神槍のルナル

未羊

文字の大きさ
上 下
59 / 139
第三章『それぞれの道』

『シグムスの歴史書』を手に入れた!

しおりを挟む
 ルルが魔法を放つとトールの足元に水の渦が出現し、一気にトールを包み込んでいく。強力な渦巻きとなった魔法は、トールを容赦なく切り刻んでいく。
「ぐわああっ!!」
 水の刃に切り刻まれ、トールは徐々に雷の力を奪われていく。そのダメージの大きさは、トールが上げた苦悶の声の大きさが物語っていた。
「セインくん、今です!」
 ミレルが叫ぶと、目の前の水流の凄まじさに意識を奪われていたセインが我に返る。そして、状況を理解して剣を構えると、力の限りに剣を振り抜く。
「うおおおおっ! 斬響十字閃ざんきょうじゅうじせん!」
 セインから横方向と縦方向の、二発の斬破が放たれる。
 この技は、特訓中にたまたま編み出した技だ。一発では弱くても、二発合わせたらどうなるのか。その疑問から生まれた技である。そして、この二発の斬破の二発目を調整して、うまく重なるように当てると、交点での威力が跳ね上がる事が分かった。おかげでシグムスの訓練場には一部大穴が開いたくらいである。
 セインがなぜここでその技を放つ事にしたのか。それというのもルルが放った魔法が強力すぎるからだった。これでは到底普通の斬破では届かない。そう判断したという事である。
 では、実際のこの技の威力はというと、それは一目瞭然だった。
「うっ、ぐぬうっ!!」
 強力な十字型の斬破は渦巻く水流を突き抜け、見事トールの腹部に命中した。そして、腹部に大きな傷を負ったトールは、ついぞその場に倒れ込んだ。
 それと同時に、メイルシュトロームの魔法によって起こされた渦巻きも消え去った。
「やったか?」
 そう叫ぶセインだったが、まだ剣を構えて警戒している。そう、まだ油断はできなかったのだ。
「う、ぐぐ……」
 トールはまだ動こうとしている。セインの勘は当たっていたのだ。
 だが、あれだけの攻撃を食らいながらもまだ動けるとは、さすがは五色龍といったところである。
「う……ぐ……、うぬらの勝ちだ。さあ、奥へ進むとよい」
 だが、トールの傷はかなり深いようだった。それが証拠に、自分の負けを認めている。
 警戒を解くセインとルル。その一方でミレルも警戒を解きながらもトールへと近付いていく。猫人の勘が、危険がないと告げているのだろう。だが、周りからすれば、その姿は無防備に映っただろう。
 ミレルはトールの前に跪く。
「さすがは五色龍。あれだけの攻撃を受けてもまだ動けるなんて、頑丈ですね」
「ふっ、我を甘く見てもらっては困る」
 ミレルの言葉に、トールは伏し目がちにしながらも反応を見せている。
「確かに、そうですね。ですが、さすがにこれは危険だと思われますので、傷を見る事に致しましょう」
 ミレルはそう言って、トールに対してサーチの魔法を使う。
 さすがにこれだけボロボロとなっては、浮かび上がる光は赤色が多かった。それだけ、ルルとセインの攻撃が効いていたという事なのである。
「さすがにこれは、最後のメイルシュトロームとセインくんの攻撃が効いてますね」
「うむ、さすがにあれは効いたな。……これだけの傷を負わされたのは、一体いつ以来だろうか。まったく記憶にない」
 これだけの傷を負いながらも、トールは笑っていた。ドラゴンはタフなようだった。
「すべては、水のマナがあふれた事によるものでしょうね」
「間違いなくな。ウンディーネの召喚は、我にも予想外だった。あの潰えた古の魔法を使える者が居ようとはな……」
「そうですね。……では、応急処置となりますが、回復魔法を使いますね」
 トールとの会話を終えると、ミレルは手をかざして回復魔法を使う。ミレルの手から光があふれたかと思うと、それは一気にトールの全身を包み込み、トールの傷が癒えていった。
「ふむ……、猫人が回復魔法を使うとは、意外だな」
「昔から魔法に興味はありましたからね。それに、まだ未熟な頃に助けられなかった仲間が居ますから……」
「そうか、そのような事情があったか。……不覚は触れぬ事にしよう」
 目を伏せて話すミレルに、トールはそう言って黙り込んだ。

 一方、ルルの方はというと……。
「召喚術というものは、精霊との間で契約を結ぶ必要があります。それを無視して召喚するという事は、本来ならばできません」
 ウンディーネから召喚術の話をされていた。
「今回は恐らく、あなたの必死な願いがその手順を飛ばしてしまったのでしょう」
「なるほど~」
 ルルは驚いた表情でウンディーネの話を聞いている。
「多分、あなたも精霊だという事も、今回の事態につながったのだと思われます」
「ふむふむ」
「本来であるなら、これっきりという話になるのでしょうが、召喚術を行使した精霊というのは興味があります。ですので、これからもできる限りは協力しようと思います。いざという時には呼んで下さいね」
「ほ、本当ですか!」
 ウンディーネに認められて、ルルはとても喜んでいる。
「ですが、新たな精霊と契約を行う時は相応の覚悟をしておいて下さい。私のように温厚な精霊ばかりとは限りませんからね」
「はい、気を付けます!」
 ウンディーネからの警告に、ルルは大声で返事をしていた。
「本当に今回はありがとうございました」
「うふふ、素直ないい子ね」
 ルルがお礼を言うと、ウンディーネはそう言い残して姿を消したのだった。

