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第三章『それぞれの道』
炎の迷路を進め
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灼熱の谷の中を進んでいくミレルたち。ところが、この熱すぎる谷の中でも次々と魔物が襲い掛かってきた。
「虚空爪牙斬!」
セインの振りかざす剣から三連続の斬破が放たれる。それらは見事に魔物に命中して、息絶えていった。
改めて周りを確認するが、相変わらず熱風が吹き荒れ、高温の水蒸気や炎などが岩肌のあちらこちらから断続的に噴き出している。こんな中でも、ミレルたちはウンディーネの加護によって、どうにか歩みを進めている。それにしてもこの熱気漂う過酷な環境の中でも、普通に魔物が闊歩している事が不思議でならない。
「なんでこんなに魔物がうろついてんだよ……」
さすがに戦闘を重ねてきたセインはぼやいている。
「この辺りは、そもそも人はおろか魔物すらも存在していなかったのです。ですが、住処を追われるうちにこの環境に適応していった魔物が出てきたのでしょう。そういった魔物が、こうやって谷の中で我が物顔で歩いているのだと思われます」
この状況を、フレインはそのように考えているようだ。
だが、実際の状況はその推察を裏付けている。
ミレルたちを取り囲むウンディーネの加護は、ルルを中心としたそう大きくない範囲でしか効果を及ぼしていない。その外側はそれこそ一瞬で肌が焼かれそうなほどの高温だというのに、谷に住む魔物たちは平然と動き回っているのだ。
こんな状態に加えて、もう一つ魔物との戦いが苦労する理由があった。段々と魔物たちがウンディーネの加護に近付いてこなくなり、遠距離からいやらしく攻撃を仕掛けるようになってきたのだ。結果として、ミレルたちも遠距離攻撃で対応せざるを得なくなり、戦いが長引いてしまったというわけである。こうなってくると、さすがにミレルたちにも疲労の色が見え始めてくるのである。……フレインを除いて。
「だから、なんでお前だけ平気なんだよ!」
「慣れでございます」
セインが怒鳴るが、フレインからはやはりこの答えだった。しかも表情はものすごく涼しげである。
「ですが、この状況ではイフリートのところにたどり着く前に、引き返さざるを得なくなってしまいますね」
攻撃と回復の要であるミレルも、猫人ながらも疲労を隠せなくなってきていた。
「おい、がきんちょ!」
「なんですか、セインさん」
セインが叫ぶので、ルルが反応する。
「イフリートの居場所は分からねえのか?」
「分かるけど、まだまだ遠いよ。全然近付いてないもん」
「えっ、ルルちゃん、場所が分かるのですか?」
セインとルルのやり取りに、ミレルが口を挟む。
「分かりますよ、私だって精霊ですから。たとえ属性が違ったとしても、その魔力を感じ取る事ができるんです」
するとルルからは頼りになりそうな答えが返ってきた。
「進む方向は分かりますか?」
「それは無理。ここの地形は分からないけど、力は向こうから感じるよ」
そう言ってルルが指差した方向は、高い壁の向こう側だった。
「一面壁じゃねえか!」
セインが怒り気味に怒鳴る。
さすがにこの三人の様子を見かねたフレインは、仕方がないなといった感じで喋り始めた。
「やれやれ、というものですね。なぜあなた方は私に声を掛けないのですか? もしかして、私がここに来ている理由をお忘れなのでしょうか?」
フレインがこう言うと、ミレルが何かを思い出したようである。
「そういえばそうでした。フレイン殿は案内役としてついて来られたのですよね。申し訳ございません、完全に失念しておりました」
ミレルは深々と頭を下げて謝罪していた。
「って事は、あんたはこの谷の事を知ってるんだな?」
「はい、もちろんでございます」
けんか腰で話し掛けるセインに、フレインは相変わらずの涼しい顔で淡々と答えていた。
