71 / 139
第三章『それぞれの道』
結論ありき
しおりを挟む
会議が始まり、各国の首脳陣が円卓を囲むように席に着く。参加している主なメンバーは次の通りだ。
ハンターギルド『アルファガド』
同じくハンターギルド『オメガフォース』
砂漠の国『シグムス』
商業の国『ツェレク』
軍事国家『ミムニア』
農業の国『イオティリア』
そして、議長を務める軍事国家『イプセルタ』
全体を見渡せばその他もろもろを含めて、おおよそ30名ほどのメンバーが集まっている。
「こほん、本日はお忙しい中、イプセルタにお集まり頂き誠にありがとうございます」
定番のセリフによって、会議の始まりが宣言される。
そして、議長が次に告げた言葉に、思わずルナルは耳を疑った。
「本日の議題は『魔王の討伐』についてでございます」
もろもろをすっ飛ばして、いきなり魔族の頂点たる魔王の討伐を主要議題に挙げたのだった。ところが、これに驚いていたのはルナルただ一人。他の面々には当然だというような空気が漂っていた。
「魔王が世界を滅ぼすと宣言してから早3ヶ月という月日が経った。世界各地で魔族や魔物による被害が多数報告されており、その緊張は日々高まってきている」
議長が次に述べた言葉には、ルナルも納得せざるを得なかった。
実際、ルナルが対応した範囲だけでも、相当の数の魔族による被害が見られていた。ただ、魔王と近しい立場に居る者たちは動いておらず、こと野心の強い魔族しか動いてはいなかった。
だが、人間たちにそんな事情が分かるわけもなかった。そこにあるのは、魔族が被害をもたらしたという事実だけである。それゆえに、頂点に君臨する魔王を倒し、魔族の勢いを削ごうという目論見なのだろう。
(うーん、これは最初から魔王をいかに討伐するかという方向性の会議ですね……。ですが、居場所も分からないのにそんな会議に意味があるのでしょうか……)
ルナルが考え込む動作を取る。すると、横からマスターが小声でツッコミを入れてきた。
「誰のせいでこんな会議をする事になったと思ってるんだ?」
「うっ、それは確かに責任を感じますけれど……。ですが、これでは魔族の対策会議ではなく、魔王討伐のための作戦会議ですよ?」
「まあそうだろうな。魔王という具体的な目標を決める事で、意見を取りまとめやすくするつもりなんだろう」
なるほどと納得したルナルは、改めて前を見て会議に集中する。
「宣告された期日までは残り3か月。悪化の一途をたどる現状を打破するためには、一刻も早く魔王を見つけ出して討伐するべきだと考える」
議長はそう言うと、顔を後ろに向ける。そこには50代くらいと思われる王冠を被った人物が座っていた。この人物こそ、このイプセルタの国王である。
イプセルタ王はゆっくりと立ち上がる。
「我らはこう考えた。我らを含めた各国より情報と知恵を拝借し、我々の取るべき行動を決定しようと。そのために諸君に集まってもらったのだ」
イプセルタ王がこう言うと、会場が一気に湧き上がる。
だが、その盛り上がりを制するように、一人の男が発言する。
「静粛に。それではまず、我らがイプセルタから、この騎士団長のカイサルが我が国の現状を説明しよう」
カイサルと名乗った男性は、おそらく30~40代と思われるがっしりとした体格の騎士団長のようである。だが、その着ている鎧は飾り気のない質素なものである。その代わりに顔を見る限りいくつか傷跡が見える。おそらくは前線に立ち続けて武勲を上げる事で昇進した叩き上げの人物なのだろう。
そんな彼の発言に、全員が注目して黙り込んでいる。
「我がイプセルタは魔界と国境を接しているが、必ずしも魔族と敵対意識があるわけではない。実際、我が国に居ついて生活に溶け込んでいる魔族もそれなりに居る」
魔族が街に住んでいると聞いて、少し会場が騒めいている。
「そんな彼らから魔王について知る事はないかと聞き取りを行ったのだが、残念ながら末端すぎて居場所も人物像も知る者は居なかった。肝心の魔王城もその情報を得られなかった。実に残念な限りだが、懸賞金を掛けるなどして情報収集を続ける所存である」
ところが、何の情報もない事が分かると、会場には落胆の声が響き渡った。
カイサルが発言を終えると、今度はシグムスへと発言が振られる。このシグムスもイプセルタ同様に魔界とその国境を接する国だ。智将の発言に注目が集まる。
振られた事で智将は立ち上がり、発言を始める。
「我がシグムスもイプセルタ同様に何かと魔族とは因縁の多い国だ。この会議の話が来た頃にも、ちょうど魔物の襲撃を受けており、それを無事に退けている」
智将の話に、また会場は騒めく。魔族を退けたという事実は、そのくらいに大きな事なのだ。
「シグムスも魔族に対する考え方は様々だが、イプセルタ同様に魔族の避難民は受け入れている。だが、彼らもまた魔王などに関する情報は持っていなかった」
これを聞いた会場の空気は、この上ない落胆に包まれていた。イプセルタに続きシグムスにも情報がないとなると、もう彼らの中では望み薄なのである。
だが、智将は魔王に関しても魔王城に関してもすでに情報は持っていた。だが、サキやルナルの事を考えてあえて話をしなかったのである。そして、それをまったく表情に出す事なく、続けて発言をする。
「落胆するのはまだ早い。今回の会議にはハンターギルドも呼ばれている。その彼らの話を聞いてみてからでもいいのではないですかな?」
智将のこの言葉で、会場の視線が一気にアルファガドとオメガフォースに向けられる。この会議に呼ばれた一線級のハンターギルドだ。彼らならではの情報を持っている可能性が十分に考えられるのだ。
ルナルがたじろぐほどに、会場からの視線がこの二つのギルドに注がれたのだった。
ハンターギルド『アルファガド』
同じくハンターギルド『オメガフォース』
砂漠の国『シグムス』
商業の国『ツェレク』
軍事国家『ミムニア』
農業の国『イオティリア』
そして、議長を務める軍事国家『イプセルタ』
全体を見渡せばその他もろもろを含めて、おおよそ30名ほどのメンバーが集まっている。
「こほん、本日はお忙しい中、イプセルタにお集まり頂き誠にありがとうございます」
定番のセリフによって、会議の始まりが宣言される。
そして、議長が次に告げた言葉に、思わずルナルは耳を疑った。
「本日の議題は『魔王の討伐』についてでございます」
もろもろをすっ飛ばして、いきなり魔族の頂点たる魔王の討伐を主要議題に挙げたのだった。ところが、これに驚いていたのはルナルただ一人。他の面々には当然だというような空気が漂っていた。
「魔王が世界を滅ぼすと宣言してから早3ヶ月という月日が経った。世界各地で魔族や魔物による被害が多数報告されており、その緊張は日々高まってきている」
議長が次に述べた言葉には、ルナルも納得せざるを得なかった。
実際、ルナルが対応した範囲だけでも、相当の数の魔族による被害が見られていた。ただ、魔王と近しい立場に居る者たちは動いておらず、こと野心の強い魔族しか動いてはいなかった。
だが、人間たちにそんな事情が分かるわけもなかった。そこにあるのは、魔族が被害をもたらしたという事実だけである。それゆえに、頂点に君臨する魔王を倒し、魔族の勢いを削ごうという目論見なのだろう。
(うーん、これは最初から魔王をいかに討伐するかという方向性の会議ですね……。ですが、居場所も分からないのにそんな会議に意味があるのでしょうか……)
ルナルが考え込む動作を取る。すると、横からマスターが小声でツッコミを入れてきた。
「誰のせいでこんな会議をする事になったと思ってるんだ?」
「うっ、それは確かに責任を感じますけれど……。ですが、これでは魔族の対策会議ではなく、魔王討伐のための作戦会議ですよ?」
「まあそうだろうな。魔王という具体的な目標を決める事で、意見を取りまとめやすくするつもりなんだろう」
なるほどと納得したルナルは、改めて前を見て会議に集中する。
「宣告された期日までは残り3か月。悪化の一途をたどる現状を打破するためには、一刻も早く魔王を見つけ出して討伐するべきだと考える」
議長はそう言うと、顔を後ろに向ける。そこには50代くらいと思われる王冠を被った人物が座っていた。この人物こそ、このイプセルタの国王である。
イプセルタ王はゆっくりと立ち上がる。
「我らはこう考えた。我らを含めた各国より情報と知恵を拝借し、我々の取るべき行動を決定しようと。そのために諸君に集まってもらったのだ」
イプセルタ王がこう言うと、会場が一気に湧き上がる。
だが、その盛り上がりを制するように、一人の男が発言する。
「静粛に。それではまず、我らがイプセルタから、この騎士団長のカイサルが我が国の現状を説明しよう」
カイサルと名乗った男性は、おそらく30~40代と思われるがっしりとした体格の騎士団長のようである。だが、その着ている鎧は飾り気のない質素なものである。その代わりに顔を見る限りいくつか傷跡が見える。おそらくは前線に立ち続けて武勲を上げる事で昇進した叩き上げの人物なのだろう。
そんな彼の発言に、全員が注目して黙り込んでいる。
「我がイプセルタは魔界と国境を接しているが、必ずしも魔族と敵対意識があるわけではない。実際、我が国に居ついて生活に溶け込んでいる魔族もそれなりに居る」
魔族が街に住んでいると聞いて、少し会場が騒めいている。
「そんな彼らから魔王について知る事はないかと聞き取りを行ったのだが、残念ながら末端すぎて居場所も人物像も知る者は居なかった。肝心の魔王城もその情報を得られなかった。実に残念な限りだが、懸賞金を掛けるなどして情報収集を続ける所存である」
ところが、何の情報もない事が分かると、会場には落胆の声が響き渡った。
カイサルが発言を終えると、今度はシグムスへと発言が振られる。このシグムスもイプセルタ同様に魔界とその国境を接する国だ。智将の発言に注目が集まる。
振られた事で智将は立ち上がり、発言を始める。
「我がシグムスもイプセルタ同様に何かと魔族とは因縁の多い国だ。この会議の話が来た頃にも、ちょうど魔物の襲撃を受けており、それを無事に退けている」
智将の話に、また会場は騒めく。魔族を退けたという事実は、そのくらいに大きな事なのだ。
「シグムスも魔族に対する考え方は様々だが、イプセルタ同様に魔族の避難民は受け入れている。だが、彼らもまた魔王などに関する情報は持っていなかった」
これを聞いた会場の空気は、この上ない落胆に包まれていた。イプセルタに続きシグムスにも情報がないとなると、もう彼らの中では望み薄なのである。
だが、智将は魔王に関しても魔王城に関してもすでに情報は持っていた。だが、サキやルナルの事を考えてあえて話をしなかったのである。そして、それをまったく表情に出す事なく、続けて発言をする。
「落胆するのはまだ早い。今回の会議にはハンターギルドも呼ばれている。その彼らの話を聞いてみてからでもいいのではないですかな?」
智将のこの言葉で、会場の視線が一気にアルファガドとオメガフォースに向けられる。この会議に呼ばれた一線級のハンターギルドだ。彼らならではの情報を持っている可能性が十分に考えられるのだ。
ルナルがたじろぐほどに、会場からの視線がこの二つのギルドに注がれたのだった。
0
お気に入りに追加
12
あなたにおすすめの小説

