神槍のルナル

未羊

文字の大きさ
上 下
91 / 139
第四章『運命のいたずら』

シグムスへ戻って

しおりを挟む
 人間界と魔界との境界付近でミムニア軍と魔物たちが交戦している頃、ルナルは智将と共にシグムスの王城を目指して突き進んでいた。
 いくらペンタホーンをつないだ馬車とはいえ、砂漠となればどうしても時間がかかってしまうのだ。
 状況を聞いていたルナルは馬車の御者台で落ち着かない様子で、足をトントンと上げたり下げたりしている。
「ソルトたちなら大丈夫だとは思うのですが、魔物の規模がよく分からないがために、心配になってしまいますね」
 馬車を操りながら独り言で心配な気持ちを漏らすルナル。
「気持ちは分かるのだが、落ち着いたらどうなのかな? ただでさえ君は今、馬車を操っているんだ。人の心配をしていて自分たちに何かあっては元も子もない。少なくとも君は頂点に立つ者なんだからな」
 あまりに動揺を見せるルナルに対して、智将が注意している。ところが、これに対してルナルはどういうわけか納得がいかなかったようで、むしろ怒り出していた。まったく、これが魔族の頂点である魔王だというのだから信じられないものである。これには智将も呆れるばかりである。
「とりあえず我々はシグムス城に戻って、セインくんやルルくんと交流するべきだろう。あちらはマスター殿に任せておけばいい」
「分かりました」
 智将の言い分にどうにか納得したルナルは、馬車を走らせる。
「それにだ。できる事なら今回の魔物騒ぎに君は関わらない方がいいと思うんだ」
 急ぐ中で、智将は真面目な面持ちでルナルに話し掛ける。
「それはなぜです?」
「話を聞いた限りの情報をまとめると、今回の魔物騒ぎは同時期に多発している。つまりは大規模なものだ。魔物にそんな知能はないし、同調するような事はまずありえない。となれば、その裏にはそれを意図的に起こす事ができるだけの人物が居ると見た方がいいという事だ」
 智将の考えを黙って聞くルナル。
「意図的に起こせるという事は、魔物に対して優位な立場にあり、それなりの実力も兼ね備えているという事だ。そうなると、おのずと該当する人物は絞れてくる」
「という事は……」
「そうだ。君が知っている人物である可能性が高い。もしかすると君の部下かも知れないしな。だからこそ、君は関わるべきではないんだよ」
 智将にはっきり言われて、ルナルはため息を吐く。
「はあ、どのみち用事を済ませたら、一度城に戻らなければなりませんね」
「そうかも知れないな。ともかく今はシグムス城に急ごう」
 頷いたルナルは、ペンタホーン馬車を急がせたのだった。

 その頃、シグムス城にセインたちが戻ってくる。
「おお、無事に戻りましたか」
 それを出迎えたのは、なんとサキだった。
「サキ様、ただいま戻りました」
 右腕を折り、胸の前で構えて軽く頭を下げて挨拶をするフレイン。
「ご苦労でしたね、フレイン。それで、イフリートとの契約は無事に済みましたかな?」
「はい、無事に契約できました!」
 サキの質問に答えたのは、なんとルルだった。元気よく満面の笑みで報告するに姿に、サキはただ笑う事しかできなかった。そして、表情を戻すとフレインに視線を移す。
「それで、フレイン。お前はサラマンダーとして契約しましたか?」
「いえいえ、滅相もございません。私のイフリート様の配下とはいえ、今はシグムスの国と契約している身。それ以外と契約する事などあり得るでしょうか」
 サキの質問に対して、失笑混じりに答えるフレイン。
「はははっ、フレインさんにはきっぱり断られました」
 ルルも明るく笑いながら答えていた。
「そうですか。とりあえずみんな何かしらの収穫はあったようですね。私の方も歴史書の解読が大詰めといったところなので、君たちはとりあえず水でも浴びて休んでいて下さい。その間には終わるでしょうから」
 サキが安心したような表情でそう言うと、ルルはとても喜んでいた。
「さすがにその砂まみれの姿では謁見はできませんからね。そうして下さい。ミレル、頼みましたよ」
「お任せ下さい」
 サキは使用人を呼んで、ミレルと一緒に水浴びの案内をさせる。
「それでは、私はルル殿の服の新調を手配して参ります。いくら打ち合わせをした通りとはいっても、幼子を攻撃する事には抵抗がありましたよ」
「そうですか。その話も後で聞かせて下さいね」
「承知致しました。それでは失礼致します」
 フレインはそう言うと、ガシャンガシャンと重そうな鎧の音を響かせながら歩いていった。その姿を見送ったサキは、浮かない表情をしながら一足先に智将の部屋へと向かった。

