神槍のルナル

未羊

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第二章『西の都へ』

区切りの時

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 夜が明けて、朝を迎える。
 ルナルはギルドの厨房に立って、鼻歌を歌いながら朝食を作っている。さすがにハンター生活が長くなってきたせいか、料理を作れるくらいにはなっているのだ。
 そのルナルの傍らには、ミーアがちょこまかと動いながらルナルを手伝っている。ミーアの顔は満面の笑みにあふれていて、ルナルの手伝いができている事をものすごく喜んでいるようだった。
「ルナル様が料理だなんて、意外ですにゃ。しかも嬉しそうにゃ」
「ハンターを始めてからというもの、自分で料理しなければなりませんでしたからね。最初は失敗も多かったですが、今ではこの通りでして楽しいんですよ」
「ほえ~。そうなのですにゃ」
 ルナルが手際よく調理をする横で、ミーアも負けじと下ごしらえをしている。さすがにメイドとしては負けられないらしい。
「おっ、いい匂いじゃねえか」
 厨房にマスターが入ってきた。
「おはようございます、マスター。今はまだ作ってますので、もうちょっと待っててくれませんか?」
 調理で手が離せないルナルだが、挨拶だけはしておく。
「おう、ルナルが朝食作るのは久しぶりだな。そいつは楽しみにしておくとしようか」
「では、マスター。待っている間にセインとルルちゃんを起こしてきてくれませんか」
「おう、任せておけ」
 マスターはそう言って、楽しそうに厨房を出ていった。

 しばらくすると、マスターがセインとルルを連れて酒場へと顔を出す。そこでセインとルルは、目の前の光景にびっくりして完全に目を覚ました。
 なぜなら、そこにはこれでもかというくらいの量の料理が並べられていたからだ。
「なっ、何なんだ、この量は?!」
「ふえぇぇ……、食べ切れませんよぉ……」
 まずは量に対しての感想しか出てこない二人。そして、
「なあ、これってもしかしてルナルが作ったのか?」
 セインは料理を指差しながら、ルナルに確認する。
「そうですよ。ミーアも手伝ってくれましたが、大体私が作りましたね。料理だってハンターには必要なスキルです。たとえ材料が変なものであっても、おいしく作ってみせますよ」
 ルナルはドヤ顔を決めて胸を張っている。
「いや、さすがに無理なやつもあるだろうが」
 珍しくマスターが冷静にツッコミを入れている。
「さすがルナル様、すごいです!」
 ルルにいたっては胸の前で両手の拳を握って、目を輝かせながらルナルを見ていた。憧れが凄い。
 このやり取りの間も厨房スタッフの手によって、酒場一杯に料理の配膳が行われていた。
 さて、なぜこんなにたくさんの量の料理が振る舞われているのか。それには理由があった。
「あー、食べながらでいい。みんな聞いてくれ」
 マスターが声を張り上げている。よく見ると、酒場の中には朝早くだというのにアルファガドのメンバーが大勢集まっていた。居ないのはちょうど依頼を受けて出払っている連中くらいである。
「朝早くから集まってもらったのには理由がある。つい昨日の事だが、ギルド宛てにこのような通達が届いたんだ」
 どうやら重要なお知らせがあり、それに伴ってギルドメンバーを集めたからのようである。
 そして、マスターが1枚の紙を取り出して広げて見せている。そこにはこう書かれていた。

『来たる決戦に向けて、近く魔王に対する作戦会議を行う』

 なんと、魔王との対決に向けた話し合いが行われるらしい。この通達には酒場の中が一気に騒がしくなった。
「もうそろそろ魔王の宣告より3か月が経とうとしている。魔族たちの活動が活発化している現状を鑑みても、早急に対策を講じる必要性が出てきたという事だ。そのための会議を各国首脳が集まってイプセルタで行うとの事らしい」
 どうやら、魔族たちが暴れまくっているせいで、その被害にどの国も頭を痛めているようなのだ。そこで、いつ全面戦争に突入してもいいようにと、人間たちの力を集結させるために話し合いの場を設けるというわけである。光栄な事に、その重要な会議の場にアルファガドも招集が掛かったのだ。所属ハンターたちの活躍がそれだけ認められているというわけである。
「日程だが、会議は今から10日後に行われるそうだ」
「ふーむ。だが、さすがにギルド全員が参加するというわけにはいかないだろう?」
 スードが確認を取る。
「もちろん、そうなるな。大体どこも国王と大臣レベルだろうからな」
「じゃあ、誰が参加するというわけだ?」
「俺とルナルの二人で行こうと思う」
 マスターがはっきりと言うと、誰からも反対意見は出なかった。マスターはギルドのマスターだし、ルナルはギルド内でも活躍はトップクラスの実績なのだから。
「そういう事なら、仕方ないですね」
 ルナルもしょうがないと了承する。
 ただ『対魔王の作戦会議に魔王自身が参加する』という状況は奇妙としか言いようがない。正直、マスターの事だから何か妙な事を企んでいそうではあった。だけれども、反発するような状況ではないので、ルナルは了承したのである。
「よし、それなら決まりだな。俺が居ない間、ギルドの事はナタリーに任せるぞ」
「あいよ、任せておきな」
 マスターの言葉に、厨房でミーアと一緒に片づけをしている女性が返事をする。
「うむ、ナタリーなら安心だな」
 スードたちも納得して頷いていた。
「私は、ミーアの方がむしろ問題だと思うけど?」
「ルナル様ーっ! ミーアなら大丈夫ですにゃー、ルナル様のために頑張りますにゃーっ!」
 ルナルが心配の声を上げると、厨房からはミーアの元気な返事が響き渡ったのだった。

 会議が終わると、朝食を終えたメンバーたちがそれぞれに散っていく。
 そんな中、マスターがルナルに声を掛ける。
「ルナル、ちょっといいか?」
「何ですか、マスター」
「実はな、日数的には厳しいと思うんだが、ルナルにはセインを連れてこの場所に行ってもらいたい。向こうからのご指名が入っちまった以上、断るのも無理そうなんでな」
 そう言いながら、マスターはさっきとは違う封書を取り出して、ルナルに渡したのだった。
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