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第三章『それぞれの道』
アイオロス
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「ふーん、ここがイプセルタの街か。人間どもがあふれかえって賑やかだな」
ルナルたちが探しているアイオロスは、イプセルタの街を商業街から貧民街に駆けて歩いていた。その姿は少し目つきは悪いが、茶色がかった緑色の短髪の若い男性のようである。
「まったく、人間の体ってのは窮屈だし、なんてったって不便で仕方がねえ。よくこんな体で平気なもんだな」
人間の街に出向くにあたって人間形態になっているアイオロスなのだが、相当に人間の体を気に入らない様子だった。
文句を言いながら、アイオロスは貧民街の中を歩いていく。そして、辺りが一段と暗くなったところに差し掛かった時だった。
後ろからじゃりっという不穏な足音が聞こえてくる。
アイオロスはぴたりと立ち止まると、
「追いかけっこをしてんのは、どこのどいつだ?」
前を向いたまま言い放つ。
「ほお~、いつから気が付いてたんだ?」
その声にくるりと振り返るアイオロス。その視線の先には、いかにもガラの悪い男どもが数人立っていた。
「ようよう、にーちゃん。ええかっこしてんなぁ。見るからにどこかの貴族様か?」
「へっへっへっ、ちょっと付き合ってもらおうか」
「なーに、おとなしくしてれば痛い目に遭う事はねえぜ」
見るからに追いはぎのような連中である。一人でふらふらと貧民街にやって来たアイオロスの事を、絶好の獲物を思ってつけてきたようだった。
こういう大規模な街ともなれば、少なからずこういう貧民街というものが発生してしまうものである。そして、対処もされずに放置されると、貧困は進んで治安が悪化する。そうなってしまえば、こういう悪事を行う者が出てきて、それが常態化してしまうのだ。
「はあ、マスター様から一応は聞いてはいたが……」
アイオロスは頭をガシガシと掻き乱す。そして、ギロリと追いはぎたちを睨み付ける。
「てめえらが追いはぎって奴か」
ドスの利いた声で問い掛けるアイオロス。すると、追いはぎたちはその気迫に押されたのか少したじろいでいる。
「ち、違えよ! 俺たちはちょいとばかり施しが欲しいだけだ」
そして、アイオロスの問いを否定した。
ところが、アイオロスはその言葉が嘘だというのを見抜いていた。若いとはいえども五色龍になったドラゴンだ。奴らが後ろ手に武器を隠し持っている事に気が付いているのである。
「はっ、だったらその背に隠している物はなんだ。……実に愚かな奴らだ。襲う気満々のくせに強盗ではないと言い張るとはな!」
アイオロスが見下すようにそう言い放つものだから、さすがに追いはぎたちは装う事をやめた。
「うるせえ! てめえら貴族どもに、俺たちの何が分かるってんだよ! おう、野郎ども、出てこいよ!」
おそらくリーダーだと思われる男が叫ぶと、どこからともなくぞろぞろと仲間がたくさん出てきた。どうやら既に招集を掛けていたようである。そして、その手に武器を持って今にも襲い掛からんとばかりに構えた。
「まったく……、マスター様には人間に手を出すなとは言われているが……」
アイオロスは伏し目がちにため息を吐いている。その余裕たっぷりの様子に追いはぎたちがキレる。
「武器を持った相手を前によそ見たあ、余裕だなあっ! 野郎ども、痛めつけてやれ!」
リーダー格の男の声に、追いはぎたちが一斉にアイオロスに襲い掛かる。そして、その攻撃が命中するかと思われた次の瞬間だった。
「ぐはぁっ!」
「うわあっ!!」
「ぐべっ!」
攻撃を命中させたはずの追いはぎたちが吹き飛んで、次々と壁や地面に叩きつけられていた。叩きつけられた追いはぎたちは一体何が起きたのか分からず、その場で痛みのあまりにうずくまっている。
「な、なんだ今のは!」
リーダー格が叫んで周りを見回した後、アイオロスを凝視する。すると、アイオロスの周りには風のようなものが渦巻いているのが見えた。
「ははっ、けんかを吹っかけられてやり返したなら、マスター様も文句はねえよな」
アイオロスが風をまとって不気味に笑っている。まるでいいおもちゃを見つけたかのように、まるで悪役面のように表情が歪んでいっている。その表情を向けられたリーダー格は、その表情に恐怖を感じてすくみ上がってしまった。
「あー、やっぱり我慢できねえなぁ……。さあて、手加減はしてやるが、てめえはどのくらいまで耐えられるかな?」
アイオロスはそう言いながら一度頭を掻きむしると、改めてリーダー格を睨み付ける。
「相手の力量も見極められねえで手を出すような頭の悪い奴らには、それ相応のお仕置きが必要だよなぁ?」
アイオロスがじわりじわりと追いはぎたちに迫ってくる。リーダー格は恐怖のあまり動けず、他の追いはぎたちも逃げようとするが、先程のダメージのせいで動けずにいる。その顔にはもはや恐怖の色しか浮かんでいなかった。
「ははっ、いい様だな……」
愉悦の表情を浮かべるアイオロスの周りの風が、徐々に強まり始める。
「さあ、この俺様に手を出した事を後悔するがいい。ただし、その反省会の会場はあの世だがな!」
アイオロスが叫ぶと、渦巻き始めた風が暴風へと変貌したのだった。
ルナルたちが探しているアイオロスは、イプセルタの街を商業街から貧民街に駆けて歩いていた。その姿は少し目つきは悪いが、茶色がかった緑色の短髪の若い男性のようである。
「まったく、人間の体ってのは窮屈だし、なんてったって不便で仕方がねえ。よくこんな体で平気なもんだな」
人間の街に出向くにあたって人間形態になっているアイオロスなのだが、相当に人間の体を気に入らない様子だった。
文句を言いながら、アイオロスは貧民街の中を歩いていく。そして、辺りが一段と暗くなったところに差し掛かった時だった。
後ろからじゃりっという不穏な足音が聞こえてくる。
アイオロスはぴたりと立ち止まると、
「追いかけっこをしてんのは、どこのどいつだ?」
前を向いたまま言い放つ。
「ほお~、いつから気が付いてたんだ?」
その声にくるりと振り返るアイオロス。その視線の先には、いかにもガラの悪い男どもが数人立っていた。
「ようよう、にーちゃん。ええかっこしてんなぁ。見るからにどこかの貴族様か?」
「へっへっへっ、ちょっと付き合ってもらおうか」
「なーに、おとなしくしてれば痛い目に遭う事はねえぜ」
見るからに追いはぎのような連中である。一人でふらふらと貧民街にやって来たアイオロスの事を、絶好の獲物を思ってつけてきたようだった。
こういう大規模な街ともなれば、少なからずこういう貧民街というものが発生してしまうものである。そして、対処もされずに放置されると、貧困は進んで治安が悪化する。そうなってしまえば、こういう悪事を行う者が出てきて、それが常態化してしまうのだ。
「はあ、マスター様から一応は聞いてはいたが……」
アイオロスは頭をガシガシと掻き乱す。そして、ギロリと追いはぎたちを睨み付ける。
「てめえらが追いはぎって奴か」
ドスの利いた声で問い掛けるアイオロス。すると、追いはぎたちはその気迫に押されたのか少したじろいでいる。
「ち、違えよ! 俺たちはちょいとばかり施しが欲しいだけだ」
そして、アイオロスの問いを否定した。
ところが、アイオロスはその言葉が嘘だというのを見抜いていた。若いとはいえども五色龍になったドラゴンだ。奴らが後ろ手に武器を隠し持っている事に気が付いているのである。
「はっ、だったらその背に隠している物はなんだ。……実に愚かな奴らだ。襲う気満々のくせに強盗ではないと言い張るとはな!」
アイオロスが見下すようにそう言い放つものだから、さすがに追いはぎたちは装う事をやめた。
「うるせえ! てめえら貴族どもに、俺たちの何が分かるってんだよ! おう、野郎ども、出てこいよ!」
おそらくリーダーだと思われる男が叫ぶと、どこからともなくぞろぞろと仲間がたくさん出てきた。どうやら既に招集を掛けていたようである。そして、その手に武器を持って今にも襲い掛からんとばかりに構えた。
「まったく……、マスター様には人間に手を出すなとは言われているが……」
アイオロスは伏し目がちにため息を吐いている。その余裕たっぷりの様子に追いはぎたちがキレる。
「武器を持った相手を前によそ見たあ、余裕だなあっ! 野郎ども、痛めつけてやれ!」
リーダー格の男の声に、追いはぎたちが一斉にアイオロスに襲い掛かる。そして、その攻撃が命中するかと思われた次の瞬間だった。
「ぐはぁっ!」
「うわあっ!!」
「ぐべっ!」
攻撃を命中させたはずの追いはぎたちが吹き飛んで、次々と壁や地面に叩きつけられていた。叩きつけられた追いはぎたちは一体何が起きたのか分からず、その場で痛みのあまりにうずくまっている。
「な、なんだ今のは!」
リーダー格が叫んで周りを見回した後、アイオロスを凝視する。すると、アイオロスの周りには風のようなものが渦巻いているのが見えた。
「ははっ、けんかを吹っかけられてやり返したなら、マスター様も文句はねえよな」
アイオロスが風をまとって不気味に笑っている。まるでいいおもちゃを見つけたかのように、まるで悪役面のように表情が歪んでいっている。その表情を向けられたリーダー格は、その表情に恐怖を感じてすくみ上がってしまった。
「あー、やっぱり我慢できねえなぁ……。さあて、手加減はしてやるが、てめえはどのくらいまで耐えられるかな?」
アイオロスはそう言いながら一度頭を掻きむしると、改めてリーダー格を睨み付ける。
「相手の力量も見極められねえで手を出すような頭の悪い奴らには、それ相応のお仕置きが必要だよなぁ?」
アイオロスがじわりじわりと追いはぎたちに迫ってくる。リーダー格は恐怖のあまり動けず、他の追いはぎたちも逃げようとするが、先程のダメージのせいで動けずにいる。その顔にはもはや恐怖の色しか浮かんでいなかった。
「ははっ、いい様だな……」
愉悦の表情を浮かべるアイオロスの周りの風が、徐々に強まり始める。
「さあ、この俺様に手を出した事を後悔するがいい。ただし、その反省会の会場はあの世だがな!」
アイオロスが叫ぶと、渦巻き始めた風が暴風へと変貌したのだった。
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