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第三章『それぞれの道』
散会
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こうして、イプセルタで行われた首脳会議は閉幕した。
結局、有益な情報はこれといってなく、各国の首脳陣には焦りと落胆の色が見えていた。そのために、ミムニアの自信たっぷりな発言にすべてを委ねざるを得ない状態に陥ってしまっていた。
会議を終えたルナルとマスターは、智将と一緒に城のバルコニーで話し込んでいる。
「さて、ミムニアは一体どこまで掴んでいるのだろうかな」
「どうなんだろうな。まっ、あいつらがどんなに頑張っても魔王の討伐は無理なんだけどな」
「確かに、そうだな」
マスターと智将が、ルナルを見ながら会話をしている。
「……二人してなんですか。いちいち人を見ながら話をして。そんなに顔をするのなら怒りますよ」
「はっはっはっ、悪い悪い」
二人してじっと顔を見てくるので、ルナルはさすがに怒っていた。そんなルナルの怒りを、マスターは笑い飛ばしていた。
だが、会議で討伐する目標として掲げた魔王が、今現在、このイプセルタに居るなど誰が思うだろうか。しかも、現役トップクラスのハンターで会議にまで参加していたとは、誰も思い至らない事実なのである。つまり、これからもし魔王を名乗る者が出現したとしても、そいつは真っ赤な偽者なのである。
「魔王を騙る奴が出てきて、そいつが倒されてくれればそれでもいいんだがな」
「そうだな。今のルナル殿を見る限りは、魔王軍の主力もそう脅威にはならないだろうからね」
マスターと智将は、相変わらずルナルを見ながら話をしている。ルナルはバルコニーの手すりにもたれ掛かりながら、不機嫌そうに二人を見ている。
「さて、こうなると問題はミムニア軍かな」
ルナルの視線が痛かったのか、マスターが話題を切り替える。
「そうだね。シグムスとしては放っておいても問題ないとは思うんだが、魔界に攻め入る気でいるみたいだから、動向は知っておきたいものだな。これだけ緊張の高まっている状態で下手に刺激すれば、様子見の魔族たちをも敵に回しかねないからね」
智将は考え込んでいる。問題ないとは口で言っていても、やはり気になってしまうのだ。
「まぁそうだな。状況把握に関しては俺に任せろ。そういうのは得意なんでな。転声石があるから、伝達は簡単だしな」
「それは助かるな」
マスターと智将の間で話が進んでいく。
「それにしても、ミムニアは魔界に攻め込むとして大丈夫なのですかね」
「確かにそうだな」
「それはどういう事かな?」
突如としてルナルが口を挟み込む。
「魔界には瘴気という、人間にとっては毒霧に相当するようなものが漂っているんですよ。ハンターであっても慣れていなければ動きが鈍ってしまう環境の中で、ハンターでもない一国の軍隊がまともに動けるかどうかという心配があるんですよね」
「ふむ、確かに心配な点ではあるな」
ルナルの示した懸念点は、確かに大問題である。瘴気の中では魔族も魔物も動きに支障はないが、人間だけがその制約を受けてしまうからだ。つまり、いくら鍛えた軍隊であったとしても、瘴気の中ではいつもの動きができない可能性が高い。そうなると赤子の手を捻るかのごとく、屈強な軍隊ですら壊滅しかねないのである。
「まあ、それはおいおい対策を立てるとしようか」
マスターがこう言うものだから、ミムニアの件もとりあえず保留となったのだった。
「それじゃまあ、会議も終わった事だし帰るとしますかな」
マスターが首をゴキゴキと鳴らしている。
「では、私はセインとルルちゃんを迎えに行くとしましょう」
「ああ、任せる」
ルナルの申し出を了承するマスターである。
「ところで、マスターはシッタには戻るのですか?」
ルナルが続けて問い掛けると、マスターの視線を逸らしながら答える。
「いやー、戻ろうと思ったんだが、エウロパが「こっちの事は私たちに任せて、自分のやる事を済ませてこい」って言われちまったんだよ。あいつ、戻ってこいみたいな事言ってなかったか?」
マスターのこの言葉に、ルナルと智将が揃って笑い出す。
「おいおい、笑うなよ」
マスターが顔をしかめながら言うが、二人の笑いはしばらく収まりそうになかった。
「まったく、エウロパがそう言うから俺は好きにさせてもらうが、よく分からん奴だ。まっ、俺もあいつの事は信用してるから、こうやって留守を預けられるんだがな。とっとと用事を片付けて、しっかりと労ってやらねえとな」
頭をぼりぼりと掻いていたかと思えば、今度は大口を開けて笑うマスター。表情が忙しすぎるその姿に、ルナルと智将は呆れたように笑っていた。
「それにしても、もう3か月も経ってしまったんですね。いくら酒に酔った勢いで言った事とはいえ、ちゃんと落とし前はつけませんとね」
空を見上げながら、ルナルは呟く。
「どういう形で落ち着けたいのかは分からないが、力になれる事があるなら言ってくれ。うちには君の友人のサキも居るのだからね」
「ありがとうございます。でも、できれば自分自身で決着をつけたいと思います」
「……そうか」
智将の申し出をありがたく思ったルナルは、にこっと微笑んでみせていた。
自分で言い放った『世界を滅ぼす』という宣言。その期限までは残り3か月である。
折り返しのこの時期は、まさに正念場である。
ここからはますます魔族の活動が活発になるかも知れないし、そうなれば、人間たちとの衝突は避けられない。