「よし、それじゃとっとと歴史書をもって、王様のところに戻ろうぜ!」
 一人ぽつんと残されていたセインが、ようやく声を上げてミレルと合流する。
「シグムスの歴史書ならば、右手の奥だ。明らかに他のものと色が違うから、すぐに分かるだろう」
 顔を向けて歴史書のある方向を眺めている。
「我が主の命を受けて、先んじて探しておいた。結界が緩んでいて魔物が入り込んでいたが、我が排除しておいた。幸いな事に本への被害はなかったぞ。安心して探すとよい」
 トールからこう言われたミレルたちは、その示した方向へと進んでいく。
 そこにあった本棚に並ぶ本は、確かに周りの本と色が違っていた。しかも、作られたばかりのようにきれいな状態の本だった。
「これは、魔法が掛けられていますね」
 その場所に並ぶ何十冊という本を見て、ミレルはそこにあった違和感の正体に気が付いたようだ。
「さすがは魔法に造詣の深い猫人だな。おそらくそこの本に掛けられているのは、保存の魔法だ。後世に伝えるべく、かなり念入りに掛けられているようだ」
 トールの説明を聞きながら、ミレルたちはその真新しい見た目の本が並ぶ棚の前に立つ。その時、
「主からの伝言だ。『シグムスの歴史書を紐解く時、シグムスの王族たちの真実と、これから起こる事が分かるだろう』と」
 トールの口から、とても興味深い言葉が告げられたのだった。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

異端の紅赤マギ

みどりのたぬき
ファンタジー
【なろう83000PV超え】 --------------------------------------------- その日、瀧田暖はいつもの様にコンビニへ夕食の調達に出掛けた。 いつもの街並みは、何故か真上から視線を感じて見上げた天上で暖を見る巨大な『眼』と視線を交わした瞬間激変した。 それまで見ていたいた街並みは巨大な『眼』を見た瞬間、全くの別物へと変貌を遂げていた。 「ここは異世界だ!!」 退屈な日常から解き放たれ、悠々自適の冒険者生活を期待した暖に襲いかかる絶望。 「冒険者なんて職業は存在しない!?」 「俺には魔力が無い!?」 これは自身の『能力』を使えばイージーモードなのに何故か超絶ヘルモードへと突き進む一人の人ならざる者の物語・・・ --------------------------------------------------------------------------- 「初投稿作品」で色々と至らない点、文章も稚拙だったりするかもしれませんが、一生懸命書いていきます。 また、時間があれば表現等見直しを行っていきたいと思っています。※特に1章辺りは大幅に表現等変更予定です、時間があれば・・・ ★次章執筆大幅に遅れています。 ★なんやかんやありまして...

クラスメイトの美少女と無人島に流された件

桜井正宗
青春
 修学旅行で離島へ向かう最中――悪天候に見舞われ、台風が直撃。船が沈没した。  高校二年の早坂 啓(はやさか てつ)は、気づくと砂浜で寝ていた。周囲を見渡すとクラスメイトで美少女の天音 愛(あまね まな)が隣に倒れていた。  どうやら、漂流して流されていたようだった。  帰ろうにも島は『無人島』。  しばらくは島で生きていくしかなくなった。天音と共に無人島サバイバルをしていくのだが……クラスの女子が次々に見つかり、やがてハーレムに。  男一人と女子十五人で……取り合いに発展!?

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

四季
恋愛
父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

せっかくのクラス転移だけども、俺はポテトチップスでも食べながらクラスメイトの冒険を見守りたいと思います

霖空
ファンタジー
クラス転移に巻き込まれてしまった主人公。 得た能力は悪くない……いや、むしろ、チートじみたものだった。 しかしながら、それ以上のデメリットもあり……。 傍観者にならざるをえない彼が傍観者するお話です。 基本的に、勇者や、影井くんを見守りつつ、ほのぼの?生活していきます。 が、そのうち、彼自身の物語も始まる予定です。

どーも、反逆のオッサンです

わか
ファンタジー
簡単なあらすじ オッサン異世界転移する。 少し詳しいあらすじ 異世界転移したオッサン...能力はスマホ。森の中に転移したオッサンがスマホを駆使して普通の生活に向けひたむきに行動するお話。 この小説は、小説家になろう様、カクヨム様にて同時投稿しております。

のほほん異世界暮らし

みなと劉
ファンタジー
異世界に転生するなんて、夢の中の話だと思っていた。 それが、目を覚ましたら見知らぬ森の中、しかも手元にはなぜかしっかりとした地図と、ちょっとした冒険に必要な道具が揃っていたのだ。

日本列島、時震により転移す!

黄昏人
ファンタジー
2023年(現在)、日本列島が後に時震と呼ばれる現象により、500年以上の時を超え1492年(過去)の世界に転移した。移転したのは本州、四国、九州とその周辺の島々であり、現在の日本は過去の時代に飛ばされ、過去の日本は現在の世界に飛ばされた。飛ばされた現在の日本はその文明を支え、国民を食わせるためには早急に莫大な資源と食料が必要である。過去の日本は現在の世界を意識できないが、取り残された北海道と沖縄は国富の大部分を失い、戦国日本を抱え途方にくれる。人々は、政府は何を思いどうふるまうのか。

処理中です...