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第二章『西の都へ』
突撃! 隣の商業街
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「うわーお! すっごくいっぱい人間が居るにゃっ!」
通りで周りを見渡して、大きな声で喋っている人物が居る。
その人物が居るのは、あらゆる都市との交流が盛んな商業都市であるベティスだった。
「にゃ」という語尾からも推測されるだろうが、この人物はルナルを探すと言って魔王城から出てきたミーアである。今まで見た事のない人数の人間を前に、その目を輝かせているのだ。
今のミーアの格好は、人間のふりをするために外套と帽子で耳と尻尾を隠している。なので、ぱっと見はそこら辺に居る旅人と区別はつかない。
なぜこんな格好をしているかといえば、魔族とバレてしまえばどんな目に遭わされるか分からないぞと口酸っぱく注意されているからである。そのくらいには人間と魔族というのは根強い敵対関係にあるのである。
ただ、ミーアは戦闘種族である猫人である。持ち前の戦闘能力を発揮できれば、多少囲まれたくらいでは大丈夫かも知れない。ただ、余計なトラブルは起こさないに限るのである。
さてさて、ミーアはルナルを探しに来たはずなのだが、どうもさっきから落ち着かない様子を見せている。
それもそうだろう。今ミーアが居るのは商業都市ベティスなのだ。街のあちこちに食べ物の屋台が出ており、至る所からいい香りが漂ってくるのだ。ミーアはその匂いに対して反応を示しているというわけである。ついつい、ミーアは手持ちの財布を覗いてしまう。
「うにゃー……。一応人間たちのお金は持ってきたけど、うう、足りるかにゃあ……」
ミーアは心細く呟いている。それというのも、ここに来るまでも匂いに釣られては買い食いというのを繰り返しており、残金が心もとなくなってきていたのだ。本能には勝てなかったようである。
ところがどっこい。ミーアの食欲は留まるところを知らない。まだ満たされていないらしく、気が付くと、近くにあった果物売りの屋台からリンゴを数個くすねてしまっていた。……まさに泥棒猫である。
「てめえ、何してやがる!」
屋台の主人が急に大声を出すものだから、びっくりしてしまうミーア。そして、動きが止まっている間に、たまたま近くを警戒していた警備隊に捕まってしまう始末だった。
「うみゃーーっ?!?!」
「捕まえたぞ、この泥棒めっ!」
急に取り押さえられて、ミーアは混乱している。じたばたと暴れるのだが、まったくびくともしなかった。
「うみゃー、ごめんなさい、ごめんなさい、ごめんなさいーっ!」
ミーアは謝りつつもじたばた暴れ続けている。その弾みで、かぶっていた帽子がはらりと脱げるし、外套もひらりとめくれてしまった。そう、猫耳と尻尾が露わになってしまったのだ。
「にゃっ?!」
帽子が脱げた事に気が付いたミーアは、驚いてようやく動きが止まる。だが、時すでに遅しである。
「こいつのこの耳は……。こいつ、魔族だぞっ!」
猫耳と尻尾を目にした警備隊は、思わず叫んでしまった。すると、その声を聞きつけた住民や通行人たちが足を止め、騒ぎが広がっていく。人が集まり始めてしまい、思わず混乱してしまったミーアは再び暴れ出してしまった。
「このっ、こいつ! おとなしくしないかっ!」
あまりに激しく暴れるミーアに対して、警備隊の拳が振り上げられる。まさにその時だった。
「ちょっと待った!」
どこからともなく、制止を求める大きな声が響き渡る。その声に動きを止めた警備隊が振り返ると、そこには2メートルはあろうかという大男が立っていた。
「マスターさんじゃないですか」
そう、この街を拠点とするハンターギルド『アルファガド』のマスターその人だった。