異端の紅赤マギ
みどりのたぬき
ファンタジー
【なろう83000PV超え】
---------------------------------------------
その日、瀧田暖はいつもの様にコンビニへ夕食の調達に出掛けた。
いつもの街並みは、何故か真上から視線を感じて見上げた天上で暖を見る巨大な『眼』と視線を交わした瞬間激変した。
それまで見ていたいた街並みは巨大な『眼』を見た瞬間、全くの別物へと変貌を遂げていた。
「ここは異世界だ!!」
退屈な日常から解き放たれ、悠々自適の冒険者生活を期待した暖に襲いかかる絶望。
「冒険者なんて職業は存在しない!?」
「俺には魔力が無い!?」
これは自身の『能力』を使えばイージーモードなのに何故か超絶ヘルモードへと突き進む一人の人ならざる者の物語・・・
---------------------------------------------------------------------------
「初投稿作品」で色々と至らない点、文章も稚拙だったりするかもしれませんが、一生懸命書いていきます。
また、時間があれば表現等見直しを行っていきたいと思っています。※特に1章辺りは大幅に表現等変更予定です、時間があれば・・・
★次章執筆大幅に遅れています。
★なんやかんやありまして...
クラスメイトの美少女と無人島に流された件
桜井正宗
青春
修学旅行で離島へ向かう最中――悪天候に見舞われ、台風が直撃。船が沈没した。
高校二年の早坂 啓(はやさか てつ)は、気づくと砂浜で寝ていた。周囲を見渡すとクラスメイトで美少女の天音 愛(あまね まな)が隣に倒れていた。
どうやら、漂流して流されていたようだった。
帰ろうにも島は『無人島』。
しばらくは島で生きていくしかなくなった。天音と共に無人島サバイバルをしていくのだが……クラスの女子が次々に見つかり、やがてハーレムに。
男一人と女子十五人で……取り合いに発展!?
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。


