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第三章『それぞれの道』
『シグムスの歴史書』を手に入れた!
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ルルが魔法を放つとトールの足元に水の渦が出現し、一気にトールを包み込んでいく。強力な渦巻きとなった魔法は、トールを容赦なく切り刻んでいく。
「ぐわああっ!!」
水の刃に切り刻まれ、トールは徐々に雷の力を奪われていく。そのダメージの大きさは、トールが上げた苦悶の声の大きさが物語っていた。
「セインくん、今です!」
ミレルが叫ぶと、目の前の水流の凄まじさに意識を奪われていたセインが我に返る。そして、状況を理解して剣を構えると、力の限りに剣を振り抜く。
「うおおおおっ! 斬響十字閃!」
セインから横方向と縦方向の、二発の斬破が放たれる。
この技は、特訓中にたまたま編み出した技だ。一発では弱くても、二発合わせたらどうなるのか。その疑問から生まれた技である。そして、この二発の斬破の二発目を調整して、うまく重なるように当てると、交点での威力が跳ね上がる事が分かった。おかげでシグムスの訓練場には一部大穴が開いたくらいである。
セインがなぜここでその技を放つ事にしたのか。それというのもルルが放った魔法が強力すぎるからだった。これでは到底普通の斬破では届かない。そう判断したという事である。
では、実際のこの技の威力はというと、それは一目瞭然だった。
「うっ、ぐぬうっ!!」
強力な十字型の斬破は渦巻く水流を突き抜け、見事トールの腹部に命中した。そして、腹部に大きな傷を負ったトールは、ついぞその場に倒れ込んだ。
それと同時に、メイルシュトロームの魔法によって起こされた渦巻きも消え去った。
「やったか?」
そう叫ぶセインだったが、まだ剣を構えて警戒している。そう、まだ油断はできなかったのだ。
「う、ぐぐ……」
トールはまだ動こうとしている。セインの勘は当たっていたのだ。
だが、あれだけの攻撃を食らいながらもまだ動けるとは、さすがは五色龍といったところである。
「う……ぐ……、うぬらの勝ちだ。さあ、奥へ進むとよい」
だが、トールの傷はかなり深いようだった。それが証拠に、自分の負けを認めている。
警戒を解くセインとルル。その一方でミレルも警戒を解きながらもトールへと近付いていく。猫人の勘が、危険がないと告げているのだろう。だが、周りからすれば、その姿は無防備に映っただろう。
ミレルはトールの前に跪く。
「さすがは五色龍。あれだけの攻撃を受けてもまだ動けるなんて、頑丈ですね」
「ふっ、我を甘く見てもらっては困る」
ミレルの言葉に、トールは伏し目がちにしながらも反応を見せている。
「確かに、そうですね。ですが、さすがにこれは危険だと思われますので、傷を見る事に致しましょう」
ミレルはそう言って、トールに対してサーチの魔法を使う。
さすがにこれだけボロボロとなっては、浮かび上がる光は赤色が多かった。それだけ、ルルとセインの攻撃が効いていたという事なのである。
「さすがにこれは、最後のメイルシュトロームとセインくんの攻撃が効いてますね」
「うむ、さすがにあれは効いたな。……これだけの傷を負わされたのは、一体いつ以来だろうか。まったく記憶にない」
これだけの傷を負いながらも、トールは笑っていた。ドラゴンはタフなようだった。
「すべては、水のマナがあふれた事によるものでしょうね」
「間違いなくな。ウンディーネの召喚は、我にも予想外だった。あの潰えた古の魔法を使える者が居ようとはな……」
「そうですね。……では、応急処置となりますが、回復魔法を使いますね」
トールとの会話を終えると、ミレルは手をかざして回復魔法を使う。ミレルの手から光があふれたかと思うと、それは一気にトールの全身を包み込み、トールの傷が癒えていった。
「ふむ……、猫人が回復魔法を使うとは、意外だな」
「昔から魔法に興味はありましたからね。それに、まだ未熟な頃に助けられなかった仲間が居ますから……」
「そうか、そのような事情があったか。……不覚は触れぬ事にしよう」
目を伏せて話すミレルに、トールはそう言って黙り込んだ。
一方、ルルの方はというと……。
「召喚術というものは、精霊との間で契約を結ぶ必要があります。それを無視して召喚するという事は、本来ならばできません」
