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第三章『それぞれの道』
結論ありき
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会議が始まり、各国の首脳陣が円卓を囲むように席に着く。参加している主なメンバーは次の通りだ。
ハンターギルド『アルファガド』
同じくハンターギルド『オメガフォース』
砂漠の国『シグムス』
商業の国『ツェレク』
軍事国家『ミムニア』
農業の国『イオティリア』
そして、議長を務める軍事国家『イプセルタ』
全体を見渡せばその他もろもろを含めて、おおよそ30名ほどのメンバーが集まっている。
「こほん、本日はお忙しい中、イプセルタにお集まり頂き誠にありがとうございます」
定番のセリフによって、会議の始まりが宣言される。
そして、議長が次に告げた言葉に、思わずルナルは耳を疑った。
「本日の議題は『魔王の討伐』についてでございます」
もろもろをすっ飛ばして、いきなり魔族の頂点たる魔王の討伐を主要議題に挙げたのだった。ところが、これに驚いていたのはルナルただ一人。他の面々には当然だというような空気が漂っていた。
「魔王が世界を滅ぼすと宣言してから早3ヶ月という月日が経った。世界各地で魔族や魔物による被害が多数報告されており、その緊張は日々高まってきている」
議長が次に述べた言葉には、ルナルも納得せざるを得なかった。
実際、ルナルが対応した範囲だけでも、相当の数の魔族による被害が見られていた。ただ、魔王と近しい立場に居る者たちは動いておらず、こと野心の強い魔族しか動いてはいなかった。
だが、人間たちにそんな事情が分かるわけもなかった。そこにあるのは、魔族が被害をもたらしたという事実だけである。それゆえに、頂点に君臨する魔王を倒し、魔族の勢いを削ごうという目論見なのだろう。
(うーん、これは最初から魔王をいかに討伐するかという方向性の会議ですね……。ですが、居場所も分からないのにそんな会議に意味があるのでしょうか……)
ルナルが考え込む動作を取る。すると、横からマスターが小声でツッコミを入れてきた。
「誰のせいでこんな会議をする事になったと思ってるんだ?」
「うっ、それは確かに責任を感じますけれど……。ですが、これでは魔族の対策会議ではなく、魔王討伐のための作戦会議ですよ?」
「まあそうだろうな。魔王という具体的な目標を決める事で、意見を取りまとめやすくするつもりなんだろう」
なるほどと納得したルナルは、改めて前を見て会議に集中する。
「宣告された期日までは残り3か月。悪化の一途をたどる現状を打破するためには、一刻も早く魔王を見つけ出して討伐するべきだと考える」
議長はそう言うと、顔を後ろに向ける。そこには50代くらいと思われる王冠を被った人物が座っていた。この人物こそ、このイプセルタの国王である。
イプセルタ王はゆっくりと立ち上がる。
「我らはこう考えた。我らを含めた各国より情報と知恵を拝借し、我々の取るべき行動を決定しようと。そのために諸君に集まってもらったのだ」
イプセルタ王がこう言うと、会場が一気に湧き上がる。
だが、その盛り上がりを制するように、一人の男が発言する。
「静粛に。それではまず、我らがイプセルタから、この騎士団長のカイサルが我が国の現状を説明しよう」
カイサルと名乗った男性は、おそらく30~40代と思われるがっしりとした体格の騎士団長のようである。だが、その着ている鎧は飾り気のない質素なものである。その代わりに顔を見る限りいくつか傷跡が見える。おそらくは前線に立ち続けて武勲を上げる事で昇進した叩き上げの人物なのだろう。
そんな彼の発言に、全員が注目して黙り込んでいる。
「我がイプセルタは魔界と国境を接しているが、必ずしも魔族と敵対意識があるわけではない。実際、我が国に居ついて生活に溶け込んでいる魔族もそれなりに居る」
魔族が街に住んでいると聞いて、少し会場が騒めいている。
「そんな彼らから魔王について知る事はないかと聞き取りを行ったのだが、残念ながら末端すぎて居場所も人物像も知る者は居なかった。肝心の魔王城もその情報を得られなかった。実に残念な限りだが、懸賞金を掛けるなどして情報収集を続ける所存である」
ところが、何の情報もない事が分かると、会場には落胆の声が響き渡った。
カイサルが発言を終えると、今度はシグムスへと発言が振られる。このシグムスもイプセルタ同様に魔界とその国境を接する国だ。智将の発言に注目が集まる。
振られた事で智将は立ち上がり、発言を始める。
「我がシグムスもイプセルタ同様に何かと魔族とは因縁の多い国だ。この会議の話が来た頃にも、ちょうど魔物の襲撃を受けており、それを無事に退けている」
智将の話に、また会場は騒めく。魔族を退けたという事実は、そのくらいに大きな事なのだ。
「シグムスも魔族に対する考え方は様々だが、イプセルタ同様に魔族の避難民は受け入れている。だが、彼らもまた魔王などに関する情報は持っていなかった」
これを聞いた会場の空気は、この上ない落胆に包まれていた。イプセルタに続きシグムスにも情報がないとなると、もう彼らの中では望み薄なのである。
だが、智将は魔王に関しても魔王城に関してもすでに情報は持っていた。だが、サキやルナルの事を考えてあえて話をしなかったのである。そして、それをまったく表情に出す事なく、続けて発言をする。
「落胆するのはまだ早い。今回の会議にはハンターギルドも呼ばれている。その彼らの話を聞いてみてからでもいいのではないですかな?」
智将のこの言葉で、会場の視線が一気にアルファガドとオメガフォースに向けられる。この会議に呼ばれた一線級のハンターギルドだ。彼らならではの情報を持っている可能性が十分に考えられるのだ。
