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第三章『それぞれの道』
円卓の間
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イプセルタ会議。その会場はイプセルタ城の円卓の間と呼ばれる場所だった。
そこには各国の首脳陣たちが一堂に会しており、ルナルやマスター、それに智将たちもその場に居合わせている。
こうして首脳陣が集まれるのも、このイプセルタが霊峰シッタの麓にあるがゆえなのである。
ルナルは席に着きながら、集まった面々の顔を見ている。
「……実に頭の固そうな人たちですね」
率直な感想を漏らすルナル。
「ルナルの目にもそう見えるか」
そのほとほと小さな感想にも反応するのがマスターだ。
「実はここに集まっている連中は、ほとんどが魔族に対して敵対的立場に居るんだよ。魔界との距離が離れるほどその傾向は強くてな、イプセルタやシグムスのように接している方がどちらかといえば寛容なんだ」
「そんなものなのですか?」
マスターの言葉に疑問を投げかけるルナル。
「残念ながら、その通りなんだよね」
「智将様」
挨拶回りを終えて戻ってきた智将が話に加わる。
「通常、一度でも交戦経験を持ってしまうと敵対的感情が湧くものなのだがね。実力差があり過ぎると、降伏してくる事だってある。それに驚くかも知れないが、中には戦いが終わった後に酒を酌み交わしたというような記録だってあるんだよ。戦っている間に意気投合したかとね。そういった背景もあってか、イプセルタのこの街のように魔族を受け入れる事だってあるんだよ」
「そんなものなのですかね……」
智将の言葉に、ルナルは驚きを隠せなかった。
「何を驚いてるんだか。この手の話はお前が一番信じられるだろうがよ」
マスターはルナルの頭に手を置いて、わしゃわしゃと掻き撫でる。
「やめて下さい」
ルナルは文句言うものの、確かもそうかも知れないという気持ちがあった。
そんな会話を交わしているルナルたちの元に、一人の中年男性が近付いてきた。引き締まった筋肉質の体に白髪交じりの頭髪、いかにも苦労してきたというような容姿の男性だった。
「これは、シグムスの智将殿ではございませんか」
丁寧に智将に挨拶をしてくる。
「これはミムニアの将軍サイキス殿。お久しぶりですな」
「確かに久しぶりですな。それにしても、シグムスは智将殿一人ですかな?」
サイキスは智将の周囲を確認しながら問い掛けている。
「まあ仕方ないですよ。ここに来る直前にも魔族の襲撃を受けまして、とても人員を割く事ができないのですよ。優秀な副官に任せて私が出てきたというわけですよ」
「ほぉ、それは大変でしたな」
反り返るような体勢で智将を見下すように見るサイキス。実に嫌な感じしかしない態度だ。そのサイキスが、突然ルナルたちの方へと向く。
「おや、そちらの方々は確か……」
思い出すような仕草を見せながら、ルナルを凝視するサイキス。あまりにじっくり見てくるので実に気分がよくない。だが、ルナルは笑顔でサイキスの対応する。
「初めてお目に掛かります、サイキス様。私はハンターギルド『アルファガド』に所属しているルナルと申します。どうぞお見知りおき下さいませ」
右腕を折り曲げて体の前に当て、首を垂れて挨拶をするルナル。
「ほほぉ、そなたが噂に聞く凄腕のハンタールナルか。かなり活躍しているというのでどのような人物かと思っておったが、まさかこれほど華奢な女子とは思わなかったな」
智将の時同様に、見下すような姿勢で視線を向けてくるサイキス。だが、智将の時とは違い、その視線がなかなか外れようとしないので、マスターがその間に割って入ってきた。
「やあやあ、久しぶりですな、サイキス殿。この私を無視してもらっては困りますぞ」
「こ、これはマスター殿。ひ、久しぶりですな」
急にマスターが割り込んできたので、サイキスは動揺しているようである。
「アルファガドのリーダーはこの私ですし、このルナルはギルドの期待の星なんですからね。そんな彼女に何かをしようというのなら、私も黙っちゃいませんが。よろしいですかな?」
ギロリと睨むマスターの圧が凄い。サイキスが気圧されてしまうくらいである。これは間違いなく怒っているようだ。
「さあ、サイキス殿。そろそろ会議が始まる時間ですから、我々も席に着きましょうか」
「あ、ああ……」
マスターの睨みに怯んだサイキスに、間髪入れずに智将が声を掛ける。そうなると、サイキスは智将の言葉におとなしく従う事しかできなかったのだ。すごすごと自分の席へと移動していくサイキスである。
「なかなかの連携ですね、お二人とも」
「まっ、俺らにはそれなりの付き合いがあるからな」
ルナルが感心したように言うと、マスターはニカッと笑っていた。
「でもまぁ、あの程度のオヤジなら、酒場で慣れてるんだよな」
顎を触りながら首を傾けるマスターに、ルナルは慌てる。
「いや、変な事はしないで下さいよ? あれでも一国の要人なんですからね?」
「がっはっはっはっ、分かってるよ!」
大口を開けて笑うマスターに、ルナルは肩を落として呆然としている。
「漫才はそのくらいにしておこうか。本当に会議が始まるよ」
「はっ、そうですね」
智将の言葉に我に返ったルナル。そして、再び席に着いて会議に備えた。