どーも、反逆のオッサンです
わか
ファンタジー
簡単なあらすじ オッサン異世界転移する。 少し詳しいあらすじ 異世界転移したオッサン...能力はスマホ。森の中に転移したオッサンがスマホを駆使して普通の生活に向けひたむきに行動するお話。 この小説は、小説家になろう様、カクヨム様にて同時投稿しております。

せっかくのクラス転移だけども、俺はポテトチップスでも食べながらクラスメイトの冒険を見守りたいと思います
霖空
ファンタジー
クラス転移に巻き込まれてしまった主人公。
得た能力は悪くない……いや、むしろ、チートじみたものだった。
しかしながら、それ以上のデメリットもあり……。
傍観者にならざるをえない彼が傍観者するお話です。
基本的に、勇者や、影井くんを見守りつつ、ほのぼの?生活していきます。
が、そのうち、彼自身の物語も始まる予定です。

のほほん異世界暮らし
みなと劉
ファンタジー
異世界に転生するなんて、夢の中の話だと思っていた。
それが、目を覚ましたら見知らぬ森の中、しかも手元にはなぜかしっかりとした地図と、ちょっとした冒険に必要な道具が揃っていたのだ。

日本列島、時震により転移す!
黄昏人
ファンタジー
2023年(現在)、日本列島が後に時震と呼ばれる現象により、500年以上の時を超え1492年(過去)の世界に転移した。移転したのは本州、四国、九州とその周辺の島々であり、現在の日本は過去の時代に飛ばされ、過去の日本は現在の世界に飛ばされた。飛ばされた現在の日本はその文明を支え、国民を食わせるためには早急に莫大な資源と食料が必要である。過去の日本は現在の世界を意識できないが、取り残された北海道と沖縄は国富の大部分を失い、戦国日本を抱え途方にくれる。人々は、政府は何を思いどうふるまうのか。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる