神槍のルナル

未羊

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第三章『それぞれの道』

イプセルタ会議に向けて

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 話がまとまったところで、ルナルは乗ってきたペンタホーンに馬車を繋げる。その作業が終わるとまずはベティスへと向かった。
 本来この規模の会議であるなら、シグムスの国王が向かうところだ。だが、現在のシグムス国王は体調が思わしくない状態で、床に伏せっている状態である。そのため、シグムスからは智将のみの参加となった。
「国王陛下の容体はいかがなのでしょうか」
 ルナルが心配そうに質問をすると、智将は表情を険しくする。これだけで察せてしまう。
「陛下は元々体が丈夫ではない方だ。しかし、ここ最近は特に弱っておられるようでな……」
 智将が言うには、最近はベッドの上で体を起こしているのもつらそうにしているらしい。そこで、サキや大臣といった人物たちが必死に治す手立てを調べているらしいのだが、その方法はいまだに見つからないのだそうだ。
 その話を聞いたルナルは、少し考え込む。
「……でしたら、私の方でも協力致しましょうか? アルファガドもそうですけれど、私でしたら配下の魔族も動かす事ができますし」
「魔族に頼るのは……と言いたいところだが、すでにサキが居る状態では説得力に欠けるな。何より君の部下だ、他の者よりは信用できるだろう。事態は急を要する、よろしく頼む」
「分かりました。そろそろベティスに着きますので、手配をするならその時にでも致しましょう」
 会話を済ませたルナルたちは、ベティスへと急いだ。

 ペンタホーンにつないだ馬車は思ったより揺れが少なかった。ペンタホーンの特殊な能力なのだろうか。そして、その状態でも足の速さは健在で、実に三日でベティスに戻ってきてしまった。
 ちなみにペンタホーンは一頭シグムスに残っている。だからこそ馬車なのである。
「それではマスターを呼んできますので、しばしお待ち下さい」
「分かった」
 ルナルは馬車から降りると、アルファガドの中へと入っていった。

「ルナル様にゃー、おかえりにゃーっ!
 アルファガドの建物に入ると同時に、ミーアが勢いよく飛びついてきた。ルナルはそれを冷静に受け止め、頭を撫でている。
「ミーア、ちゃんといい子にしてましたか?」
「にゃー、ミーアはいい子にしてましたよ?」
「ミーア? なんで疑問形なんですかね?」
「にゃっ?」
 ミーアの語尾が上がっていたのが気になったルナルは、覗き込むようにミーアを問い詰める。だが、その答えが返ってくる前に、マスターが現れて声を掛けてきた。
「おう、ルナル。戻ってきてたか」
 その声にルナルはばっと顔を向ける。
「マスター、すぐに出られますか?」
「いやー、こんなに早く戻ってくるとは思ってなかったからまだだ。すぐに支度するから待ってろ」
 あくまで予想外を装おうとするマスターだが、あれは完全な嘘だ。ルナルの直感がそう告げている。
 第一、イプセルタの会議まであと四日だ。その準備を今からしていたら、通常なら完全に遅刻である。
 今回もわざとらしく準備できていないふりをしている。本当に食えない男なのである。
 マスターが裏へと姿を消したところで、ルナルはミーアに話し掛ける。
「さて、ミーア」
 ルナルが声を掛けたところで、ミーアは体を震わせる。
「本当はいろいろと言いたい事があるんですが、今回はとりあえず頼み事だけにしておきましょう」
 警戒していたミーアだったが、頼み事という単語に目を輝かせ始めた。本当にルナルが好きらしく、役に立てるのではと期待しているのである。
「何ですかにゃ、ルナル様」
「実はですね……」
 そのルナルの頼み事を聞いたミーアは、徐々に顔を青ざめさせていく。しかし、ルナルの頼み事とあっては断る事ができない。渋々その頼み事を了承していた。
「おう、待たせたな。日数もないんだ、すぐにでも出発しようじゃないか」
「ええ、こちらも用事は済みましたし、そうしましょうか」
 ルナルはマスターの言葉に同意する。そして、ミーアを再び見た。
「では、ミーア。ちゃんと頼んだ事をお願いしますよ。それと、ナタリーさんの言葉はちゃんと聞いて、ギルドの手伝いをしっかりするように。いいですね?」
「か、畏まりましたにゃ、ルナル様!」
 ミーアはびしっと直立する。幼児体型とも言える小さな体のミーアだが、その姿は少し頼もしく感じられた。
「では、ナタリーさん。ミーアの事、改めてお願いします」
「あいよ。ルナルちゃんたちも気を付けて行っておいで」
 ナタリーと言葉を交わしたルナルたちは、智将の待つ馬車へと乗り込む。そして、イプセルタへと向けて出発した。

 ペンタホーンが牽く馬車は、通常の馬車よりも速い速度で順調にイプセルタへと向けて進んでいる。これなら三日もあればイプセルタに着けそうである。
 その馬車の中で、マスターはふと何かを思ったらしくルナルに声を掛ける。
「それにしても、セインとルルの二人はどうしたんだ?」
 そう、この二人が居ない事を疑問に思ったからだ。
「しばらく鍛えてもらおうかと思いまして、シグムスに残ってもらいました。あの二人に必要なのは実戦経験ですからね」
 ルナルからの答えに、マスターは意外だなという顔をしている。
「お前が人任せにするのは以前からあるが、あの二人に関しては意外な判断だな」
「言いたい事は分かりますが、今はイプセルタの会議がありますからね。それに、シグムスには優秀な智将の右腕のサキが居ますから、安心して任せられるってわけですよ」
「まあそういう事だ。サキは頭が切れる優秀な人材だ。面倒を看るのが二人増えたところで、何も問題はないよ。だから、我々は今やるべき事をするだけという事だよ」
「まあ、確かにそうだな」
 ルナルと智将の言葉に、マスターはそう言って馬車にもたれ掛かる。
「……何なんですか、その表情は」
 その時のマスターのにやけた顔に、ルナルが文句を言う。御者台からよく見えるものである。
「ふっ、ちょっと意外だっただけだ、気にするな」
 マスターにそう言われると、ルナルは再びを前を見る。言い方も引っ掛かるのだが、追及するのは無駄だと分かっているからだ。ルナルはため息を吐いた。
 こうして、ルナルたちを乗せた馬車はイプセルタへ向けて、ガンヌ街道を北上していくのだった。
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