 しばらくして智将の部屋に全員が揃う。
 きれいさっぱりに砂漠での汚れを落とした面々は、服も新調したとあって爽やかな状態となっていた。ルルの服装はとりあえず間に合わせの魔法隊の衣装である。
「これ、もらっちゃっていいんですか?!」
「一応、このシグムスの魔法隊の衣装ですけれど、気に入ったのであればいいですよ。新しい服を作るにしても、前の服を修繕するにしても時間がかかりますからね」
 そう言いながら、サキは手元の書類をトントンと整えていた。
「では、ちょうど歴史書の解読も終わりましたし、陛下のところへと向かいましょう」
 サキがこう言うので、一行は国王の私室へと向かう事になった。
 部屋にたどり着くと、公務中であったためか近衛兵に一度止められてしまうが、国王に確認を取ると無事に入室の許可が出る。
「陛下、公務中に失礼致します。歴史書の解読がひと通り終わりましたので、参上致しました」
「おお、そうか。実にご苦労であった」
 サキの報告に、国王は公務の手を止めてサキを労っていた。ただ、その表情を見る限り、やはり健康そうには見えなかった。
「して、何が分かったのだ?」
「はっ、これから順を追って説明致したく存じます。地下から持ち帰って参りました歴史書には、なにぶん驚くべき事が記されておりましたゆえ」
 国王の質問に答えたサキは、いつも以上にまじめな顔をしていた。だが、そこにはどことなく違和感があったのだった。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

【完結】公爵家の末っ子娘は嘲笑う

たくみ
ファンタジー
 圧倒的な力を持つ公爵家に生まれたアリスには優秀を通り越して天才といわれる6人の兄と姉、ちやほやされる同い年の腹違いの姉がいた。  アリスは彼らと比べられ、蔑まれていた。しかし、彼女は公爵家にふさわしい美貌、頭脳、魔力を持っていた。  ではなぜ周囲は彼女を蔑むのか?                        それは彼女がそう振る舞っていたからに他ならない。そう…彼女は見る目のない人たちを陰で嘲笑うのが趣味だった。  自国の皇太子に婚約破棄され、隣国の王子に嫁ぐことになったアリス。王妃の息子たちは彼女を拒否した為、側室の息子に嫁ぐことになった。  このあつかいに笑みがこぼれるアリス。彼女の行動、趣味は国が変わろうと何も変わらない。  それにしても……なぜ人は見せかけの行動でこうも勘違いできるのだろう。 ※小説家になろうさんで投稿始めました

異世界転生 我が主のために ~不幸から始まる絶対忠義~ 冒険・戦い・感動を織りなすファンタジー

紫電のチュウニー
ファンタジー
 第四部第一章 新大陸開始中。 開始中(初投稿作品)  転生前も、転生後も 俺は不幸だった。  生まれる前は弱視。  生まれ変わり後は盲目。  そんな人生をメルザは救ってくれた。  あいつのためならば 俺はどんなことでもしよう。  あいつの傍にずっといて、この生涯を捧げたい。  苦楽を共にする多くの仲間たち。自分たちだけの領域。  オリジナルの世界観で描く 感動ストーリーをお届けします。

異世界召喚でクラスの勇者達よりも強い俺は無能として追放処刑されたので自由に旅をします

Dakurai
ファンタジー
クラスで授業していた不動無限は突如と教室が光に包み込まれ気がつくと異世界に召喚されてしまった。神による儀式でとある神によってのスキルを得たがスキルが強すぎてスキル無しと勘違いされ更にはクラスメイトと王女による思惑で追放処刑に会ってしまうしかし最強スキルと聖獣のカワウソによって難を逃れと思ったらクラスの女子中野蒼花がついてきた。 相棒のカワウソとクラスの中野蒼花そして異世界の仲間と共にこの世界を自由に旅をします。 現在、第三章フェレスト王国エルフ編

流石に異世界でもこのチートはやばくない?