ウンディーネから召喚術の話をされていた。
「今回は恐らく、あなたの必死な願いがその手順を飛ばしてしまったのでしょう」
「なるほど~」
ルルは驚いた表情でウンディーネの話を聞いている。
「多分、あなたも精霊だという事も、今回の事態につながったのだと思われます」
「ふむふむ」
「本来であるなら、これっきりという話になるのでしょうが、召喚術を行使した精霊というのは興味があります。ですので、これからもできる限りは協力しようと思います。いざという時には呼んで下さいね」
「ほ、本当ですか!」
ウンディーネに認められて、ルルはとても喜んでいる。
「ですが、新たな精霊と契約を行う時は相応の覚悟をしておいて下さい。私のように温厚な精霊ばかりとは限りませんからね」
「はい、気を付けます!」
ウンディーネからの警告に、ルルは大声で返事をしていた。
「本当に今回はありがとうございました」
「うふふ、素直ないい子ね」
ルルがお礼を言うと、ウンディーネはそう言い残して姿を消したのだった。
「よし、それじゃとっとと歴史書をもって、王様のところに戻ろうぜ!」
一人ぽつんと残されていたセインが、ようやく声を上げてミレルと合流する。
「シグムスの歴史書ならば、右手の奥だ。明らかに他のものと色が違うから、すぐに分かるだろう」
顔を向けて歴史書のある方向を眺めている。
「我が主の命を受けて、先んじて探しておいた。結界が緩んでいて魔物が入り込んでいたが、我が排除しておいた。幸いな事に本への被害はなかったぞ。安心して探すとよい」
トールからこう言われたミレルたちは、その示した方向へと進んでいく。
そこにあった本棚に並ぶ本は、確かに周りの本と色が違っていた。しかも、作られたばかりのようにきれいな状態の本だった。
「これは、魔法が掛けられていますね」
その場所に並ぶ何十冊という本を見て、ミレルはそこにあった違和感の正体に気が付いたようだ。
「さすがは魔法に造詣の深い猫人だな。おそらくそこの本に掛けられているのは、保存の魔法だ。後世に伝えるべく、かなり念入りに掛けられているようだ」
トールの説明を聞きながら、ミレルたちはその真新しい見た目の本が並ぶ棚の前に立つ。その時、
「主からの伝言だ。『シグムスの歴史書を紐解く時、シグムスの王族たちの真実と、これから起こる事が分かるだろう』と」
トールの口から、とても興味深い言葉が告げられたのだった。
「ぐわああっ!!」
水の刃に切り刻まれ、トールは徐々に雷の力を奪われていく。そのダメージの大きさは、トールが上げた苦悶の声の大きさが物語っていた。
「セインくん、今です!」
ミレルが叫ぶと、目の前の水流の凄まじさに意識を奪われていたセインが我に返る。そして、状況を理解して剣を構えると、力の限りに剣を振り抜く。
「うおおおおっ! 斬響十字閃!」
セインから横方向と縦方向の、二発の斬破が放たれる。
この技は、特訓中にたまたま編み出した技だ。一発では弱くても、二発合わせたらどうなるのか。その疑問から生まれた技である。そして、この二発の斬破の二発目を調整して、うまく重なるように当てると、交点での威力が跳ね上がる事が分かった。おかげでシグムスの訓練場には一部大穴が開いたくらいである。
セインがなぜここでその技を放つ事にしたのか。それというのもルルが放った魔法が強力すぎるからだった。これでは到底普通の斬破では届かない。そう判断したという事である。
では、実際のこの技の威力はというと、それは一目瞭然だった。
「うっ、ぐぬうっ!!」
強力な十字型の斬破は渦巻く水流を突き抜け、見事トールの腹部に命中した。そして、腹部に大きな傷を負ったトールは、ついぞその場に倒れ込んだ。
それと同時に、メイルシュトロームの魔法によって起こされた渦巻きも消え去った。
「やったか?」
そう叫ぶセインだったが、まだ剣を構えて警戒している。そう、まだ油断はできなかったのだ。
「う、ぐぐ……」
トールはまだ動こうとしている。セインの勘は当たっていたのだ。
だが、あれだけの攻撃を食らいながらもまだ動けるとは、さすがは五色龍といったところである。
「う……ぐ……、うぬらの勝ちだ。さあ、奥へ進むとよい」
だが、トールの傷はかなり深いようだった。それが証拠に、自分の負けを認めている。
警戒を解くセインとルル。その一方でミレルも警戒を解きながらもトールへと近付いていく。猫人の勘が、危険がないと告げているのだろう。だが、周りからすれば、その姿は無防備に映っただろう。