ルナルの目指そうとしている世界とは真逆であり、避けたい状況になりつつある。
魔界では『魔王』。人間界では『神槍』。二つの顔を持つルナルが進む道の先には、一体何が待ち受けているのだろうか。
結局、有益な情報はこれといってなく、各国の首脳陣には焦りと落胆の色が見えていた。そのために、ミムニアの自信たっぷりな発言にすべてを委ねざるを得ない状態に陥ってしまっていた。
会議を終えたルナルとマスターは、智将と一緒に城のバルコニーで話し込んでいる。
「さて、ミムニアは一体どこまで掴んでいるのだろうかな」
「どうなんだろうな。まっ、あいつらがどんなに頑張っても魔王の討伐は無理なんだけどな」
「確かに、そうだな」
マスターと智将が、ルナルを見ながら会話をしている。
「……二人してなんですか。いちいち人を見ながら話をして。そんなに顔をするのなら怒りますよ」
「はっはっはっ、悪い悪い」
二人してじっと顔を見てくるので、ルナルはさすがに怒っていた。そんなルナルの怒りを、マスターは笑い飛ばしていた。
だが、会議で討伐する目標として掲げた魔王が、今現在、このイプセルタに居るなど誰が思うだろうか。しかも、現役トップクラスのハンターで会議にまで参加していたとは、誰も思い至らない事実なのである。つまり、これからもし魔王を名乗る者が出現したとしても、そいつは真っ赤な偽者なのである。
「魔王を騙る奴が出てきて、そいつが倒されてくれればそれでもいいんだがな」
「そうだな。今のルナル殿を見る限りは、魔王軍の主力もそう脅威にはならないだろうからね」
マスターと智将は、相変わらずルナルを見ながら話をしている。ルナルはバルコニーの手すりにもたれ掛かりながら、不機嫌そうに二人を見ている。
「さて、こうなると問題はミムニア軍かな」
ルナルの視線が痛かったのか、マスターが話題を切り替える。
「そうだね。シグムスとしては放っておいても問題ないとは思うんだが、魔界に攻め入る気でいるみたいだから、動向は知っておきたいものだな。これだけ緊張の高まっている状態で下手に刺激すれば、様子見の魔族たちをも敵に回しかねないからね」
智将は考え込んでいる。問題ないとは口で言っていても、やはり気になってしまうのだ。
「まぁそうだな。状況把握に関しては俺に任せろ。そういうのは得意なんでな。転声石があるから、伝達は簡単だしな」
「それは助かるな」
マスターと智将の間で話が進んでいく。
「それにしても、ミムニアは魔界に攻め込むとして大丈夫なのですかね」
「確かにそうだな」
「それはどういう事かな?」
突如としてルナルが口を挟み込む。
「魔界には瘴気という、人間にとっては毒霧に相当するようなものが漂っているんですよ。ハンターであっても慣れていなければ動きが鈍ってしまう環境の中で、ハンターでもない一国の軍隊がまともに動けるかどうかという心配があるんですよね」
「ふむ、確かに心配な点ではあるな」
ルナルの示した懸念点は、確かに大問題である。瘴気の中では魔族も魔物も動きに支障はないが、人間だけがその制約を受けてしまうからだ。つまり、いくら鍛えた軍隊であったとしても、瘴気の中ではいつもの動きができない可能性が高い。そうなると赤子の手を捻るかのごとく、屈強な軍隊ですら壊滅しかねないのである。
「まあ、それはおいおい対策を立てるとしようか」
マスターがこう言うものだから、ミムニアの件もとりあえず保留となったのだった。
「それじゃまあ、会議も終わった事だし帰るとしますかな」
マスターが首をゴキゴキと鳴らしている。
「では、私はセインとルルちゃんを迎えに行くとしましょう」
「ああ、任せる」
ルナルの申し出を了承するマスターである。
「ところで、マスターはシッタには戻るのですか?」
ルナルが続けて問い掛けると、マスターの視線を逸らしながら答える。
「いやー、戻ろうと思ったんだが、エウロパが「こっちの事は私たちに任せて、自分のやる事を済ませてこい」って言われちまったんだよ。あいつ、戻ってこいみたいな事言ってなかったか?」
マスターのこの言葉に、ルナルと智将が揃って笑い出す。
「おいおい、笑うなよ」
マスターが顔をしかめながら言うが、二人の笑いはしばらく収まりそうになかった。
「まったく、エウロパがそう言うから俺は好きにさせてもらうが、よく分からん奴だ。まっ、俺もあいつの事は信用してるから、こうやって留守を預けられるんだがな。とっとと用事を片付けて、しっかりと労ってやらねえとな」
頭をぼりぼりと掻いていたかと思えば、今度は大口を開けて笑うマスター。表情が忙しすぎるその姿に、ルナルと智将は呆れたように笑っていた。
「それにしても、もう3か月も経ってしまったんですね。いくら酒に酔った勢いで言った事とはいえ、ちゃんと落とし前はつけませんとね」
空を見上げながら、ルナルは呟く。
「どういう形で落ち着けたいのかは分からないが、力になれる事があるなら言ってくれ。うちには君の友人のサキも居るのだからね」
「ありがとうございます。でも、できれば自分自身で決着をつけたいと思います」
「……そうか」
智将の申し出をありがたく思ったルナルは、にこっと微笑んでみせていた。
自分で言い放った『世界を滅ぼす』という宣言。その期限までは残り3か月である。
折り返しのこの時期は、まさに正念場である。
ここからはますます魔族の活動が活発になるかも知れないし、そうなれば、人間たちとの衝突は避けられない。
ルナルの目指そうとしている世界とは真逆であり、避けたい状況になりつつある。
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