裏おきな
ファンタジー
片桐蓮《かたぎりれん》40歳独身駄目サラリーマンが趣味のリサイクルとレストアの資材集めに解体業者の資材置き場に行ったらまさかの異世界転移してしまった!そこに現れたのが守護神獣になっていた昔飼っていた犬のラクス。 異世界転移で手に入れた無限鍛冶 のチート能力で異世界を生きて行く事になった! この作品は約1年半前に初めて「なろう」で書いた物を加筆修正して上げていきます。

少し冷めた村人少年の冒険記

mizuno sei
ファンタジー
 辺境の村に生まれた少年トーマ。実は日本でシステムエンジニアとして働き、過労死した三十前の男の生まれ変わりだった。  トーマの家は貧しい農家で、神から授かった能力も、村の人たちからは「はずれギフト」とさげすまれるわけの分からないものだった。  優しい家族のために、自分の食い扶持を減らそうと家を出る決心をしたトーマは、唯一無二の相棒、「心の声」である〈ナビ〉とともに、未知の世界へと旅立つのであった。

此処ではない、遠い別の世界で

曼殊沙華
ファンタジー
 その日も朝が訪れ、一日が始まろうとしていた。まだ少し肌寒い、商店街通り。太陽はその身姿を現していない。人々の活動が遅々として始められようとしていた。  変哲もない日常。快晴であり、白い雲が優雅に流れていく姿を見て、誰かが零したかも知れない。「ああ、今日も始まった」と。  朝を告げる音色、鳥の囀りが小さく町中に消えていく中、二人の青年は歩く。通学路に立ち、勉学に励む為に。平穏に過ぎていく筈であった。  しかし、突然に発生した、何もかもを巻き込む『異変』。崩壊していく日常を前に、気付いた人々は困惑する。青年達もまた。抗う間も無く、抗える暇もなく、周囲から光は消え失せ、意識は遠ざかっていく。  次に意識を取り戻し、瞼を開けた時、待ち受けていたのは在りもしない、異なる世界であったー

善人ぶった姉に奪われ続けてきましたが、逃げた先で溺愛されて私のスキルで領地は豊作です

しろこねこ
ファンタジー
「あなたのためを思って」という一見優しい伯爵家の姉ジュリナに虐げられている妹セリナ。醜いセリナの言うことを家族は誰も聞いてくれない。そんな中、唯一差別しない家庭教師に貴族子女にははしたないとされる魔法を教わるが、親切ぶってセリナを孤立させる姉。植物魔法に目覚めたセリナはペット?のヴィリオをともに家を出て南の辺境を目指す。

転生調理令嬢は諦めることを知らない

eggy
ファンタジー
リュシドール子爵の長女オリアーヌは七歳のとき事故で両親を失い、自分は片足が不自由になった。 それでも残された生まれたばかりの弟ランベールを、一人で立派に育てよう、と決心する。 子爵家跡継ぎのランベールが成人するまで、親戚から暫定爵位継承の夫婦を領地領主邸に迎えることになった。 最初愛想のよかった夫婦は、次第に家乗っ取りに向けた行動を始める。 八歳でオリアーヌは、『調理』の加護を得る。食材に限り刃物なしで切断ができる。細かい調味料などを離れたところに瞬間移動させられる。その他、調理の腕が向上する能力だ。 それを「貴族に相応しくない」と断じて、子爵はオリアーヌを厨房で働かせることにした。 また夫婦は、自分の息子をランベールと入れ替える画策を始めた。 オリアーヌが十三歳になったとき、子爵は隣領の伯爵に加護の実験台としてランベールを売り渡してしまう。 同時にオリアーヌを子爵家から追放する、と宣言した。 それを機に、オリアーヌは弟を取り戻す旅に出る。まず最初に、隣町まで少なくとも二日以上かかる危険な魔獣の出る街道を、杖つきの徒歩で、武器も護衛もなしに、不眠で、歩ききらなければならない。 弟を取り戻すまで絶対諦めない、ド根性令嬢の冒険が始まる。  主人公が酷く虐げられる描写が苦手な方は、回避をお薦めします。そういう意味もあって、R15指定をしています。  追放令嬢ものに分類されるのでしょうが、追放後の展開はあまり類を見ないものになっていると思います。  2章立てになりますが、1章終盤から2章にかけては、「令嬢」のイメージがぶち壊されるかもしれません。不快に思われる方にはご容赦いただければと存じます。

処理中です...