55 / 139
第三章『それぞれの道』
シグムス城の地下5・書庫
しおりを挟む
ルルの魔法でスライムを退けたミレルたちは、その後も現れる魔物を撃退しつつ、奥へと進んでいく。
そして、たどり着いた先で、明らかに他とは様相の違う扉を発見する。しっかりと装飾が施された上に、シグムスの紋章までが刻まれている。おそらくここが書庫なのだろう。
「どうやらここが書庫のようですね。扉から不思議な魔力を感じます」
書庫にも城と同じような結界が施されているので、ミレルはそれを感じ取ったのだろう。ルルも同じ魔法使いなので、同様の反応を見せている。
「サーチ」
周囲の警戒をしつつも、ミレルは扉に向けてサーチを使う。
「目的地に着きましたが、まだその外側です。まだ安全地帯ではありませんし、だからといって中も安全とは限りません。油断はできませんよ」
さすがは戦闘民族。目的地について気の抜けてしまったセインやルルとは違っていたのだ。
ところが、サーチを使ってひと安心とはいかなかった。
「変ですね。いつもならサーチを使えば、安全の度合いが色となって表れるのですが……」
「どういう事なんだ?」
ミレルの言葉に、一気に警戒を高める二人。
「分かりません。今まで失敗らしい失敗なんてなかったのですが……」
ここまで落ち着いていたミレルが焦っている。これにはセインとルルも落ち着いていられなかった。だが、ここまで来て引き返すわけにはいかない。意を決したミレルがセインとルルに振り返る。
「申し訳ありません。どうやら何らかの魔力阻害が働いているようです。ですが、ここが目的地ですので、まず私が扉を開けて入りますので、二人は呼ぶまでしばらく待機していて下さい」
このミレルの言葉に、セインとルルはこくりと頷いた。
嫌な予感を抱く中、最大限に神経を研ぎ澄ましてミレルはゆっくりと扉を開いていく。扉を開けた先はやはり真っ黒で何も見えなかった。だが、次の瞬間だった。何かを感じ取ったミレルがとっさに動く。
「プロテクト!」
ミレルが防御壁を展開すると同時に、ごおっと音を立てて何かが迫ってきた。
「きゃっ!」
すると、ミレルの展開していた防御壁があっさりと壊され、ミレルは思わず吹き飛ばされてしまう。
「だ、大丈夫ですか?」
待機していたルルたちが駆け寄ってくる。
「ええ、ちょっと衝撃で飛ばされただけです」
立ち上がってスカートを叩くミレル。そして、改めて中へと振り返ってしっかりと見る。すると、そこ居たものに驚いて動きが固まってしまった。
「どうしたんですか、ミレルさん」
ルルが心配して声を掛ける。だが、同時にルルも同じように強大な力を感じて、信じられないという顔で力を感じた方向を見る。
次の瞬間、ぱぱっと明かりが点いて書庫の中が一気に明るくなった。
「な、なんだこいつは!?」
その姿をはっきりと見たセインが思わず叫んでしまう。しかし、それは仕方のない事だった。
ミレルたちの前に姿を見せたのは、巨大なドラゴンだった。しかも、全身が黄色く眩く光る鱗で覆われている、見た事もないドラゴンだったのだ。
だが、いろんな事でありえない存在だった。
まずはこのプサイラ砂漠にはイエロードラゴンは生息していないという事である。そして、ましてや結界に守られた書庫の中に居るなど、あり得るわけもなかったのだ。ミレルは驚きながらも状況の分析を試みているのである。その後ろでは、初めて見たドラゴンという存在に驚き固まるセインとルルが居た。
「うぬらに問う」
突如として、書庫の中に重苦しい声が響き渡る。最初は何事かと思ったのだが、よくよく冷静に考えれば目の前のドラゴンが喋ったとしか思えない。人語まで話すとは、ますますミレルには信じられなかった。
「ふっ、恐怖のあまり声も出せぬか」
目の前のドラゴンが喋る。
「いえ、驚きのあまりに声を出せませんでした」
「ふん、どちらとて同じ事。改めて問う」
「な、何でしょうか」
ドラゴンの言葉に、ミレルが反応する。
「なぜここに来た。その返答次第では、黒焦げになってもらう」
「黒焦げ?」
この言葉に反応して、ミレルは改めてドラゴンを見る。どうやら鱗自体が光っているのではなく、その周りに発生している雷のようなものが光っているようなのだ。
(雷属性のドラゴンだというのですか? 私の勘が告げていますが、まともにやり合って勝てる相手ではなさそうです……)