「それを先に言いやがれ!」
セインは熱さと疲労でかなり苛立っているらしく、フレインに掴みかかる。それでもフレインは冷静だった。
「だから、最初に申し上げていたではないですか、私は案内役と。言わなかった理由でございますが、聞かれなかったからでございます」
まったく、フレインの言い分はもっともである。だが、セインは完全に頭に来たようだ。
「てめえ!」
今にもフレインに殴りかかろうとしている。
「セインくん、やめないか!」
だが、それを腕を掴んでミレルが制止する。
「フレイン殿、申し訳ございません。セインくんにはきつく言っておきますので、改めて谷の案内をお願いできないでしょうか」
そして、頭を下げてフレインにお願いをする。それに対してフレインは、
「ええ、構いませんよ。少々私も意地悪をしてしまいましたからね」
にこやかにしながら答えていた。それを聞いたミレルはルルの方へと顔を向ける。
「それではルルちゃん、フレイン殿に道案内を頼みますが、時々力を感じる方向と強さを教えて下さい」
「はい、分かりました」
ミレルに言われてルルは元気に返事をしていた。
「ふふっ、私は信用なりませんか?」
「念のためです」
「まあ、そういう事にしておきましょう」
ちょっとフレインは不機嫌っぽくなったものの、すぐさま道案内を始めたのだった。
その道中も魔物が襲い掛かってきたものの、ミレルとセインの二人でどうにか撃退する事ができた。
そして、フレインの道案内が始まって1時間くらい経った頃だろうか。一行は少し大きな部屋っぽい岩場へとたどり着いた。その部屋の周囲は、熱いくらいに炎が荒れ狂っている。
ところがだ。その部屋には誰も居ないし何もない。さすがにこれには短気なセインがすぐさま怒鳴り声を上げる。
「何もねえじゃねえか!」
「いえ、ここで合っております」
「うん、合ってます」
セインの怒鳴り声に対して、フレインとルルの答えが一致する。
しばらくすると、急激に地面が揺れ始める。
「何か来ます!」
ルルが叫ぶと、地鳴りがだんだんと近付いてきたのだった。
「虚空爪牙斬!」
セインの振りかざす剣から三連続の斬破が放たれる。それらは見事に魔物に命中して、息絶えていった。
改めて周りを確認するが、相変わらず熱風が吹き荒れ、高温の水蒸気や炎などが岩肌のあちらこちらから断続的に噴き出している。こんな中でも、ミレルたちはウンディーネの加護によって、どうにか歩みを進めている。それにしてもこの熱気漂う過酷な環境の中でも、普通に魔物が闊歩している事が不思議でならない。
「なんでこんなに魔物がうろついてんだよ……」
さすがに戦闘を重ねてきたセインはぼやいている。
「この辺りは、そもそも人はおろか魔物すらも存在していなかったのです。ですが、住処を追われるうちにこの環境に適応していった魔物が出てきたのでしょう。そういった魔物が、こうやって谷の中で我が物顔で歩いているのだと思われます」
この状況を、フレインはそのように考えているようだ。
だが、実際の状況はその推察を裏付けている。
ミレルたちを取り囲むウンディーネの加護は、ルルを中心としたそう大きくない範囲でしか効果を及ぼしていない。その外側はそれこそ一瞬で肌が焼かれそうなほどの高温だというのに、谷に住む魔物たちは平然と動き回っているのだ。
こんな状態に加えて、もう一つ魔物との戦いが苦労する理由があった。段々と魔物たちがウンディーネの加護に近付いてこなくなり、遠距離からいやらしく攻撃を仕掛けるようになってきたのだ。結果として、ミレルたちも遠距離攻撃で対応せざるを得なくなり、戦いが長引いてしまったというわけである。こうなってくると、さすがにミレルたちにも疲労の色が見え始めてくるのである。……フレインを除いて。
「だから、なんでお前だけ平気なんだよ!」
「慣れでございます」
セインが怒鳴るが、フレインからはやはりこの答えだった。しかも表情はものすごく涼しげである。