ミレルはトールの前に跪く。
「さすがは五色龍。あれだけの攻撃を受けてもまだ動けるなんて、頑丈ですね」
「ふっ、我を甘く見てもらっては困る」
ミレルの言葉に、トールは伏し目がちにしながらも反応を見せている。
「確かに、そうですね。ですが、さすがにこれは危険だと思われますので、傷を見る事に致しましょう」
ミレルはそう言って、トールに対してサーチの魔法を使う。
さすがにこれだけボロボロとなっては、浮かび上がる光は赤色が多かった。それだけ、ルルとセインの攻撃が効いていたという事なのである。
「さすがにこれは、最後のメイルシュトロームとセインくんの攻撃が効いてますね」
「うむ、さすがにあれは効いたな。……これだけの傷を負わされたのは、一体いつ以来だろうか。まったく記憶にない」
これだけの傷を負いながらも、トールは笑っていた。ドラゴンはタフなようだった。
「すべては、水のマナがあふれた事によるものでしょうね」
「間違いなくな。ウンディーネの召喚は、我にも予想外だった。あの潰えた古の魔法を使える者が居ようとはな……」
「そうですね。……では、応急処置となりますが、回復魔法を使いますね」
トールとの会話を終えると、ミレルは手をかざして回復魔法を使う。ミレルの手から光があふれたかと思うと、それは一気にトールの全身を包み込み、トールの傷が癒えていった。
「ふむ……、猫人が回復魔法を使うとは、意外だな」
「昔から魔法に興味はありましたからね。それに、まだ未熟な頃に助けられなかった仲間が居ますから……」
「そうか、そのような事情があったか。……不覚は触れぬ事にしよう」
目を伏せて話すミレルに、トールはそう言って黙り込んだ。
一方、ルルの方はというと……。
「召喚術というものは、精霊との間で契約を結ぶ必要があります。それを無視して召喚するという事は、本来ならばできません」
ウンディーネから召喚術の話をされていた。
「今回は恐らく、あなたの必死な願いがその手順を飛ばしてしまったのでしょう」
「なるほど~」
ルルは驚いた表情でウンディーネの話を聞いている。
「多分、あなたも精霊だという事も、今回の事態につながったのだと思われます」
「ふむふむ」
「本来であるなら、これっきりという話になるのでしょうが、召喚術を行使した精霊というのは興味があります。ですので、これからもできる限りは協力しようと思います。いざという時には呼んで下さいね」
「ほ、本当ですか!」
ウンディーネに認められて、ルルはとても喜んでいる。
「ですが、新たな精霊と契約を行う時は相応の覚悟をしておいて下さい。私のように温厚な精霊ばかりとは限りませんからね」
「はい、気を付けます!」
ウンディーネからの警告に、ルルは大声で返事をしていた。
「本当に今回はありがとうございました」
「うふふ、素直ないい子ね」
ルルがお礼を言うと、ウンディーネはそう言い残して姿を消したのだった。
「よし、それじゃとっとと歴史書をもって、王様のところに戻ろうぜ!」
一人ぽつんと残されていたセインが、ようやく声を上げてミレルと合流する。
「シグムスの歴史書ならば、右手の奥だ。明らかに他のものと色が違うから、すぐに分かるだろう」
顔を向けて歴史書のある方向を眺めている。
「我が主の命を受けて、先んじて探しておいた。結界が緩んでいて魔物が入り込んでいたが、我が排除しておいた。幸いな事に本への被害はなかったぞ。安心して探すとよい」
トールからこう言われたミレルたちは、その示した方向へと進んでいく。
そこにあった本棚に並ぶ本は、確かに周りの本と色が違っていた。しかも、作られたばかりのようにきれいな状態の本だった。
「これは、魔法が掛けられていますね」
その場所に並ぶ何十冊という本を見て、ミレルはそこにあった違和感の正体に気が付いたようだ。
「さすがは魔法に造詣の深い猫人だな。おそらくそこの本に掛けられているのは、保存の魔法だ。後世に伝えるべく、かなり念入りに掛けられているようだ」
トールの説明を聞きながら、ミレルたちはその真新しい見た目の本が並ぶ棚の前に立つ。その時、
「主からの伝言だ。『シグムスの歴史書を紐解く時、シグムスの王族たちの真実と、これから起こる事が分かるだろう』と」
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