ミレルの頬にひと筋の汗が流れる。それは冷や汗だった。
だが、ここでむざむざ引き返すわけにもいかない。ミレルはここへ来た目的をドラゴンに告げる。
「私たちはシグムス王の命により、この書庫へと歴史書を取りに参ったのです。あなたに危害を加えるつもりはございません!」
「ほほお、ならば我の退治というわけではないのだな?」
ドラゴンがギロリと睨みつけてくる。
「はい。あなたの存在はここで初めて知った次第です。戦う事が目的ではありませんので、どうかここは通して頂けますでしょうか」
ミレルは震える体に鞭打ち、ドラゴンと交渉をする。
ところが、しっかりと戦う意思のない事を示したというのに、ドラゴンはどういうわけか首を傾げていた。
「そうか……。だが、我もあの方の命によりここを守るように仰せつかっておる」
そう言ったドラゴンは、再びミレルたちを睨み付けた。
「そういうわけだ。ここを探索したいというのであるなら、この我を打ち負かせて見せよ!」
ドラゴンの咆哮が、書庫の中に響き渡る。
どうやら戦うしかないようだ。ミレルは体を震わせる。だが、これは恐怖の震えではない、武者震いだった。
ここまでやって来たというのだ、このまま引き下がるわけにはいかない。
「……戦うしかないようですね」
にやりと怪しい笑みを浮かべたミレルが身構える。
「いきますよ、セインくん! ルルちゃん!」
「お、おうっ!」
「はい!」
もはややけくそだが、セインとルルの二人も戦闘態勢を取ったのだった。
そして、たどり着いた先で、明らかに他とは様相の違う扉を発見する。しっかりと装飾が施された上に、シグムスの紋章までが刻まれている。おそらくここが書庫なのだろう。
「どうやらここが書庫のようですね。扉から不思議な魔力を感じます」
書庫にも城と同じような結界が施されているので、ミレルはそれを感じ取ったのだろう。ルルも同じ魔法使いなので、同様の反応を見せている。
「サーチ」
周囲の警戒をしつつも、ミレルは扉に向けてサーチを使う。
「目的地に着きましたが、まだその外側です。まだ安全地帯ではありませんし、だからといって中も安全とは限りません。油断はできませんよ」
さすがは戦闘民族。目的地について気の抜けてしまったセインやルルとは違っていたのだ。
ところが、サーチを使ってひと安心とはいかなかった。
「変ですね。いつもならサーチを使えば、安全の度合いが色となって表れるのですが……」
「どういう事なんだ?」
ミレルの言葉に、一気に警戒を高める二人。
「分かりません。今まで失敗らしい失敗なんてなかったのですが……」
ここまで落ち着いていたミレルが焦っている。これにはセインとルルも落ち着いていられなかった。だが、ここまで来て引き返すわけにはいかない。意を決したミレルがセインとルルに振り返る。
「申し訳ありません。どうやら何らかの魔力阻害が働いているようです。ですが、ここが目的地ですので、まず私が扉を開けて入りますので、二人は呼ぶまでしばらく待機していて下さい」
このミレルの言葉に、セインとルルはこくりと頷いた。
嫌な予感を抱く中、最大限に神経を研ぎ澄ましてミレルはゆっくりと扉を開いていく。扉を開けた先はやはり真っ黒で何も見えなかった。だが、次の瞬間だった。何かを感じ取ったミレルがとっさに動く。
「プロテクト!」
ミレルが防御壁を展開すると同時に、ごおっと音を立てて何かが迫ってきた。
「きゃっ!」
すると、ミレルの展開していた防御壁があっさりと壊され、ミレルは思わず吹き飛ばされてしまう。
「だ、大丈夫ですか?」
待機していたルルたちが駆け寄ってくる。
「ええ、ちょっと衝撃で飛ばされただけです」
立ち上がってスカートを叩くミレル。そして、改めて中へと振り返ってしっかりと見る。すると、そこ居たものに驚いて動きが固まってしまった。
「どうしたんですか、ミレルさん」
ルルが心配して声を掛ける。だが、同時にルルも同じように強大な力を感じて、信じられないという顔で力を感じた方向を見る。
次の瞬間、ぱぱっと明かりが点いて書庫の中が一気に明るくなった。
「な、なんだこいつは!?」
その姿をはっきりと見たセインが思わず叫んでしまう。しかし、それは仕方のない事だった。
ミレルたちの前に姿を見せたのは、巨大なドラゴンだった。しかも、全身が黄色く眩く光る鱗で覆われている、見た事もないドラゴンだったのだ。
だが、いろんな事でありえない存在だった。
まずはこのプサイラ砂漠にはイエロードラゴンは生息していないという事である。そして、ましてや結界に守られた書庫の中に居るなど、あり得るわけもなかったのだ。ミレルは驚きながらも状況の分析を試みているのである。その後ろでは、初めて見たドラゴンという存在に驚き固まるセインとルルが居た。
「うぬらに問う」
突如として、書庫の中に重苦しい声が響き渡る。最初は何事かと思ったのだが、よくよく冷静に考えれば目の前のドラゴンが喋ったとしか思えない。人語まで話すとは、ますますミレルには信じられなかった。
「ふっ、恐怖のあまり声も出せぬか」
目の前のドラゴンが喋る。
「いえ、驚きのあまりに声を出せませんでした」
「ふん、どちらとて同じ事。改めて問う」
「な、何でしょうか」
ドラゴンの言葉に、ミレルが反応する。
「なぜここに来た。その返答次第では、黒焦げになってもらう」
「黒焦げ?」
この言葉に反応して、ミレルは改めてドラゴンを見る。どうやら鱗自体が光っているのではなく、その周りに発生している雷のようなものが光っているようなのだ。
(雷属性のドラゴンだというのですか? 私の勘が告げていますが、まともにやり合って勝てる相手ではなさそうです……)
ミレルの頬にひと筋の汗が流れる。それは冷や汗だった。
だが、ここでむざむざ引き返すわけにもいかない。ミレルはここへ来た目的をドラゴンに告げる。
「私たちはシグムス王の命により、この書庫へと歴史書を取りに参ったのです。あなたに危害を加えるつもりはございません!」
「ほほお、ならば我の退治というわけではないのだな?」
ドラゴンがギロリと睨みつけてくる。
「はい。あなたの存在はここで初めて知った次第です。戦う事が目的ではありませんので、どうかここは通して頂けますでしょうか」
ミレルは震える体に鞭打ち、ドラゴンと交渉をする。
ところが、しっかりと戦う意思のない事を示したというのに、ドラゴンはどういうわけか首を傾げていた。
「そうか……。だが、我もあの方の命によりここを守るように仰せつかっておる」
そう言ったドラゴンは、再びミレルたちを睨み付けた。
「そういうわけだ。ここを探索したいというのであるなら、この我を打ち負かせて見せよ!」
ドラゴンの咆哮が、書庫の中に響き渡る。
どうやら戦うしかないようだ。ミレルは体を震わせる。だが、これは恐怖の震えではない、武者震いだった。
ここまでやって来たというのだ、このまま引き下がるわけにはいかない。
「……戦うしかないようですね」
にやりと怪しい笑みを浮かべたミレルが身構える。
「いきますよ、セインくん! ルルちゃん!」
「お、おうっ!」
「はい!」
もはややけくそだが、セインとルルの二人も戦闘態勢を取ったのだった。
0
お気に入りに追加
12
あなたにおすすめの小説

【完結】転生少女は異世界でお店を始めたい
梅丸
ファンタジー
せっかく40代目前にして夢だった喫茶店オープンに漕ぎ着けたと言うのに事故に遭い呆気なく命を落としてしまった私。女神様が管理する異世界に転生させてもらい夢を実現するために奮闘するのだが、この世界には無いものが多すぎる! 創造魔法と言う女神様から授かった恩寵と前世の料理レシピを駆使して色々作りながら頑張る私だった。
異世界へ誤召喚されちゃいました~女神の加護でほのぼのスローライフ送ります~
モーリー
ファンタジー
⭐︎第4回次世代ファンタジーカップ16位⭐︎
飛行機事故で両親が他界してしまい、社会人の長男、高校生の長女、幼稚園児の次女で生きることになった御剣家。
保険金目当てで寄ってくる奴らに嫌気がさしながらも、3人で支え合いながら生活を送る日々。
そんな矢先に、3人揃って異世界に召喚されてしまった。
召喚特典として女神たちが加護やチート能力を与え、異世界でも生き抜けるようにしてくれた。
強制的に放り込まれた異世界。
知らない土地、知らない人、知らない世界。
不安をはねのけながら、時に怖い目に遭いながら、3人で異世界を生き抜き、平穏なスローライフを送る。
そんなほのぼのとした物語。

【完結】元婚約者であって家族ではありません。もう赤の他人なんですよ?