「マスターさん、なぜ止めるんですか? こいつは魔族で、盗みを働いた泥棒なんですよ?!」
警備隊が疑問の声を上げる。しかし、マスターの表情は一切変化せず、じっとミーアの顔を見ていた。そして、警備隊たちに対して声を掛ける。
「そうなのかも知れないが、この子とはちょっとばかり縁があってな。多分、俺らに会いに来たのはいいが、食い意地が張ってるからこんな事になったんだろう。ここは俺に免じて逃してやってくれないか?」
そう言ってマスターは屋台の主人に近付いていく。
「ほら、リンゴの代金だ。もらっておいてくれ」
「こ、こんな大金……。まあ、旦那の知り合いって言うんなら、仕方ないな」
屋台の主人はどこか納得のいかない顔をしていたが、思わぬ大金を手にして顔をにやけさせていた。
「おい、そこの魔族。マスターの旦那に感謝するこったな! そうでなきゃ、お前は今頃牢屋の中だったんだからな!」
屋台の主人はミーアにそう吐き捨てると、浮かれ気分で屋台の方へと戻っていった。この声が合図になったようで、次第に野次馬たちは解散していき、警備隊もミーアをマスターに引き渡して立ち去っていった。
「た、助かったにゃ……」
警備隊から解放されたミーアは、安心したのかその場にふにゃふにゃとへたり込んだ。しかし、すぐさま立ち上がってマスターへと顔を向ける。
「ど、どこのどなたかは存じませんが、助けて頂いてありがとうございますにゃ」
そして、頭を下げてお礼を言う。
「ふむ、話には聞いていたが、ちゃんとしつけはされているようだな。メイドをしているからひと通りの振る舞いはできるって言ってたが事実だったか」
「にゃにゃっ?!」
マスターがミーアを見ながら呟いた言葉に、ミーアはものすごく驚いている。その顔を見たマスターはにやりと笑う。
「まあまあ、詳しい事情はとりあえず後だな。こんな往来じゃ落ち着いて話もできんだろ」
そう言うと、マスターはミーアをがっつり抱え上げた。
「まあとりあえず、俺のギルドまで案内してやるよ。ほれ、行くぞっ!」
「にゃにゃにゃっ? お、降ろしてにゃー!」
戸惑いミーアを担ぎ上げたまま、マスターはアルファガドの事務所まで走っていったのだった。
通りで周りを見渡して、大きな声で喋っている人物が居る。
その人物が居るのは、あらゆる都市との交流が盛んな商業都市であるベティスだった。
「にゃ」という語尾からも推測されるだろうが、この人物はルナルを探すと言って魔王城から出てきたミーアである。今まで見た事のない人数の人間を前に、その目を輝かせているのだ。
今のミーアの格好は、人間のふりをするために外套と帽子で耳と尻尾を隠している。なので、ぱっと見はそこら辺に居る旅人と区別はつかない。
なぜこんな格好をしているかといえば、魔族とバレてしまえばどんな目に遭わされるか分からないぞと口酸っぱく注意されているからである。そのくらいには人間と魔族というのは根強い敵対関係にあるのである。
ただ、ミーアは戦闘種族である猫人である。持ち前の戦闘能力を発揮できれば、多少囲まれたくらいでは大丈夫かも知れない。ただ、余計なトラブルは起こさないに限るのである。
さてさて、ミーアはルナルを探しに来たはずなのだが、どうもさっきから落ち着かない様子を見せている。
それもそうだろう。今ミーアが居るのは商業都市ベティスなのだ。街のあちこちに食べ物の屋台が出ており、至る所からいい香りが漂ってくるのだ。ミーアはその匂いに対して反応を示しているというわけである。ついつい、ミーアは手持ちの財布を覗いてしまう。
「うにゃー……。一応人間たちのお金は持ってきたけど、うう、足りるかにゃあ……」
ミーアは心細く呟いている。それというのも、ここに来るまでも匂いに釣られては買い食いというのを繰り返しており、残金が心もとなくなってきていたのだ。本能には勝てなかったようである。