ルナルがたじろぐほどに、会場からの視線がこの二つのギルドに注がれたのだった。
ハンターギルド『アルファガド』
同じくハンターギルド『オメガフォース』
砂漠の国『シグムス』
商業の国『ツェレク』
軍事国家『ミムニア』
農業の国『イオティリア』
そして、議長を務める軍事国家『イプセルタ』
全体を見渡せばその他もろもろを含めて、おおよそ30名ほどのメンバーが集まっている。
「こほん、本日はお忙しい中、イプセルタにお集まり頂き誠にありがとうございます」
定番のセリフによって、会議の始まりが宣言される。
そして、議長が次に告げた言葉に、思わずルナルは耳を疑った。
「本日の議題は『魔王の討伐』についてでございます」
もろもろをすっ飛ばして、いきなり魔族の頂点たる魔王の討伐を主要議題に挙げたのだった。ところが、これに驚いていたのはルナルただ一人。他の面々には当然だというような空気が漂っていた。
「魔王が世界を滅ぼすと宣言してから早3ヶ月という月日が経った。世界各地で魔族や魔物による被害が多数報告されており、その緊張は日々高まってきている」
議長が次に述べた言葉には、ルナルも納得せざるを得なかった。
実際、ルナルが対応した範囲だけでも、相当の数の魔族による被害が見られていた。ただ、魔王と近しい立場に居る者たちは動いておらず、こと野心の強い魔族しか動いてはいなかった。
だが、人間たちにそんな事情が分かるわけもなかった。そこにあるのは、魔族が被害をもたらしたという事実だけである。それゆえに、頂点に君臨する魔王を倒し、魔族の勢いを削ごうという目論見なのだろう。
(うーん、これは最初から魔王をいかに討伐するかという方向性の会議ですね……。ですが、居場所も分からないのにそんな会議に意味があるのでしょうか……)
ルナルが考え込む動作を取る。すると、横からマスターが小声でツッコミを入れてきた。
「誰のせいでこんな会議をする事になったと思ってるんだ?」
「うっ、それは確かに責任を感じますけれど……。ですが、これでは魔族の対策会議ではなく、魔王討伐のための作戦会議ですよ?」
「まあそうだろうな。魔王という具体的な目標を決める事で、意見を取りまとめやすくするつもりなんだろう」
なるほどと納得したルナルは、改めて前を見て会議に集中する。
「宣告された期日までは残り3か月。悪化の一途をたどる現状を打破するためには、一刻も早く魔王を見つけ出して討伐するべきだと考える」
議長はそう言うと、顔を後ろに向ける。そこには50代くらいと思われる王冠を被った人物が座っていた。この人物こそ、このイプセルタの国王である。
イプセルタ王はゆっくりと立ち上がる。
「我らはこう考えた。我らを含めた各国より情報と知恵を拝借し、我々の取るべき行動を決定しようと。そのために諸君に集まってもらったのだ」
イプセルタ王がこう言うと、会場が一気に湧き上がる。
だが、その盛り上がりを制するように、一人の男が発言する。
「静粛に。それではまず、我らがイプセルタから、この騎士団長のカイサルが我が国の現状を説明しよう」
カイサルと名乗った男性は、おそらく30~40代と思われるがっしりとした体格の騎士団長のようである。だが、その着ている鎧は飾り気のない質素なものである。その代わりに顔を見る限りいくつか傷跡が見える。おそらくは前線に立ち続けて武勲を上げる事で昇進した叩き上げの人物なのだろう。
そんな彼の発言に、全員が注目して黙り込んでいる。
「我がイプセルタは魔界と国境を接しているが、必ずしも魔族と敵対意識があるわけではない。実際、我が国に居ついて生活に溶け込んでいる魔族もそれなりに居る」
魔族が街に住んでいると聞いて、少し会場が騒めいている。
「そんな彼らから魔王について知る事はないかと聞き取りを行ったのだが、残念ながら末端すぎて居場所も人物像も知る者は居なかった。肝心の魔王城もその情報を得られなかった。実に残念な限りだが、懸賞金を掛けるなどして情報収集を続ける所存である」
ところが、何の情報もない事が分かると、会場には落胆の声が響き渡った。
カイサルが発言を終えると、今度はシグムスへと発言が振られる。このシグムスもイプセルタ同様に魔界とその国境を接する国だ。智将の発言に注目が集まる。
振られた事で智将は立ち上がり、発言を始める。
「我がシグムスもイプセルタ同様に何かと魔族とは因縁の多い国だ。この会議の話が来た頃にも、ちょうど魔物の襲撃を受けており、それを無事に退けている」
智将の話に、また会場は騒めく。魔族を退けたという事実は、そのくらいに大きな事なのだ。
「シグムスも魔族に対する考え方は様々だが、イプセルタ同様に魔族の避難民は受け入れている。だが、彼らもまた魔王などに関する情報は持っていなかった」
これを聞いた会場の空気は、この上ない落胆に包まれていた。イプセルタに続きシグムスにも情報がないとなると、もう彼らの中では望み薄なのである。
だが、智将は魔王に関しても魔王城に関してもすでに情報は持っていた。だが、サキやルナルの事を考えてあえて話をしなかったのである。そして、それをまったく表情に出す事なく、続けて発言をする。
「落胆するのはまだ早い。今回の会議にはハンターギルドも呼ばれている。その彼らの話を聞いてみてからでもいいのではないですかな?」
智将のこの言葉で、会場の視線が一気にアルファガドとオメガフォースに向けられる。この会議に呼ばれた一線級のハンターギルドだ。彼らならではの情報を持っている可能性が十分に考えられるのだ。
ルナルがたじろぐほどに、会場からの視線がこの二つのギルドに注がれたのだった。
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