こうして今まさに、世界の運命を左右するだろうイプセルタ会議が始まろうとしていた。
そこには各国の首脳陣たちが一堂に会しており、ルナルやマスター、それに智将たちもその場に居合わせている。
こうして首脳陣が集まれるのも、このイプセルタが霊峰シッタの麓にあるがゆえなのである。
ルナルは席に着きながら、集まった面々の顔を見ている。
「……実に頭の固そうな人たちですね」
率直な感想を漏らすルナル。
「ルナルの目にもそう見えるか」
そのほとほと小さな感想にも反応するのがマスターだ。
「実はここに集まっている連中は、ほとんどが魔族に対して敵対的立場に居るんだよ。魔界との距離が離れるほどその傾向は強くてな、イプセルタやシグムスのように接している方がどちらかといえば寛容なんだ」
「そんなものなのですか?」
マスターの言葉に疑問を投げかけるルナル。
「残念ながら、その通りなんだよね」
「智将様」
挨拶回りを終えて戻ってきた智将が話に加わる。
「通常、一度でも交戦経験を持ってしまうと敵対的感情が湧くものなのだがね。実力差があり過ぎると、降伏してくる事だってある。それに驚くかも知れないが、中には戦いが終わった後に酒を酌み交わしたというような記録だってあるんだよ。戦っている間に意気投合したかとね。そういった背景もあってか、イプセルタのこの街のように魔族を受け入れる事だってあるんだよ」
「そんなものなのですかね……」
智将の言葉に、ルナルは驚きを隠せなかった。
「何を驚いてるんだか。この手の話はお前が一番信じられるだろうがよ」
マスターはルナルの頭に手を置いて、わしゃわしゃと掻き撫でる。
「やめて下さい」
ルナルは文句言うものの、確かもそうかも知れないという気持ちがあった。
そんな会話を交わしているルナルたちの元に、一人の中年男性が近付いてきた。引き締まった筋肉質の体に白髪交じりの頭髪、いかにも苦労してきたというような容姿の男性だった。
「これは、シグムスの智将殿ではございませんか」
丁寧に智将に挨拶をしてくる。
「これはミムニアの将軍サイキス殿。お久しぶりですな」
「確かに久しぶりですな。それにしても、シグムスは智将殿一人ですかな?」
サイキスは智将の周囲を確認しながら問い掛けている。
「まあ仕方ないですよ。ここに来る直前にも魔族の襲撃を受けまして、とても人員を割く事ができないのですよ。優秀な副官に任せて私が出てきたというわけですよ」
「ほぉ、それは大変でしたな」
反り返るような体勢で智将を見下すように見るサイキス。実に嫌な感じしかしない態度だ。そのサイキスが、突然ルナルたちの方へと向く。
「おや、そちらの方々は確か……」
思い出すような仕草を見せながら、ルナルを凝視するサイキス。あまりにじっくり見てくるので実に気分がよくない。だが、ルナルは笑顔でサイキスの対応する。
「初めてお目に掛かります、サイキス様。私はハンターギルド『アルファガド』に所属しているルナルと申します。どうぞお見知りおき下さいませ」
右腕を折り曲げて体の前に当て、首を垂れて挨拶をするルナル。
「ほほぉ、そなたが噂に聞く凄腕のハンタールナルか。かなり活躍しているというのでどのような人物かと思っておったが、まさかこれほど華奢な女子とは思わなかったな」
智将の時同様に、見下すような姿勢で視線を向けてくるサイキス。だが、智将の時とは違い、その視線がなかなか外れようとしないので、マスターがその間に割って入ってきた。
「やあやあ、久しぶりですな、サイキス殿。この私を無視してもらっては困りますぞ」
「こ、これはマスター殿。ひ、久しぶりですな」
急にマスターが割り込んできたので、サイキスは動揺しているようである。
「アルファガドのリーダーはこの私ですし、このルナルはギルドの期待の星なんですからね。そんな彼女に何かをしようというのなら、私も黙っちゃいませんが。よろしいですかな?」
ギロリと睨むマスターの圧が凄い。サイキスが気圧されてしまうくらいである。これは間違いなく怒っているようだ。
「さあ、サイキス殿。そろそろ会議が始まる時間ですから、我々も席に着きましょうか」
「あ、ああ……」
マスターの睨みに怯んだサイキスに、間髪入れずに智将が声を掛ける。そうなると、サイキスは智将の言葉におとなしく従う事しかできなかったのだ。すごすごと自分の席へと移動していくサイキスである。
「なかなかの連携ですね、お二人とも」
「まっ、俺らにはそれなりの付き合いがあるからな」
ルナルが感心したように言うと、マスターはニカッと笑っていた。
「でもまぁ、あの程度のオヤジなら、酒場で慣れてるんだよな」
顎を触りながら首を傾けるマスターに、ルナルは慌てる。
「いや、変な事はしないで下さいよ? あれでも一国の要人なんですからね?」
「がっはっはっはっ、分かってるよ!」
大口を開けて笑うマスターに、ルナルは肩を落として呆然としている。
「漫才はそのくらいにしておこうか。本当に会議が始まるよ」
「はっ、そうですね」
智将の言葉に我に返ったルナル。そして、再び席に着いて会議に備えた。
こうして今まさに、世界の運命を左右するだろうイプセルタ会議が始まろうとしていた。
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