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第三章『それぞれの道』
その差は『経験値』
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ルナルが睨み付けると、アイオロスはにやりと笑い、構えた状態から手刀を振りかざす。すると、一閃の突風がルナルに向かって突き進んでいく。ルナルは冷静にそれを躱す。
「なるほど、あなたの武器は風というわけですか」
風の刃が突き進んでいった後の地面には、くっきりと細く鋭い溝が刻まれていた。砂塵すら舞わないその突風。ずいぶんと風の力が圧縮されて放たれたのだろう。
「ああ、そうさ。そこら中にある大気そのものものが、俺様にとっての武器なのさ。尽きる事のないこの無限の刃を、一体いつまで躱せるかな?」
ルナルを見下したように嘲り笑うアイオロス。この自信はどこから生まれてくるのだろうか。ルナルはその様子を呆れたように見ている。
「なるほどですね……。確かにこれは若いというやつのようですね。やれやれ、どうやら世界というものを教えてあげないといけないようですね」
「はっ、ほざきやがれ!」
ルナルの物言いに対し、アイオロスはイラッとして激高する。そして、ルナルに対して再び攻撃を仕掛ける。
「唸れ風よ! 立ちはだかる者を切り刻め、スラストストーム!」
アイオロスが風の魔法を放ってくる。が、ルナルは冷静だった。
「へえ、魔法の心得もあるのですか」
ぼそりと呟くと、ルナルは槍を構えた。
「私があれだけ大量の魔法を見せつけたというのに、中級魔法を放ってくるとは……。これは相当に侮ってくれていますね。力量というものを量れていません。これは少々ばかりお灸を据えてあげませんとね」
ルナルはこう言いながら槍を素早く振りかざす。
「天閃烈破!」
ルナルから繰り出された鋭い突きから衝撃波が飛ぶ。すると、アイオロスが放った風の刃は、ルナルの鋭い突きの衝撃波によっていともたやすく相殺されてしまった。
「なんだと?! ハンターごときに、俺様の攻撃がこうも簡単にかき消されるというのか! こんな事が、あってたまるものかっ!!」
中級魔法とはいえども、自分の攻撃がこうも簡単に相殺されてしまった事に、アイオロスは逆上して怒り狂い始める。
「あーあ、あれは完全に頭に血が上ってやがる。はあ……、あいつもまだまだガキだな」
「まったくだな。戦術も何もない、ただ己の力を相手にぶつける、実に直線的な戦い方だな」
壁際に退避している智将とそこに近付いていったマスターが状況を冷静に分析していた。その結論は実に冷ややかなものだった。
「魔法も無駄というのなら、俺様の力を、直にその体に叩き込んでやるぜっ!!」
アイオロスはそう叫ぶと、体中に体をまとわせて、二つ名の通りの疾風のごとき動きでルナルに襲い掛かる。
ところが、冷静さを欠いた攻撃など、いくら風の力を借りたとしても、トップランカーであるルナルには容易く通用するものではなかった。
「いくら攻撃が速くて鋭くても、冷静さを欠いた状態の直線的な動きでは、予測も対処も簡単ですよ」
その言葉の通り、ルナルはアイオロスの攻撃をひらりと躱していく。風のせいで当たり判定が大きくなっているというのに、そのすべてを読み切ってまるで踊っているかのようである。だが、さすがにそれにも飽きてきた。
「まったく、この程度で頭に血が上るとは、まだまだ若いというものです。それこそ、格の違いというものを思い知りなさい」
ルナルが槍を持っていない方の手を真上に掲げる。するとどうだろうか。下級魔法のファイアーボールと中級魔法のフレイムクラスターが、無詠唱で辺り一帯へと放たれたではないか。放たれた炎の魔法はまるでカーテンのように辺り一帯へと降り注いでいく。
この炎のカーテンを前に、徐々にアイオロスの行動範囲は狭められていく。自分が相手のいいようにされている事が気に入らないアイオロスは、苛立ちが最高潮に達していた。
「くそが! 俺は疾風龍! この程度で止められると思うな!」
アイオロスは弱点である炎が降り注ぐ中を、ルナル目がけて突進する。炎が体のあちこちを焼いていくが、まったく気にも留めない。冷静さを失った、まさしく捨て身の攻撃であった。
ところが、それがゆえに動きが単純で、軌道もまる分かりだった。だが、アイオロスは持ち前のスピードで、その欠点を補おうとしていた。
「血気盛んなのはいいですが、その経験の少なさが実に致命的でしたね!」
迫りくるアイオロスに対し、ルナルは槍を構えて炎をまとわせる。そして、最接近の瞬間に合わせて槍を振るう。
「己の未熟さを思い知りなさい! 鳳閃火!」
ルナルの放った巻き上がる炎の突きがアイオロスを捉える!