つくも茄子
ファンタジー
私、ヘスティア・スタンリー公爵令嬢は今日長年の婚約者であったヴィラン・ヤルコポル伯爵子息と婚約解消をいたしました。理由?相手の不貞行為です。婿入りの分際で愛人を連れ込もうとしたのですから当然です。幼馴染で家族同然だった相手に裏切られてショックだというのに相手は斜め上の思考回路。は!?自分が次期公爵?何の冗談です?家から出て行かない?ここは私の家です!貴男はもう赤の他人なんです!
文句があるなら法廷で決着をつけようではありませんか!
結果は当然、公爵家の圧勝。ヤルコポル伯爵家は御家断絶で一家離散。主犯のヴィランは怪しい研究施設でモルモットとしいて短い生涯を終える……はずでした。なのに何故か薬の副作用で強靭化してしまった。化け物のような『力』を手にしたヴィランは王都を襲い私達一家もそのまま儚く……にはならなかった。
目を覚ましたら幼い自分の姿が……。
何故か十二歳に巻き戻っていたのです。
最悪な未来を回避するためにヴィランとの婚約解消を!と拳を握りしめるものの婚約は継続。仕方なくヴィランの再教育を伯爵家に依頼する事に。
そこから新たな事実が出てくるのですが……本当に婚約は解消できるのでしょうか?
他サイトにも公開中。
うちの冷蔵庫がダンジョンになった
空志戸レミ
ファンタジー
一二三大賞3:コミカライズ賞受賞
ある日の事、突然世界中にモンスターの跋扈するダンジョンが現れたことで人々は戦慄。
そんななかしがないサラリーマンの住むアパートに置かれた古びた2ドア冷蔵庫もまた、なぜかダンジョンと繋がってしまう。部屋の借主である男は酷く困惑しつつもその魔性に惹かれ、このひとりしか知らないダンジョンの攻略に乗り出すのだった…。
学院の魔女の日常的非日常
只野誠
ファンタジー
【既に100万字オーバーなのでいっぱい読める!】
神がまだ作りかけの世界。
まだなにも始まってもいない世界。
停滞した世界。
まだ神が身近にいる世界。
そんな世界で祟り神の巫女と目される少女ミアが魔術を学ぶ学院で日常と非日常を渡り歩く。
ミアを中心とした停滞する世界がゆっくりと再び歩みだす。
そんな物語。
注意事項
※かなりのスロースタートなので気長に読んでやってください。
※あとてきとうが過ぎる。

W職業持ちの異世界スローライフ
Nowel
ファンタジー
仕事の帰り道、トラックに轢かれた鈴木健一。
目が覚めるとそこは魂の世界だった。
橋の神様に異世界に転生か転移することを選ばせてもらい、転移することに。
転移先は森の中、神様に貰った力を使いこの森の中でスローライフを目指す。

きっと幸せな異世界生活
スノウ
ファンタジー
神の手違いで日本人として15年間生きてきた倉本カノン。彼女は暴走トラックに轢かれて生死の境を彷徨い、魂の状態で女神のもとに喚ばれてしまう。女神の説明によれば、カノンは本来異世界レメイアで生まれるはずの魂であり、転生神の手違いで魂が入れ替わってしまっていたのだという。
そして、本来カノンとして日本で生まれるはずだった魂は異世界レメイアで生きており、カノンの事故とほぼ同時刻に真冬の川に転落して流され、仮死状態になっているという。
時を同じくして肉体から魂が離れようとしている2人の少女。2つの魂をあるべき器に戻せるたった一度のチャンスを神は見逃さず、実行に移すべく動き出すのだった。
異世界レメイアの女神メティスアメルの導きで新生活を送ることになったカノンの未来は…?
毎日12時頃に投稿します。
─────────────────
いいね、お気に入りをくださった方、どうもありがとうございます。
とても励みになります。
解放
かひけつ
ファンタジー
ある少年は、抗った。
謎の施設。謎の検査。謎の生活。
頭が狂いそうになりながらも施設から出る方法を模索する。
使えるものを活かした反抗計画とその結末は……。
ある科学者は悩んだ。
時折、無力感や後悔の念が身を焦がす。
利口が故に、自己嫌悪に陥ってしまう。
悩みぬいた末に出した結論は……。
ある貴族は覚悟を決めた。
貴ばれる血族であるが故のプライド、
それ相応とは言い難い重しをつけさせられる。
一家を背負い込む覚悟を、世界を調和させることを……。
あるモノは、嘆いた。
自由にはなれない……。
そう思わせる程、管理されてしまった世界。
ここには情すら……ないのかもしれない……。
諦めかけていた、でも、希望が見えた気がした……。
その希望は現状を打開し、解放してくれるのだろうか?
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる