族だが、フォルの口から出た『ディラン』という単語に、捕らえられている魔族はごくわずかながらも反応を見せた。これを二人が見逃すわけもない。
「ふむ。口は堅くとも、さすがに核心を突かれると反応に出てしまうようだな」
「ディランという奴は、表向きはルナルに忠誠を誓っているようだが、裏では相当な野心家のようだ。いよいよ穏健派で何もしないルナルに対して辛抱がならなくなったと見える」
フォルとマスターが口々に喋っていると、さすがにここまで見抜かれていた事に、魔族の表情はじわじわと険しい表情へと変化していく。そして、ついには堰を切ったかのように喋り始めた。
「黙れ! 魔王様による世界の支配は、我らが魔族の悲願ぞ!」
目を見開き、眉間にしわを寄せ、大声を上げる魔族。
「だというのに、あの魔王ときたらどうだ。あのような宣言を出しておきながら、そのための行動はまったく起こさず、いたずらに時間だけが過ぎていくではないか! その現状がゆえに、俺は無能な魔王に失望したのだ。だからこそ、ディラン様が進める計画に賛同し、行動を起こしたのだ!」
完全に頭に血がのぼっているのか、すべてをさらけ出すかの如く、次から次へと喋るまくる魔族。
聞きたい情報を全部吐き出してくれた事で、マスターとフォルは不敵な笑みを魔族へと向けた。
「はっ、お、俺は何を!?」
二人の表情を見て我に返った魔族は、青ざめていく。だが、時すでに遅しである。
「いやあ、実にありがたい情報だったよ。だがな、俺はお前たちの好き勝手を許すわけにはいかないんだよな」
マスターはそう話すと、持っている剣で目の前の魔族を下から上へと真っ二つにしてしまった。だが、どういうわけか魔族の体は無事であり、その頭上には何やら光り輝く物体が飛び出してきた。
「龍族の、それは?」
目の前の見慣れない物体に、フォルがマスターに尋ねる。
「こいつは高位の不死者だけが持つ魔核と呼ばれるやつさ。死んで動けなくなった体にこの核が入る事で、その体は動き出すってわけだ。そして、この核を破壊されれば、不死者は死ぬというわけだ」
「ほうほう」
マスターの言葉を証明するかのように、魔核を取り出された目の前の魔族は、ぴくりとも動かなくなっていた。二人はじっとその魔族の体を眺めている。
「こんな奴だろうが、死ねばルナルは悲しむだろう。このまましばらく眠ってもらう事にするか」
そう言ってマスターは、魔族の魔核を持っていた結晶に閉じ込めた。
「それは?」
「なーに、夢袋みたいにいろんなものを放り込んでおけるって代物だ。気にすんな」
フォルの質問に、マスターは少々とぼけたように答えていた。
こうして、魔物たちを操る黒幕は倒された。すると、魔物たちは一気に我に返っていき、完全に統率を失っていた。散々ミムニア軍を苦しめた連携は無くなり、動きがちくはぐとなっていく。
こうなってくると、もうアルファガドのハンターたちの一方的な展開となる。なぜなら、ハンターの一部には瘴気に対する耐性があるからだ。そのために、混乱していく魔物たちは戦意を失っていき、やがて逃走に転じ始めた。
「ふむ、どうやら終わったみたいだな」
高台から状況を眺めるマスターは、ぽつりと呟いていた。
「さて、シグムスの方もそろそろ動きがあるはずだ。トールの奴に伝言を頼んでおいたし、シグムスの中枢には頭の回転が速い奴が居る。おそらくはトールに頼んだ伝言の意味に気が付いて、ルナルは魔王城に戻る事になるだろうな」
マスターはそう喋りながら、フォルの方を見る。
「だが、そうなると魔王城に戻った時点で危険ではないのか?」
「まぁ危険なのは承知さ。だが、殺すような真似はしないだろう。かなりうっ憤が溜まっているようだから、やるならルナルも人間たちも絶望に叩き落とすような方法を取るだろうよ」
「やれやれ、ずいぶんと確信を持った言い方をするな……」
「俺はマスタードラゴンだぞ? 分からない事などあると思っているか?」
にやりと笑って言い放つマスターに、フォルは呆れかえっている。
「やれやれ、お前さんの相手は本当に疲れるわい」
「まあそう言うな。ちなみにだが、どう転んでもいいようにいろいろ保険はかけてあるからな」
自信満々に笑みを浮かべながら言い放つマスター。これにはさすがにフォルも言葉を失っていた。
「それじゃ、俺はとりあえずギルドの連中と合流するか。ユグドラシルの、お前さんは自分とこの魔物を引き連れて帰ってくれよ」
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