「ぬわあっ!」
完全に頭に血が上っていた状態では、さすがのアイオロスもその攻撃を躱す事はできなかった。突進の勢いのせいで止まる事もできず、まともに食らったアイオロスはルナルの攻撃に思い切り吹き飛んでいく。
「ぐはっ!」
そして、地面へと思い切り叩きつけられ、そのまま気を失ってしまった。
勝負は決した。それを示すかのように、闘技場内に満ちていた暴風と炎がさっぱりと消え去り、真っ赤に染まったきれいな夕焼けの空が顔を覗かせたのだった。
「なるほど、あなたの武器は風というわけですか」
風の刃が突き進んでいった後の地面には、くっきりと細く鋭い溝が刻まれていた。砂塵すら舞わないその突風。ずいぶんと風の力が圧縮されて放たれたのだろう。
「ああ、そうさ。そこら中にある大気そのものものが、俺様にとっての武器なのさ。尽きる事のないこの無限の刃を、一体いつまで躱せるかな?」
ルナルを見下したように嘲り笑うアイオロス。この自信はどこから生まれてくるのだろうか。ルナルはその様子を呆れたように見ている。
「なるほどですね……。確かにこれは若いというやつのようですね。やれやれ、どうやら世界というものを教えてあげないといけないようですね」
「はっ、ほざきやがれ!」
ルナルの物言いに対し、アイオロスはイラッとして激高する。そして、ルナルに対して再び攻撃を仕掛ける。
「唸れ風よ! 立ちはだかる者を切り刻め、スラストストーム!」
アイオロスが風の魔法を放ってくる。が、ルナルは冷静だった。
「へえ、魔法の心得もあるのですか」
ぼそりと呟くと、ルナルは槍を構えた。
「私があれだけ大量の魔法を見せつけたというのに、中級魔法を放ってくるとは……。これは相当に侮ってくれていますね。力量というものを量れていません。これは少々ばかりお灸を据えてあげませんとね」
ルナルはこう言いながら槍を素早く振りかざす。
「天閃烈破!」
ルナルから繰り出された鋭い突きから衝撃波が飛ぶ。すると、アイオロスが放った風の刃は、ルナルの鋭い突きの衝撃波によっていともたやすく相殺されてしまった。
「なんだと?! ハンターごときに、俺様の攻撃がこうも簡単にかき消されるというのか! こんな事が、あってたまるものかっ!!」
中級魔法とはいえども、自分の攻撃がこうも簡単に相殺されてしまった事に、アイオロスは逆上して怒り狂い始める。
「あーあ、あれは完全に頭に血が上ってやがる。はあ……、あいつもまだまだガキだな」
「まったくだな。戦術も何もない、ただ己の力を相手にぶつける、実に直線的な戦い方だな」
壁際に退避している智将とそこに近付いていったマスターが状況を冷静に分析していた。その結論は実に冷ややかなものだった。
「魔法も無駄というのなら、俺様の力を、直にその体に叩き込んでやるぜっ!!」
アイオロスはそう叫ぶと、体中に体をまとわせて、二つ名の通りの疾風のごとき動きでルナルに襲い掛かる。
ところが、冷静さを欠いた攻撃など、いくら風の力を借りたとしても、トップランカーであるルナルには容易く通用するものではなかった。
「いくら攻撃が速くて鋭くても、冷静さを欠いた状態の直線的な動きでは、予測も対処も簡単ですよ」
その言葉の通り、ルナルはアイオロスの攻撃をひらりと躱していく。風のせいで当たり判定が大きくなっているというのに、そのすべてを読み切ってまるで踊っているかのようである。だが、さすがにそれにも飽きてきた。
「まったく、この程度で頭に血が上るとは、まだまだ若いというものです。それこそ、格の違いというものを思い知りなさい」
ルナルが槍を持っていない方の手を真上に掲げる。するとどうだろうか。下級魔法のファイアーボールと中級魔法のフレイムクラスターが、無詠唱で辺り一帯へと放たれたではないか。放たれた炎の魔法はまるでカーテンのように辺り一帯へと降り注いでいく。
この炎のカーテンを前に、徐々にアイオロスの行動範囲は狭められていく。自分が相手のいいようにされている事が気に入らないアイオロスは、苛立ちが最高潮に達していた。
「くそが! 俺は疾風龍! この程度で止められると思うな!」
アイオロスは弱点である炎が降り注ぐ中を、ルナル目がけて突進する。炎が体のあちこちを焼いていくが、まったく気にも留めない。冷静さを失った、まさしく捨て身の攻撃であった。
ところが、それがゆえに動きが単純で、軌道もまる分かりだった。だが、アイオロスは持ち前のスピードで、その欠点を補おうとしていた。
「血気盛んなのはいいですが、その経験の少なさが実に致命的でしたね!」
迫りくるアイオロスに対し、ルナルは槍を構えて炎をまとわせる。そして、最接近の瞬間に合わせて槍を振るう。
「己の未熟さを思い知りなさい! 鳳閃火!」
ルナルの放った巻き上がる炎の突きがアイオロスを捉える!
「ぬわあっ!」
完全に頭に血が上っていた状態では、さすがのアイオロスもその攻撃を躱す事はできなかった。突進の勢いのせいで止まる事もできず、まともに食らったアイオロスはルナルの攻撃に思い切り吹き飛んでいく。
「ぐはっ!」
そして、地面へと思い切り叩きつけられ、そのまま気を失ってしまった。
勝負は決した。それを示すかのように、闘技場内に満ちていた暴風と炎がさっぱりと消え去り、真っ赤に染まったきれいな夕焼けの空が顔を覗かせたのだった。
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