ところがどっこい。ミーアの食欲は留まるところを知らない。まだ満たされていないらしく、気が付くと、近くにあった果物売りの屋台からリンゴを数個くすねてしまっていた。……まさに泥棒猫である。
「てめえ、何してやがる!」
屋台の主人が急に大声を出すものだから、びっくりしてしまうミーア。そして、動きが止まっている間に、たまたま近くを警戒していた警備隊に捕まってしまう始末だった。
「うみゃーーっ?!?!」
「捕まえたぞ、この泥棒めっ!」
急に取り押さえられて、ミーアは混乱している。じたばたと暴れるのだが、まったくびくともしなかった。
「うみゃー、ごめんなさい、ごめんなさい、ごめんなさいーっ!」
ミーアは謝りつつもじたばた暴れ続けている。その弾みで、かぶっていた帽子がはらりと脱げるし、外套もひらりとめくれてしまった。そう、猫耳と尻尾が露わになってしまったのだ。
「にゃっ?!」
帽子が脱げた事に気が付いたミーアは、驚いてようやく動きが止まる。だが、時すでに遅しである。
「こいつのこの耳は……。こいつ、魔族だぞっ!」
猫耳と尻尾を目にした警備隊は、思わず叫んでしまった。すると、その声を聞きつけた住民や通行人たちが足を止め、騒ぎが広がっていく。人が集まり始めてしまい、思わず混乱してしまったミーアは再び暴れ出してしまった。
「このっ、こいつ! おとなしくしないかっ!」
あまりに激しく暴れるミーアに対して、警備隊の拳が振り上げられる。まさにその時だった。
「ちょっと待った!」
どこからともなく、制止を求める大きな声が響き渡る。その声に動きを止めた警備隊が振り返ると、そこには2メートルはあろうかという大男が立っていた。
「マスターさんじゃないですか」
そう、この街を拠点とするハンターギルド『アルファガド』のマスターその人だった。
「マスターさん、なぜ止めるんですか? こいつは魔族で、盗みを働いた泥棒なんですよ?!」
警備隊が疑問の声を上げる。しかし、マスターの表情は一切変化せず、じっとミーアの顔を見ていた。そして、警備隊たちに対して声を掛ける。
「そうなのかも知れないが、この子とはちょっとばかり縁があってな。多分、俺らに会いに来たのはいいが、食い意地が張ってるからこんな事になったんだろう。ここは俺に免じて逃してやってくれないか?」
そう言ってマスターは屋台の主人に近付いていく。
「ほら、リンゴの代金だ。もらっておいてくれ」
「こ、こんな大金……。まあ、旦那の知り合いって言うんなら、仕方ないな」
屋台の主人はどこか納得のいかない顔をしていたが、思わぬ大金を手にして顔をにやけさせていた。
「おい、そこの魔族。マスターの旦那に感謝するこったな! そうでなきゃ、お前は今頃牢屋の中だったんだからな!」
屋台の主人はミーアにそう吐き捨てると、浮かれ気分で屋台の方へと戻っていった。この声が合図になったようで、次第に野次馬たちは解散していき、警備隊もミーアをマスターに引き渡して立ち去っていった。
「た、助かったにゃ……」
警備隊から解放されたミーアは、安心したのかその場にふにゃふにゃとへたり込んだ。しかし、すぐさま立ち上がってマスターへと顔を向ける。
「ど、どこのどなたかは存じませんが、助けて頂いてありがとうございますにゃ」
そして、頭を下げてお礼を言う。
「ふむ、話には聞いていたが、ちゃんとしつけはされているようだな。メイドをしているからひと通りの振る舞いはできるって言ってたが事実だったか」
「にゃにゃっ?!」
マスターがミーアを見ながら呟いた言葉に、ミーアはものすごく驚いている。その顔を見たマスターはにやりと笑う。
「まあまあ、詳しい事情はとりあえず後だな。こんな往来じゃ落ち着いて話もできんだろ」
そう言うと、マスターはミーアをがっつり抱え上げた。
「まあとりあえず、俺のギルドまで案内してやるよ。ほれ、行くぞっ!」
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