「ですが、この状況ではイフリートのところにたどり着く前に、引き返さざるを得なくなってしまいますね」
攻撃と回復の要であるミレルも、猫人ながらも疲労を隠せなくなってきていた。
「おい、がきんちょ!」
「なんですか、セインさん」
セインが叫ぶので、ルルが反応する。
「イフリートの居場所は分からねえのか?」
「分かるけど、まだまだ遠いよ。全然近付いてないもん」
「えっ、ルルちゃん、場所が分かるのですか?」
セインとルルのやり取りに、ミレルが口を挟む。
「分かりますよ、私だって精霊ですから。たとえ属性が違ったとしても、その魔力を感じ取る事ができるんです」
するとルルからは頼りになりそうな答えが返ってきた。
「進む方向は分かりますか?」
「それは無理。ここの地形は分からないけど、力は向こうから感じるよ」
そう言ってルルが指差した方向は、高い壁の向こう側だった。
「一面壁じゃねえか!」
セインが怒り気味に怒鳴る。
さすがにこの三人の様子を見かねたフレインは、仕方がないなといった感じで喋り始めた。
「やれやれ、というものですね。なぜあなた方は私に声を掛けないのですか? もしかして、私がここに来ている理由をお忘れなのでしょうか?」
フレインがこう言うと、ミレルが何かを思い出したようである。
「そういえばそうでした。フレイン殿は案内役としてついて来られたのですよね。申し訳ございません、完全に失念しておりました」
ミレルは深々と頭を下げて謝罪していた。
「って事は、あんたはこの谷の事を知ってるんだな?」
「はい、もちろんでございます」
けんか腰で話し掛けるセインに、フレインは相変わらずの涼しい顔で淡々と答えていた。
「それを先に言いやがれ!」
セインは熱さと疲労でかなり苛立っているらしく、フレインに掴みかかる。それでもフレインは冷静だった。
「だから、最初に申し上げていたではないですか、私は案内役と。言わなかった理由でございますが、聞かれなかったからでございます」
まったく、フレインの言い分はもっともである。だが、セインは完全に頭に来たようだ。
「てめえ!」
今にもフレインに殴りかかろうとしている。
「セインくん、やめないか!」
だが、それを腕を掴んでミレルが制止する。
「フレイン殿、申し訳ございません。セインくんにはきつく言っておきますので、改めて谷の案内をお願いできないでしょうか」
そして、頭を下げてフレインにお願いをする。それに対してフレインは、
「ええ、構いませんよ。少々私も意地悪をしてしまいましたからね」
にこやかにしながら答えていた。それを聞いたミレルはルルの方へと顔を向ける。
「それではルルちゃん、フレイン殿に道案内を頼みますが、時々力を感じる方向と強さを教えて下さい」
「はい、分かりました」
ミレルに言われてルルは元気に返事をしていた。
「ふふっ、私は信用なりませんか?」
「念のためです」
「まあ、そういう事にしておきましょう」
ちょっとフレインは不機嫌っぽくなったものの、すぐさま道案内を始めたのだった。
その道中も魔物が襲い掛かってきたものの、ミレルとセインの二人でどうにか撃退する事ができた。
そして、フレインの道案内が始まって1時間くらい経った頃だろうか。一行は少し大きな部屋っぽい岩場へとたどり着いた。その部屋の周囲は、熱いくらいに炎が荒れ狂っている。
ところがだ。その部屋には誰も居ないし何もない。さすがにこれには短気なセインがすぐさま怒鳴り声を上げる。
「何もねえじゃねえか!」
「いえ、ここで合っております」
「うん、合ってます」
セインの怒鳴り声に対して、フレインとルルの答えが一致する。
しばらくすると、急激に地面が揺れ始める。
「何か来ます!」
ルルが叫ぶと、地鳴りがだんだんと近付いてきたのだった。
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